Seyu, Ground “Weak”
AKIO NAGASEの民族アシッド作品『Like A Acid House』(2019年)や「コザのリー・ペリー」ことHarikuyamakuの『Genshikyo-幻視郷-』(2020年)などの傑作をリリースしているレーベル、大阪の〈Chill Mountain〉による最新トラックは、レーベル主宰者であるGroundとロサンゼルスを拠点にするSeyuとのコラボレーション曲。Groundはヴードゥー・ホップのコンピレーション・アルバム『Voodoohop Entropia 1.5』にも日本人で唯一参加していたほか、海外での活動も盛んなプロデューサー/DJ。本稿で取り上げている他の作品ともリンクした作品をコンスタントにリリースし続けているが、ここではルーズなSeyuの歌声に導かれた呪術的ダンストラックに仕上げている。ヴードゥー・ホップ~トロピカル・トウィスタ一派とも共振する世界観ではあるものの、それらを追随するのではなく、確かなオリジナリティーを確立しているのが何よりも素晴らしい。Soundcloudではコラボレーション・アルバムを予告するトラックも公開されており、今後の展開が実に楽しみだ。
Guedra Guedra 『Vexillology』
2019年にBoiler Roomに出演した際には謎の面を着用し、呪術的なライヴ・フォーマンスを披露してみせたゲドラ・ゲドラ。モロッコのカサブランカを拠点とする彼は、グナワなどモロッコの民族音楽を土台にしたグローバル・ベースを打ち出しており、デンゲ・デンゲ・デンゲなどをリリースするロンドンのレーベル、〈オン・ザ・コーナー〉から発売された本作が初のフルアルバムとなる。グナワは執拗なコール&レスポンスとミニマルなリズムが特徴で、現地では一種の神がかりの儀式の際にも演奏されるが、ゲドラ・ゲドラはグナワが持つ呪術性をジューク/フットワーク以降のベーストラックに注入する。ワールド・ミュージック文脈ではグナワはさまざまな形でアップデートされてきたが、グローバル・ベース~トロピカル・ベースの流れのなかでモロッコの民族音楽をきっちり消化できたのはこのゲドラ・ゲドラが初めてではないだろうか。個人的にはクラップ・クラップが登場した際とも似たインパクトを感じている。
Sunken Cages 『When The Waters Refused Our History』
ロンドンの〈オン・ザ・コーナー〉がゲドラ・ゲドラと共に現在プッシュしているのがこのアーティストだ。サンクン・ケージズことラヴィッシュ・モミンはニューヨーク在住のインド人プロデューサーで、どうやらパーカッショニストおよびドラマーとしての一面もあるようだ。ドール(インドの両面太鼓)の乱れ打ちなどもあってバングラビートのエッセンスも感じさせるが、比較的数多くリリースされているインド風味のグローバル・ベースとは異なり、ダークなムードも色濃い。本稿執筆時は10曲の収録曲中3曲しか公開されていないため、そちらで判断するしかないが、どことなく南アフリカのゴムにも似た匂いも感じさせる。Bandcampにアップされたテキストによると、エジプトのマハラガナトやアンゴラのクドゥロからの影響も受けているようで、グローバル・ベースのトレンドをリードしてきたオン・ザ・コーナーがプッシュするのも納得の人物である。アジア系に対する差別が激化するアメリカ、それもたびたび暴行事件が起きているニューヨークでこうした作品が作られたことにもひとつの意義がある。