録音することもミックスすることも、演奏の一部
——音源を作ることとライヴをすることでは、どのような意識の違いがありますか?
Y : ライヴは、朝起きて気が向いた楽器をその場のベストを尽くして演奏するっていうのが一番いいと思っているんです。レコーディングに関しては、物心がついたときには録音物とそれを再生する機器があったわけじゃないですか。最近、蓄音機でSPをよく聴くんですけど、それ以前は録音物を聴く民生機ってなかったでしょ?
——はい。
Y : 高1の頃、ターン・テーブルとカセットのダブル・デッキと、ラジオとスピーカーがワンセットになっているステレオが通販でスゴく安く売ってて、親に買ってもらったんです。そこにカラオケ・マイク・インがあって、カセット・テープで自分のベースを録音で出来て。「うおー! 」みたいになって、録音したテープを回しながら、もう一つのデッキに別のカセット・テープを入れてダビングしながら回すと、オーバー・ダビングも出来たんですよ。だから、1発録音しかダメだけど、いくらでもマルチなレコーディングが出来たんです。
——たしかにデジタルにはない、アナログならではの工夫ができますよね。
Y : テープって、録音して切って貼って再生出来て、これも演奏の一部だと思っています。録音することも演奏の一部。ミックスすることもそうだし、たとえば今ここでこっそり会話を録音していたとしても、それを含めて僕は「演奏」って言っちゃうところがあります。詞を書いているときも演奏なんですよ。うまく言えないですけどね。録音とか演奏って、みんなが日常の中でやることではないのかもしれないですけど、特別なものでもないんですよ。絵でも、毎日ずっと描いている方っているじゃないですか。その気持ちわかるんです。訊いてみると、その人はずっと絵を書き続けていたい、って言うんです。
——作品が出来上がること以上に、描いていること自体が楽しいということですか?
Y : そうじゃないかなと思うんですけどね。僕も作品が出来上がる事は嬉しいですけど、つくっている最中が一番自分が喜んでいる気がします。
——それは、ライヴで即興演奏をするみたいな部分に繋がっていくのかもしれないですね。
Y : それは間違いないことなんですけど、例えばローリング・ストーンズが「サティスファクション」を2回演奏したとして、まったく同じ演奏は2回出来ないでしょ?
——確かに、同じ曲でも違ったものですね。
Y : で、録音してしまうと、それは絶対同じものですよね。でも、すごくいいスピーカーで、めっちゃくっちゃいい音で聴けることもあれば、コンピュータに付いている小さなスピーカーだとベースなんかいないも同然みたいになっちゃうこともあるでしょ。低音がまったく聴こえない状態と、低音がくっきり聴こえる状態で聴いたら、いわゆるミュージシャンとかマニアじゃない人が聴いても違うものに聴こえると思うんですよ。だから実は録音されたものでも違う。 あと、さっきも言ったけど、「フォッカの丘」は、電話で話しているときに歌詞もメロディ・ラインも出来ちゃったわけで、それも即興じゃないですか。
今回の制作は、前向きに考えることの連発だったんです
——これまでのお話で、YAMP KOLTさんの中で曲が出来る過程はいくつかわかったのですけど、それを演奏陣にはどのように伝えるのでしょう?
Y : 毎回同じようにやっているわけじゃなくて、1曲1曲違うやり方でやりたいんです。「フォッカの丘」を一つの例にしていうと、ピカが歌った後でサックス奏者の後関くんに「サックス以外なんか吹ける?」って訊いたら、フルートも吹けるって言うから、一回ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムの入ったトラックをスタジオで聴いてもらって、テンポは大体分かったでしょ、って言って、コード譜のみを見てもらってトラックを聴かせないで吹くようにお願いしました。後関くんは「スパルタだ」とか言うんですけど(笑)。あとでフルートとトラックをまぜて一緒に聴いたらバッチリで。念力奏法ですよ(笑)。もちろん、それを毎回やっているわけじゃないですよ。スコアを書く時もあります。
——演奏陣も友達だったり知り合いの人が多いんですね。人選はどのようにするんですか?
Y : この曲の演奏家はこの人、というのはすぐに思い浮かぶんです。友達の場合は直接頼みますけど、そうじゃない場合は友達の友達で、訊いてもらって、って感じです。
——今回のイラストは、内容を一発で表現するような力強さを持っていますが、イラストを書かれた青木さんについて教えてもらえますか。
Y : 青木京太郎(KYOTARO)っていう有名な画家の女の子で、彼女の絵が好きだったんです。いつかジャケをとは思っていたんですけど、ジャケットって内容とハマらないとズバッといけないじゃないですか。今回、歌詞を全部並べてみたら、各曲に象徴的な動物が必ず出てくるんです。で、動物っていったら京太郎なんですよ。これは間違いない。しかも女性シンガーのフェミニン感があるので。すごくしっかり歌詞を読んでくれて、わからないところは質問してくれました。最初はすごいカワイコちゃんを描いて、ほんとに可愛いかったんだけど、もっと芯があって、意思が強い人がいいなって言ったら、彼女はその微妙な違いを絵に描けるんですよ。(ジャケットの絵を見ながら)可愛いけどすごく強いでしょ。過去作品でもそうですが、ジャケに関しては自分の中でハードルをあげてしまうので、今回もこうやっていいジャケが出来てよかったなと思っています。
——不思議なのは、8人も個性のあるシンガーがいるのに、アルバムとして聴いても何の違和感もないんですよね。彼女たちの共通点みたいなものがあるとしたら、何だと思いますか?
Y : う~ん。わからないですね。でも、アルバムを聴いているとばっちりですよね。オムニバス感もないし。ただ、声とかの好みはすっごく細かいんですよ、説明するのは難しいけど。ジャケの通り、可愛くて強い、かもしれません。
——あと、アルバムタイトル「yes」には、どのような思いが込められているのでしょう?
Y : 今回の制作のことで考えてみたら、前向きに考えるってことの連発だったんです。例えば、自分が知らない間に書いていた詞が、太陽が好きだったら付き合っちゃうって女の子の歌詞で。近づいたら一瞬で溶けちゃうから付き合えないわけでしょ? でも付き合っているし、何らかの彼女のやり方でうまいことやっているんだよね。俺にもどうやっているかわかんないけど(笑)。そういう事を「ポジティヴ」でも「前向き」でも「ハイ」でも良かったんだけど、『イエス』が一番ピンと来たんです。
——深読みしてイエス・キリストのイエスかなあとか色々考えてしまったんですけど、そういう一貫したポジティヴさを表していたんですね。
Y : 10曲もあるけど全てに自分なりの新鮮さがあって、似た曲も無いんだけど一貫してyesって歌っている。それは客観的にも唯一言えますね。
——今回のアルバムはオムニバスのような企画ではなくて、これからも色々なシンガーさんに歌ってもらったりしてやっていかれるんですか?
Y : そうですね。5曲くらい『yes』のアウト・テイクがあるんですけど、それは決してボツ曲じゃなくて、新しい曲も作りながら、いろんなミュージシャンと一緒に続けてやっていきたいですね。あと、4月20日に渋谷WWWで「yes」のレコ発をやろうと思っていて、ヴォーカリストの人たちにも来てもらって、ライヴをします。1人1曲で終わっちゃうのももったいないから、ライヴ用に新しい曲を作って1人2曲ぐらい歌ってもらおうと思っているので、ぜひ聴きに来てくれたら、と思います。
Information
YAMP KOLT "yes" release party
- 日時 : 2011/04/20(水)
- 場所 : 渋谷WWW
- 時間 : OPEN : 19:00 / START : 20:00
- チケット : adv ¥3,500 / door ¥4,000(共にドリンク別)
- 出演 : YAMP KOLT(gui) / UA / ACO / 一十三十一 / リクルマイ / ピカ / さや / 芳垣安洋 (drs.) / 鈴木正人 (ba.) / 細海魚 (keys.) / ギデオン ジュークス (tuba) / 青木タイセイ (tb.) / 後関好宏 (sax)
- ゲスト : スガダイロー (piano) / ユザーン (tabla) / 池田絢子 (bol)
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