自分だけに価値のあるものしか置いてない
――東方神起に楽曲提供したときの「Epitaph〜for the future〜」は、DTMで作られているわけですか。
Hi-yunk:そうです。これはちょっと余談なんですけど、当時はまだこのスタジオができる前でヴォーカル・ブースだけだったんです。そこが、あるとき大雨が降って15センチぐらいまで水に浸かっちゃって、床にある機材とかがほぼほぼ駄目になったんですよ。スタジオって二重構造になっていて、床下にウレタンとかスポンジとかが敷いてあってその上から板を敷いてるらしいんですけど、それが全部浸水したことでバクテリアとかが湧いちゃって、1回全部壊さなきゃいけないことになって。その工事中はスタジオが使えないじゃないですか? しょうがないから自宅の子供部屋をちょっと簡易スタジオ的な感じにして(笑)。そこで「Epitaph〜for the future〜」は作ったんですよ。だから子供部屋でできた曲です(笑)。
――この曲にまさかそんなエピソードがあったとは(笑)。今回のセルフカバーについても、制作方法は同じですか?
Hi-yunk:そうですね。楽曲作りっていろんな人を介していくと、自分の出したいサウンドが遠のいていくような気がして。だから僕は今のところ、よっぽどこの人とやりたいっていう人がいない限り、自分1人で完結して作りたいものが100%できる方が効率が良いなと感じてます。もちろん、その分責任もありますけど。ミキシングについては、僕ができるところまでは自分なりのミキシングをして、そこからエンジニアさんに投げて、ここでPro Toolsに変換してミックスしながらレコーディングして、終わったらマスタリングを外のスタジオでやってます。だからマスタリングまでは全部ここでやってますね。
――こういう機材の使い方、トラックの作り方って、独学で覚えていったんですか?
Hi-yunk:教えてもらうのが多分あんまり得意じゃないんですよ。僕、結構理解力ないんで(笑)。だから自分でトライ&エラーでやってます。もともとファミコンとかも説明書を読まないで始めてつまずいてたので。『FFVII』(『ファイナルファンタジーVII』)も張り切って買ったけど最初の工場から出れない(笑)。そういうタイプです。なんかそういう思考になっちゃったんですよ。やっぱり今の感情を大事にするというか、じっとしてられなくて、つまずいたら1回止めるみたいな。楽しいことを常に考えていたいんですよね。後で「こうした方がいいよ」って言われたら、「ああ、俺効率悪いんだな」とか思うんですけど、でもじつはそういう時間も大事だなと思って。無駄な時間も使うっていうか、それが結局無駄にはなってないんですよね。
――そういう人がここまでクオリティの高い曲を作って世に出せるようになるって、相当すごいですよ。
Hi-yunk:本当、不思議ですね(笑)。でも言ってしまえば、こういう良い機材が揃ってますですけど、そんなにいらないっちゃいらないと思うんですよ。結局アイディアのネタでしかないから。だからこれがないとできないかって言ったらそうでもなくて。ただ、例えばスニーカーがあったりレコードがあったり、フィギュアがあったり、ただ置いてあるだけでも、24時間ふとしたときにそいつがパッと目に入ってアイディアになって、思い立ったらすぐ音を出せるっていう、手に届くところに自分のネタがいっぱいあるっていうのが、今僕が楽曲を作る上で一番のキーになってるかなって思います。
――曲づくりを始めたときは、ギターの弾き語りとかだったんですか?
Hi-yunk:いや、僕はMTRから始めたんです。『Still B/O』っていうBACK-ONのアルバムは、僕が中学のときに買って使ってたMTRをぶち壊してるジャケットになってます。MTRが壊れて燃えていて、フェーダーのところがベースとギターは下がってて、ヴォーカルとヴォーカルが上がってるんですよ。それは辞めたメンバーと自分たちを表していて、当時僕が使ってたMTRを壊して火をつけて新しいものを作っていくぞっていう意思表明です。曲作りもアートワークもそうですけど、自分たちにしかないストーリーっていうか、例えばここに置いてあるアイテムも、みんなが欲しがるっていうより、自分だけに価値のあるものしか置いてないんですよ。
――Hi-yunkのルーツがここでわかるっていうぐらい、レコードが並んでますね。
Hi-yunk:うちの兄貴も音楽が大好きで、半分は兄貴の私物だったりもするんですけど、僕もその影響で高校のときにレコードを買っていて。僕が高校のときに、最初のレコードブームがあったんですよ。例えばこれ(ニルヴァーナ『ネヴァー・マインド』)とか500円ぐらいで買ったんですけど、多分もう2万円ぐらいになってるんですよ。他にもレコードショップのレジの前にセールで売ってたレコードをいっぱい買ってましたね。あと、最近はCDめっちゃ音いいなと思ってハマってるんです。CDショップに行くと、結構昔の名盤とかが数百円で売ってるから、それをバンバン買ってきて聴いてます。CDは絶対また流行ると思いますよ。
――じゃあ、普段はCDを聴くことが多いですか。
Hi-yunk:僕は毎日のルーティンの中で、ジムに行くんですけど、ジムで何かやりながら、メインはAppleラジオとかを聴いてトレンドの音を探ったりする時間なんです。音を聴くっていう時間で言ったら、SpotifyとAppleとかサブスクで聴いてる方が多いんですけど、CDやレコードは「自分のルーツは何だっけ?」と思うときに聴いてます。アーカイブを聴くときはCD、レコード、カセットテープ、新しいものを発見するときはサブスクっていう感じです。
――今日はスタジオ機材からCD、レコード、様々なアイテムまで見せていただいてありがとうございました。5月にリリースされるフルアルバムも、この部屋から全部生まれているわけですね。
Hi-yunk:そうですね。これから先もこの部屋から色んな音楽を発信していくつもりでいます。今後も楽しみにしていてください。
編集 : 西田健、草鹿立
ソロ第二弾は、東方神起に提供した楽曲をセルフカバー
Hi-yunk、盟友、IKEとともに作り上げた、別れと再出発のうた
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BACK-ON ディスコグラフィー
PROFILE:Hi-yunk
ROCK BAND「BACK-ON」のボーカリストとしての活動する中、精力的に他アーティストへの楽曲提供も手掛ける。 作詞、作曲、編曲をマルチにこなし、日本語、英語、中国語を自在に操り、グローバルに活動中。