Text by 高岡洋詞
前作『YES!』から2年9カ月。その間にシングルのリリースこそあったものの(“O・TE・A・GE・DA!”はフィジカル、“幸せのシャナナ”、“愛を、今”はデジタル)、過去最長のインターヴァルで生み育て温め選んだ10曲は、掛け値なしに粒が揃っている。
アルバムは大山聡一のギター・カッティングが牽引する“Time Flies”で幕を開け、続く“幸せのシャナナ”では酒井亮輔のベースが先頭に立つ。3曲めの“サバイブレーション”で真行寺貴秋がパワフルかつ柔軟な歌の力を見せつけ、アタマ3曲で自己紹介は完了。強力なファンク/ロック・サウンドに引き込まれ、このころにはリスナーは自然に肩と腰が動くモードに入っているはずだ。
“Fitness Funk”や“O・TE・A・GE・DA!”はノヴェルティ風味のファンク・ナンバー、“Switch”はラヴァーズ調のレゲエで、“愛を、今”はビッグ・バラード、“ケツイ”は爽快な熱血ロック。アフロ・ヘアにギラギラのスーツ、ミラーボールの印象も手伝って、古式ゆかしきファンク〜ソウルのイメージが強いし、本人たちは“ロック・バンド”を謳っているが、音楽性はとてもハイブリッドで、さまざまなジャンルやスタイルへの興味と敬愛が明快に表現されている。マニアックな試みをふんだんに盛り込みながら、歩留まりよくJ-POPと折り合いをつける手際も見事だ。
歌メロに加えてギターとベースが常に自由に動くため、曲によってはホーン・セクションやオルガンも加わって(少し誇張して言うと)複数のメロディが会話を交わしながら並走しているような感触がある。“Switch”や“ケツイ”の歌いまくるベース、“サバイブレーション”や“Be Bold!”のカラフルなギター、“Fitness Funk”の両者の絡まり合い。ひたすらコツコツと楽器の音を重ね、ハーモニーとグルーヴを練り上げて新しいものを生み出すバンド音楽の楽しさが溢れ返っている。
しかしながら扇の要はやはり真行寺貴秋のヴォーカルである。“幸せのシャナナ”や“ケツイ”のゴリ押しも、“サバイブレーション”の“ウッ”や“アーッ”のかけ声も、“Switch”や“アーモンド・アーモンド”のファルセットも、“Fitness Funk”のパーカッシヴなJB風シャウトもすばらしい。それでいて発語はいたって明瞭で、グルーヴィなソウル・ヴォーカルと日本的な“うた”のフィーリングを見事に折衷している。抑えたリヴァーブは自信の表れだろう。
そんな歌の魅力の絶好のショーケースが“愛を、今”だ。エモーション全開、言い訳無用の“どバラード”で、寂しさから優しさを経て確信と情熱へ突き抜けていくドラマを体を開いて歌い切る表現力には舌を巻く。アルバムの並びで聴くと“Fitness Funk”のノヴェルティ味とのコントラストが鮮烈だ。ソウル・マンのイメージに加えて、えもいわれぬ“いいヤツ感”がドライとウェットの矛盾なき同居に貢献している。
サウンドやアレンジで存分に遊べるのも、歌が盤石だからこそ。キャッチーなヴィジュアルを徹底的にいじり倒す“愛を、今”、“幸せのシャナナ”、“O・TE・A・GE・DA!”のMVにも同様の構図を見ることができる。YouTubeに多数ついた英語コメントに繰り返し“ジャパニーズ・アフロ・マン”と形容されていることからも、言語や文化の壁を越える愛されキャラっぷりがわかる。
冒頭に述べた通り甲乙つけがたい10曲だが、僕がとりわけ気に入っているのは“O・TE・A・GE・DA!”と“アーモンド・アーモンド”だ。前者はミディアム・テンポに音数少なめでグルーヴが強烈。左右に振られたツイン・ギターの絡みが快く、ルンバ・ロックっぽいコーダはフェイド・アウトが惜しい。あと7〜8分は聴きたい。後者はファルセットが色っぽいソウル・バラードで、コーラスとの掛け合いもいい。ついでに言うと“ケツイ”の曲調とベース・ラインの塩梅にも驚いた。
結論、キャッチーで親しみやすくて深みもある、いたって良心的なポップ・ミュージックである。あとは売れるだけ、と何年も前から言われているはずだ。『ミュージックステーション』や『徹子の部屋』にしょっちゅう出演してほしいし、CMで変なかぶりものをして商品を手に持ったりしてもらいたい。それができる3人だと思う。
高岡洋詞
神奈川県横浜市生まれ。日本三景・天橋立のそばのド田舎で育ち、大学進学とともに上京。『ミュージック・マガジン』編集部を経て、現在はフリー編集者/ライターとして活動中。