2022/03/31 18:00

「ムード」は細部に宿る

津田:yukinoiseさんがいうポスト・インターネットリバイバルはなんなんですか?松島さんがいってるのとはまた違う?

yukinoise:私はseapunk、vaporwaveあたりだから、国内と国外でまた違う…というかここに関してはもう国境がないんだけど。ポスト・インターネットって単語としては現代アートの文脈から生まれたもので、『MASSAGE』とか『美術手帖』でも2015年くらいに特集が出て、それで終わった部分はあるんだけど。seapunkとかvaporwaveの架空のイメージとか、ハッシュタグ大喜利みたいなの、Tumblr、Pinterestとか。実態があるかないかっていうところで松島くんのとは違うかもしれない。そこはインターネットって単語の持つ振り幅だよね。だからリバイバルも追い方によって違うと思う。

Ultrademon - Bahrain
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NordOst:インターネットにどこから来たかで違いますよね。去年yukinoiseさんに教えてもらった『MASSAGE 9: INTERNET CULTURE』をAmazonで買ってずっと読んでたんですけど、僕が別物として捉えていた文化が、雑誌っていう媒体のおかげで繋がったのがいい体験だったというか。

山本:過去のインターネット的なものの理解がフィジカルなところで深まるの面白いですよね。

yukinoise:インターネットは無限大だからこそ、検索するための予備知識がないといけないじゃん。その点としてフィジカルなものが必要なんだと思う。昔はフィジカルなものがインターネットに落とし込まれたけどいまはインターネットとか実態のないものをフィジカルに落としていくことが必要だと思う。

NordOst:これまではフィジカル的なものを探す手段として検索があったけど、逆転してるのかもしれないですね。

山本:フィジカルの文字情報は後々のために必要なんですよね。

NordOst:たとえばkenjiさんって、昨年『Edge of the City』を出してた、あの人は〈Hi-Hi-Whoopee〉を作ったりしてて、いわゆるseapunkのムーブメントを最初に捉えた人で。

山本:vaporwaveとか一番最初に紹介したくらいですよね。

NordOst:その人がいま蘇って、二十歳くらいの人がサブスクでそれを聴いてるってもの凄いことだなと思って。感動的…。

山本:10代の人たちは当時の〈Hi-Hi-Whoopee〉とか読んでないですもんね多分。

yukinoise:だからインターネットは通ってきたルートがそれぞれあるんだよね。ジャンルのリバイバルと違って、ポスト・インターネットリバイバルはリバイバルするものが違うのよ。

山本:いまの10代の人たちにとってインターネット上の共通の体験っておそらくないでしょうしね。

NordOst:だから生まれてない頃のカルチャーを参照しにいくのかな。

山本:それもまた幻想ではあるんだけど、みんなが「乗るしかないこのビッグウェーブに」ってなっていたイメージがあるんだと思う。

yukinoise:いつかTikTokで流行った曲とかがリバイバルしたりするのかな?ニコ動で流行ってた曲みたいに。

NordOst:いままで以上に、年代も何もかも境目がなくなっていくんだと思う。何年に出た曲だろうが、等しくTikTokリバイバルに回収されるようなこともありそうですね。

yukinoise:文脈がないところでリバイバルが起こるっていうのがね、脳死で見れるメディアならではだなと思う。

山本:TikTokの文脈が切断されまくる感じは個人的に怖さもあったり(笑)。TikTok以外にも「一周した感じ」っていう在り方が成立しなくなった感はここ数年ありますよね。2020年あたりのピュアさのムードとか。世の中がヤバくなって、プラスで「客観視」とか「メタ」的なアティチュードの悪いところがネット上で見えたところがあってああいうノリが生まれたところがあったと思うんですけど。そういうものを経た上で、っていう前提がないと危ういんじゃないかなと勝手に思ったりとか。

NordOst:自分の場合は20代の後半に差し掛かって、そういう呪いが解け始めたというか。ようやく武装解除をして楽しめるようになってきた…。ちょっと前だったら絶対受け付けれない感じだったとは思う。

津田:前進していくところからノスタルジーとかアンビエントな静けさみたいなものに行っている人たちも出てきた感じはある気がします。

山本:大事なのはいまなんだ! みたいなものに疲れてきて、ノスタルジーで、エモでっていう方向にね。

NordOst:立ち止まって振り返る、っていうのは確かにこれからのキーワードとしてあるかもしれない。アーリーアダプター、って嫌いな言葉ですけどそっちにギアを変えてる人はいる。

津田:2020年のそのムードも残りつつというところですね。

山本:アッパーなのを経た上で落ち着いていくっていう、その両方の感覚が同居しているっていうのは面白い現象だと思うし、いまっぽいなと思います。

津田:色々話上がりましたけど、たまにこういう雑談形式で最近考えてることとかいったパーティーとか振り返りつつ、それぞれフィールドも違うんで。いろんな種類の「現場」について書いて行けたらいいのかなと。

NordOst:ミックスレビューでいえばそれこそnoripiさんとかやりたいですね。本当に良かった…。

yukinoise:自分はいまのところ現場主義でいきたいな。

NordOst:ムードじゃなくていま起こっていることを追うっていうのが良いですね。

yukinoise:座談会で現場行ったり書いたり聴いたりしてこういうムードない?ってところで、ムードについてはアウトプットできたらなと思う。

津田:ムードは形のないものですからね、書くより話していったほうがいい。

yukinoise:東京のアンダーグラウンドといえどいろんな面白いことが巻き起こってるからね。

NordOst:身体は一つしかないんで、こうやって話すことでシェアし合いましょう。

この記事の筆者
NordOst

フリーライター/DJ。寄稿先にOTOTOY、AVYSS magazine、FNMNL、Soundmain、ダイヤモンド・オンライン、他多数。ZINE『MISTRUST 20-21』の共同編集を担当。 2021年よりDJとしての活動も開始し、K/A/T/O MASSACREやAVYSS 3rd ANNIVERSARY等に出演。bitcrush等のFXを大量に使用する強引なスタイルを取る。

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