Suregeon 『Shell~Wave』
Tresor / Techno
UKハード・ミニマル・テクノのパイオニアの新作。前作の『Crash Recoil』のレコーディングでも採用された、最小限の機材リストでのスタジオ版ライヴ・セットというアプローチ。そのドライブ感を生かして作られた、ほぼ一発録り、百戦錬磨のベテランならではアルバム。全編にわたってハード・ミニマル・テクノの、各パートのミュートやフェーダーによるフレージング、エコーによるリズムの疾走、フィードバックによる展開など、ハード・ミニマル・テクノのライヴ・ダブ・ミックスが非常に冴え渡っている。キング・タビー“Great Stone”の意匠で、そのままテクノ・アルバム1枚作ってしまったかのような、という妄想もしたくなる。ひとつひとつの音が彼の長年のキャリアの結晶であり、その集合体として産み出されるサウンドの説得力なくては成り立たないサウンドでもある。
Tobias. Doltz『Versus』
Delsin / Techno
DJ NOBU主催の〈BITTA〉からの、ミニマル・テクノの高純度サイケデリアを濃縮した「Inception EP」で大きなインパクトを残したドルツと、ドイツのテクノ・シーンのレフトフィールド・サイドを象徴するベテラン、トビアスとのコラボ・アルバム。日本で開催された両者が出演した野外レイヴ〈Eden Festival 2024〉で、ドルツのライヴを観たトビアスが声をかけ今回のコラボへと結実したのだという。リリースは蘭テクノ老舗〈Delsin〉から。高速~ハーフテンポ~アンビエントと、双方の電子音のシャワーが点画を描くがごとく降り注ぎ、サイケデリックなヴィジョンが万華鏡のごとく移り変わっていく強烈なクオリティを備えたミニマル・テクノ集。
Anthony Naples 『Scanners』
ANS / Techno, Techno
トレンドも随所に押さえながら、ベーシックなハウスのうま味が染みこんだシンプルながらも次々と滋味が涌いてくる。仕上がりまくった、NYのアンソニー・ネイプルズのアルバム。穏やかなクリック・ハウス調の楽曲“Scanners”にはじまり、ウォーミーなディープ・ハウスのエッセンスをアルバム全体にちりばめながら、昨今のトランス~プログレッシヴ・リヴァイヴァルを昇華した“Night”、スリージーなアシッド感“Ampere”“Bounce”などトータルのアルバムとしてのバランスがすばらしい1枚。アルバムの締めはドリーミーなアシッド・エレクトロ“Uforia2”まで圧巻の仕上がり。おそらく今年を代表する傑作に。
V.A.『TRANSONIC COMPACT DISC 02』
TRANSONIC / Techno
昨年復活した〈Transonic〉の第2弾コンピ。前作はレーベル初期、もしくは同時代からリリースを重ねるベテランがその多くを占めたが今回は比較的新たな世代によるサウンド。ベテラン勢としては、なんと数十年ぶりのカムバックとなる福岡の伝説のテクノ・レーベル〈SYZYGY〉を主宰していた稲岡健、また前作に続きTmz(同レーベルからはNina-Nohoとしてリリース)。それ以外は後続レーベル〈ExT Recordings〉のアーティストとその同世代組、さらには一般公募のアーティストも収録。まさにさまざまな出自からの楽曲提供。しかし一様にレーベルへのリスペクトが感じられる、ポップさも忘れない、アンビエント、ダウンテンポ、レイヴ、アシッドなどなど、どこか開かれた実験が繰り広げられる風通しの良い多様なテクノ解釈が行われている。