音楽に出会ったときは「あ、これは一生できる!」と思ったんです
──なにも考えてないとは言いつつ、自分が作る曲と言葉の結びつきとかを人一倍考えている気がします。
大柴:音楽そのものの立ち位置みたいなことを考えるのが好きなのかもしれないですね。例えば、好きなアーティストの曲を聴いて「この音楽っていいな」って思う感覚って、なんでそう思うんですかね?
──う~ん……なんでと言われても考えちゃいますね。
大柴:「なにが自分のなかに響いたのか」って、意外と考えないと思うし、音楽を好きになる感覚ってあたりまえに思うじゃないですか?でもそれってすごいことだと思うんですよね。歌詞がどうこうっていうのは全部後付けだと思うし、自分に必要なものって人それぞれ違うから。それこそパンで言えば、ベーコンエピが好きな人もいればあんぱんが好きな人もいるだろうし(笑)なんでそれを好きになったのかっていうのは、それぐらいの感覚だと思うんですよね。
──大柴さん自身は、なんで音楽を好きになったんですか?
大柴:それは、ハッキリあるんですよ。昔、柔道をやっていたんですけど、その頃は「これは一生できないな」と思ったんですけど、音楽に出会ったときは「あ、これは一生できる!」と思ったんです。一生できなかったらいまやってないと思うし、好きじゃないと思うんですよね。「音楽」として音を楽しむのは、人が楽しめればいいんです。作り手としては、「音学」として、学ぶ方がいいんじゃないかと思うんですよ。だから一生できる。夢だってそうだと思うんです。自分が「ああいう信念を持った人になりたいな」と思ってもらえたら、人に夢を持ってもらえると思うんです。だから俺は自分が夢を見ないで人に夢を見てもらいたいと思っているんですよ。夢を見てもらうために、客観的な自分がいるんです。
──それは、最初に音楽を一生やっていこうと決めたときに思ったんですか?それとも8年前に「愛」を歌おうと決めたとき?
大柴:『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ』を作ったときは、わからなかったんです。だから、〈やらなきゃいけないこと それだけをこなすのは つまらないと思うんだ〉で終わるんじゃなくて、〈ねえ君はどう思う?〉って訊いてるんです。ブレまくって、色んなことを知っていったんですよね。だから8年後の自分が8年前の自分に〈俺もそう思う〉って答えて、それをモチーフにしたアルバムを作って元に戻って行ったんです。そしてまたはじまって行くんですけど、それは同じところを回っていくんじゃなくて、ひとつ外側を回るために作ったものなので。
──じゃあ、8年前の内側にいた「夢を見る」自分と、8年後の外側にいる「夢を見せる」自分は分かれている?
大柴:分かれてますね。やっぱり、ふたりいないといけないと思っていて。夢を見ることを忘れたらつまらないですから。
──なるほど、夢を見る主観的な自分と、夢を見させる客観的な自分がいて、それがこの先も無限大となって一生音楽をやっていくということですね。
大柴:そうですね、循環させるというか。なぜ主観的なところから客観的なところまでいけたかと言うと、ここ数年ディレクター的な仕事をやることが多くなって、自分よりも20歳ぐらい下の世代と仕事することが増えたんです。感覚も全然違うんですけど、共通項を探すのがめちゃくちゃおもしろくて。例えば16ビートのファンク・ミュージックなんかは世代を飛び越えるんだなって。そこで、自分が知っているものと若い世代の好きなエッセンスを混ぜて行くと、すごく新しいものができるんです。“なに( ゚д゚)しとん︖“なんかはさらにその先に行っていて、こんなかっこいいトラックにはかっこいい言葉が出てくるだろうなっていう予想を思いっきり裏切ってますから(笑)。
──ラップやスクラッチが入っているのは、そういう若い人たちとの関わりからフィードバックされているわけですか?
大柴:完全にそうです。スクラッチのアプローチなんか全然なかったし、サンプリングもいっぱい入れましたけど、結局自分が作るものだけじゃ満足できないんですよ。ちゃんと自分が「どうだ、すげえだろ!」って言えるものをやらないと。しかもそれをあんまり「どうだ、すげえだろ!」って言わないでどれだけできるかっていう(笑)。
──(笑)。承認欲求みたいなものはあんまり前に出したくない?
大柴:だって、あんまりガツガツしてるおじさんみたいなのはちょっとカッコ悪いじゃないですか(笑)。
──でも、「すげえ!」って言われたいですよね?
大柴:それは、言われたいですよ。だってそのためにやってるんだから(笑)。言われたくない奴なんていないですよ。
──でもそこを「言われたい」と思わせないところが慎ましいというか。
大柴:20年前は言ってましたよ(笑)。いまは自分から言わないですけど。知らない人に「すげえ!」って言われたいという気持は常にあります。ただ、ちゃんと循環するものを作っていかないと、続いていかないですよね。それは散々、一過性のものを追い求めていた人がどんどんいなくなってきたのを見てるからなんですけど。
──一瞬で消えていく花火をたくさん見てきたからこそ?
大柴:見たくないぐらいたくさん見たし、その度に「じゃあ自分はどうなんだ?」って問いかけてきたので。その問いかけは間違っていないと改めて思いました。
──この8年間で、自分のなかで確固たるものができましたか。
大柴:できました。これはどこに出しても恥ずかしくないと思ってます。ただ、8年間の作品を全部聴くと5時間ぐらいかかるのでさすがに強要しないですけど(笑)。
──過去作を聴くと、オマージュとか色んな発見はできますよね。
大柴:そうですね。“Mr.LIFE”のオマージュで最後のメロディが終わるんですけど、なんでそのメロディで終わるのかっていうのも、ちゃんと歌詞の中に入っていたりするので。
──これから先は、次の旅に出る感覚ですか?
大柴:次はすでにあるんですけど、それは敢えて口に出さないでおきます。
──前作のインタビューでも、次のことはすでに考えているとおっしゃっていましたよね。
大柴:そうなんですよ。『LOOP 8』というタイトルは前作『光失えどその先へ』にちゃんと書いてありますからね。
──えっそうだったんですか?
大柴:ジャケットの下の方に【2014♡∞8】って逆さに書いてあるので、よ~く見てください。誰も気付いてないと思うけど(笑)。
編集:梶野有希
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PROFILE : 大柴広己
大阪府枚方市出身。印象的な天然パーマ、 ハット、あごひげが特徴。ニックネームは「もじゃ」。2006年アルバム「ミニスカート」でデビュー。ギターと旅行鞄を携え、一年のうちの1/3を旅の中で過ごす「旅するシンガーソングライター」をキャッチーフレーズに活動しており、卓越したギター、誰にも似ていない歌声、思わずドキッとさせられるセンセーショナルな歌詞が評価されている。
ニコニコ動画においても「もじゃ」という名前で活動しており、代表曲「さよならミッドナイト」「ドナーソング」「彼の彼女」「聖槍爆裂ボーイ」などの関連楽曲再生回数は5000万回をゆうに超え、中でも「聖槍爆裂ボーイ」はオリコンウィークリーチャートで最高位2位を記録。
近年では、ディレクター、プロデューサーとしての手腕を発揮し、ミュージシャンによるレーベル〈ZOOLOGICAL〉を主宰し多数の作品をリリース。大阪城野外音楽堂や、Zepp Diver Cityでのシンガーソングライターによるマイク一本の弾き語りフェス『SSW』や、上海や台湾などのアジア圏で弾き語りフェス『GUITARS』を主催するほか、CM作家としての顔。作詞家として5人組ダンスボーカルユニットDa-iCEのシングル曲「FAKESHOW」に参加し、オリコンウィークリーチャートで3位を記録するなど自身の活動に平行して、マルチな活動を行っている。
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