2026/08/20 18:00

REVIEWS : 124 ボカロ(2026年月)──曽我美なつめ

"REVIEWS"は「ココに来ればなにかしらおもしろい新譜に出会える」をモットーに、さまざまな書き手がここ3ヶ月の新譜からエッセンシャルな9枚を選びレヴューする本コーナー。今回はライター、曽我美なつめによるボカロ、さらにはボカロP出身アーティストによる作品 / プロデュース作の9枚です。


OTOTOY REVIEWS 124
『124 ボカロ(2026年8月)』
文 : 曽我美なつめ

Ayase「dialogue」

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YOASOBIのコンポーザーであり、VOCALOIDカルチャー出身のクリエイターとして今まさに時代を牽引するAyase。そんな彼がどうしても消し去れなかった“歌いたいという気持ち”を携え、改めてソロ・アーティストとしての出発を掲げたEPが今作となる。音楽活動を始めて8年。激動の日々を過ごし、時にはトップ・アーティストしか知り得ない過酷な現実を直視した日もあるはず。それでも彼は一表現者として、一人の人間として、断絶ではなく対話(dialogue)の道を選んだ。効率化の時代に、冷笑の時代に、それでもあなたと話をしたい。過去ではなく、今の話を、未来の話をあなたとしたい。音を介してそう我々をまっすぐ見据える彼の表情から、いったい誰が目を逸らせるというのだろう。

原口沙輔『イ三』

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2023年リリースの『アセトン』『スクリーンⅡ』を経て、個人作品三部作の最終章として実に3年ぶりのドロップとなったアルバム。彼の生み出す楽曲において大きな魅力のひとつである三次元的な空間を思わせるサウンドメイクはもちろんのこと、音楽そのものの概念を構造的かつ普遍的に捉える冷静な眼差しも、この3年間でより洗練されたものへ至っているように感じられる。一方でその中に確かな核として存在するのは、創作/音楽に対する純粋かつ強烈な“祈り”だ。曲や歌、メロディやトラックというネームラベルに縛られない、音そのものへの信仰。誰よりも音を愛し、誰よりも音の力を信じる、あまりにも無垢なクリエイター、原口沙輔の姿がそこにはある。

キタニタツヤ「F.A.C.E.」

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今秋同時リリース予定のアルバム『DEKAI』『PURE』のリード・トラックとして、彼の今後の行く末を示唆する強靭なナンバー。「頭が一度壊れても大丈夫だよ」。なんて投げやりで粗雑で、それでいて途方もなく懐の深い受容の言葉なんだろう、と思う。キタニタツヤは反骨の人だ。それは鳴っている音像や境遇を問わず、今も“大衆に寄り添う音楽に寄り添ってもらえなかった人間”を貫いている、という意味である。その観点でまぎれもなく彼は、長年ポップスのカウンターカルチャーで在り続けたVOCALOID文化の本質を色濃く宿らせたアーティストだ。しかしそのオルタナティブなアンチテーゼには、やはり今作のような歪んだ荒々しい生身の轟音がよく似合っているように思う。

この記事の筆者
曽我美なつめ

四国在住のフリーライター。リクルート社勤務を経て2019年独立。10年超のバンド・DJ活動やインターネット・オタクカルチャーへの知見を生かし、これまでBillboard JAPAN、RealSound、ニコニコニュース、ダ・ヴィンチWeb等でインタビュー・記事執筆を担当。サブカル女子の魂百まで。

REVIEWS : 124 ボカロ(2026年月)──曽我美なつめ

REVIEWS : 124 ボカロ(2026年月)──曽我美なつめ

[連載] ARuFa & ダ・ヴィンチ・恐山(匿名ラジオ), Ayase, なみぐる, キタニタツヤ, ジョー・力一, 佐藤 ちなみに, 春野

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