INTERVIEW : 渡辺淳之介 × 松隈ケンタ
『KiLLER BiSH』を初めて聴いた時、名盤だと確信した。なんて音楽的なアルバムなんだと思った。だからプロデューサーの渡辺淳之介、そしてサウンド・プロデューサーの松隈ケンタが目指した世界をインタヴューで訊いてみたいと思った。多くのサウンドをモチーフとし、多くのミュージシャンを巻き込みながら、作品を創り続けることを語った本インタヴューから、何故、BiSHが売れているのかが見えてくる。やっぱり曲が良いんだよ。
インタヴュー : 飯田仁一郎
文 : 井上沙織
写真 : 外林健太
メジャー・デビュー・アルバムのハイレゾ版を配信スタート
BiSH / KiLLER BiSH(24bit/48kHz)
【配信価格】
WAV / ALAC / FLAC / AAC : 単曲 540円 / まとめ購入 3,000円
【Track List】
1. DEADMAN(2nd)
2. ファーストキッチンライフ
3. オーケストラ
4. Stairway to me
5. IDOL is SHiT
6. 本当本気
7. KNAVE
8. Am I FRENZY??
9. My distinction
10. summertime
11. Hey gate
12. Throw away
13. 生きててよかったというのなら
※アルバムをまとめ購入いただくと、デジタル・ブックレットが特典としてつきます。
1番頑張ってるから頑張ろうって言葉が出てこないのかもしれない
ーー今作は死生観を感じる非常にコンセプチュアルなアルバムだと思いました。どんな状況で制作していたのでしょう。
レーベル avex trax 発売日 2016/10/05
01. 02. 03. 04. 05. 06. 07. 08. 09. 10. 11. 12. 13.
※ 曲番をクリックすると試聴できます。
淳之介 : 俺の気持ちがどんどん暗くなってったんですよね。考えを突き詰めていくと生きるか死ぬかみたいなところに行き着くじゃないですか。それとメンバーが書いてた歌詞がそういう方向だったのもあって。
松隈 : 暗いというか重いというか。
淳之介 : BiSHは根暗なんですよ。基本的に人生をポジティヴに生きてない。
ーーあんなに順風満帆なのに?
淳之介 : はい。逆にGANG PARADEのほうがポジティヴです。
一同 : (笑)。
淳之介 : 歌詞もそうなんですけど「頑張ろう」が出てこないんですよ。
松隈 : 確かにね。
淳之介 : 「今こんな状態だけど私たちこれから変わってみせるから!」って感じではないです。どっちかっていうと投げっぱなしが多いですよね。ある種の諦観というか。「殺してくれ」「気が狂いそう」「みんなが僕を馬鹿にする」とか言ってますから。
松隈 : 新メンバーでさえ暗い(笑)。
一同 : (笑)。
淳之介 : それこそ新しいBiSとかGANG PARADEとかのほうが明るい。BiSHが1番頑張ってるのかもしれないですね。1番頑張ってるから頑張ろうって言葉が出てこないのかもしれない。今回アルバムを作っててそんな気がしました。歌詞を見ても、もう辛いんですよ。
ーー1番うまくいってるように見えますよ。
淳之介 : うまくいってるって言われるのも辛いんだと思う。それに合わせなきゃいけないじゃないですか。僕も辛いですもん。
一同 : (笑)。
ーー淳之介さんは何が辛いんですか?
淳之介 : 次に何をするか期待されること。それは松隈さんも一緒だと思うんですけど。
松隈 : そうだね。
凶悪でヒステリックなサウンドにしたいと考えてました
ーー今回はお2人が作詞した曲が多く収録されてますよね。淳之介さんっていつもここまで作詞に関わってましたっけ?
淳之介 : いや、もっとメンバーに分けてました。今回は結構奪い取っちゃいましたね。リード曲の「オーケストラ」もそうですし「生きててよかったというのなら」や「Stairway to me」も。
ーーBiSの時から考えてもこんなに関わってたことないですよね?
淳之介 : ないです。
松隈 : アルバム作るときって大体それまでに出たシングルや推し曲を決めて作っていくんですけど、今回既存曲は「DEADMAN」だけで、他の曲も「DEADMAN」と同じ時期にできていたんです。ファースト・シングル候補として「オーケストラ」「ファーストキッチンライフ」「Hey gate」とか5〜6曲作り貯めてあって。
淳之介 : 初めてちゃんとエイベックスのプロデューサーの言うことを聞いて、曲をいっぱい作りました。
松隈 : これまでは常に作って出していたんですけど、今回は同時期に集中して作ったのでコンセプシャルな感じがするのかもしれないですね。
淳之介 : 楽曲自体がヒリヒリしてたんですよね。曲が殺しにかかる感じ。だから歌詞でも人間の根源的な部分が噴出したのかなと思います。あとは最近のシンガー・ソングライターよりはいい歌詞を書けるところを見せたかった。
ーーそれはメンバーが? 淳之介さんが?
淳之介 : メンバーも僕も。LINEとか既読スルーとかそういう単語を使わなくてもちゃんと書けるんだぞっていうところをね。僕は基本的にそういう単語は禁止にしてます。LINEが何なのか、分からなくなるかもしれないじゃないですか。
松隈 : 時代が変わってね。
淳之介 : 「写真」だったらいいけど「写メ」はわからないかもしれないからダメ。古くならないものにしたいっていうのはBiSのときから常に頭にあります。
ーーさっきおっしゃってた「曲が殺しにかかる」というのはどういうことなんでしょうか。
松隈 : 音に関しては、凶悪でヒステリックなサウンドにしたいと考えてました。メジャーから出すこのタイミングでもっと広めたいってことに加えて、どこまでヒリヒリしたものがいけるのか、ギリギリのラインのものを作りたかった。昔、椎名林檎さんのファーストアルバムを聴いたときに驚いたんですよね。ヒリヒリしてるのに大衆に受け入れられて。あの衝撃を知ってる人にも知らない人にも聴いてほしいなと思って「DEADMAN」を作ったんですけど、ちょっとやりすぎたな。
淳之介 : 「DEADMAN」は失敗しましたね(笑)。
一同 : (笑)。
淳之介 : 僕、別のプロジェクトの流れで、めちゃめちゃCoccoと椎名林檎さんを聴いてたんです。やっぱりあの2人のソングライティング、メロディーもそうなんですけど、歌詞がすごくて。これが受け入れられてたんだったら大丈夫だろって思いもあったんですよ。ぬるい方がいいのかもしれないけど、感情を揺さぶられないといけないだろうと。
松隈 : 音に関してもまったく同じですね。このくらいいけるだろっていうギリギリまでいってみたい。
ーーBiSHでギリギリを狙いたいのはなんでなんですか?
淳之介 : 松隈さんがどうかはわからないですけど、単純に僕は、今までで1番大衆に近づいて聴かせられるタイミングが来たので、せっかく聴いてもらえるならすげえの聴かせたいなって。とはいえお客さんが増えるように作ってるつもりですけどね。「オーケストラ」なんかもうBUMP OF CHICKENをずっと聴きながら歌詞を書きましたもん。
いつもどこに刺さるかとかはあんまり考えてないです
ーーPVにもその影響を感じますよ(笑)。あと、お2人の楽曲はオマージュがあるよなって思います。「IDOL is SHiT」なんかは完全にBiSじゃないですか。
松隈 : BiSのメロディですね(笑)。
淳之介 : これはルカさんの趣味です(笑)。詩は好きに書いてくれって話だったので、「IDOL」の作詞をしているのと一緒の作詞家を使ったら「IDOL」の歌詞を入れてきた。
松隈 : アレンジは僕らがやったんですけど、「IDOL」っぽくして。
淳之介 : 同じチームだからこそできた曲ですよね。パラレルワールドな感じで。
ーー「KNAVE」の最初の部分って何のオマージュですか?あれ気になって仕方ないんですよ。
松隈 : あれはセシールのCMですね。
ーーセシール!?
松隈 : 昔そういうCMがあったなと思って、イントロにフランス語っぽい言葉日本語で入れてたんです。どうせボツになるだろうって適当に入れてたら、歌録りのときの歌詞カードに書いてあって。試しにハシヤスメにフランス語っぽく歌ってみてって言ったら韓国語っぽくなるという新たなケミストリーが生まれた(笑)。俺らでさえこれ大丈夫かなって思ってましたけど、結果OKでした。
淳之介 : あとは「Stairway to me」がLed Zeppelinです。
ーーそのままじゃないですか(笑)。
松隈 : モロですね(笑)。
淳之介 : せっかくアルバムだから、若い子にこんな曲を作ってもいいんだなって思ってほしくて。「あのギターのソロってどうやって弾くんだろう」とか「あのオルガンかっこいいな」とか、何かカッコいいなって思ってもらえればいい。あのへたくそなオルガンめっちゃいいっすよね。
松隈 : あれヤバいでしょ? 本当はもっと上手かったのをちぎって下手にしたもん(笑)。あとギターソロはうちのスクランブルズの8人でメドレーしてるんです。ちょっと右から弾いた奴のあとに左から弾いた奴がいたりする。
ーーそれはわからなかった。
松隈 : よく聴かないとわかんないと思います。あとMr.BIGはドリルにピックをつけて高速で37連符を弾くっていう話を聞いて、ドリルを買って弾いてみたらなかなかいい感じになったんで、途中ドリルソロも入ってます。そういう見えない遊びをいっぱい入れてますね。
ーーBiSHは音の方向性もだいぶロック、パンクに寄ってきましたよね。それはいつ頃からですか?
淳之介 : 「ALL YOU NEED IS LOVE」を作ったときですかね。そこから構想が広がっていって、こういうのいいかもねって話になって。「ALL YOU NEED IS LOVE」は最初評判悪かったんですけど。
ーー今作の90年代の感じが今の若い子たちにとってはとても新鮮なのかなと思います。
松隈 : 僕はいつもどこに刺さるかとかはあんまり考えてないです。僕と渡辺くんがかっこいいと思う音楽を、今風を混ぜながらやると面白いんじゃないかな? っていうほうが強いので。それを多分渡辺くんがうまいことやってくれてるんだと思う。特に今作は、今までで1番考えてないかも。バーッと作ったら勢いよく作れて。今回珍しくストックまでできてますからね。
淳之介 : ちなみにリアル脱出ゲームの「ヒーローワナビー」は外れちゃいました。
松隈 : あれもちゃんとアルバム向けに歌を録り直して、全部完パケしてから選んだんですよ。
ーー「ヒーローワナビー」はシングル曲になってもいいくらいの名曲ですよね。そこまで録りきったのにどうして選外に?
淳之介 : 新しいものを入れたくなっちゃうんですよね。結構ライヴでやってて皆盛り上がるようになってきたし、まあアルバムに入れなくてもいいかなって。
>>【2/2】渡辺淳之介 × 松隈ケンタ「これは渡辺帝国の始まりかもしれないですよ」