ヒップホップを新たな地平へ
例えば「これはヒップホップでしょ」という思い込みをブチ壊して、突き刺さってくる音こそがヤバいのだ。
環ROY&DJ YUIの『copydogs』は、まさにそう。イントロでJ-rapの新時代を「なんでもアリ」と宣言し、ボトムの効いたトラックに乗せて「ナンセンスかつハイセンスMC」をジワリとぶちかます。軽妙洒脱なオリジナルに加え、後半はリミックスが8トラック。トランスフォ—マ—の如く自在に形を変えながら、闘いを挑んでくる。この二人が示すのは確かに新しい地平だ。
インタビュ— & 文 : 今井智子
INTERVIEW
—今回のコラボレ—ションのきっかけは?
環ROY(以下 環) : YUI君に「ソロアルバム作るからお前やれよ! 」みたいに言われて、最初は「え〜」と言っていたんだけど、曲を聞かせてもらったら、僕が最近やりたいような曲だったんです。アメリカのサウス(南部)を意識して作られた音楽。そういうのやっている日本人ってゼロに近くて…、ちょうどやってみたいと思っていたので「むしろ一緒に一枚作ってみませんか?」って言いました。
YUI : 今から1年位前に友達の紹介で知り合ったんですが、2回目に会ったときにライブを見てすぐに音源を渡して、やってくださいと頼みました。
—環さんが自分で作るトラックと、他の人に作ってもらうものとの違いは、どういうところに?
環 : 自分では絶対に作らないものを作ってほしいです。このアルバムは超ナメてるじゃないですか(笑) こういう引き出しはかなり奥のほうにあるので、それを引っ張りだした感じなんです。だから、今回のアルバムに入っている曲はいまんとこライブでやる気はないんですよ(笑) タイミングを伺ってます。その他、年内にアルバムがあと二枚、取り組み方もバラバラでと、NEWDEALとやったヤツが出ます。
Y : そういう話は聞いてなかったです(笑) 「ライブでやる気がない」ってさらっと言われて、「あそっか〜」という感じですね。出来ればやってほしいですね。
—『copydogs』というアルバム・タイトルの由来は?
環 : copycatという言葉があるじゃないですか。で、アメリカで連れ(仲間)の事をdogsって言うんです。それをもじって、そういう人達をコピーしたという。
—そもそもヒップホップを自分でやってみようと思ったきっかけは?
Y : 僕は中高生くらいから、黒人の音楽に興味を持ち始めて、その位の時期からDJが色々と音楽を出し始めていて、それを聴いてロックとかよりも自分にフィットした感じですね。90年代はDJなんちゃらっていう人達のリリースが多くて、その時代に高校大学生くらいだったので、僕の年代ってDJやっている人むちゃくちゃ多いんですよね。でもそういう人達が30歳くらいになって、やめてDISK UNIONにターンテーブル売ってるんで、今ターンテーブル売り場が山のようになっているんですよ(笑)
—タ—ンテ—ブルを使うDJが減ってきているということですか?
環 : 減っていると思う。というかセラートのインターフェイス状態になってる。あとスクラッチの方はアカデミックすぎて、音楽じゃなくなっちゃっているような気がする。スポーツ状態…
Y : 2000年くらいにDJ KENTAROが優勝するときまでは、誰が見ても進歩している感じはあったんですけど、それ以降は冷静に聴くと音楽というかノイズに近くなって、一般の人は楽しめなくなっているんだと思いますね。
環 : いきなりターンテーブル文化批判ですね(笑) 自分はライヴに行く時は、CDR2枚持ってくだけ。でも、たまにレコード触ると気持ちいいんですよね。
Y : 最近はパソコンでDJするのもカッコイイという感じになってきているみたいですよ。僕らの時代はDJが暗い中で、耳にヘッドフォンをあててレコードを選んでいる姿がかっこ良かったように、今の子たちはラップトップのパソコンの薄明かりの中で曲をかけている姿がかっこいいみたいな。ちょっと形が変わっただけなのかな。
—環さんがヒップホップを始めたきっかけは?
環 : 最初は受験勉強中に石田純一のラジオを聞いていたら、BUDDHA BRAND『人間発電所』が流れて、それを聴いてすぐにCDを買いに行ったというのが始まりです。それから、ずっとヒップホップしか聴かない少年でしたね。
—BUDDHA BRANDにインスパイアされたのはどういう部分?
環 : わからないな〜。歌詞ではないですけど。あれはいい曲だったんでしょうね。今聴いてもいいです。エッジな事を提示していたというか。ヒップホップって少年がだまされやすい音楽でしょ? 子供だまし音楽(笑)
Y : YouTubeに上がっているROYのフリースタイルの映像を見ると、本当にフリースタイルなのか? って思うくらいガツンとくる言葉をちゃんとリズムに合わせて歌っているなと思いますね。
環 : フリースタイルをやってると、脳の伝達物質が訓練されて何かが太くなるんですよ。まあいいや、こんな話。でも、このアルバムは言葉じゃなくて、アティテュードでしょ! こういうアルバムを作ったらどうなるか? っていう所が面白いんでしょ。でもこのアルバムも歌詞がんばったと思いますよ〜。
—普段からリズムに乗る言葉を考えたりするんですか?
環 : 今は全然してないです。今はどうしたら音楽的になるかを考えてますね。
—環さんの考える音楽的なこととは?
環 : 上手く言えないです…。なんでしょう? 君とかは楽曲作る能力は本当に高くて凄いなと思います。ヒップホップだからメロディはいいやとかは思っていなくて、やっぱり色々な人に聴いてもらった方がいいわけで…。このアルバムは違うけど(笑)
—これは、どういう人に届けるために作ったもの?
環 : これは…変わった人用。
Y : (笑)まあまあ。
環 : 色々と解っている人は楽しめるんじゃないかなって。
—みんなが解るであろう的なものではなく、一つのチャレンジであると?
環 : YUI君がマニアックな珍獣ですから。売る気があったらまずYUI君とは組まないでしょ(笑)
Y : まあ、日本語ラップも飽和している感があって、飽きている人もいると思うんです。そういう人がもう一回ヒップホップを聴きたくなるような音楽を目指した感じはありますね。
—アンダーグラウンドとオーヴァーグウンドが遊離している感じはしますね。その間を繋ぐために、こういうアルバムが必要なんじゃないかなと。
環 : そうだと嬉しいです。僕はkreva好きだし、アナーキー君とか 君、SD JUNKSTAみたいに、RAWなヒップホップの魅力を探求している人達も好きです。
—今回はDJ YUIさんと組んでいるけれど、口ロロと組んだり(「宝くじ」from『PUBLIC/IMAGE.SOUNDS』)、fishmansへのオマ—ジュの曲(「midnight breaking fishman」)があったりと、作品は柔軟ですね。
環 : それは、色々な曲を作ってみたいという事なんですよね。
—今聴いているのは、仲井戸麗市のベスト盤だとか?
環 : すごい好きです。「ポップスを書かねーと、ポップスを歌わねーと」ってやつ。やっぱりむき出しな感じがするから好きなのかな。でも、つやつやの、例えばマライヤ・キャリーみたいなのもクリエイトしたいんですよね。でかいスタジオでガッツリ金かけて、オートチューン使って歌がさも巧いようにして、音楽的な楽曲作ってみたり。
—そのためにもアンテナを広く張っていたいと?
環 : そうですね。今回のアルバムのリミキサーもそういう観点ですね。ちょっとテーマ・パーク的な感じで聴き比べられるというのが、リスナーへの優しさかなと(笑)
—どこかには目指せ10万枚という気持ちはあるんですよね?
環 : このアルバムではないですけど、そういう気持ちはありますよ(笑) 昨日、漠然となんで音楽をやっているのかなと考えたんですけど、お金を沢山かけてもいい環境でもクリエイトしたいという気持ちがあるんだなと思いましたね。
—私はこのアルバムをきっかけに、そういう場所に行けるような気もするんですけどね。
環 : たまにそう言ってくれる方もいるんですよね。「何言ってるんだ!? 」って思いますけどね。
Y : さっきもタワー・レコードに行ったんですけど、めっちゃでかく展開してくれていて、とてもありがたいんですけど、きっと変わった人がお店に働いていて、間違えて一階の売り場に置いちゃった感じだと思うんですよね。
環 : (笑) このくだり絶対にのせてください。
Y : 完全にバイヤ—としてはミスじゃないのか? って思うんですよ(笑) 立体になっているような看板とか、ものすごいの作ってくれているんですけど。すごいありがたいんですけど、本当にミスで返品がいっぱいきたら困るので心配です(笑)、だから皆さんに買っていただきたい。
環 : きっとこれをいいと思う奴は将来仕事ができるようになると思うんですよ。つまり、将来僕らにいい仕事を振ってくれる奴が増えるということですね。これで、僕らも将来的にいい仕事をもらえると思うんですよ(笑)
Y : まあ、それは考え過ぎかもしれないけどね(笑) 逆にこのアルバム聴いて解らない奴は、自分が仕事できないって認める事になるから。仕事できるなら、これをいいと思わないとダメだということだね。そういえば、今年もULTIMATE MC BATTLEに出るんでしょ?
環 : うん。こういう事しているとヒップホップって村社会なんで、どんどんはじかれて行く気がするんです。やっぱり、日本語のラップするのも聴くのもすごく好きだからシーンにコミットしたいなと。一番手っ取り早くコミットできるのはMCバトルだと思うんですよ。
—現場感を失いたくない?
環 : 色々な所でライブをしているんですけど、ヒップホップの場所にはあんまり呼ばれなくなってしまったんですよ。最近はいろんなバンドの人とライブ・ハウスに呼ばれる事が多いんですよね。もっとヒップホップの方からもコミットメントしてもらえると思ってたけど、全然ですね。一方的かもしれないけど不満に思います。
Y : ROYはどんな状態でも不満を言ってそうな感じだけど(笑) 不満じゃない状態というのは、どんな状態なの?
環 : もっと俺も呼んでよって。不満はないの? 面白い部分なんてある?
Y : 昔からさんざん日本語はラップに合わないって言われてきたのに、生き残って今でもクオリティの高いものを作っているのはすごいと思うな。
環 : 大人の意見(笑)
—じゃあ、この作品をはじめとする今の活動は、その道へ行くための布石ですか?
環 : だと思いますけど。
—最後に何か言いたいことは?
環 : ヒップホップのイベントに呼んでください!
RELATED ARTIST
環ROY×fragment『MAD POP』
鎮座DOPENESSとのユニット『踵』やフリーキーなフリースタイルで今最重要注目ラッパー環ROYと、クロスオーバーな活動を続けるヒップホップ・プロデュース・デュオ『fragment』のコラボレーション作品 ! REMIXを手掛けるのは、Olive Oil、EVISBEATS、SKYFISH、PITTERS DEN(bayaka) ! !
環ROYxEccy『more?』
国産ヒップホップ新世代の旗手、日常と非日常をシャープに切り取るテクニカル・ラッパー『環ROY』ともはや説明不要、要注目のビート・クリエイター『Eccy』が手を組んだ重要作!!
環ROY『4heroes!』
ジャンルやスタイルを超えて音楽を発信し続けて来たROSEが今日のインディペンデントな音楽シーンを提案するコンピレーション・アルバムをリリース。収録アーティストもDJ/クリエイターからSSW系のアーティスト、パンクからHIP HOP、エレクトロニカにノイズ…と、様々なスタイルでアンダーグラウンド・シーンを賑わす多彩な顔ぶれ。
V.A.『Fighting!!EP』
環ROYと日本のアンダーグラウンド音楽集団LOW HIGH WHO? とのコラボレーションEP。
DJ MOTIVE『CURE』
海外からはKERO ONE、MOKA ONLYが参加し、鎮座DOPENESS&環ROYのユニットKAKATOの幻のアナログ・カット曲も収録!! 生音、ジャズ、メロウな珠玉のアルバムここに完成!
PROFILE
環ROY
ラッパー/MC。2006年、1stアルバム「少年モンスター」でソロ・デビュー。2008年には、Evis beatsらをリミキサーに起用し、と共に「」を発表。またShing02との共演で知られるとも「」をリリースし話題を呼んだ。ポップな声質や日本人離れしたタイム感、型に捉われない自由な感性で新たな国産ヒップホップのあり方を提示している。
- 環ROY website http://www.tamakiroy.com/
- 環ROY blog http://tamakiroy.jugem.jp/
DJ YUI
トラック・メイカー/DJ。2007年、神門、韻踏合組合などなど豪華面子を集結した大阪のトラック・メイカー生中との共作アルバム「Awesome」でデビュー。収録曲DJ YUI×神門の「6月11日」や醍福 (Ziops)「Shake & Flow」などは2007を代表するクラシックとなった。その他にも神門のアルバムやAbnormal Bulum@、にトラック提供するなど、多岐に渡るプロデュースを行っている。
環ROY LIVE SCHEDULE
- 6/27(土) Public/image.FOUNDATION vol.03@代官山unit
- 7/10(金) free! vol.4@新宿motion
- 7/11(土) eetee@下北沢basementbar+wedge
- 7/12(日) neutral nation@新木場studio coast
- 7/19(日) all in the family@徳島funzone
- 7/24(金) fuji rock festival@苗場スキー場(newdeal×環ROY)
- 7/25(土) fuji rock festival@苗場スキー場
- 7/30(木) exPoP!!!!!@渋谷o-nest