"東京"で「歌心」を開花させたきのこ帝国とあらかじめ決められた恋人たちへ――佐藤×池永正二 対談
"東京"のタイトルを持つ名曲を新たに誕生させたきのこ帝国、待望のセカンド・アルバムがついに到着しました。これまでシューゲイザー・バンドとして名を広めていたこのバンドが、ヴォーカル・佐藤のシンガー・ソングライターとしての覚醒により今作『フェイクワールドワンダーランド』において最高の"歌モノ"を完成させ、多くの人に届くに欠かせないポップさを獲得しました。なかでもアルバムに先行してCDショップ限定で発売されたシングル「東京」は、その歌の強さに耳を奪われずにはいられないでしょう。
さて、今回はその佐藤の"歌"にフォーカスするべく、あらかじめ決められた恋人たちへの池永正二を迎え、対談を行ってもらいました。というのも9月に発売されたあら恋の最新作『キオク』で、ゲスト・ヴォーカルとしてクガツハズカム(佐藤のソロ名義)を招いたのが池永だったからです。同時に、佐藤は岩手から、池永は京都から上京したもの同士、今回のキーとなる"東京"について語ってもらいたかった。聞き手にライター・金子厚武に立ってもらい、想像以上の濃い内容になりました。きのこ帝国の最新にして傑作『フェイクワールドワンダーランド』、あらかじめ決められた恋人たちへのDVDとCDからなる『キオク』とともに、この対談を楽しんでください。
きのこ帝国 / フェイクワールドワンダーランド
【配信価格】
mp3 : 単曲 200円 / アルバム 2,000円(各税込)
【Track List】
01. 東京 / 02. クロノスタシス / 03. ヴァージン・スーサイド / 04. You outside my window / 05. Unknown Planet / 06. あるゆえ / 07. 24 / 08. フェイクワールドワンダーランド / 09. ラストデイ / 10. 疾走 / 11. Telepathy/Overdrive
9月にCDショップ限定でリリースされたアルバム先行1曲入りシングル「東京」は5000枚限定から急遽増産体制に入るほどの反響を呼び、アルバムへの期待が高まっていたなか、待望のセカンド・アルバムが到着。書き下ろしの楽曲はもちろん、過去に作った楽曲も収録。当時の自分たちに似合わなかった楽曲も、今のきのこ帝国の気持ちとスキルでアレンジしなおして収録。ジャンルやシーンに拘らず、自分たちが楽しんでシンプルにいいと思うものを出す、それを飽きずにやる。愚直なまでに純粋なスタンスで、これまで歩いて来た、そして歩いていくであろう、 きのこ帝国の今と未来が詰まっているアルバム。
クガツハズカム(きのこ帝国 佐藤のソロ・ユニット)参加のあら恋最新作
あらかじめ決められた恋人たちへ / キオク(DVD+CD)
【Track List】
〈DVD〉01. カナタ / 02. Res / 03. Nothing / 04.Conflict / 05. ヘヴン / 06. テン / 07. 前日 / 08. ラセン / 09. Fly / 10.Back / EXTRAS 01. Fly feat.吉野寿 / 02. out / 03. ワカル / 04. トオクノ / 05. クロ / 06. Back (@Taipei, Taiwan)
〈CD〉01. Going / 02. BY THIS RIVER feat.クガツハズカム / 03. キオク / 04. Fly feat.吉野寿(album ver.)
発売日 : 2014年9月10日(水)
価格 : 3,333円(税抜)
2013年に発表した5枚目のアルバム『DOCUMENT』のレコ発ツアーを中心に、以前から評価の高いライヴ・パフォーマンスを余すところなく収録した約120分のDVDと、新曲「Going」を含む4曲入りCDによる2枚組。DVDは、映画音楽等でも活躍する池永正二とライヴ・シューティング・チーム、naoeikkaによる共同監督作。ステージの迫力を最大限に活かしつつ、背景としてツアー移動中の風景や町並みを散りばめた、ロードムービー的演出が特徴。CDには近年のダンス・ムーブメントにも通じるテクノ / ハウスの高揚感と、メランコリックなメロディを共存させた新境地「Going」に加え、ヴォーカルにクガツハズカムを迎えたシネマティックDUBチューン「BY THIS RIVER」(ブライアン・イーノのカバー)など全4曲を収録。
対談 : 佐藤(きのこ帝国)×池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
きのこ帝国と、あらかじめ決められた恋人たちへ。サイケデリックで、映像的な美しさのある音像と、歌の有無を超えたところにある「歌心」という部分において、両者が強く惹かれあい、近年急接近を果たしたことは、必然だったと言っていいように思う。9月に発売されたあら恋のDVD+CD『キオク』には、きのこ帝国の佐藤のソロ名義であるクガツハズカムをフィーチャーしたブライアン・イーノのカバー「BY THIS RIVER」が収録され、好相性を見せていたことは記憶に新しい。そして今度は、きのこ帝国のセカンド・アルバム『フェイクワールドワンダーランド』が発売される。歌、メロディーの魅力を研ぎ澄ますと共に、バンドが内包していた幅広い音楽性を解放した、素晴らしい仕上がりだ。なかでも、やはり重要曲と言えるのが、先行シングルとして発売され、アルバムでも1曲目を飾っている「東京」。この曲のある種のストレートさにこそ、今のバンドの自由さと、その一方での覚悟が凝縮されていると言っていいだろう。そこで今回は、この両バンドのフロントマンを招いて対談を実施。佐藤のヴォーカリストとしての魅力を改めて検証すると共に、いま東京で音楽を続けることに対しての想いを、じっくりと語り合ってもらった。
インタヴュー&文 : 金子厚武
写真 : 外林健太
轟音の中にあってもリバーブが絡まっても、ちゃんと歌が存在していてしっかり声が抜けてくる
――おふたりの出会いはいつごろですか?
佐藤 : 自分は大学生くらいのときからファンで、普通にライヴを見に行ってて、ちゃんとお話しするようになったのは…… いつでしたっけ?
池永正二(以下、池永) : レコ発に呼んでくれて、でも俺ら無理で出れなくて。
佐藤 : そうだ、そうだ。『渦になる』が出たときに、2マンって形でオファーさせていただいたんですけど、スケジュールが合わなくて。
池永 : で、そのあとうち企画でシェルターやんね?
佐藤 : そう、呼んでもらってびっくりしました。
池永 : 僕はDUM-DUMの野村(幸弘)さんに「おもしろいバンドいるよ」って教えてもらって、「夜が明けたら」を聴いたら、今から盛り上がるってところでストンって落とすのがすごく映画的な余韻があって、ドキッとしたんですよ(笑)。
――シェルターの企画は2012年の9月ですが、YouTubeにクガツハズカムとクリテツさんが共演してるライヴ映像があがってて、あれが2011年の年末のDUM-DUMの企画だと思うんですよね。
佐藤 : ああ、そういうのもありました。あれは私とクリテツさん別々にソロで出てたんですけど、自分があら恋のファンだったので、当日いきなり「一曲やってもらえませんか?」って直前に言って、ぶっつけ本番で「足首」っていう曲をやったんです。あと、ベースの剣さんは、ライヴハウスで働かれてたので、微妙に知ってるような知らないようなぐらいの感じで、外堀は埋めていってたんです(笑)。
――佐藤さんはあら恋のどんな部分に惹かれたのでしょう?
佐藤 : 最初は名前がすごい印象的だなって思ってて、たまたまLUSHとHOMEの往来企画に遊びに行ったときに、あら恋が出てて、ライヴを見て一目ぼれして。もうすごすぎたんですよ。「事件」みたいな感じっていうか(笑)、ストロボバンバンで、パンキッシュな感じで、エモかったんですよね。
――逆に、池永さんから見たきのこ帝国の魅力は?
池永 : 洋楽テイストなんやけど、確実に日本の音楽で、シューゲイザーやポストロックではあるけど、それも自分らの根幹を表現する為の手法であって。何をやってもきのこ帝国というか。「うちらも」って言うと偉そうですけど、ダブとかシューゲイザーっぽいけど、でも自分らの音っていうか。やっぱり根幹にしっかりブレないものが渦巻いているものが音楽しかり、映画しかり好きで、きのこ帝国もそういうバンドだなと。ノイズの作り方も美しくって、かっこいいなって。あと、佐藤さんは立ってるだけで雰囲気があって、なんかね、佇まいがドーンとしてるんですよ。存在感があって、強いんです。轟音の中にあってもリバーブが絡まっても、ちゃんと歌が存在していてしっかり声が抜けてくる。倍音が多いんかな?
佐藤 : 倍音はもっとあったらいいなって思います。
池永 : 練習でつくの?
佐藤 : あれ結構ここ(鼻の上)の響きとかが関係あるみたいです。ものすごい高い声を出るようにしておかないと、低い声を出したときの響きも全然違うらしくて、上が退化しちゃうと、低い声も全然よくなくなっちゃうらしいです。声って衰えていくものなので、結構歳にビビってます(笑)。
池永 : いや、まだまだいけるって(笑)。
佐藤 : 人間の声が一番いいのは10代後半かなって思っていて、あとは味とか深みってことになってくると思うんですけど。
池永 : 味の方がいいって。10代のきれいな声よりも、経て来た深みのある声の方がグッとくるもん。年相応の方がいいよ。若作りしてるおっさん見てられへんやん? おっさんはおっさんなりのおっさんぽさがいいんであって…… 何の話や(笑)。
あら恋って歌心を感じるから好きなのかもしれないです
――(笑)。これは改めての話ですけど、佐藤さんにヴォーカリストとしてのルーツについて話してもらいたいのですが。
佐藤 : ルーツというか、存在感っていう意味でリスペクトしてるのは、美空ひばりで。あの人はすごい天才って言われて出てきて、大人になってからもものすごくいい歌を歌ってるし、あといろいろ伝説も残されてて、レコーディングで1回しか歌わずに帰って、だから録音は結構荒々しいんだけど、でもそれが逆にいいみたいな、そういう強さはかっこいいなって。歌い方のスタイルは全然違いますけど、「こうなりたい」っていうアーティスト像としては、結構大きいですね。
池永 : 国民栄誉賞やん(笑)! 規模がでかいなあ。
佐藤 : 日本でオリンピック開催されるじゃないですか? 誰が開会式で歌うかって思ったときに、美空ひばりだったらよかったなって思って。このままいくと、EXILEとかジャニーズかなって…… それはそれで今の日本ですけど。
池永 : じゃあ、目指す(笑)?
佐藤 : 2人で目指しましょうか(笑)。
池永 : でも、どっかでホンマに噛みたくない?
――たぶん、今多くのミュージシャンがそう思ってると思います。
池永 : なんかやりたいよね。大きいこと言ってるけど…… いや、大きくもないと思う。売れてる売れてへん関係なく、おもしろいことやってたら、何かどっかで…… 『AKIRA』の時代設定でしょ? 繋がってくるもんがありそうな気がしてて…… あかん、また話ずれた(笑)。美空ひばりかあ…… 佇まい強いもんなあ。
佐藤 : 「愛の賛歌」を美空ひばりが歌ってて、いいなって思うんですけど、クリテツさんもよくテルミンで「愛の賛歌」をやってて、それが歌に聴こえるんですよ。あら恋って歌はないですけど、クリテツさんのテルミンとか、いろんなものが歌になってる気がして、歌心を感じるから好きなのかもしれないです。美空ひばりみたいなテルミンだなって(笑)。
池永 : ビブラートすごいしな(笑)。
佐藤 : 低音もきれいに響くし。
池永 : 確かに、声に近い音出すもんね、テルミンって。
――もうひとり、ダブっていうキーワードとかも含めて、佐藤さんに通じるヴォーカリストを挙げるとすれば、同じ苗字の佐藤伸治っていう天才ヴォーカリストがいたわけじゃないですか? 池永さんにとって、フィッシュマンズってどういう存在ですか?
池永 : めちゃめちゃ好きやった。めっちゃ見に行ってた。でも、「そういや同じ苗字か」って感じで、そんなに一緒の感じはしないかな。でも、夜中にひとりで歌ってそうな感じはする(笑)。朝の4時とか5時、夜が終わった後、朝が始まる前、飲み過ぎた後の1番ヤバい時間帯の感じ。
佐藤 : わかる(笑)。あの時間嫌なんだよなあ。
池永 : そう、大嫌いやねんけど、でも好きっていうか、あの感覚が引っ張られる人の曲は好きやし、フィッシュマンズもその雰囲気をまとってて。でも、この前フィッシュマンズを聴き返す機会があって、そのときまったく自分のなかで響かなくて。
――いつごろの話ですか?
池永 : 2週間前ぐらい。あんなに好きやったのに、曲は全部覚えてるのに、「あれ?」ってなって。何か変わってきてる感じがしたっていうか、時代的には90年代のリバイバルとか言われてるのかもしれへんけど…… どう?
佐藤 : 自分もフィッシュマンズは好きなんですけど、やっぱりダブとか浮遊感のある音楽性のバンドが出てくると、フィッシュマンズの系譜で語られることが多くて、それに対しての違和感はずっとあって。「フィッシュマンズの亡霊に惑わされ過ぎなんじゃないか?」って思ったり(笑)。
池永 : 言わしとけばええねん(笑)。
佐藤 : みんなそれだけフィッシュマンズが大好きなんだなって思うんですけどね(笑)。
池永 : でもなあ、この前聴いたときは、あんまり引っ張られなくて…… なんか、もう「ゆらめき~」って感じじゃないっていうか、それはきのこ帝国もそうじゃないというか。
佐藤 : 自分も、その変化はあるかもしれないです。
池永 : 「もういいよ」とか言ってると、「じゃあ、いいです」って言われるっていうか、今ってそれをフォローする余裕がある時代ではないじゃないですか? 「やめたきゃやめれば?」っていう、なんとか自分らでやってかないといけないから、昔みたいのは響かなくて、でも、かといって「行こうぜ!」みたいのも違って、その間の感じっていうのかなあ。
――東京に出てきて、震災も経験して、池永さん自身の音楽との向き合い方に変化があったからこそ、フィッシュマンズの響き方も変わったんでしょうね。
池永 : うん、そうやと思います。変わった。
――今の話の流れで、おふたりの東京話に行きたいところなんですけど、その前に「BY THIS RIVER」の話だけさせてください。このカバーって、さっき言った2012年のシェルターのライブでも披露されてるんですよね?
佐藤 : そうです。去年のUNITでのあら恋のワンマンでもやりました。
池永 : もともとあの曲ずっとカヴァーしたくて、せっかくきのこ帝国と共演するから、何か歌ってもらいたいと思ったときに、「あの曲があった」と思って。やっぱり、佐藤さんは物語のある声なんですよ。あの曲自体、すごい映像っぽいじゃないですか? 実際に、映画にも使われてたし。乾いた感じで、暗過ぎず、明る過ぎず、バッチリはまったなって。
佐藤 : 結構コード進行と歌詞を覚えるのに精いっぱいで、当日は腕にそれをバーッと書いてたんで、タトゥーしてる人みたいになってて(笑)。でも、あら恋のワンマンでやらせてもらったときに、大学の友達がたまたまあら恋好きで見に来てて、「ブライアン・イーノのカヴァー良かった」って後でメールくれて、それは嬉しかったです。
――録音に関しては、美空ひばりが1テイクなのに対して、これはどれくらい録ったんですか(笑)?
佐藤 : 何テイクか録りました(笑)。
池永 : 僕がいろんなパターンを録るやり方が好きなんですよ。
佐藤 : 「死にそうな感じで」とか言われて、やってみたら、「死にそう過ぎるなあ」とか(笑)。
池永 : 「もうちょっと希望あった方が」とか。1番は死にそう、2番は希望とか、あとで曲中の時間軸に物語をつけたくって。だから、いっぱい録音して、あとで編集して組み立てるっていう、そういうやり方が好きなんですよね。
最初のワンフレーズがポンッと出てきて、そこから曲を完成させたときに、あとから「東京」っていう名前を付けた
――では、きのこ帝国の“東京"という曲になぞらえて、おふたりの東京観をお伺いしたいと思います。まずは、それぞれの上京時について話していただけますか?
池永 : 僕は大阪じゃにっちもさっちもいかんってなって、31歳とか32歳のときに出てきたんですよ。結婚して、仕事もしてたんですけど、何を思ったか、挑戦できるのは今が最後やと思って、頑張ろうって。
――当時は東京に対してどんな想いがありましたか?
池永 : 何にもなかったんで、とにかく頑張らなあかんって。もともとは東京って嫌いで、大阪が中心やって思ってました。でも、なんやかんやで中心は東京で、大阪には音楽の仕事あんまりなかったんですよね。で、住めば都っていうか、周りの人見てもみんなしっかりやってて、ライヴはビールを飲んでやるもんやと思ってたけど、飲んだらあかんなって思ったり…… どのレベルの話やねんって感じだけど(笑)。
――佐藤さんは岩手出身ですよね。東京はいつから?
佐藤 : 高校2年生のときに転校してきました。
池永 : じゃあ、16歳とか17歳から一人暮らし?
佐藤 : 寮に住んでました。音楽やりたいと思って出てきたんですけど、でも数年の間は何にもならず、フツフツと自宅で宅録してました(笑)。
――東京に対するコンプレックスみたいなのって、佐藤さんもありましたか?
佐藤 : いや、それまで図書館だったり、学校のグラウンドだったり、自分が住んでる世界の中で完結してて、普通にそれが楽しかったので、岩手の環境に対して不満に思ったことはまったくなかったです。なので、東京に対しての意識っていうのも特になくて、同級生が「東京で服買ってきた」とか言ってても、「東京って栄えてるんだな」ぐらい。だから、行きたいとも行きたくないとも思ってない、フラットな感じでした。
――でも、音楽をやるなら東京がいいと思った?
佐藤 : 中3とか高1のころは、2人組で路上で弾き語りとかしてたんですけど、酔っ払いのサラリーマンとかに「おまえの歌は東京で一番になれる」とか言われて、「東京ってそういう街なんだ」って思って、「音楽をやるとしたら、いつか東京に行くんだろうな」って、そこで初めて自覚したんですよね。その1~2年後に、もう東京にいるんですけど(笑)。
池永 : 佐藤さん、スピード速そう(笑)。
佐藤 : でも、もう10年経っちゃいましたからね(笑)。
――そっか、上京から10年目にして、「東京」っていう曲が生まれたんですね。
池永 : 東京の歌を作りたいと思ってたの?
佐藤 : いろんなアーティストが「東京」ってタイトルの曲を書いてるんで、憧れはありました。サザンの桑田さん、銀杏BOYZ、くるりとか。ただ、今回の曲に関しては、最初のワンフレーズがポンッと出てきて、そこから曲を完成させたときに、あとから「東京」っていう名前を付けたんです。
池永 : パッてシンクロしたんや?
佐藤 : そうですね。できあがった時点で、「これ“東京"じゃん」って。
池永 : 最初から「“東京"って曲を作ろう」だとあかんよね。企画ソングって、そこを超えないっていうか、日々の中から生まれてポコッとハマるものの方がいい。
――あら恋の曲の中にも、結果的に「東京」のイメージが反映されてるものってありますか?
池永 : そう言われると、東京を意識してる気はしますね。新幹線で大阪から東京に戻ってきて、地平線が徐々に家ばっかりになって、銀座あたりからドーンってビルが出てきたときに、やっぱり威圧感がすごくて、東京って感じがする。DVDにずっと移動してる映像が入ってるんですけど、それも東京っぽいかも。ただ、東京って実はゆっくりな気がするんですよ。朝の通勤ラッシュとかの感じじゃない、もっとスローモーションな感じ。きのこ帝国の「東京」のあのテンポ感も、東京っぽいなって思ったし。
――おもしろいですね。一般的には、人も情報も動きが速いのが東京っていうイメージだと思いますが。
池永 : うちらのPVを作ってくれてる柴田(剛)くんが「実はゆっくりなんじゃないか」って言ってて、「Fly」って曲のPVはゆーっくりなんですけど、すごい東京っぽくて、そのなかでグチャッと逆回転したり、ドローンとする感じ。あの、「クロノスタシス」のPV、すごく良かった。みんな止まるやつ。いつも最後のオチでグッとくる。海のあれ(「海と花束」)も、「バターン、海やったんや!」っていう(笑)。サビのタイミングでくるからよけヤバい。
あの瞬間のあのタイミング、あの声が出てたときに、ああいう曲をやればよかったとか思いたくなくて
――「クロノスタシス」を撮ったのは下北沢?
佐藤 : そうです。一番街ですね。
――そういう意味じゃ、やっぱりあれも「東京」が舞台になってて、『フェイクワールドワンダーランド』っていうタイトルも含め、アルバム全体に「東京感」が漂ってる作品だと言ってもいいと思うんですね。上京から10年が経って、東京で音楽をやることに対して、どんな意識の変化がありましたか?
佐藤 : 結構最初から目指すところは変わってなかったりして、ただ昔は途中の道筋をイメージできてなかったのが、最近それを冷静に考えられるようになって、そのためにも、まずは目の前のことをやろうっていう風に、ある種余裕を持って音楽制作に取り組めるようになりました。ただ、もっと自分の稼働量を増やさないとって思ってて、「出てくるものを大事にする」っていう、悪い意味でのアーティスティックな部分というか、甘えとも取れる部分があって、前までは「マイペースに、いいものを作れればいい」って感じだったんですけど、でも限られた時間の中で、自分の表現力が20年もつかもわからないじゃないですか? 声のリミットもあるし、永遠にやってられるものではないから、どんどんいい曲を書かないとっていう、焦りもあったりします。
池永 : タイミングは重要やと思う。やるときはバーッとやらなあかんと思うけど、作り手としては、俺はずっと作ってると思うよ。90歳の映画監督とかもおるし、それが仕事になってるかは別問題としても、ものを作るリミットはないと思う。「枯れるな」って思った時点でヤバいって、枯れていくって。焦るのは焦らなあかんけど…… なんか飲み屋のおっさんみたいやな(笑)。
佐藤 : 枯れる心配よりも、やらない後悔をしたくないと思ってて、あの瞬間のあのタイミング、あの声が出てたときに、ああいう曲をやればよかったとか思いたくなくて、そのときできることを100%か200%か、とにかくやりきって、その上で年を取って行きたくて。世の中ちゃんと堅実に働く人が真っ当に評価されてほしいと思ってて、自分もそういうアーティストになりたいから、ダラダラ作るんじゃなくて、集中してたくさん作品を作って、いろんな人に聴いてもらいたいなって。
池永 : 確かに、そうやね……。俺も作るの遅いから、身に染みます(笑)。うん、甘えたこと言ってたらあかん!
佐藤 : 速い人には憧れますよね。しかも、いいものであるっていう前提があると、すごい尊敬します。
池永 : たくさん作ると、そっから選べるしな。
佐藤 : そうですね。100曲ある中から10曲選ぶのと、10曲しかなくて10曲だと違いますよね。もちろん、自分も音楽はずっと作り続けると思っていて、それを切り離しては生きていけないと思うんですけど、ただ、60歳とか70歳でヒットチャートに入ってるのは想像できないから、今もっとどんどん作らないとなって(笑)。
池永 : そやねえ。日本ってベテランに不親切ですよね。一過性っていうか根付いていかない。外国って、そのぐらいの年でもヒットチャート入ってるし、映画監督は40歳とか50歳普通ですしね。まあ、いろいろやり方はあって、俺がいまやるのはあら恋だと思うから、いま頑張んないとあかんな。
佐藤 : いま頑張んないと、10年後も頑張れてないと思う(笑)。
池永 : そらそうやわ(笑)。
――その積み重ねが、東京オリンピックにつながるかもしれないと(笑)。
佐藤 : ホント居酒屋でしゃべってる感じ(笑)。途方もない話を。
――いや、普通のインタヴューだとなかなか出てこなそうな話が聞けておもしろかったです。他に、お互い何か聞いておきたいこととかありますか?
池永 : なんやろ…… 今後の目標は(笑)?
佐藤 : 目標ですか(笑)?
池永 : いや、阪神時代のノムさんが新庄に「おまえ10年後のこと考えてやっとんか?」って言ったらしくて(笑)。
佐藤 : ホントに自分が思ってるなりたいこととかって、人には言わないんです。叶わない気がするから、言わない。
池永 : でも、言霊とかあるやん? 言ったら、そういうふうに動いていくみたいな。
佐藤 : ネガティブだから、大言壮語で、叶わなかったら恥ずかしいっていうのもあるんですけどね。昔も「音楽やりたい」って周りに言ったことなかったし。だから、いつもインタヴューでこういう話になると、はぐらかしてふんわりしたことを言ってたんですけど、今日はふんわり言うのもなんなので、「言わない」っていう。
池永 : かっけえ!
佐藤 : いや、守りなんで(笑)。
池永 : いやあ、「言わない」って言えないもん、俺。
佐藤 : 結果が出てから言う方が好きなんですよね。
――じゃあ、池永さんの10年後の目標は?
池永 : 言わない!
佐藤 : (笑)。
池永 : いや、あんま考えてなかってん…… まあ、考えてるところはあるけど、言ったらベタな感じになっちゃうから。
佐藤 : 同じような感じですよね、きっと。
――そこは言わずに、締めましょうか。
佐藤 : ご想像にお任せします(笑)。
きのこ帝国
PROFILE
きのこ帝国
2007年結成、2008年から本格的にライヴ活動を開始。2012年5月にデビュー・アルバム『渦になる』を発売。2013年2月にフル・アルバム『eureka』、同年12月に5曲入りEP『ロンググッドバイ』と発売を重ねるごとに話題を集め、各地イベントやロック・フェスへの出演、カナダ・ツアーを行い大きな反響を得る。2014年9月9日に100円シングル『東京』、10月29日にアルバム『フェイクワールドワンダーランド』を発売。
LIVE INFORMATION
東阪リリース・ツアー"CITY GIRL CITY BOY"
2015年1月15日(木)@梅田CLUB QUATTRO
2015年1月21日(水)@赤坂BLITZ
過去作品
【特集ページ】
>>ファースト・フル・アルバム『eureka』配信&インタヴュー
>>デビュー作『渦になる』配信&インタヴュー
あらかじめ決められた恋人たちへ
PROFILE
あらかじめ決められた恋人たちへ
1997年、池永正二によるソロ・ユニットとしてスタート。叙情的でアーバンなエレクトロ・ダブ・サウンドを確立し、池永自身が勤めていた難波ベアーズをはじめとするライヴハウスのほか、カフェ、ギャラリーなどで積極的にライヴを重ねる。2003年には『釘』(OZディスク)、2005年には『ブレ』(キャラウェイレコード)をリリース。この頃からリミックス提供や映画 / 劇中音楽の制作、客演などが増加。2008年、拠点を東京に移すと、バンド編成でのライブ活動を強化。そのライヴ・パフォーマンスと、同年11月のサード・アルバム『カラ』(mao)がインディー・シーンに衝撃を与える。2009年にはライヴ・レコーディングした音源を編集したフェイクメンタリー・アルバム『ラッシュ』(mao)を発売。2011年、満を持してバンド・レコーディング作『CALLING』をPOP GROUPからリリース。叙情派轟音ダブバンドとしてその名を一気に知らしめ、FUJI ROCK FESTIVAL、RISING SUN ROCKFESTIVAL、朝霧JAM等、大型フェスの常連となっている。2012年、2曲30分からなるコンセプト・ミニ・アルバム『今日』を発表。それに伴う恵比寿リキッドルーム公演から始まるワンマン・ツアーも大盛況に終わる。またPVにおいても、柴田剛監督による「back」や、17分に及ぶ「翌日」等、話題を集めており"踊って泣ける"孤高のバンドとして独自の道を切り開いている。現在ニュー・アルバム制作中。
LIVE INFORMATION
あらかじめ決められた恋人たちへTOUR 2014 "Dubbing 07" 記憶の旅
2014年11月3日(月・祝)@大阪CONPASS
w/ The fin.
2014年11月9日(日)@東京キネマ倶楽部
w/ world's end girlfriend 、
Guest Vocal /吉野 寿 (from eastern youth)
2014年11月16日(日)@名古屋CLUBUPSET
w/ OGRE YOU ASSHOLE
過去作品
【特集ページ】
>>『DOCUMENT』配信&インタヴュー
>>『Fly feat. 吉野寿』配信&特集「16年間の歴史を振り返る」
>>『CALLING』配信&インタヴュー
>>『ラッシュ』配信&インタヴュー