
“ああ、椎名林檎よりも、二階堂和美よりも前に、小島麻由美だった”
来年一月に、約4年ぶりとなる新作の発表を控えたの、『メリーゴーランド』に続く限定シングル『アラベスク』でひさびさに彼女の歌声を聴いて思ったのは、その事実だった。僕は今メジャー・シーンで活躍している多くの女性ボーカリスト(特にバンド・マンのね)は、椎名林檎とYUKIの影響を受けていると思っている。チャットモンチー、マスドレ、つしまみれ、・・・ こうやって名前を並べて、それぞれの歌声を思い浮かべてもらえれば、彼女たちが意識的にしろ無意識的にしろ、前述の二人の影響下にあることを感じてもらえるだろうか? 特にシーンのトップ・ランナーであるチャットモンチーの橋本絵莉子なんて、ロリっぽい部分がYUKIで、でも情念深さもある感じが林檎、それがちょうど中和されてあの真っ直ぐな歌声になってるように思ったりもするんだけど、どうかな? まあ要はそれぐらい、あの二人の影響力は大きいってこと。そしてOTOTOYの読者であるみなさまなら、現在のインディ・シーンにおける“歌姫”の存在の大きさはご理解いただけるだろう。最近はのトリビュート・アルバムに参加して「宿はなし」を披露していたが、実に素晴らしいカバーだった。

さてさて、前置きがかなり長くなってしまったが、そこでである。95年デビューなので、すでに15年近いキャリアがあり、最近はリリースがなかったために、若いリスナーの中には彼女の存在を知らない人もいるかもしれないが、ジャズやブルース、そして昭和歌謡を織り交ぜた音楽性と、独特の視点を持った歌詞の世界観で、熱狂的なファンを多く抱えるシンガー・ソング・ライターである。『アラベスク』では、これまで彼女の作品の多くでドラムを叩いていたASA-CHANGに代わり、元のハッチこと八馬義弘が叩いているのだが、デキシー時代のようなキース・ムーンばりの激しいドラミングではなく、ギターの塚本功( etc)、コントラバスの長山雄治(ピラニアンズetc)と共に、抑制の効いたシンプルなアレンジでまとめていて、それによってのボーカリストとしての魅力が改めて浮き彫りになっている(はぁ、やっといいたかったことが言えた! )。気だるくも可憐なその歌声は、30代後半を迎えた今も変わることなく、むしろその艶を増してますます魅力的。カップリングの、キュートな「黒猫のチャチャチャ」にしても魅力全開。やはり椎名林檎よりも、よりも前に、だったのだ。
歌詞に関しては男の僕がどうこう言うより、むしろ僕が女性の意見を聞いてみたいのだが、ひとまず<私は皮膚のその下に あなたを着ているの>という、純愛のようでちょっと恐ろしい歌詞がいかにもらしい。このシングルだけでは来るべきアルバムの全体像こそ見えないものの、シンプルなアレンジの方向性や、デビュー作に収録の「セシルのブルース」の弾き語りが入っていたりすることなどから、よりリラックスした、自然体のに会えるのではないかと思う。
(text by 金子厚武)
PROFILE

東京都出身のシンガー・ソング・ライター。1995年、シングル「結婚相談所」で突然デビュー。同年発表のアルバム「セシルのブルース」は、ジャズ、ジンタ、歌謡曲などの影響と少女的感性が結びついた「古くて新しい」音楽として注目を集める。その後、作品毎に意匠を変化させながらも"スィングする日本語の歌" を軸に数多くの冒険的、圧倒的な作品を発表。独自のコンボ・サウンドとともに立ち上がる唯一無二の世界が、数多くの音楽リスナー達を魅了し続けている。
- official website : http://www.kojimamayumi.com/
超個性派女性ヴォーカリスト
ニカセトラ / 二階堂和美
洋邦問わず幅広く支持を得ている歌い手、二階堂和美。彼女の新作は全曲カヴァーでありながら、しっかりと”二階堂和美色”に染められている。小さい頃に合唱で歌った、TVやラジオで流れていた、そんな馴染み深い選曲と、優しく伸びやかで時にアグレッシヴなヴォーカルは、日本の季節や情景、また個人の記憶を連想させる。涙腺を刺激する温かいうたは、聴く人を選ばないだろう。力みや計算とは縁のない、自然体で輝きのある音楽。自然に出てくるものだからこそ、惹きつけられ、揺さぶられるのだと思います。お洒落にアレンジされたカヴァー・アルバムが溢れる昨今だからこそ、是非聴いて欲しい一枚です。
パンパラハラッパ / 松倉如子
元はちみつぱい/アーリータイムス・ストリングス・バンドの渡辺勝、二階堂和美の才能に狂喜した渋谷毅氏がもっぱら惚れ込んでいる天性爛漫治外法権な狂喜のシンガーの登場! 矢野顕子や大貫妙子も髣髴とさせるがその中にも少女性と幼女性が見え隠れして魔性の臭いを漂わせる。曲ごとに変化する雰囲気/演技力は鬼気迫るものが。スウィング、ムード歌謡、フォーク等の要素を完全に松倉ワールドに染め上げてるところは エゴラッピン〜小島真由美好きにもたまらないはず。
扉の冬 / 吉田美奈子
「日本のローラ・ニーロ」と呼ばれた吉田美奈子の1973年9月21日にショウボート・レーベルの第1弾アルバムとして発売された傑作デビュー・アルバム「扉の冬」。バックは荒井由美の「ひこうき雲」と同様キャラメル・ママ〜ティン・パン・アレー。未完成な部分をあえて補うことなく自然なまま、控えめな演奏が素晴らしいです。ゆっくりと時間が刻まれた胸を突くようなソング・ライティングはファーストとは思えないほど。