【忘れらんねえよの全作品を振り返る vol.4】～明日とかどうでもいい‐孤独なハートの放浪期

2024/04/18 20:00

『俺よ届け』あたりでバランスが取れていたんだけど、また崩れちゃった

――翌2017年4月2日には、初の日比谷野音ワンマンライヴ〈ワンワン！ワンマン！野音でワオーン！〉が行われました。

初の日比谷野音ワンマンライヴ〈ワンワン！ワンマン！野音でワオーン！〉

柴田：野音ワンマンのときは、「恋ダンス」をやったんですけど、「生演奏でやりたいから練習しといてほしい」って、メンバーにお願いしていたんです。3日前ぐらいにゲネプロといってスタッフも入れた通し稽古をしたんですけど、梅津くんから「大事な野音で、おふざけの演奏はやっぱやれない」的な話をされて(笑)。でもライヴ直前に喧嘩したくないから、「じゃあオケでやろう」って言って、当日はオケに乗せて深刻な顔で「恋ダンス」を踊るっていう、謎の現代アートをかましました(笑)。

――(笑)。こっちが「面白いことやってるな」と思って観ているときは、だいたい本人は逆の気持ちだった？

柴田：そうそう、恋ダンスしながら「消えてなくなりたい」って(笑)。自分は野音のステージに立つことにそんなに思い入れはなかったんだけど、梅津君は音楽ファン、ロックファンだし相当な思い入れがあったんですよね。そのロックの聖地・野音でどうして余興で「恋ダンス」をやらなきゃいけないんだって。

――じゃあ踊るのはやめよう、とはならなかったんですか。

柴田：ならないんですよこれが。そこは「童貞偽装会見」のときと同じですね。「これをやらなきゃいけないんだ」って思いこんでるので。まあでも、やった結果はそれなりに反応はあったんじゃないかな。あと、野音でも「ワタリドリ入場」をやってますね（[Alexandros]の「ワタリドリ」をBGMにスタッフに担がれた柴田が渡り鳥となって客席から登場するオープニング）。

――あれは、何がきっかけで始めたんですか？

柴田：「童貞偽装会見」あたりから、フロアを使って何かをするっていうのがライヴシーンで流行り出したんです。キュウソネコカミが、ダンボールに突っ込んだりとか、「筋斗雲」ってビート板の上に乗ったりとか、上手くやっていて。みんなそれに影響を受けていろいろ始めたんですよ。トチ狂ってた当時の僕は毎回登場SEを変えていて、フロアから入場する所謂「プロレス入場」もウケてたんです。例えば8.6秒バズーカーの「ラッスンゴレライ」を流しながら、サングラスをかけて「ラッスンゴレライ♪」ってやりながら入場したり。

――ひとりで？

柴田：ひとりで。梅津君がやるわけないじゃないですか(笑)。孤立無援の世界観。eastern youth的世界観です。あと、昔話題になった議員さんの号泣会見をSEで流しながら入場したり。「ワタリドリ」もその中の1つだったんですけど、「渡り鳥みたいに運ばれて入場したら面白いぞ」と思ってやってみたら、これがめちゃくちゃウケたんですよ。その後、何回か別のSEでやってからもう1回「ワタリドリ」をやったら、やっぱりすごくウケるんで、定番化していったんです。それがサポートメンバーになってから、生演奏に変わりました。「全曲LIVE」でもやると思いますよ。もう俺らの曲なんで。共作といっても過言ではない。

野音で披露した「ワタリドリ入場」

――いや絶対違うでしょ。でも、本当に忘れらんねえよのライヴで「ワタリドリ」を知った人もいるでしょうね。

柴田：そうですよね。しばらく経ってから、〈ARABAKI ROCK FEST.〉に出たときに、ホテルの近くのコンビニで当時メンバーでいらっしゃった庄村聡泰さんと遭遇したんですけど、俺は何の許可も取ってなかったからヤバいと思ってたら、あちらの方から「お世話になってます」みたいにご挨拶してくださって。すごく腰が低くてなんて良い人なんだって思いました。

――初の野音ワンマンが終わって、忘れらんねえよはバップから現在のユニバーサルミュージックに移籍しました。第1弾リリースはシングル「いいひとどまり / スマートなんかなりたくない」（2017年6月21日）。

忘れらんねえよ / 『いいひとどまり』(予防医学のアンファー企業CMソング)Music Video

柴田：これが一番しんどかった。ここから4thアルバムの制作に入ってるときは一番きつかったですね。ダメージの蓄積があって、本当に鬱みたいになっていたんじゃないかな。Zepp DiverCity、野音でワンマンもやったし（どちらもソールドアウト）動員的には伸びているのに「苦しい～」ってなっていて、「いいひとどまり / スマートなんかなりたくない」からはもう、疲労の蓄積でギャグが出てこなくなって、全部シリアスだったと思うんですよね。

――そこに忘れらんねえよならではの、絶妙な味とか匂いがないというか。

柴田：ないですね。良くも悪くも、そのときの感情の説明文みたいになってるというか。あと、頭の中に鳴っていたというのもあるんだけど、ここでストリングスを入れてみたのも売れたい一心でしたね。一番らしくないことをしていたというか、『俺よ届け』あたりでバランスが取れていたんだけど、また崩れちゃった感じでした。ここから、梅津君は「もう俺はやっていけない」みたいな空気になってましたね。