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INTERVIEW : ⼤柴広⼰
⼤柴広⼰のニュー・アルバム『LOOP 8』は、2014年のアルバム『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ』から8年間に渡って「人生にとって必要なことってなんだろう?」をテーマに取り組んできた作品の最終章であり、彼自身の過去から現在を結ぶ1本の道でもある。作品について語る大柴の饒舌な語り口からは、活動開始から20年以上、曲がりくねったその道を音楽への飽くなき探求心と共に歩んできたことがよくわかる。愛猫のこと、家族のこと、そして自分自身について。さまざまな「愛」を音楽に包んで完成させた今作について話を訊いた。
インタヴュー・文 : 岡本貴之
写真 : 斎藤大嗣
そろそろ愛を歌ってもいいんじゃないか
──今回、ジャケットにも曲にも猫が出てきますよね。いま何匹飼っているんですか?
大柴広己(以下、大柴):ずっと4匹飼っていたんですけど、1匹亡くなったんです。もう、ペットロスがすごすぎて、こんなに落ち込むかっていうぐらい落ち込んでしまって。2021年の4月ぐらいに病気になってから亡くなるまで半年ぐらいずっと付きっきりで世話をしていました。だから、前作『光失えどその先へ』(2021年)のプロモーションをやっていた頃は、じつは毎日寝れてない状態で、結構しんどかったんですよ。
──そうだったんですか……。何歳まで生きたんですか?
大柴:11歳です。最期の最期まで生き切って亡くなったなっていう感じで。毎日世話していたので、亡くなってからなにもやることが無くなって、空っぽになってしまったんですよ。
──そのことを歌ったのが “1秒でも⻑く” ですよね。
大柴:本当に、そのまんまの歌です。亡くなった猫はお父さんだったんですけど、お母さんがいて娘がいてその友だちの猫がいるので、残された猫が心配だっていうことを歌っています。ただ、うちの家庭環境を知らない人でも、猫じゃなくて人の家族を想像すると思うので、あえてそのまま歌詞にしました。
──人に置き換えても、誰の人生にも当てはまるかもしれないですね。アルバムは猫との別れから色んな曲に繋がっていった感じですか?
大柴:いや、猫のことはあくまでもきっかけのひとつですね。このアルバムは、8年間作ってきたシリーズの最後の作品なんです。猫を飼うことを例にお話しすると、猫を飼うことって人生において必要なことではないと思うんですよ。変な話、生きていく上では衣食住があればいいというか。僕はもともと、生活のなかで手間もかかる猫なんて飼わなくいいんじゃないかっていう感覚の人間だったんですけど、ひょんなことから猫を飼うことになって、最初は無駄だと思っていたことが、こんなに自分の人生のなかで大きなことだったんだなっていうことに気が付いて。やっぱり、人生において必然性ばかり埋めていくのって、つまんないなと思ったんです。生きるために必要じゃないことをやってるときの方が、後々人生を振り返ったときに、「ああ、あのとき幸せだったな」って思えるんだろうなって、そんなもんなんじゃないかなって思うようになったんですよね。
──それが、「人間が生きていくために大切なこと」を考えてきた8年間の最後のアルバム『LOOP 8』になったんですね。
大柴:そうです。(8年前に)こういうアルバムを作ろうと思ったときまでは、メジャーにずっといたから、組織のなかで作品を作っていて流行に合わせてはめていくような作業が多かったんです。そこからいまのチームになって責任を持ってちゃんと作品を作ろうと思ったときに、テーマ性を持って作る必要があったんです。それで「自分が生きていく上で必要なこと、大切なこと」を考えたら、ジョン・レノンも「愛こそはすべて」って言ってるし、まあ「愛」だろうなと思ったんですよね。30歳になったし、そろそろ愛を歌ってもいいんじゃないかなって。
──それまではそういう意識はなかった?
大柴:なかったです。それまでは、花火みたいにバーッて一瞬で消えていくような刹那的なものばかり追い求めて作ってきたので。でも、自分がどこまで音楽をやるか考えたときに、もっと長く音楽をやりたいと思ったんです。売れるためには、花火みたいにパッと刹那的な方が人はわかりやすいと思うんですけど、俺がやりたいことは線香花火なんで(笑)。継続的に取り組んでいけるテーマが必要だったんですよね。それで『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ』(2014年)のなかで愛をテーマに歌ったんです。
──まさにタイトル通り、“それを愛と呼べる日“が来るとは思わなかったわけですね。
大柴:そうなんです(笑)。自分のアルバムのなかで、愛なんて語るとは思わなかったんですよ。ただ、「愛」はテーマじゃなくてそれを持ってどう生活するかっていう手段だったことに気が付いて、『Mr.LIFE』(2016年)を作って、自分はいまとこれから先を生きていきたいと思ってライヴアルバム『MOJA MOJA LIVE COLLECTION VOL.2』(LIVE)を作って。そうやっているうちに、自分に協力してくれる人がちゃんとわかるようになったんです。そういう人たちをちゃんと愛するための人間関係を構築するために愛が必要なんだということで、今度は『人間関係』(2018年)を出して。でもその人間関係って絶対無くなるから、その先にある光を求めて生きていかないといけないと思って『光失えどその先へ』(2021年)を作ったんです。そのときにもう次のアルバムは考えていて、「LOST」(失う)して、その先の「LIGHT」(光)を取り戻すには、「LOOP」して「LOVE」(愛)に戻るしかないなと思って。そう考えたら8年前に遡るわけで、8を横にしても「LOOP」のOOを並べても、∞(無限大)になるなと思って。不思議なんですけど、『それを愛と呼べる日が来るとは思わなかったよ』(2014年)の1曲目が“ビューティフルライフ“という曲で、そこに戻って聴いてみたら、〈やらなきゃいけないこと それだけをこなすのは つまらないと思うんだ ねえ君はどう思う?〉って、今回のアルバムのなかのテーマが歌い出しの冒頭に全部出てくるんですよ。〈ねえ君はどう思う?〉っていうことを問いかけるこの8年間だったみたいな。