ある意味“満月の夕”の続編
──他の収録曲についても訊かせてください。 “いのちの落書きで壁を包囲しよう”(M1)は、どういう背景で書かれた曲なんでしょうか?
この数年、親や親戚、たくさんの友人たちの訃報が続いてて。そうした人たちへの挽歌や追悼歌でもあるし、「命の祝い」として書いた曲やね。反レイシズム運動で、東京で頑張ってた男性と、大阪で頑張ってた、ニューエスト・モデルのころから途切れることなく俺のことを応援してくれてた女性の、そのふたりが亡くなったときに、やにわに曲を書きたくなった。他にも、昔の友人が自殺したりとか、しんどい訃報が続いてね。まあ、これが生きるっていうこと。先に星になってゆく奴らが、「生きる」とはどういうことかを教えてくれるわけや。だから最近は冗談半分、ライヴのMCで「もう、生きてることにしよう」って言うんよね。最近やったらウェイン・ショーターやティナ・ターナーが亡くなったやん? どうせ生きてても会わへんし、「もう、生きてることにしよう」って。スピリチュアル度ゼロ、超唯物論者の中川敬が「生きてることにしよう」とか言うわけや(笑)。挽歌という意味では、まず“半世紀の地図”(M8)を書いたんよね。亡くなったその2人には子供がいて、男性の方の娘に向けて書いたんやけど。シングル・ファーザーでね。高校生の娘がひとり残されて、親父が亡くなったあとにTwitterの管理を一時してたから、そのときにDMでお父さんはこんな人やったんよ、っていうようなやりとりを少しだけして。「残された子供」にエールを送るような曲を書きたいなと思ってね。それが“半世紀の地図”。“いのちの落書きで壁を包囲しよう”はその続編なんよね。
──その娘さんとはいまもやりとりをされてるんですか?
短期間のやりとりやったけど、知り合いが一周忌のときに「娘さんと中川さんの話をしましたよ」っていう報告は聞いた。頑張って生きていってほしいよね。
──“石畳の下には砂浜がある”(M3)はどのように?
90年代後半、寄せ場、ドヤ街でソウル・フラワー・モノノケ・サミットで演奏することが多くて、そのまま朝まで一緒に飲んだおっちゃんたちのことやったり。東京に出てきたときにいつも新宿で泊まるホテルがあるんやけど、近くにバイパスの下をくぐり抜ける地下道があって、そこにいつも寝転がってる、明らかに俺より若いホームレスの兄ちゃんのこととか。どうしても気になるから話しかけたり、飲み物とか食べ物とか買ってきて渡したりしてたんやけど、いつも返事もなにも返ってこなくて虚空を見てるだけでね。あと、甲州街道の幡ヶ谷のバス停で女性が襲われた事件があったでしょ。新宿から幡ヶ谷まで、彼女が毎日歩いた道を俺も歩いてみて。もちろん気持ちを推し量ることはできないけど、どんな気持ちでこの道を彼女が歩いてたんやろうなって考えてみたり。その辺りの心境がこの曲を生んだ。

──唯一のインスト曲である“夜汽車(インストゥルメンタル)”(M6)を入れたのには、どんな意図があったんでしょう?
インスト曲は毎回入れてるんやけど、この曲を書く前に、今回は10曲でいいかなと思ってたんよね。そんな中、アルバム制作の最後の段階で、奥野(真哉)が全曲聴いて、「いつもええインストあるやん、やっぱりインスト欲しいな」とか言われちゃって。もうアルバムのタイトルは決まってたから、録音作業の最後、2月半ば、ちょうどロシアのウクライナ侵攻から1年っていう時期に、「夜汽車」っていうテーマで、メロディが出てくるまでギターを触り続けて。で、曲を書き始めて楽器を全部録り終わるまで、3日間で一気に仕上げた。結果的にかなり気に入った曲になったね。
──“風待ちの港”(M10)こちらはどうでしょうか。
ニューエスト・モデルのころのように観念的な歌詞の曲を久しぶりに書いてみるのもいいかなと思ってね。後期ニューエスト・モデルのころ、ボブ・ディランが『Blonde on Blonde』のころに思いつく語彙を並べたらそれは詩になるんだみたいなことを言ってたのを面白がって、俺も“もっともそうな2人の沸点”みたいな曲を量産してた。これはその路線やね。いまみたいな社会って、運命論や唯心論、スピリチュアルが幅を利かすけど、そんなもんどこにもありまへん~っていう、いかにも中川敬っぽい曲(笑)。「運命なんかないで~、たまたまお前はそこにいるだけやで~」っていう具合の。
──そして最後の曲は“生きる”ですね。
これは、パッと書いた曲やけど大事な曲になった。ある意味“満月の夕”の続編やね。被災地神戸のことに意識を集中して書いた曲。1月17日前後って、スケジュールが許す限り、毎年子供を連れて神戸に行くことにしてて、いつも車で知り合いがいるところとかを回るんよ。ただ2022年は、誰にも会わないで、駐車場に車を停めて長田の街をひたすら子供とうろうろするだけにしようと。歩きながら、子供はもちろん大震災を知らないから、心の片隅に残ればいいなぐらいの気持ちで、ベラベラ当時のことを子供に喋るわけ。そんな中、寂しそうに虚空を見ながらゆっくりと歩く年寄りたちが目に付いてね。咄嗟に自分の頭の中で、震災で子供を亡くして自分が老いていってるというストーリーが降りてきた。自分はどんどん身体も老いていって節々痛いところだらけになって、本当は自分の子供のことを思い出して泣いたりしたいねんけど、具体的な記憶は薄くなってきてて、あのしんどさから離れられて楽にはなってきてはいるけど、でも、あの悲しさのなかにまだいたい、っていう、その心の振り幅を描きたいと思った。
──僕当時西宮で高校生だったんで、直撃だったんです。なのでこんな曲を創ってくれて嬉しいですし、“満月の夕”を歌い続けてくれて感謝しかないです。
“満月の夕”と、神戸の避難所で歌い始めた“アリラン”は、弾き語りでも、セットリストから絶対外さないようにしててね。あとの曲全部変わっても、この2曲だけは絶対に入れるようにしてる。俺にとっても大事な曲なんよね。
──最後にソロとしての今後の中川敬の活動はどうなっていきますか?
もちろん、いままで通り、しつこくやるよ(笑)。ライヴハウスから足が遠のいてる、忙しい日々を送ってる40~60代の音楽ファンが、この新作をきっかけに、また来やすくなるような後押しになればいいね。今年の年内は、週末はどこかしらでライヴをやってるので、みなさんライヴ会場で会いましょう!
『夜汽車を貫通するメロディヤ』の購入はこちら
編集、構成 : 高木理太
DISCOGRAPHY
中川敬ソロ
ソウル・フラワー・ユニオン関連作品
LIVE SCHEDULE
ニュー・アルバム発売記念ツアー 2023 ~ ソウルフラワー中川敬の弾き語りワンマン・ライヴ!
2023年7月8日(土)@大阪 梅田 ムジカジャポニカ
2023年7月15日(土)@福岡 福岡 public bar Bassic
2023年7月16日(日)@広島 広島 ヲルガン座
2023年7月22日(土)@東京 下北沢440
2023年7月29日(土)@京都 宮津市 レストランカフェ彩
2023年8月5日(土)@愛知 名古屋 得三
2023年8月12日(土)@兵庫 加古川 セシル
2023年8月18日(金)@東京 下北沢 LIVEHAUS
2023年8月19日(土)@静岡 浜松市 ビスケットタイム
2023年9月1日(金)@京都 京都 磔磔
うたのありか2023 〜 中川敬 ニュー・アルバム発売記念ツアー with リクオ
2023年8月25日(金)@香川 高松 Bar RUFFHOUSE
2023年8月26日(土)@広島 福山 BoomBoomBar
2023月8月27日(日)@山口 岩国 himaar
PROFILE
中川敬
ロック・バンド「ソウル・フラワー・ユニオン」のヴォーカル、ギター、三線。前身バンド「ニューエスト・モデル」に始まり、並行活動中の「ソウル・フラワー・モノノケ・サミット」や弾き語りソロなど、多岐にわたる活動で、作品やライヴを通じて多くの人々を魅了している。トラッド、ソウル、ジャズ、パンク、レゲエ、ラテン、民謡、チンドン、ロックンロールなど、あらゆる音楽を精力的に雑食・具現化する、これらのバンドの音楽性をまとめあげる才能をして、ソング・ライター、プロデューサーとしての評価も高い。
また、阪神淡路大震災の際、民謡や戦前流行歌などをレパートリーに、避難所、仮設住宅、復興住宅などで二百回を越える出前ライヴを行ない、2011年の東日本大震災においても、東北各地の避難所、仮設住宅などで三十回ほどライヴを行っている。「満月の夕(ゆうべ)」は、1995年2月、神戸の避難所で生まれた名曲である。東ティモール、パレスチナ難民キャンプ、フィリピン・スモーキーマウンテン等、世界のマージナルな場所でのライヴも敢行している。
2015年から本格的にアコースティック・ギターの弾き語りで全国ツアーを開始。2020年12月にソウル・フラワー・ユニオンのアルバム『ハビタブル・ゾーン』をリリース、2023年に第5弾ソロアルバム『夜汽車を貫通するメロディヤ』をリリースしている。
【HP】
https://breast.co.jp/soulflower/
【Twitter】
https://twitter.com/soulflowerunion