DYGL 『Who's in the House?』
ファーストEPの『Don't know where it is』からおよそ10年。5枚目となる『Who's in the House?』は愉快でストレンジなパンク・アルバムに仕上がっている。改めてファースト・アルバムを出すような気持ちになったという今作は、Gang of FourやTelevisionをよく聴いていたというインタビューの発言にもあるようにパンク、ポスト・パンクがリファレンスの軸になっているという点でファーストの一点突破感はある。あるんだけれども、「Man on the Run」にはハードロックぽい速弾きを入れたり、「This Minute」の後半にキッチュな響きのメロディとシンセ入れたりと、絶妙なミクスチャー感がアルバム通して聴いていて楽しい。全編前のめりなテンションを感じさせながら、曲間や1曲の中でもテンポチェンジしたり、曲順によって作品の雰囲気を操っているところに、10年の功も感じられる。(T)
SYAYOS 『Anthem 1.1』
長野県伊那市発、4ピース・バンドによる、鮮烈なファースト・アルバム。2024年7月の結成から最初の8か月で生まれた全8曲を収録する。オープニングの “Spaceboy” からその壮大なスケールと爆発力に圧倒され、その驚きは後続の楽曲ごとに繰り出されるアイデアと野心により次々と更新されていく。比類なき存在感を放つ、すずきひなの伸びやかな歌声を中心に据えながら、それに伯仲する各楽器の音の良さが印象深い。生々しさを保ちながら洗練され、スタイリッシュでありながら郷愁を帯びる響き。最終曲 “Telescope” を聴き終えるころには、「このバンドはいったいどこまで行くのだろう」と胸が高鳴る。間違いなく、マイ今年の新人賞確定だ。(高)
Etranger 「選んだ世界」
片平里奈のロング・ツアー帯同を完走した彼女がリリースしたファースト・シングル「選んだ世界」は、溢れる感情で揺れ動くテンポや大きなダイナミクス、フィンガー・ノイズや椅子の軋む音までが痛いほど生々しく収められている。エレキ・ギターとドラムのシンプルな構成に「音に乗せるから言える」という内省的な自分を表現した楽曲M1"YOU"に加え、M2"パスタ"ではアコースティック・ギターとラフな歌詞で穏やかな生活感を表現。そして、M3"選んだ世界"は、ガット・ギターの弾き語りで、寂しさ、諦め、優しさなどを詰め込んだベッドルーム・ミュージックが収録。一枚目のシングルにふさわしい、表現の幅を見せつける名刺のような作品となっている。(菅)