東京○X問題 『cupola』
モデル、女優としても活動する小日向ひなたと、クラシック・ピアニストのカタヤマシュウのエレクトロ・ポップ・デュオの1stアルバム。まったく知らなかったが、音楽的教養の豊かさが伝わるアレンジといい、耳に優しいメロディといい、言葉遊びが効いた歌詞といい、キュートで巧みなヴォーカルといい、完成度はすごい。歌謡曲的な “赦” からチルな “What is Normal?” やピアノ・バラードの “夢の又夢” までどの曲も聴きごたえ十分で、ちょっと水曜日のカンパネラを思い出させるものもある。インタールード的な “Between sound and music” を除いてすべて二人の共作のようだが、曲はどんなふうに作っているのだろう。
Anly 『QUARTER』
沖縄出身のシンガー・ソングライターの4作め。MEG.ME、Louis、Juan Arizaらによる洋楽色の強いアレンジに乗り、低音と高音の両方に魅力のある個性的な声で力強く歌う。恋愛の歌もあれば、友人関係や仕事に着想を得た歌、家族や故郷に思いを馳せる歌もあるが、特に「狂ってるこの世界に僕は飲み込まれない」(“CRAZY WORLD”)、「綺麗事って 笑うなよ だろ?」(“Welcome to my island”)と、どんどんおかしくなる世界を見すえつつ長いものに巻かれないことを表明する姿勢はあっぱれだ。トレンドに右顧左眄するキョロ充社会に「好きなものは好きと言えるほうがKAKKOII」(“KAKKOII”)と宣言するその意気やよし。
ゆいにしお 『tasty city』
メジャー・デビューしてさっそく “mid-20s” がヒット、タイアップも続いて順調そうなのも納得の出来。人なつっこいメロディに二十代半ばの女性あるある的な共感を誘う歌詞が乗り、水口浩次、Shin Sakiura、Kensuke Takahashiらの編曲もバランスが絶妙だ。ユーミンに倣って女友達に取材して作詞をすると話していたが、わざとらしさが感じられないのは人の好さの賜物だろう。“スパイスガール” を筆頭に食べ物モチーフが多いのも、“CITY LIFE” の東京観が田舎者っぽいのも実に正直。ファンにとっても友達のような存在だと思う。memakusheのピアノに乗せて歌う唯一のバラード “パレード” が初めてのアルバムに奥行きをもたらしている。
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壱タカシ 『少年連祷』
今回の落穂拾いは2021年12月のリリースから。春ねむりのツイートで名前は知っていたが、ゆっきゅんに提供した “last order” に衝撃を受けて遅ればせながら聴き、夢中になってしまった。同曲にイメージが近いピアノ・バラードはもちろん、IDM的な電子音、アブストラクト寄りのヒップホップと音の幅が広く、安らぎと不安を同時に喚起するようなハーモニーとメロディは、味のある歌声とあいまって息を呑む美しさ。しかも作詞作曲編曲からレコーディング、ミックスまで自ら手がけている。タイトル通り少年期の想念や官能を綴った歌詞もすばらしく、アルバムの白眉である “ボーイ” はもちろん、“擬態” “ガール” “液体” あたりの流れが気に入っている。