ピストバイクにバスキアを乗せたかった
──なるほど。では『On Your Mind』でプロデュース面において大きな変革があり、そして新たにここから出て行く「Sunrise Love」からのシリーズがもうネクストモードだということですね。
藤井 : そうですね。完全にネクストモードです。
──なるほど。その「Sunrise Love」は、どの部分がEmeraldとして大きく変わりました?
磯野 : 構成ですね。例えば、以前はAメロ・Bメロ・サビとあるなかでもあまり優先順位みたいなものがなくて、全てのパートを気持ちよく聴かせる努力をするっていう感じでした。でもそれってある意味どれも目立たないんですよね。だから構成を考える上では目立たせたいところを意識して作るようになりました。Aメロ・Bメロはサビの半分の尺にするとか。あと歌については、藤井さんが陽介さんが作ってきた歌に関して細かく要望を伝えたりしながらふたりで最終系まで構築していくんです。ただそんななかでもうまく伝わらない時もあって、そういう時は「藤井さんがいいって思う要素はこういうことなんだろうな」っていうところを僕が掴んで伝えたりすることもあります。例えば陽介さんに「このフローで歌って欲しい」と言って、そのためだけに作ったリズムトラックを渡したこともありましたね。
藤井 : いままでのホーンアレンジって僕がメインでやりつつ、キーボードの中村と一緒に共同制作でやってたんですけど、今回はホーンアレンジを井上惇志 (showmore)にお願いしたんです。これは完全に新しいチャレンジだと思います。あとはトークボックスもそうですね。イントロからガチっと掴みたいというのが、僕らのなかでずっと課題で。“ムーンライト”では、メインフレーズ感がイントロからあったんですけど、結局それは楽器のフレーズであって、いわゆるサビメロっていうのはなかなか入ってなかったんです。その点、うちの兄貴(※Emeraldメンバーでもあり実兄の藤井健司)は歌とコーラスができるしフレーズを考えるのも得意で、デモで持ってきてくれたボコーダーのフレーズがすごく良くて。それをやろうよってなって、そこからガチっとフレーズを固めたりして。最終的にレコーディングのタイミングでエンジニアさんが「これ、トークボックスとかでやったらすごくおもしろいかもしれないですね」って言ってくれて、最終的にあの形になりました。ここは苦労したけど、工夫してよくできた点かなと思います。
──なるほど。この曲で藤井さんがこだわった部分は?
藤井 : メロもそうですし、歌のリズムトラックの部分もすごい大変でした。結局フローがしっかり乗らないというか、メロいいんだけどなんかしっくりこないんだよなって状態がもうずっと続いてたんですよ。磯野のアドバイスを元に、やってみたらだいぶ良くはなったんですけど。結構このメロって繊細なんですよ。コードを1個動かすと全然ヘンテコになっちゃって全然良くないみたいな。特にそれがサビメロで、吟味するのがすごい難しかったですね。
磯野 : コードに対してメロディがマイナーっぽくくっつくのか、それとも構成音としてしっかり着地するのかによってメロディとオケの浮き感が全然違って。マイナーっぽく聴こえたほうがグッとくるんだけど、でもバッキングと合わないとか。あとメロディが16小節のなかで前半と後半に分けたとき、ここは聴かせたいのか、ここは爽やかにいきたいのかっていうのが、語尾の1音の着地を変えるだけで楽曲全体に影響が出るんです。そういうところを最後まで調整しましたね。レコーディングの直前までどうやって歌ってもらうかが決まらなかったし、テンポを118で作ってたのに、レコーディングで120に上げたので、練習してきた分が1回リセットされちゃうみたいなところもあって。それでも当日はバシッと歌い切れたので、この曲は売れたなって思いました(笑)。
──メロディー良いのにフローが乗らないって、めちゃくちゃ難しいじゃないですか!? 中野さんにとって“Sunrise Love”はどうだった?
中野 : 本当に難しかった。メロディはふたりにアウトプットする形になるので、もちろんスキルも上がるし、歌うこと自体はできちゃうかもしれないんですけど、今度はそれに物語として意味付けをするってところがまた難しくて。聴いた人の心に落とす歌詞を探しに行くのは、すごい潜った後にまだ潜るの? みたいなことなんですよね。毎回すごいギリギリで岸に上がってきて完成するみたいなことが多くて、年を重ねるごとにみんなに心配をかけることが増えているかもしれないですね。
──歌詞について、「もっと、こうしたい」っていう意見がメンバーから来る?
中野 : 結構ありました。今回は固有名詞でバスキアとかバンクシーが歌詞に出てくるんですけど、「その場所でその歌詞持ってくるのか」みたいな物議があって。僕はどうしても、ピストバイクにバスキアを乗せたかったんですけど、最終的にピストバイクにバスキアは乗らなくて(笑)。そういう見えてきた景色と別れを告げて、別のイメージに塗り替えながら歌詞を書くというのが本当に難しくて。ふたりのイメージを具現化していいものにするために変えていく作業は、アーティストとして世界観を曲げているのかもしれないですけど、ひとり自分が楽しく歌わせてもらう以上、みんなが納得するものにしたいなっていう気持ちがあって。僕のロマンスだけではどうにもならない。みんなを信用して、みんなが納得するものを作るっていうプロジェクトだし、それはEmeraldっていう場所で歌っていく自分にとってひとつのゴールなんですよ。