CDは、お守りみたいな意味合いとしては絶対残ると思う(虎岩)
森 : ちょっと突っ込んだ質問ではあるんですけど、メジャー・レコード会社とかそういう存在っていうのは、虎岩さんの考えとしてはもうなくなるべきだったり、それとも規模を縮小するべきなんでしょうか。
虎岩 : いやいや、逆だと思います。絶対に必須です。さらにでっかくなるべきです(笑)。そこを誤解されるんですけど、僕はメジャーの音楽が大好きだからこそずけずけと言うんです(笑)。元々インディーズは細分化されたファンの中に届けてたわけで、メジャーはそうじゃない重大な役割を担っているんですよ。音楽が社会の潤滑油であり続けるためにはメジャーって絶対必要なんです。要するに、いろんな人が知っている文化であったり、大きく物事を動かす仕組み、不特定多数の圧倒的な大勢に向かって音楽を届ける仕組みって絶対必要なんですよね。そうじゃないと本当に大事なメッセージとか、埋もれてしまうことがいっぱいあると思っていて。僕が一番危惧しているのはその機能を失っていませんか? っていうこと。最近PSYっていう韓国人のアーティストがYouTubeの再生記録を塗り替えた。韓国語で歌ってナンバーワンになったっていうのもあって、日本人が「日本語の曲は世界では売れない」って言い訳できなくなっちゃっいましたね(笑)。彼はフィジカルのCDを何枚売ったかっていうと、日本円で450万円分くらいしか売ってないんですよ。YouTubeの過去の再生記録を塗り替えている中で、CDってもう450万円分しか売れないんです。だけどグーグルの広告収入など、いろんな収入を含めると、800万ドルぐらいの収益を上げているんです。逆に言えば方法論は変わってもでっかく儲けると言う意味ではメジャーの立ち位置は何も変わっていないんです。新しい「でっかく広げてでっかく金儲けする仕組み」をこの15年くらいでまた確立しつつあるんです。日本のメジャーと日本以外との一番の違いは、“何をするか”じゃなくて“何をやめるか”っていうことを明確に持っていることだけです。
森 : CDなどのコンテンツを売るっていうことに固執するのではなく、メジャーも時代に合わせて根本から考えを変えていかなければいけないっていうことですよね。
虎岩 : だって売っているのは音楽じゃないですか。エジソンが出てくるまでは譜面ビジネスが音楽ビジネスの主流だったわけで。皆さんそれを忘れがちなんですけれど、レコーディングなんてここ100年くらいの技術で、その前はいわゆる音楽産業ビジネスの人達って譜面を書いていたんです。ライヴにツアーで来た後に、譜面を買って家で弾いていたと思うんです。それが当たり前だった時代からしてみれば、録音技術が出来てレコードっていうのが出てきたときのインパクトは、今のネットどころじゃないですよ。それでも変革していくわけです。常にミュージシャンがいて、その周りでそれを助けるというか、ミュージシャンの才能ありきでもって産業が生まれてくるって構造は変わってないです。変わんないし、ミュージシャンって本音は音楽だけやっていたいわけです。だから人を信用しすぎて気がついたら無一文になってたって話はいくらでもありますよね(笑)。でもミュージシャンってそういうナイーブさを持ってないと曲が書けなかったりするから… それは今も昔も変わらないと思うんです。ただ、メジャーがメジャーの役割をしてない、マスに音楽を届ける仕組みとしてCDがこのあと本当に続くと思っているのかと思う。CDの行方を決めるのはコンピュータの世界で一番力のある会社アップルです。現に最新のiMacってもうオプティカルディスクプレイヤーは搭載されていないんです。場所を制限する必要のないデスクトップからも省いてきたっていうのは、どうゆうメッセージだかわかりますよね? 今、アップルのモノマネじゃないコンピュータを作ってる会社があるかというとほとんどないですよ。つまりPCのデスクトップも、この後アップルの追従するしかないんです。そうすると次にコンピュータを買い替える時は、もう面倒くさくてCDを聴けないっていう状態になる。そうなるのに2年かからないでしょう。絶対間違いないです。僕ももうほとんどCDを聴かないですし。だから、CD聴いてくださいっていう人に対しては「悪いけど俺、聴かないよ。データで送ってね」って言っちゃうんですよ。だからといって、CDが完全になくなるとは思っていないですよ。例えば、コンサート会場でバンドが良かったなと思えば、僕はバンドにお金を払いたい。その時にはやっぱりCDが一番わかりやすい。目の前にあるから。そういう意味で、お守りみたいな意味合いとしては絶対残ると思います。
森 : 映画を見た時にパンフレットを買う的な感じでしょうか。
虎岩 : そう。僕もライヴに充分感動してCDを買う事多々ある。でもそれは聴かない事が多い(笑)。でもそれはそれでいいと思っていて。その3000円がバンドのガソリン代になることが分かっているから。これからはそういうお客さんの"どこにお金を払っている"っていう意識を育てて行く事が大事なことだと思います。気がついているやつはCDだろうがダウンロードだろうが「お前に音楽を続けて貰いたいから3000円払うんだ」って感じていると思うんです。
森 : なるほど。今現状、うちのようなレーベルもアーティストも実際の収入源=売り上げの9割くらいがCDになっているんです。僕も同じように、この先2~3年くらいがタイム・リミットだと捉えているところもあって、その間にどういったもので収益上げようかみたいなことを考えてはいるんですけど。
虎岩 : 小さいところの大変さって、そこですよね。メジャーもインディーズもやっぱりCDの売り上げで食ってるっていう現状は変わらなくて。なぜそんな状況かというと、レディオヘッドやナインインチネイルズがやってきたようなことを、やってないからダウンロードで出しても売れないんです。本当はダウンロードで出した方が、利益率もいいし、在庫を抱えるリスクもない。全部ウィン・ウィンだけど、その意識改革をお客さんを信用してやってこなかった。レディオヘッドがオープン・プライスで出したような現象をやってこなくて、しかもメジャーがそれを怠ってきたから社会現象になっていない。だから、やっぱりCDで出すしかない。でもいまこそその悪循環を止めるいいタイミングじゃないのかなと僕達は残響塾で話をしてますね。
森 : なるほど。
虎岩 : 僕はよく写真業界に例えるんですけど、ちょうどフィルムが終わってデジタル・カメラが実用化されて出てきた頃の写真雑誌って面白くて、こんなものは絶対に使えないって言ってる人達と、未来を見てる人達で二極化したんですよ。その頃、面白いと思っていた人達は今でもやっているけど、そうじゃない人達はみんな消えていきました。
森 : 確かに状況は音楽業界にも似ていますね。
虎岩 : 弟がカメラマンで、昔はカメラマンって楽だったって言うんですよね。写真だけ取っていればよかったから。今は写真撮る人で完パケまでやっちゃう人はいっぱいいて、フォトショップを使えないなんて考えられない。それが、たった10年のスパンで起こったんです。フィルムだけで撮ってた人はある日突然食えなくなったはずですよ。僕は間違いなく音楽でもそういうことが起こると思います。今、その事実関係をグレー・ゾーンにしてて、日本人は物が好きだから、音楽の中ではそんなことは起こらないって言っているのは、当時の写真業界と全く同じなんです。ある日突然、「CDプレイヤーないから聴けないよ」っていうティーンネージャーに対して、次はダウンロードって言ったって、それをいきなり受け入れてもらえるほど甘くないです。 それは歴史を見れば分かる事だとも思います。文明の歴史って利便性の歴史ですよね。馬車があったのに、車が出てきて車に切り替わったのは車の方が楽だからですよね。炊き火でしか灯りが取れなかったのが、ガスが出てきたりとか電気が点いたりっていうのは、火を起こすより全然楽だからで。その観点で言えばCDが主流じゃなくなるのは時間の問題。もちろん音楽の業界でいえば、それでもレコードだったり楽譜だったりはなくならずにある。でもそれはけして主流では無い。この間ベックが新譜を音源じゃなくて譜面だけで出したように、その流れに逆らうのはそれはそれでかっこいいと思います。流れに身を任せちゃうと馬鹿になっていく感じっていうか… 個人的には本当にアンチデジタル(笑)。でも一人の教育者として主観でそれを全体像のように伝えだしたら次の世代は食えなくなってしまう。CDはあと15年は持ちますって言う人がいたから、「根拠はなんですか? 」って言ったら、あと15年持ってくれないと困るんです、僕が引退するんでって言ったんです(笑)。「え、そこなの? 」みたいな(笑)。写真の業界に置き換えると、写真撮りたくてデジタルで撮ってるのに、上の人の達がフィルム焼けとか写真は紙で送れとかっていってたら、「やべーよ、ここ」みたいになるじゃないですか。それと全く同じことが起こってるわけで。だってもう既にスマホでCDは聴けないですよ(笑)。その世代の人達がそこについて来ないっていうのは当たり前ですよ。
森 : リスナーのためじゃなくレーベルのためっていうことになっちゃってるわけですね。
虎岩 : リスナーのためでもなければミュージシャンのためでもない。僕はミュージシャンがインディペンデントである意識を持つだけで「食える」やつらが増えると思っています。レコード会社のオーディションに通らず諦めちゃってる子達に別のアベニューを提案してあげることも大事でしょ。だって全然自分達で届けられるツールがあるわけですから。農家の方達が白菜を作っているのと何も変わらないわけで。そこに対して対価価値を下さいって自分で頭を下げれるかっていうことは一緒。そういう意味では原点回帰だと思うんです。農協やスーパーに頼るんじゃなく、テクノロジーのおかげで自分が作った白菜を買ってくれる人のところに直接売りにいくってことができるようになったってみたいに、ポジティブに捉えたい。
森 : なるほど。売り方の工夫次第ですよね。何を売るかに関してもそうですよね。例えば今の業界はインターネットをするのに、ダイヤル・アップをまだ残せよって言ってるのと全く変わらない状態ですよね。
虎岩 : そう、全く同じ。ダイアルアップの「ジジジ」ってくるこれに味があるから変えたくない、みたいな話をしているのと同じにしか僕は聞こえなくて(笑)。本人がそう思っていることに対して僕は否定しませんよ。さっき言ったけど、写真でじっくり時間をかけたり大好きで、休みの日は一切デジタル触りたくない。だけど僕が僕の主観でもってケータイ持つのやめたからっていうことで仕事できるかっていったらできないですよね。
森 : 例えばダイヤル・アップの良さをどうしても伝えたくて、それが使命だと思っていたらそこに時間をかけるのもいいんでしょうけど。そうじゃなく、もしインターネット文化そのものが好きだと言うなら、もっと別のところに時間をかけろということなんでしょうね。少なくともダイアル・アップを残すために他のものを排除しようとは思うなと。
虎岩 : 日本で音楽学校の校長をやっていた時は、全国に6校あった学校で、札幌から福岡まで統括のディレクターを2年くらいやっていて、全国地方回るんです。これでも僕らは比較的世の中の動きが分かっている環境で話していますけど、地方へ行くとみんな今までの仕組みを信じているわけです。いつかメジャー・デビューしたいってことを、若い子達はみんな僕に言ってくるわけです。僕はそれがいかに崩壊してるかっていうことを、2年くらい全国回ってうちの学校だけじゃなくてアップルのiTunesストアさんでもやらせてもらったし、いろんなところでしました。写真で例えればまさにフォトショップまで出来ることが大事だし、出来なくても、フォトショップってものを自分で使ってみて、「誰かと組もう」みたいな能動的なことが出来なければだめだっていう話をして。でも残念なことにこの時期に、メジャーの登竜門を通れなかった若い子達が、インディペンデント・アーティストとして自立出来る可能性を考えないまま、音楽のキャリアそのものを諦めてしまうケースを沢山見て来ました。
森 : それは不幸な話ですよね…。
虎岩 : さっきも言いましたが、僕はメジャー・レーベル自体を責めているんじゃなくて。あなたに僕の音楽に価値がないって言われる筋合いもないし、僕がAKBに価値がないって言う権利もない。だけどお互いが平行線でいても、お互いがリスペクトを持つことが大事だっていうことを言いたいんです。その話をする時に僕が必ず言うことがあって、シルク・ドゥ・ソレイユとも時々お仕事しているんですが、シルク・ドゥ・ソレイユは真逆のことやっていて。
森 : 真逆のこと?
虎岩 : シルクのオーディションを受ける人も当然多いから、沢山の人が落ちるんです。でも一人一人に素晴らしい手紙を送るんです。あれだけの団体が「たかだか私たちの団体に通らなかったからっていって才能がないってわけじゃないんですよ」って手紙を一人ずつ名前を書いて送るんです。だから諦めないですよみんな。諦めないし、それを逆に励みにできる。あのシルク・ドゥ・ソレイユが、落ちたけども絶対にやめるなって言ってくれたって。まさにこれが「メジャー」の役割でしょう。若い子たちが音楽をやる機会が減っていく中、音楽をキャリアにするって事を真剣に考える人達が減っていけば最終的には自分達が食えなくなるだけですよね。
森 : おっしゃる通りですね。
虎岩 : 少なくとも僕が音楽だけで食ってた時期は大変だったから、音楽だけで食べてる人達をすごいリスペクトしていて。僕はアメリカで数年間食ってましたけど、比較的人生の中では短い方だと思います。だからこそ音楽だけをやろうとしているやつには嘘つけないです。なぜかっていうと僕らは彼らに食わしてもらっているわけだから。その人達が最善の方法で、ベストな方法で自分のやりたいことを長い間やっていけるための環境作りをしていくのが僕らの仕事だと思うんです。さっきの白菜の例に例えると、白菜が美味しいから白菜を買ったっていうのもあるかもしれないけど、中にはこんなに美味しい白菜を来年も食べたいからお金を払うっていうころもあると思うんです。“ものを作ることに対しての情熱”みたいなものに対してこっちは共感するわけで。音楽って分かりやすいじゃないですか。このアーティストのバイトの時間が増えて、曲書く時間が減っちゃったら、つまんねえよなって思ってくれれば違うと思うんです。