アートワークとMV撮影について、カメラマンと語る
撮影は彼自身が自分の日常に向き合っているっていうイメージで
──今回、カメラマンの斎藤大嗣さんに、アートワークやMVの監修をお任せしているそうですね。このインタビューの撮り下ろしも担当されています。
谷口:一度お話させていただいたときに曲のイメージをお伝えしたんですけど、そのときにジャケットとかMVについて、「こうしたい」という指定はしていなくて。曲の感じから齋藤さんがイメージを膨らませてくれたんだと思います。
斎藤大嗣(以下、斎藤):打ち合わせというかインタビューしたときに、音楽自体はシンプルで歌詞もストレートで日常を歌っているということで、ストレートで仕掛けがいらないっていうイメージでした。じゃあ、外に出て撮りましょうと。「ステップアップと言うほど大層なものじゃないけど、いまいる地点よりも少し前に出てくる感覚」っていう、会話の中に出たフレーズだけ拾った感じですね。
谷口:そうですね。ルーティンのなかから、ちょっと前に進もうっていうモードに入った人が主人公の方が良いなって。抜けきったわけじゃないけど、落ち込んだ底の方でもなくて、ちょっと上がり出しているっていうのが、今回の曲には合うという話はしました。
斎藤:僕の方では、とにかく「人間を撮りに行った」というだけです。ジャケットって正方形じゃないですか? そのなかで、ここに彼がいて、この空間があって、そこに見る人のストーリーを寄せてくださいよっていう分量だけ決めたんです。別に僕の中で、「谷口さんにこういうことをしてほしい」ということじゃなくて、楽曲が入ったこの正方形の中のこの分量のうちここぐらいに谷口さんの姿があって、あとはちょっとだけ前に出てる感覚があって、じゃあそれが森なのか海なのかっていう話をしていたなかで、「空だよね」っていうことになって。その下にあるのは、「営みの街」っていうだけで、そこを選んで撮影しました。基本的にジャケット自体はシンプルで、なにもいないっていう。突っ込まれれば突っ込まれるほどなにもなさが出てくるけど、僕はそれが良いなと思ってます。
谷口:本当に、特に仕掛けがあるわけじゃなくて、街があって空があって僕が立ってるっていう。それぐらいの方が僕は撮られやすかったです。
──谷口さんは、普段は写真を撮られること自体どう思っているんですか。
谷口:できるだけ、「無」になりたいと思ってます。自我が入ってくると恥ずかしくなってくるし、いろいろ考えすぎるので。だから言っていただけたら、それをやるという。そんなに写りたい人間じゃないので、写るときは言われたようにやります。
斎藤:だから、なにも指示してないんですよ。光が良いところを選びたいので、時間は僕の方で指定させてもらいましたけど。選ばれた写真は夕方なんですけど、朝も撮っていたんです。朝はここで撮って、夕方はここで撮るっていう。でも画角はほぼ一緒です。歌詞も日本語で長いので、スススってデザインが入ったらいいなっていうイメージも込みで、ジャケットの12cm×12cmのフォーマットにハマるイメージでアー写兼ジャケ写両方を踏まえて撮りました。それが正方形で使われなかったとしても、それはそれでいいんですけど。
──“僕はミスを認めます”のMVはどんな内容になったんですか?
谷口:MVには自分も出ているんですけど、あんまり出ない方が好きで(笑)。今回みたいに出るときは、いただいた絵コンテを見てOKするっていう感じです。今回は外の景色でジャケットと風景がリンクしていて、リップシンクをこういうところで撮って、という感じだったので、「これならできます」と。作品が良くなるかどうかの以前に、俺ができるかどうかっていうのもあるんですけど(笑)。たぶん、そこを考えてくださってたと思います。
斎藤: MVって、曲調に合わせてめちゃくちゃネタを仕込んでおもしろく見せるパターンとストレートに見せるパターンのどちらかだと思うんです。今回は曲がストレートだということもあって、歌っているシーンも撮ってはあるんですけど、歌詞を追ったりとかもしていなくて。「ボディソープとシャンプーを間違えた」という歌詞があるけど、それをやっちゃうと結局それは出てもらうことになっちゃうし、ご本人が出演しなくても成立させられる楽曲だと思うんです。それはなぜかというとめちゃくちゃ日常で、みんなが思っているようなことを歌っているから。出演してもらうにしても、人の営みが交差する感じじゃないと思ったんです。渋谷の街で彼が立っていてバーッと人が動いている感じじゃない。人の気配は感じるんだけど、彼自身が自分の日常に向き合っているっていうイメージ。だから、撮ってはいるけど、最終的には出ないなら出ないでも成立するようには撮ってます。
──出来上がったら谷口さんは映ってないかもしれない(笑)?
斎藤:そう、そう(笑)。
谷口:ははははは(笑)。
斎藤:でもせっかく1日スケジュールをもらって、ヘアメイクさんも呼んだんで出てもらいました。もし“ランラン”の方を撮るとしたら、逆に本人が出ないで、子どもたちが公園で遊んでいるとかっていうネタを仕込んでもいいかもしれない。今回MVの曲として選ばれた“僕はミスを認めます”は、本人以外が出るか誰も出ないかのどっちかだと思っていたんです。
谷口:この曲は誰もがハマる内容の歌なので、俺が主役で出るよりは、俺は出てるけど、みんなが日常を考えながら聴ける作品、MVだと思います。