高音質配信と音楽産業〜課題は惰性から生まれる〜
——3バンド共、オトトイで高音質で音源を配信しました。実際やってみてどうでしたか? アルバムという単位での高音質配信は画期的だと思うのです。
美濃隆章 : 最初は、殆どの人が違いなんて分かんないだろうなって思ってたけど、意外にレスポンスがあって。そういう音を求めている人が確実にいたんだって思った。CD欲しい人は買えばいいし、ダウンロードしたい人はすればいいしって、リスナーが好きなフォーマットを選べる時代になったんだなって思った。
藤枝憲 : アルバムが欲しい人はアルバムごと音だけダウンロード出来ちゃうし、ミト君とかパッケージのこととかどう思う? 普通にデザイナーとして聞きたい。そのうち、CDとかって無くなる可能性があるじゃない? グッズ感覚でもいいから、ファンが欲しい物として残って欲しいなとも思っていて。
美濃隆章 : CD自体の需要は確実に減っていくと思うんだけど、何かしらの形で、パッケージは残ると思う。実際自分もipodで音楽を聴いてるけど、すげぇ好きなバンドはCDで欲しくなるし、まして特殊パッケージだったら絶対欲しいって思うよ。リスナーの絶対数は変わってないので、大丈夫だと思うよ。
ミト : それって需要と供給のバランスじゃないけど、じゃ配信だけになりましたってなったら、みんな物が欲しいと思うよ。だからそんなに危機感を感じる必要はないと思っていて、例えば学生の頃、もうアナログとか絶対買わないと思ってたけど、DJとかをやるようになってから買うようになったし。自分の好きなWARPのアーティストとかは、ボックスでちゃんと買ったりする。だから大丈夫。もっと言うと、丁寧に作らないと誰も買わない。そこの方が重要かな。これからは、もっと沢山のフォーマットが必要になって来ると思う。例えば5.1chとか。
美濃隆章 : 5.1の可能性は感じるね。レンジの広さとか。何かをしながら聴くのには不向きだけど (笑) 。
ミト : あとブルーレイ。ブルーレイとかあの手の音源をPS3とかで、もっとスペックの高い映像とかジャケットとかを、音楽を聴いている間に画面の中でいじったり、デザインを自分達で作ったり。もっというとゲームみたいにそのスタジオで録音してるマルチ・データを自分達で編集したりとか... すげぇかっこ良くない? ライブとかもマルチ・アングルとかでやったりして。で、さっきの話に戻るんだけど、これからデザインとかも全く違ったフォーマットになると思う。今まで皆が好きだったデザインも、CDからアナログ・サイズに戻ることもありうると思う。もっと大きなものになってデザインできるはず。だからもっと楽だし、もっと丁寧に作れる様になると思う。
——例えば一般の人に、高音質はどこが違うのって聞かれた時に、どこが違うって答えますか?
ミト : 単純に情報量が違うから、聴いてもらわないと分からないねってしか言えないかも。
藤枝憲 : 曲によるんじゃない? 今回のスパングルのアルバムは、CDの方は割と特色のあるガッツリした感じで、高音質の方はマイルドで素に近いというかね。純粋にCDのマスタリングとは違うキャラクターのものになってると思う。
ミト : だから、聴いてもらうしかないんだよねぇ。
美濃隆章 : 単純に広いとしか言えなくて。リバーブの感じとか低音の感じとか、曲によるけど。とにかく広い。
ミト : 写真だね。携帯の写真とデジカメの写真の違いみたいな。
藤枝憲 : それが一番分かりやすいよね。写真の解像度的な。結局、生のライブって写真でいうオリジナルのプリントを配りたいということでしょ?でも、この二人は今のスペックで全然満足しないとこが、マニアックだと思うなぁ。
ミト : 満足しないっていうか、今のスペックでも録りきれてないとこあるんだもん。一番は自分達の目とか耳が間違ってないからね。
——つまりライブと録音物は出来るだけライブに近づけるというか、ライブのダイナミクスを届けたいってことでしょうか?
美濃隆章 : 半々位ですかね。
ミト : どっちでもいいの。要は自分がこうしたいって気持ちがこもってればいいだけ。生っぽい時も、そうじゃない時もあるだろうしね。一枚のアルバムの中にこの曲とこの曲があったらこう見せたいってのが頭の中にあって、それを取りこぼしてると思う所がありながら作ってきたわけ。それがスペックだったり、単純にお金の問題だったり、時間だったりとか。だから録音物って絶対に終わんない作業なんだよね。
——藤枝さんはどうですか?
藤枝憲 : それを追求したいですけど、ライブで聴くポイントって絶対的に違う訳じゃないですか。聴いてる位置でも全然違うし。それってほんとにきりがない話だと思う。だから自分で聴く状況をセレクト出来るようにしてあげる気持ちがいいなって思う。携帯でもPCダウンロードでもいいから、とにかく聴いて欲しいし。その振り幅というか、その環境が用意してあることが大事。色んな入り口はあっていいと思うよ。
美濃隆章 : いいことだよね。選択肢が増えるってことは。
——今音楽業界が元気が無いって言われてる中で、お三方はエンジニア、プロデューサー、デザイナー等演奏するだけではないスタンスをとっていますが、これからは、どのように活動していこうと思っていますか?
藤枝憲 : 僕は今日の対談で今ミトさんや美濃君に励まされた感じがしますね。特にジャケットの話は。僕の中のリアルな音楽業界の関わり方からすると危機感は否めなかったから。
ミト : なんでもそうだけど、これからは確定するもんがないからね。今後これだってのはあり得ないから。今色んなことをやってるけど、それを続けていくと展望とかきっかけが勝手に出来てくるから。いい意味で惰性にしないと駄目っていうか、惰性で生きていけない人は、意識的な計画とかに苛まされちゃって先に進めないわけ。忙しい中にどーんと入っちゃって後はどうにか回っていくもんだと思うから。
藤枝憲 : それ、クラムボン・スタイルだよね。
ミト : そう、もうホントうちら惰性だからね。
——アナログはどうだったんですか? 反響はありましたか?
ミト : アナログ普通にすごいよ。タワレコのオンライン・ショップとかで一位になってたもんね。六千円するんですよ!? でもやっぱり好きな人は買ってくれてるし。
美濃隆章 : あの二枚組良かったよね。
ミト : そうそうそう。音もすごい良かったよ。マスターの素材自体も16bit 44.1kの素材なんだけど、まずそれ事態で説得力が違った。すごいなぁて思った。アナログって全然器が違うね。デザインとかもアナログをメインのデザインにすることって、今後増えてくる気がするな。でもね、こんな自由な時代なのに、単独で流通契約してるとこがあるじゃないですか? そこの雁字搦めになってるとこを一回撤廃しないと、本当に安い所でいい作品が作れなくなっちゃう。もうそこは早いうちにどうにか変えないと本当に駄目だと思うね。デザインに関しても、印刷とか出版とかどうにかして、企業をリージョン・フリーにしないとホント作品がどんどん駄目になってく。純粋に種類がない。選べない。この紙使ってこの感じにしたいですって言っても、「この紙ないんです」で終わっちゃう。
藤枝憲 : もっと言って!(笑)
——融通がきかないんですね。昔からの直接や独占契約みたいな慣習が残っているんですよね。
ミト : そうそうそう。話戻るけどそういう課題が惰性から生まれるっていう話。そうやってどんどん変えてかないと。惰性って皆ネガティブに捉えるけど、一番いいんだよ。いつもフラットで見れるし。
——toeはどうなんですか? 独自のスタンスじゃないですか。去年もセールスとしても素晴らしかったと思うし、一番厳しいって言われてる時代の中で、ちゃんと自分達で作品を作って自分達で売って、ちゃんと評価されてるっていう...。音楽業界が元気ないとか肌で感じてたりしてます?
美濃隆章 : 僕はないですね。企業ベースで言ったらそうなのかもしれないけど、ミト君が言ってたちゃんと丁寧にやってれば残るっていうか。元気ないって、全体の売り上げで言ってるだけで、PCで聴いてる人とか含めると音楽人口は増えてる感じがする。会社単位、レーベル単位で見てきたものが、バンド単位で皆が見れるようになってもいいんじゃないかなって。ジャンルとかも、ポスト・ロックとか言われて置かれてますけど、ジャンル無くしてバンド名でそれがジャンルでいいじゃんって思う。
藤枝憲 : 今は「toe」という単語だけで、直結でアクセス出来るとこにきてるからね。
ミト : だからCD屋さんが無くなっちゃう。グーグルのスキルを持っているユーザーがいるからね。わざわざCD屋に足運ばないわけ。で、僕はそれが悪いことじゃないと思うのね、歩いてCD屋であった!って楽しみがある人もいると思うけど、それが無い人もいると思うのね。わざわざ時間無い人がCD屋に行って探しても見つからなくて、店員さんに聞いて、「少々お待ちください」って言われて待たされて... その分ボタン一つでパッと買えるんだったら、その空いた時間を有効に使えるじゃん。なんかもう、それでいいと思う。
藤枝憲 : それも選択の問題だよね。
ミト : そうそうそう。両方あればいいんだが、それに賛成してた企業も自分で開いた風呂敷を回収できなくなって今こうなっちゃってる。大きいCD屋さんも無くなっちゃって、その間に小さいCD屋さんも無くなって... 結構砂漠だよ? でも、今あえてCD屋さん始めてみるのも面白いかもしれないね。
美濃隆章 : やりたいかも。セレクト・ショップ的なものを。音楽あまり詳しくないけどね(笑)。
ミト : シスコもなくなったじゃない。だから新たに今の自分達世代が、自分達で好きなレコード・ショップを作るのは面白いかもしれない。
美濃隆章 : そういう個性がある所がまたどんどん増えていって、そういうのが好きな人が増えていけば、凄くイイのにね。
ミト : そのお店がね、CDとして残したいもの、アナログとして残したいものを流通とか通さずに、自分達で置いとくお店であれば残るんじゃないかなぁ。昔のシスコなんてまさにそうだったからね。そういうニーズの子は、今も絶対にいるっていうのは間違いないよ。
Spangle call Lilli line
1998年結成。メンバーは大坪加奈、藤枝憲、笹原清明の3人。今までに7枚のオリジナル・アルバムとミニ・アルバム、2枚のライヴ・アルバム、ベスト盤1枚をリリース。数々のコンピレーション・アルバムなどにも参加。2008年9月に3年ぶり6枚目となるオリジナル・アルバム『ISOLATION』、11月に7枚目の『PURPLE』を連続リリース。2009年1月には、大坪によるNINI TOUNUMA名義のソロ作品や、藤枝&笹原による点と線名義でのリリース、国内外のアーティストの作品への参加など、サイド・プロジェクト等も精力的に活動。2010年3月には、永井聖一(相対性理論、etc)プロデュースによる7年ぶりの2ndシングル「dreamer」をリリース。4月には『VIEW』、6月には『forest at the head of ariver』と、2枚のアルバムのリリースも行う。
クラムボン
1999年にメジャー・デビュー。当初よりライヴやレコーディングなどにおいて様々なアーティストとのコラボレーションを重ね、楽曲提供、プロデュース、執筆活動など多岐に渡る活動を続けながら、バンドとして、独自のスタンスを築き上げている。野外フェスティヴァルにも数多く出演し、ライヴ・バンドとしての評価も高いなか、2007年7枚目となるオリジナル・アルバム『Musical』をリリース。その後行われたライブ・ツアー「tour Musical」を追ったクラムボン初のドキュメンタリー映画『たゆ たう』が2008年全国劇場にて公開。各地で異例のロング・ランを記録した(現在DVDとなって発売中)。2009年はセルフ・カバーのリアレンジ集第2弾として、「Re-clammbon e.p.」(iTunes Store限定)、アルバム「Re-clammbon 2」を発表。その後わずか2ヶ月で新曲「NOW!!!」を新しい試みとなる高音質配信(24bit/48KHz WAV)にて発表。11月にはTHA BLUE HERBとのコラボ曲「あかり from HERE〜NO MUSIC, NO LIFE.〜」をタワー・レコード限定で発表している。また、昨年はデビュー10周年ということで、10月10日に毎年恒例の日比谷野外大音楽堂にて記念ライブを行った。
個々の活動もめざましく、原田郁子は2008年にソロ・アルバム『気配と余韻』、『ケモノと魔法』、『銀河』の3部作を発表。初回盤のブックCDは絵や物語も自ら手がけた。オオヤユウスケ(Polaris)・永積タカシ(ハナレグミ)とともに結成したバンド“ohana”や、様々なミュージシャンの楽曲、ライブにも積極的に参加している他、昨年は初の舞台 音楽劇「トリツカレ男」にてヒロイン”ペチカ”を演じピアノを弾き語り、全劇中音楽を青柳拓児(リトル・クリーチャーズ)と共に制作した(天王洲銀河劇場他、全19公演)。2010年1月には17公演のHIMのヨーロッパ・ツアーに参加。ミトは、楽曲参加、楽曲提供、プロデューサー、ミックス・エンジニアとして、木村カエラ、ともさかりえ、SOUR、コトリンゴ、SUEMITSU & THE SUEMITHやグットラックヘイワなど、その他多数手がけており、その評価はどれも高い。2006年には“ mito solo project ”として、”FOSSA MAGNA“”dot i/o“”micromicrophone“とそれぞれ名義の異なるソロ・アルバムを、連続で3枚発表。常にジャンルの垣根を飛び越えようとするスタイルで、新しい音楽に挑戦しつづける。伊藤大助は、ギターリストASHと、ドラムとギターだけのバンド“LOTUS GUITAR(ロータス・ギター)” を結成し、昨年12月には2ndアルバム『second tide』を発表。都内を中心に、精力的なライブ活動を続ける。さらに、曽我部恵一バンドなどで活躍するドラマーのオータコージとツインドラム・インスト・インプロヴィゼーション・バンド“The Sun calls Stars”を結成し、各地のライブ・イベントに参加。アルバムは、ライブ音源を収録した『06・05・26』がある。
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山嵜廣和(ギター) / 美濃隆章(ギター) / 山根さとし(ベース) / 柏倉隆史(ドラム)の4人からなる、インストゥルメンタル・バンド。2000年結成。ライヴを中心に活動を行ない、インストながらも歌心に溢れるポスト・ロック・サウンドで話題を集める。