ここからまたやっていかないといけないんだなあって思いながら。
――イガラシさんが書いている2曲“dirty”と“イメージ”って、すごく抒情的な印象を受けました。こういう曲を書くんだなって。
イガラシ:曲を書いていた時期もあると思います。緊急事態宣言で家から出られない停滞感とか、ライヴもできないしベストアルバム発売も延期になるしっていう、色んな要素があって。あとは、ヒトリエというバンドでそもそも自分は作曲を担っていなかったわけで。その曲を作るっていう今の状況に対して、「なんでなんだろうな」って思うところもあって。単純にそういう気分で書いたから、そういう曲調になっただけなんですけど。
――ゆーまおさんは、“faceless enemy” “YUBIKIRI”をどんな気持ちで作曲しましたか。
ゆーまお:そもそもみんなで曲を作ろうってなったときに、「自分はいちばんヒトリエらしくない曲を書いてしまうだろう」というのをやる前からなんとなく想像していて。とりあえずやらないと意味がないなと思って、ザーッと書いてみた曲が“YUBIKIRI”だったんです。でもヒトリエってこういう明るい曲調よりは、極端な話少し暗いイメージのバンドだよなって思ってるので、そういう曲を書きたいなと思ったんです。それで頑張って頑張ってなんとか形にできたのが、“faceless enemy”だったんです。自分をコントロールして曲を書くというよりは、当たって砕けろぐらいの勢いでやってました。とにかく自分から出てくるものは大事にしようって。
――“faceless enemy”というのは、シノダさんはどんなことを歌おうと歌詞を書いたのでしょうか。
シノダ:まあ、インターネットにムカついてる歌ですよね。最初は、歌いだしのサビがない状態で1番のAメロから、どういうことを歌おうかなと思いながらなんとなく書き始めたんですよ。2行目まで書いて、3、4行目あたりからスーッと出て来ました。「そうだ、ネットに対する悪口を書こう」って(笑)。
――そのまま素直に(笑)。
ゆーまお:“faceless enemy”の歌詞のテーマに関しては「こういうので来たか」と思いましたけど、僕自身がすごく気持ちがわかるし、そういうことに関心があるので、スッと入ってきました。どちらかというと“YUBIKIRI”の方が、ああしてくれ、こうしてくれって言いました。せっかく明るい曲だし、みんなに「爽やかな曲だね」って言ってもらえたので。「10代にも伝わるストレートな歌詞を書いてほしい」って頼みました。
――“YUBIKIRI”が最後に入ってることで、すごく良い余韻でアルバムが終わる気がします。
シノダ:“YUBIKIRI”は、そのゆーまおのオーダーがあった上で、悲しさとかつらさとかをこの曲でシェアできたらいいなと思って書きました。うちらも、バンドとしてはだいぶ悲惨な状況にあるし、ここからまたやっていかないといけないんだなあって思いながら。緊急事態宣言が出たことによって、音楽とかそういうもの自体が停滞してしまっている状況で、でも月10曲書かないといけないのかって思いながら書いたら、「あ、意外と俺ら暇じゃないのか」って。
――その気持ちがそのまま歌詞になったんですね。
シノダ:そのまま出てますね(笑)。あとは、ゆーまおが言ってくれたオーダー通りに、なるべくストレートな歌詞を書いたんですよ。なるべくむずかしい比喩表現みたいなものをせずに。1番Aメロの歌詞でちょっと遊びすぎたので(“渋谷の空中でシーラカンスが泳いでる アイスクリーム片手に眺めようぜ今夜”)。最初はこういうナンセンスな歌詞を書きたかったんですけど、2番からはそれをやめてみようと。そこからは、リズムとピアノが先にレコーディングしている間にバーっと書けました。“YUBIKIRI”は絶対アルバムの最後に入れようと思いました。
――イガラシさんにとってはどんな曲になりましたか。
イガラシ:めっちゃ良いベースライン付いたなって思ってます。最初、“faceless enemy”の作業からやってたので、曲調的にもヒトリエとして自分が今までやってきたノウハウでベースラインを組んでゆーまおに聴いてもらったら、最終的にはそのまま収録されているんですけど、「もうちょっと抑えてほしい」みたいなことを言っていて。その後に“YUBIKIRI”を録ったので、この前は抑えてほしいって言ってたし、曲調は明るいから、極力何もしないシンプルなベースラインを最初に弾いたんです。そうしたら「なんでいつも通りやんないんだよ」って言われて。
シノダ・ゆーまお:ははははは(笑)。
イガラシ:「シノダの曲とかめっちゃ好き勝手弾いてるし、この前の俺の曲もめっちゃ動いてたのに、なんで“YUBIKIRI”は何もしねえんだよ!」って言われて(笑)。
ゆーまお:言った言った(笑)。
イガラシ:そう言われると思わなかったから、「ああ、はい」って。そこから流れる系のベースラインを優しい曲調に合わせて出来たらなと思って、自分の中のイメージにある「想像上の沖井礼二さん(Cymbals, TWEEDEES等)」が弾いてそうなニュアンスを自分なりに弾きました。その結果、最初から最後まで繋がっているような絶え間なく変化するようなベースを弾けたんで大満足してます。
――“YUBIKIRI”のMVはループしているようでそうじゃないという映像で、面白いですね。
ゆーまお:あれは、実際に13回ぐらい撮ってます。
シノダ:ミステイクもそんなになかったよね。でも、傍から見るとループしているようにしか見えないから、正直これで大丈夫かなって思いましたけど(笑)。最初はアニメーションでやろうとしてたんですよ。
ゆーまお:そもそも、カメラに風景とか人が映ってるっていうイメージが曲になかったので。リリックビデオが作れたらいいよね、ぐらいの話の中で、20秒尺のロ―ファイ・ヒップホップの延々繰り返しているあの感じをやってみたらどうだろう?っていう話が出たんです。そしたらMVを撮れることになって。イメージを伝えてみたら「自分たちでやってみればいいじゃん」って言われて。「やっちゃう⁉」って乗っちゃったんですよ。
シノダ:全テイク実際にやって、ループしているように見せるっていう。
――ジェンガも毎回積み直したわけですよね。
ゆーまお:それは、“ジェンガ直すマン”がいたので(笑)。
イガラシ:“ジェンガ直すマン”がジェンガを直すのもどんどん早くなってました。
シノダ:でも史上最速で撮れたんじゃないかな?あのMV。
ゆーまお:ちゃんと段取りを踏まえてやれば繰り返し同じことが高確率でできるセッティングをしてくれたので、サクッと撮れました。みんなに観てもらえたらなと思います。