銀杏BOYZのニュー・シングルは、『ピンクローター』!!!

原稿がすすまなくなったので、夜食を買いに傘をさしてコンビニへ向かった。屋根のあるガレージで女の子2人が、毛布にくるまって楽しそうに喋っている。彼女達の周りには、食べ終えたカップ・ラーメンの入れ物が落ちている。小田急沿線、参宮橋駅から歩いて5分のところ。深夜2時である。こんな現実とずれてしまった光景を歌いきるのが、峯田和伸という男。

銀杏BOYZが、名曲「ボーイズ・オン・ザ・ラン」に引き続き、5ヶ月ぶりに、舞台『裏切りの街』の主題歌「ピンクローター」を発売した。にしても、なんて題材。しかも、「ボーイズ・オン・ザ・ラン」とは一転して、ロー・ビートで「ピンクローター〜」と歌い上げる。

Tバック 東京砂漠
コンドーム 子供うむ?
女のオナニー そんなにおかしい?
月にはクレーター ピンクローター

こんな歌詞を歌ってもまったく嫌らしく感じないのは、切なさと飢えが入り交じった峯田の声のせい。彼は、いったいどれほどの錘を抱えているのだろうか。歌う一つ一つの言葉が、重い。その言葉に、バンドは呼応する。ゆっくりと、ゆっくりと…。村井守のドラムのタイム感が、峯田と呼応してさらに楽曲をせつなく聴かす。

同タイミングで、解散から7年たったゴーイング・ステディの楽曲の配信が開始されることになった。ゴーイング・ステディの頃に比べて、声は渋く太く大人びたけれど、彼自身は少しはラクになったのだろうか? スターであるが故に課せられる沢山の人間のエネルギーを、大人になった彼は、優しく歌うことでなんとか外へ吐き出す。その不器用な姿が、昔と変わらず彼を好きな理由だ。参宮橋のガレージに座っていた女の子2人に、この歌が届くように願う。(JJ(Limited Express (has gone?))

そして、ゴーイング・ステディの音源が、待望の配信リリース!

一瞬の夢か幻か… text by 西澤裕郎

90年代終わりから00年代半ばにかけて、全国のライヴ・ハウスで楽器をかき鳴らし歌っていた無名の若者たちが、またたくまに名声を獲得していった。<青春パンク>とか<日本語パンク>などと呼ばれた、今では信じられないくらい大きなブームが日本を駆け巡り、雨後の筍のように毎日沢山のバンドが生まれていった。ガガガSP、175Rやスタンス・パンクスなど名前を挙げればキリがないが、その中でも象徴的なバンドといえば、モンゴル800とゴーイング・ステディだろう。百花繚乱とも思われた多くのバンドの中で、この2つのバンドは他とは違った活動スタイルで、唯一無二のバンドとしての立ち位置を確立した。モンゴル800は、インディーズに基盤を置きながらメディアにほとんど顔を出す事なく、口コミやライヴなどを中心にDIYの精神で200万枚という膨大な枚数のアルバムを売った。それに対してゴーイング・ステディは、<青春パンク>というシーンの最前線を背負うような形でカリスマ性を得ていった。

<青春パンク>と呼ばれるシーンを語る前に、振り返っておきたいことがある。ハイ・スタンダードを中心に盛り上がりを見せたインディ・パンク・ムーブメントである。1991年に結成されたハイ・スタンダードは、グリーン・デイやオフ・スプリングらとツアーを回ったりしながら実績を積み重ね、インディーズ・バンドながらアルバムをオリコン・チャートの上位にランク・インさせる。ハードコアの演奏スタイルでメロディックなサウンドを奏でたことから<メロコア>などと呼ばれたように、BPMの早い演奏に英語の歌詞が乗るスタイルは、海外における同シーンのバンドにもひけを取らなかった。グランジ特有の湿った空気感もなければ、ミクスチャーのように情報過多でもなく、ストレートで衝動的な楽曲は日本全国のキッズたちを熱狂させた。その象徴がAIR JAMというハイ・スタンダード主催のフェスに繋がり、年を重ねる毎に大きな集客を記録した。今見ても、インディ・バンドばかりが集まった野外フェスに3万人が集ったという映像は、血が騒ぐものがある。AIR JAMにも出演したブラフマンやハスキング・ビーなど、どこか尖っていながら耳に残りやすいサウンドは、スケート・ボードやファッションとも結びつきながら、インディーズが単なるメジャーの2軍ではないということを身を以て示したのである。


その盛り上がりの最中である1999年にアルバム『BOYS & GIRLS』を発表したゴーイング・ステディ。メンバーは、峯田和伸(ボーカル、ギター)、浅井威雄(ギター)、安孫子真哉(ベース)、村井守(ドラム)の4人組。山形出身の峯田が上京して知り合った浅井と共にバンドを結成し活動を開始する。<どうして僕は生まれたの>と叫ぶ「Don't trust over 30」から始まる同アルバムは、前のめりで初期衝動に動かされた若いエネルギーで満ちている。とはいうものの、最初はメロコアを踏襲したストレートなパンク・サウンドのひとつに過ぎなかった。確かにキャッチーで一度聴けば耳に残るメロディ・センスは垣間見えるが、楽器初心者ということが明らかに分かる演奏に目新しさはないし、同等のバンドは他にも沢山いたわけである。

そんな彼らが世間に名前を知らしめ、上の世代とは違った独自のアイデンティティを確立したアルバムが、2001年7月にリリースされた2nd『さくらの唄』である。安達哲の漫画からタイトルを拝借した同アルバムにおける一番の変化は、全ての歌詞が日本語で歌われていることだ。更に言えば文学的で難解な歌詞すらそこにはない。誰にでも伝わるストレートな言葉で、自身の青春を切り取った詞は多くの若いリスナーから支持を集め、徐々に熱を帯びていく。<夢の中で僕ら手をつないで飛んでいた/目が覚めて僕は泣いた>と歌う「BABY BABY」などは典型的な歌詞で、ここから女性のファンも増えていった。サウンドもシンセサイザーを使用したり、エフェクトを駆使したりすることで音が厚くなり、格段にバンドとしてのポテンシャルは上がった。2002年にはグリーンデイのJAPANツアーにモンゴル800と参加。2002年6月に発売したシングル「童貞ソー・ヤング」はインディーズながらオリコン3位を記録する。そして勢いそのままにRISING SUN ROCK FESTIVAL 2002 in EZO、FUJI ROCK FESTIVAL'02への出演も果たす。

事実だけ取り出して書き出してみると順風満帆に見える彼らの活動であるが、当時の記憶を掘り起こしてみると「童貞ソー・ヤング」が売れた直前くらいから峯田の様子に変化が見え始めている。髪の毛をアフロにしてジャケットを羽織りはじめ、表情もパンク青年というよりも文系大学生といった感じに変化していく。そして歌詞も童貞を全面に押し出した同曲だったり、女性に対するコンプレックスや羨望を剥き出しにしたものなどが目につくようになる。歌い方も言葉を吐き出すというよりも、空気を湿らせるような歌い方に変化していった。その変化は、からからの気候が一夜にしてジメジメした雨期に変化していくようであり、一気に膨れ上がったバンドのイメージを自ら壊そうとするようにも見えた。ライヴでは客につばや暴言を吐くなど、不安定な光景も垣間見えたことも覚えている。それでも、急速に増えていったファンたちは、峯田の立ち振る舞いが攻撃的であろうとも、更なる熱狂を持って受け入れ、峯田がもがけばもがくほど熱は上がっていった。

2002年12月には何の予告もなしに突然シングル「若者たち/夜王子と月の姫」をリリース。完全ノン・プロモーションにも関わらずオリコン初登場5位を記録する。そしてこの約1ヶ月後、突如ゴーイング・ステディは解散を発表する。これは言葉通り突然の知らせだった。全国ツアーが直前に控えており、そのチケットは多くの会場でSOLD OUTしていたのだ。この出来事は当時ゴーイング・ステディひいては<青春パンク>に熱を上げたリスナーにとって、非常に困惑する出来事であった。なぜなら、ゴーイング・ステディなきシーンには、彼らを追って出てきたようなモノマネ・バンドばかりしか残っていなかったのである。モンゴル800は、DIYを貫きメディアに露出しないという独自のスタンスを貫いていたため、ゴーイング・ステディの解散と共に<青春パンク>という土壌は一気に収縮していった。もちろん残っていったバンドもいるが、そのほとんどは今では耳にすることも少なくなってしまった。盛り上がりがあっという間だったように、終焉もあっという間の出来事だった。

どんな理由であれ峯田和伸は自らの手でゴーイング・ステディを解散させることで、肥大化しすぎたシーンを終結させた。しかし、その後遺症はしばらく続くことになる。それは峯田が新しく始めた銀杏BOYZのアルバム2枚にゴーイング・ステディ時代の曲が多く収められていることや、シングル曲こそあれ銀杏BOYZの新しいアルバムが完成していないことからも明らかだ。<青春パンク>というブームの真ん中で支持されたゴーイング・ステディ。インディーズという枠を飛び越えて大きくなりすぎたある意味不健全とも言える流れを終結させ、自分たちの新しいバンド銀杏BOYZでその尻拭いをしようとしたのなら、今もその決着はついていないのだろう。それくらいゴーイング・ステディとは時代と共に生き、10代や20代の若者たちに必要とされていたバンドだった。そして彼らは真っ正面から時代に向かいあったため、今なおもがいている。そう、ハイ・スタンダードが未だにバンドを復帰していないように、ゴーイング・ステディもあの時のまま時間が止まってしまったままだ。

解散を発表してからゴーイング・ステディは1枚のシングルを発売している。タイトルは「青春時代」。<僕は何かやらかしてみたい/そんなひとときを青春時代と呼ぶのだろう>。峯田和伸は銀杏BOYZというバンドを始めたが、同時並行する別の世界があるとすれば、きっとまだゴーイング・ステディというバンドで青春時代を駆け抜けているのだろう。しかし、峯田も我々も銀杏BOYZとしての道を選んだ世界に生きている。その2つの世界一すなわちゴーイング・ステディ銀杏BOYZを結びつけるかどうかを知っているのは、まだ見ぬ銀杏BOYZの2ndアルバムだけである。

銀杏BOYZ PROFILE

2003年1月、ゴーイング・ステディを突然解散させた峯田和伸(ヴォーカル/ギター)が、当初ソロ名義の「銀杏BOYZ」として活動。のちに同じくゴーイング・ステディの安孫子真哉(ベース)、村井守(ドラム)と、新メンバーのチン中村(ギター)を加え、2003年5月から本格的に活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時発売し、続くツアーやフェス出演では骨折、延期、逮捕など多くの事件を巻き起こす。2007年にはメンバー自ら編集に参加したDVD「僕たちは世界を変えることができない」、シングル「あいどんわなだい」「光」を発売。2008年にシングル「17才」を発売。ヴォーカル峯田は「アイデン&ティティ」「色即ぜねれいしょん」」「ボーイズ・オン・ザ・ラン」など映画出演も多数。

official website : http://www.hatsukoi.biz

GOING STEADY PROFILE

GOING STEADY(ゴーイング・ステディ)は、日本の4人組パンク・ロック・バンド。1996年に母体を結成。パンクを主体としたサウンドと強烈であり時には青春時代を切なく描いた歌詞で人気を博した。レーベルは当初UKプロジェクト傘下のLibra records、2002年12月からはUKプロジェクト傘下に設立した自身のレーベル「初恋妄℃学園」(はつこいモードがくえん)に所属。2003年1月15日、全国ツアー ・スタート直前に突然解散を発表した。現在はメンバーのうち3人が銀杏BOYZとして活動しており、初恋妄℃学園も銀杏BOYZに引き継がれている。バンド名はメンバーがリスペクトするパンク・バンド、バズコックスのベスト盤『SINGLES GOING STEADY』に由来。

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レヴュー

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筆者について
西澤 裕郎 (西澤 裕郎)

1982 年生まれ。ファンジン『StoryWriter』編集長。http://storywriter-magazine.com/

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