私の誰にも見せられない化け物みたいなものと照らし合わせて書いた
──『BORN SICK』の1曲目の“Retire”はどういうときに創られた曲ですか?
アイナ : “Retire”は、荒れ狂ったバンドサウンドをやりたいと思って創った曲ですね。ちょうどそのとき、病むのに飽きたんですよ。ファースト・アルバム『THE END』で「自分はこういう人間なんです」っていう私小説みたいなアルバムができて。そこでは、自分はこんなよどみがあるんですっていうのを出せた気がしていたんですけど、そこに向き合いすぎて、暗がりにいるのに飽きてしまったというか。病むのに飽きて、落ちるところまで落ちたから上がるしかなくて。その病むのに飽きたっていう感じを全身で出したいと思ったのが“Retire”ですね。
──制作はどうやって進んだの?
アイナ : これは、同世代に近い人達だけでレコーディングをするのが楽しかったんです。ドラムがオカモトレイジくんで、ギターがRiki Hidakaさん、ベースがYOGEE NEW WAVESの上野恒星さんだったんですけど、みんなで設計図を書くみたいに、楽器を演奏して組み立てていく作業が目の前で繰り広げられていることにすごいワクワクして。みなさんのパワーのおかげで、爆発的なエネルギーを持った曲になった気がします。
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──そして3曲目の“ロマンスの血”。これは映画『孤狼の血 LEVEL2』のインスパイアソングですが、どういう流れでできたの?
アイナ : 試写会で映画を観させていただいたんですけど、びっくりするぐらい怖くて。でも、人と人の情念がさらけ出されていることに気づいたんです。映画のなかで鈴木亮平さんが演じている上林が、本能のまま化け物みたいに荒れ狂うんですけど、私はそれがすごくいいなと思っちゃったんですよね。寂しい気持ちなのかわからないけど、とにかく暴れまくって。これって普通、人に出せない部分だなと。そこに私の誰にも見せられない化け物みたいなものと照らし合わせて書いたのがこの歌詞です。
──化け物っていうと?
アイナ : その化け物っていうのは、自分のなかの感性が固まってしまう瞬間ですね。以前、お風呂で「今日も上手く人と喋れなかった」とか「人を傷つけちゃった」って反省していたんですけど、反省しすぎると涙も出ないし固まっちゃって、お風呂から出れなくなっちゃったんですよ。だから最初の歌詞に「浴槽に 浸かり泳いでる」っていう歌詞を書いたんです。映画のなかで上林は人を殴ったり目玉を潰したりするけど、私はそこで固まってしまうみたいな。化け物はそれぞれ違うけど、きっと誰しも心に化け物が住んでて、化け物があるのを受け止めて、それでも生きなきゃ損じゃない? みたいな気持ちを描いた歌詞です。
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──コーラスで「ゾーンビ」みたいに聞こえるんですが、あれはなんと言っているんですか?
アイナ : あれは「ゾーッピー」って言ってるんですよ。飼っている犬のことを、あだ名でゾッピーって呼んでいるんです。本名は葉蔵(ようぞう)なんですけど(笑)。
──犬の名前なんだ(笑)。
アイナ : 最初は「フォーウィー」みたいに言っていたんですよ。だけど濁音系のコーラスじゃないと、映画『孤狼の血 LEVEL2』に敵わないと思って。「ザ、ジ、ズ、ゼ、ゾ」みたいな感じで言葉を探してたんですけど、これは「ゾッピー」以外考えられないってなって(笑)。
──編曲の亀田誠治さんとは、どういう話し合いをしたんですか。
アイナ : 亀田さんは昭和歌謡っぽいルパン三世のテーマみたいなのが浮かんだらしくて、映画『孤狼の血 LEVEL2』のインスパイアソングなら、そういう感じじゃない? みたいなのがふたりの共通意思としてあって完成しました。
──続いて、“ペチカの夜”。編曲の河野圭さんはアイナバンドのバンドマスターの人ですよね。
アイナ : 河野さんは天才だと思います。最後のストリングスの入れ方もすごい。河野さんは「向き合えば向き合うほど音楽はいい」ってずっと言ってらっしゃる方なので、心配になるぐらい向き合ってくれます。そこの熱量も天才ですね。
──曲はどうやって創っていったの?
アイナ : “ペチカの夜”はオカモトレイジくんからポーンとギターとドラムだけみたいなデモがきて。私はそのバンドサウンドにめちゃめちゃ惹かれて、ここにメロを乗せたら絶対に良い曲になるっていう確信があったんですよね。だから、それにメロを付けて、レイジくんと「ちゃんと曲にしようよ!」って話をして。それから、お世話になっている河野さんに編曲をお願いしたら、すばらしいアレンジをしてくださいました。
──“ペチカの夜”の歌詞は、どういうところから書いたの?
アイナ : これは友だちから聞いた「疲れていると、きれいな花もグレーに見える」っていう話が印象的で書いた歌詞ですね。私もそういう時期があったんですけど、なにを見てもグレーに見えるのに、星だけはきれいに見えるみたいなことがあって。あとは、息を吸うと鼻から冷たい空気が体に入って、温かくなって体から出てくるから、それでスッキリしたり。だから星がきれいに見えたり、空気が美味しいって感じるんだったらまだ大丈夫って思って、そういう方向で歌詞を書きはじめたかな。行き詰まっている人たちに向けて、ちょっとぐらい逃げてもいいよみたいな。逃げ方が分からないんだったら、早く寝よう、夢のなかに行こうみたいなそういう歌にしました。
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