INTERVIEW 2 : ヒダカトオル(THE STARBEMS)
ヒダカトオル(THE STARBEMS)
サラリーマンという身分を隠しながらBEAT CRUSADERS(ビート・クルセイダーズ)としてPOPやPUNKの可能性を広げつつ、現在は震災をきっかけによりハードコアな表現を目指すTHE STARBEMS(ザ・スターベムズ)として活動するミュージシャン。プロデュースのみならずDJ、音楽番組MC、音楽コラム執筆などもこなす偏執的ミュージック・ラヴァー。
──ヒダカさんはもともと音楽業界で社員として働きながら、バンドをやっていたんですよね。
そうです、学生のころからPESELA-QUESELA-INっていうバンドをやっていて、自分たちでCDを作ったりしていたんですよね。そのバンドをやりながら、CD卸問屋や、インディーズ・レーベルLD&Kで働いていたので、CDを流通させる仕組みは理解していたんですよ。ちょうど90年代の中盤〜後半ぐらいかな。そういう働きかたをしながら、HUSKING BEEとかBRAHMAN、TROPICAL GORILLAやYOUR SONG IS GOOD…当時はFRUITYでしたけど、そういったインディーズで活動をしている人達に出会って、こういう世界もあるんだっていうのを知りました。
──当時のインディーズの勢いはすごかったですよね。
あの時期はやっぱりインディーズでも規模がすごくて、いわゆるAIR JAMに出ていたようなインディーズのアーティストたちがライヴをやれば、すごくお客さんも来るし、CDやTシャツが飛ぶように売れるみたいな状況になってましたね…それで自分たちだけでは対応し切れないので、メジャーに行くバンドもいました。自分はその状況に対して、社会人だったのもあったし、冷静に俯瞰して見てたんですよ。
──どのように見ていたんですか?
これはすごくシンプルな話なんですが、俺はそもそも当時もいまもメジャーが大嫌いなんです(苦笑)。なぜなら、地元で超人気で憧れだった先輩がテレビ番組をきっかけにメジャー・デビューしたんだけど、メジャーのレコード会社から酷い扱いを受けてて…初動はよかったし、プロモーションされている間は良いけど、作品の売上が芳しくなかったり、ライヴ動員が落ちてくると、手のひらを返すかのように契約を切ってしまって。それで、「なんてひどいんだ…アーティストを育てる気はないのか…本当にビジネスなんだな」ってガッカリしたんですよ。
──そんな状況がありながら、なぜBEAT CRUSADERS(以下、ビークル)は、メジャーに進出したんでしょう?
メジャーが嫌いだって言いながら、自分は全然関わりもないのに、ただ文句言ってたらただの陰口だし、そんなの卑怯だなと思ったのが理由のひとつですね。自分もメジャーのなかに入ってシステムを見たうえで、ちゃんと文句を言えるくらい業界の人と交わろうと決めて。それで業界や構造を変えられるようなら、変えるつもりだったんです。幸いにも、ビークルはメジャーに行くチャンスがあったので、そういう話もした上で、メジャー進出を決めたというのが正直なところですね。
──実際、メジャー・デビューしてからはどうだったんですか?
「音楽業界に革命を起こしてやる! 」くらいのつもりでやっていたんだけど、やっぱり、長いものに巻かれちゃいがちですよね…タイアップやプロモーションのためにいろんなことをさせられると、段々それに慣れていっちゃって、「そもそも自分が変えたいのは、どこだったっけ?」って最初のころに抱いていた気持ちがどんどん薄れて、自分で自分が情けなくなってきてしまったんですよね。
──ちなみに、どういう部分が難しかったんですか?
例えば、俺が「こうした方がいいんじゃないですか?」って提案して、社員さんやその周りのスタッフが「そうですね」って同意してくれても、それが上層部に届いて「わかりました。変えましょう」という決断に至るまでには、相当な時間と労力が必要なんですよ。正直、途中から「これはもう自分ひとりの力では無理だな」と思いましたね。
──なるほど。それから、ビークルのメジャーでの活動はどういう風に終わりを迎えたんですか。
バンド自体が、もう自分たちだけでは動かせないぐらいの巨大な存在になってしまって、そこでメジャーのやり方をこのまま続けるのか否か、メンバーの考えが真っ二つになってしまって…メンバーだけの責任ならば、メンバー同士で話せば解決することだけど、当時は大勢のスタッフと共に運営していたので、そういうわけにもいかなくて…いまぐらいの知識があれば、なんとかなったかもしれないけど、あの当時は、自分たちで全てをハンドリングすることができなかったんですよね。
──なにが原因だと思いますか?
これは、リスナーにも関わってくる根が深い問題だと思うんですが、例えばアニメの主題歌で知ったアーティストを、そのアニメが終わってからも追いかけるかといったら、そうじゃない人の方が大半なんですよね。別に誰が悪いわけじゃないんだけど、そういう循環が習慣化してしまっていて。レコード会社側にも、なにかしらタイアップを取らなきゃシングルすら発売できないことが常態化していて、そうじゃない普通に良い楽曲をどうするかという仕組みや座組みに対応できる人が圧倒的に少なくて…そうなると結局、「常にタイアップを取ること」が正解なんですよね。ビークルとしてはそこに対して、常にタイアップをやり続けていくことへの自信は、ハッキリ言ってなかったです。タイアップのために音楽を作ってるわけじゃないので。
──ビークルが散開(解散)した後、ヒダカさん自身はバンドメンバーとしてモノブライトに加入したり、BiSに楽曲提供をしたりと、メジャーでの仕事も多くやられています。それはどういう心境でやられているんですか?
極端な話、ビークルのときにやろうとしていた、「メジャーのシステムをなんとか変えたい」という活動の続きなんですよ。これまでとは違う方法でひっくり返せないかなと。なにかしらおもしろおかしい良い形に流れを変えていくチャンスを、ずっと探っている感じですね。
──個人活動においては、どういうふうにメジャーとインディーズを切り分けていらっしゃるんですか?
メジャーの仕事に関していえば、座組や仕組みは、現場の人たちには、あんまり関係ないので…例えば、「BiSの新曲を作ってください」という発注がきた時には、アーティストに対して、純粋に良い作品を作って結果を残そうっていう気持ちだけなので、そういうピュアな目標があって、純粋に応援したいわけですから、システムへの文句はありません。もちろん、「もっとこうしたほうがいいのに」みたいな気持ちもたまにはありますが、それはアーティストや現場のスタッフに起因することではないし、いますぐシステム変えようというよりは、活動の積み重ねのなかで良い流れにできたら良いなと思うので。だから、仕事として現場を楽しく、きちんと結果の残るものにしようと思って、引き受けています。一方、自分の作品に関して言えば、好きなサウンドを自分の好きなように作って、タイアップとかプロモーションがあまりなくても、いつかそれが誰かの元に届けばいいなっていう、やっぱりピュアな動機とモチベーションでやっていますね。プロモーションの仕方が違うぐらいで、基本理念は一緒です。青臭い考え方かもしれませんが。
──ヒダカさん自身の活動は、メジャーとインディーズ、どちらのフィールドを選んでもいいという感じなんでしょうか。
そうです、いまは自分で全部ハンドリングできるので、どっちでもいいです。例えばメジャーに行ってタイアップを取って、通常のプロモーションセットをやろうと思えばできなくはないでしょうし、インディーズで誰彼に気を遣わず好きなことをやっても、数字は大きくならないかもですが、クオリティとか作品の内容に文句はないので、いまは、ただただ自分のやりたいことを素直にやらせてもらってるっていう感じですね。でも、それは自分で考えて自分でそういうスタンスで活動すると決めているからで、誰でもそうはならないのかなと思います…だから、あんまり汎用性はない考え方かもしれない。
──これからメジャーを目指すアーティストに伝えたいことはありますか?
メジャーに進出したからといって、すぐお金持ちになったり、生活が安定するるわけじゃないということを頭に入れておいて欲しいですね。他に仕事をしながらメジャーで音楽をやっている人も多いですし。例えばCDの売上で言えば、最低でも10万枚を超えないと、生業として音楽だけやり続けるのは、難しいと思います。あと、どれくらい売れるかというハンドリングも凄く難しいので…ビークルも実は、メジャー行ってパッとやってすぐインディーに戻るつもりでしたが、売れ過ぎたために辞められなくなったんですよね。もちろん、しっかり収入として入ってはきたけど、払わなくてはいけない税金もドーンってきました(笑)。だから皆さん、売れたら売れたで大変なんで、気をつけてくださいね。ほかにも、海外進出を考えるのであれば、インディーとか、自力でやるほうが早いと思います。メジャーにいったら海外進出も簡単だと思うかもしれないですけど、メジャー・レーベル内でも、海外の人と通じている人は本当に少ないですし、契約上のハードルも沢山あるので、自分が本当やりたいことをしっかり考えていくのがいいと思います。
──いま時代が変遷していくなかで、メジャーとインディーズについて、思うことはありますか?
いま、ストリーミングやSNSが出てきて、音楽の売り方が二極化しちゃったと思うんですよ。ひとつはバンドやアイドルのように、ライヴハウスを軸にグッズなりCDなりで、モノを売るやりかた。もうひとつは、ネット上でSNSを活用して、ストリーミングやYouTubeの再生回数を上げて収益を得るやりかた。現時点の選択肢だと、どっちに寄りたいかで決めるしかないのかなと…ネット側に寄るのであれば、メジャーでも全然上手くやれると思うんですよ。でも、現場でフィジカルを売るほうを選ぶのであれば、メジャーの世界では、タイアップを取り続けていくハードコースになってしまう。そうなると、インディーズで手堅く自分たちで上がりを取るほうが、単純に得なのかなとは思うんですよね。もちろんそれぞれの得意な分野があると思うし、音楽業界の人達でさえも、いまはどうやっていくのか、迷ってる時期だとは思います。
──これからメジャー進出するPIGGSに期待することはありますか?
アイドルは、誰かが作ったものを歌うという構図が基本的にはあるじゃないですか。海外でいえば、リアーナやビヨンセもかつてはアイドル的な立ち位置でスタートして、誰かがプロデュースして作ったものを歌ってきたわけだけど、いまでは自分がなにを歌いたいか、何を表現したいかを自分で取捨選択して、立派なアーティストとして活動していますよね。日本では、そういうアイドルからアーティスト化する道筋がなかなかいないわけで。それを打破するには、まずは、なにを訴えたいか何を表現するのか、本人たちがしっかり決めることがいちばん大事なのかなと。プー・ルイの活動スタンスなら、両方のおいしいとこ取りができるし、何よりやってること自体は既にアーティストの領域なので、自由な選択肢が結構あるかなと思います。既に多くのことを自分たちで決めているので、その中身を更にしっかりと自分の中で決めるのがすごく大事ですし、そして何より、PIGGSはそういう存在になれるグループだと思います。心から応援してますので、何か困ったらいつでも遠慮なく相談してください!