大和那南 『Before Sunrise』
Parquet CourtsのAndrew Savageが主宰するレーベル〈Dull Tools〉からリリースされたファースト・アルバム『Before Sunrise』。16歳でコペンハーゲンのポストパンク・バンドIceageに魅了されて以降、原宿の〈BIG LOVE〉に通いつめていたというNana Yamatoが、東京が封鎖された2020年に自室で作りあげたのが本作。ミドルテンポのミニマルなベッドルーム・ミュージックは、体をゆらゆらと揺れさせ夢うつつなムードにいざなう。独特の日本語と英語を織り交ぜたリリックは20歳の彼女が自己を探っていく独白に近しいものではあるが、どこか開放的な雰囲気すら感じさせる。しかしラスト、アコースティックギターの後ろでファズがかったギターが鳴る”The Day Song”は、後半に向かってエレピやホーンが加わり壮大になっていくと、突如疾走してはぶつ切りのように作品を終わらせてしまう。作品を通した絶妙な不安定さがしわ寄せのようにラストの展開に込められ、それは2020年に蔓延した苛立ちや焦燥感を想起させる。ちなみに、本人が手がけているジャケットに描かれたキャラクターは大日本帝国の治安を守る特殊部隊“ウルフパック”で、彼らの作戦会議はいつも机上の空論で意味のないものばかりなのだそう。
Mahne Frame『Mad World』
KIRIN J. CALLINANのドラマーとしても知られるMahne Frameのデビュー・アルバム『MAD WORLD』。来日公演を機にシドニーから日本に移り住んで以降、自らの作品を作りはじめた彼の本作のインスピレーションは、黒澤明『乱』の「狂った今の世で気が狂うなら気は確かだ」というセリフだそう。シンプルなディストーション・ギターからはじまる“LONER 2”が白けた日々を蹴り上げ、「In the mad world, only the mad are sane」という呟きでオープニングを迎えると、凍てつくインダストリアルやアッパーなEDMの四つ打ち…と振り幅をみせながらコンセプチュアルに展開されていく、まさに狂った世界のサウンドトラックといった趣き。オーストラリアの森林火災時に制作されたという今作を覆うのは、人類への失望や愛への疑念といった鬱々とした空気感ではあるが、サウンドからはどこか享楽的なムードがあり微かな希望の兆しを感じさせる。そんな対極性はTohjiを客演に招いた“SOMETIMES I TRY NOT TO CARE”が特に顕著で、あらゆる問題に背を向けつつも完璧に目を閉ざすことができないまま傷を深めていく心理描写と、血を流しつつも屈強に遊ばんとする“Snowboarding”の「I’m a テツオだから気にせずに遊び」というリリックはサイバーパンクの世界を思い浮かばながらも、やけにリアルに聴こえる。アルバム11曲のうち5曲がボーナストラック扱いなため要注意。
DYGL 「Sink」
1960〜70年代UKロックの再解釈を提示したセカンド・アルバム『Songs of Innocence & Experience』から約二年ぶりの新曲“Sink”には、2018年から1年のロンドン滞在、海外ツアー、全国ツアーを経たDYGLの新たな試みがみられる。1990年代のオルタナティヴ・ロックのエッセンスを持ち出しながら、グッドメロディなドリーム・ポップとしても聴けるサウンドは、Soccer MommyやSnail MailらUSのSSWを想起させる。近々のツアー〈SPRING TOUR 2021〉ではnon albiniやBOARDなどをオープニングアクトに起用、新しい世代のフックアップに積極的な様子からみても、国内でのこれからの活動が楽しみだ。