Nhạc Gãy 『Tổng Hợp Số 1』
欧米のダンスミュージックが非西欧圏へと流入し、各地域で固有のものへと変容するケースはそれこそディスコが世界的に流行した70年代から枚挙に暇がないが、ネットであらゆる情報がリアルタイムに手に入るようになった現代も、各地でそうしたローカライズが進められている。このコンピはベトナムのホーチミンを拠点とするDJクルー「ニャック・ガイ(Nhạc Gãy)」の楽曲集。2019年10月にスタートしたこのクルーはホーチミンやハノイでレイヴを開催しているそうで、本作にはそのヴァイブスが反映されているのだろう。UKレイヴの香り漂うテクノやガバ、ベトナムの新興ダンスミュージックであるヴィナハウスが散りばめられている。彼らは自殺や鬱病に関するポッドキャストを配信していたこともあり、本作の売り上げはメンタルヘルスの意識を広めるための基金に寄付されるとのこと。享楽的ではないダンスミュージックカルチャーがホーチミンの地で育まれつつあることを伝える音源集でもある。
Osheyack & Nahash 「Club Apathy」
欧米のベースミュージック・シーンと連携を取りながら、精力的なリリースを続ける上海のレーベル、SVBKVLT。その最新作は、過去に中東のベドウィンからのリリースもあるオシェヤックと、昨年『Flowers Of The Revolution』という異形のベースミュージック・アルバムを作り上げたナハシのコラボレーション作。両者に共通するダークでインダストリアルなムードと、時にはガバにも接近する強烈なリズムが火花を散らす様は壮絶そのもの。さらにはウガンダのニゲ・ニゲ・フェスティヴァルでレジデントDJを務めるDJマルセルとアフロ・フューチャリズム最前線を走るキシ(Nkisi)というふたりによる凄まじいリミックスも収録。世界的な注目を集めるこのふたりにリミックスを依頼している点からもSVBKVLTの視線の鋭さが窺える。世界各地から集結したボヘミアンたちと中国人が入り乱れながら、唯一無二のシーンを形成している上海アンダーグラウンドの底力を感じさせる作品だ。
Neo Geodesia 『2562 Neon Flames』
2017年にロンドンで立ち上げられたチャイナボットは、筆者が今もっとも注目するレーベルのひとつである。アジア人に対する偏見とステレオタイプを音楽の力によって変えていこうというのがレーベルのコンセプトであり、88ライジングがラップ・ミュージックやダンス・ポップによって成し遂げたことを、よりエクスペリメンタルな表現によってやり抜こうとしている。リリース・アーティストはその出自も含めて謎めいた面々ばかりだが、自身の「アジア性」に対してさまざまなやり方で向かい合っている。本作はタイの難民キャンプで生まれ、現在はロンドンに住むカンボジア人アーティストによる最新作。記憶の彼方に埋もれたクメール文化の欠片が、ノイズや電子音とともにツギハギされている。なお、チャイナボットからは音頭を脱構築する日本人アーティスト、Jap Kasaiの『OWN ℃』 が5月10日にリリース予定。現時点では「佐古音頭」1曲が公開されているだけだが、すでに傑作の匂いがプンプンしてくる。