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INTERVIEW : 谷口貴洋
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⾕⼝貴洋の新曲は、両A⾯シングル「僕はミスを認めます/ランラン」。なんとなく対極な印象を受けるタイトルを見ただけでは、いったいどんな歌なのか想像がつかない。前作の配信曲のタイトルは「ベタ」だし、一筋縄ではいかない独特のボキャブラリーを持ったアーティストだ。そんなことを思いながら聴いてみた今作は、共にガッツリした明るいバンド・サウンドで、爽快な歌声に元気がもらえる楽曲だった。⽇本テレビ系『NNNストレイトニュース』のウェザー・テーマとして2023年1⽉〜3⽉にオンエア中の“僕はミスを認めます”の話を中心に、日常からどのような発想で音楽が生まれるのか訊いた。さらに、今回ジャケット・アーティスト写真からMV撮影の監修までを手掛けたカメラマン・齋藤大嗣氏にも話に加わってもらい、作品を包括的に語ってもらった。
取材・文 : 岡本貴之
写真 : 斎藤大嗣
ミスがあってもおもしろがれるぐらいのテンションで日々生きていたい
──前作のアルバム『Endless Beauty』から今作に至る前に「ベタ」という曲を出しましたよね(2022年9月21日配信リリース)。そこでは「まともになっちゃいけないと ポップになんかならないと」と、葛藤しているような歌詞が気になったんですけども。
⾕⼝貴洋(以下、谷口):人間誰しも、陰と陽の部分があると思うんですけど、「ベタ」を書いているときは“つまんねぇぞ俺”とかのモードに近いというか、どちらかというと陰の部分が多かったと思うんです。でも、「ポップになんかならない」と思っているのは、じつはすごくベタでポップなことなんですよ。要は、「自分にしかできないことをやるぞ」って言ってるわけですから、それって人にとってはすごくベタじゃないですか?
──確かに、アーティストとしては当たり前のことですね。
谷口:そうですよね(笑)。人と同じことをやりたいと思っている方が少ないわけで。「まともになっちゃいけないと ポップになんかならないと」っていうのは、じつはいちばんベタでポップなことを歌っている自分に対して、「なに言ってるんだろうなこいつ」って皮肉っているんです。「人に愛されたい」とか「みんなと同じようになりたい」って言える方が、それは逆に孤高だしっていうことを歌えたらなって。実際、「ポップになんてならない」って自分を貫いて美しい人ももちろんいるんですけど、自分のなかで、そういう思考で曲を書くというのは、逆にダメなルーティンに入ってるときなんですよね。変に小細工するよりも、自分が聴いていた音楽や観てきたものの影響を受け入れて出した方が、よっぽど個性的になるという気持ちがあるので。
──なるほど、歌っている内容の額面通りに受け取ってました。あえての“ベタ”というタイトルなんですね。
谷口:そうなんです。「特別なことをしよう」ってベタなことを意識せずにやろうぜっていう。だからサビで、「コンビニの肉まんの温もり」っていう歌詞を書いたんです。それぞれが生きていくなかで、なにか温もりを感じた瞬間とか、劣等感を感じた瞬間とかが、日常で人それぞれに積み上がっていってるので、特別なにかをするよりはそれを信じて作品を作る方が、よっぽど自分にしかできないことになるんじゃないかなって思います。
──“僕はミスを認めます”は、キラキラしたイントロからグッと惹き寄せられます。8ビートでリズムを刻んでいますけど、アコギは16ビートで跳ねたニュアンスを出していますね。どんなイメージでアレンジしているのでしょうか。
谷口:デモの段階では、リズム隊はまったく入れずにアコギとエレキだけを入れて、16ビートでガガガガっていくイメージだったんですけど、今回のお話(⽇本テレビ系『NNNストレイトニュース』のウェザー・テーマ曲に起用)をいただいたときにレコーディングまでにそれほど時間がなかったんで、まずバンドメンバーと意識を共有しなくちゃいけないっていう気持ちがあったんです。
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──タイアップの話ありきで、制作に臨んだわけですね。
谷口:そうなんです。曲は2年前ぐらいからあって、いつもやっているギタリストの(宮崎)遊君と仮アレンジみたいなことは話し合っていたんですけど、具体的には考えていなくて。タイアップのお話をいただいてレコーディングすることになったときに、普段のアレンジは自分で考えてそれぞれのミュージシャンに投げることが多かったんですけど、今回はイメージを共有してから「ギターはこういうテイクが良い」とかっていうことを、ひとりじゃなくてみんなの頭を借りて一気に録ろうというモードでした。それで最終的に8ビートの刻みを入れようとか、家でキーボードを入れてくるとか、少ない時間のなかでどうするか相談しながら制作したので、いままでのレコーディングとはだいぶ違うアプローチになりました。
──最初の方はクリーンな音で時計のように淡々とリズムを刻んでいる印象だったんですけど、やっぱり歪んだギターも入ってるんですよね。爽やかそうな曲でもこういう音は入れますよね。
谷口:それは入れたいんですよ。遊君がそういうギターが上手いというのもあるんですけど、あんまり綺麗すぎて終わるのは好みじゃないので。短い時間でいろいろやると収拾がつかなくなるので、音を絞っていこうという話もしていたんですけど、結局歪んだギターは入れたいということになって。2Aの「ジャジャッジャジャッ」っていうフレーズは、何パターンか弾いてもらって入れました。
──「こういうイメージで」というリクエストはあったんですか?
谷口:お昼前のお天気コーナーなので、多少はありました。ただ、歌詞とメロディはそのままでやらせてもらいましたし、この曲に関してはもともと持っている雰囲気が合っているので、曲が導いてくれたアレンジになったと思います。
──昼間のテレビの生放送から自分の歌声が聴こえてくるってどうですか。
谷口:不思議なもんですね(笑)。ずっと日本テレビをつけていて、いろいろやっているうちにその時間になって自分の声が聴こえてきたら、「不思議だなあ」って思いました。
──ネット上で反響とかチェックしてます?
谷口:マネージャーによると、「“僕はミスを認めます”っていう曲が天気予報の曲をやってるのがおもしろい」という反響があったみたいです。リリース前には、「あれ誰の曲?」っていう声もありました。
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──歌い出しの「やっぱり少し寝過ぎてしまう ちゃんと起きてればあれが出来たな」っていう歌詞は、今朝起きたときに本当にそうだなって思いました(笑)。こういう日常で感じることって書き留めておいたりするんですか。
谷口:いや、それはないです。メロディに合いそうなユーモアのある辛辣にならない言葉をここに入れたいなって、そのときに思いついたあるあるみたいな歌詞を入れてます。「後輩と思ってた⼈ めちゃくちゃ年上らしい」っていうことも、よくありますよ。とくにミュージシャン同士だと年齢とかわからないじゃないですか?
──人間、ミスを認めたくないときも多いと思うんですけど、どうして“僕はミスを認めます”という曲にしようと思ったのでしょうか。
谷口:とくにこの時期、みんな神経質になっていたりしますよね。昔は村社会というか、みんなで助け合って生きていくみたいな世の中だったと思うんですけど、いまは「尊重」という言葉を使って、「ひとりひとりを尊重して生きましょう」っていう世の中だと思うんです。だからみんなが審査員だし、みんなが審査される対象だし。それがあまりにも、「尊重」という言葉で過剰になってきているなって。そういうときに、「お互い様」っていう気持ちを持って生きた方が楽しいし、人のミスも自分のミスも笑いながら「次、頑張ります」ってやっていった方が、俺は好きやなっていう思いがあったので、それを曲にしようと思いました。しかも、直接的にしたかったんです。「なんか過ちを犯すよね」とかフワっとするんじゃなくて、“僕はミスを認めます”っていう。俺に認められたところでどうやねんっていう話なんですけど(笑)。
──ははははは(笑)。
谷口:でも「俺はいいよ、ミスを認めるよ」っていう。変に神経質なものって自分に返って来るし、人を認めないと自分も認めなくなるし。誰だってコケるし、アクシデントは起きるし、そんなことで1回1回へこむことはないし、ミスを認めてやっていこうぜっていう。たださえ暗い社会で、そんなつつき合うような生き方はやめようぜっていうことを、わかりやすい言葉で書いたのが、“僕はミスを認めます”。
──人によっては、「みんな、ミスを認めようよ」っていうような歌になる場合もあると思うんですよ。でも、そうやって投げかけるわけでなく、“僕はミスを認めます”って歌うところに谷口さんの特徴が出てますよね。
谷口:強制するものでもないからというのもあるんですけど、やっぱりミスを認められる余裕があるときと、“認めます”と言いながらイライラしてるときもあるんですよ。その両方をおもしろがりながら、でも基本はちょっと認めますぐらいに重心を置いて行きたいというか。人のミスも自分のミスもおもしろがってやれるぐらいがちょうど良いと思うんです。だけど、「クソ~!」と思ったり、「こいつ!」ってなるときもあって。余裕があればできるけど、余裕がないときも、もちろんあるよっていう余白は残しておきたいんです。「どんなときであれ認めろ」っていうのは、ちょっとやだなって。ミスがあってもおもしろがれるぐらいのテンションで日々生きていたいという気持ちで書いた曲ですね。
──昔は認められなかったけど、みたいな年齢による変化もありますか。
谷口:それもありますね。あとは、環境やと思います。友だちが増えたりとか、話をできる人が増えたりとか、そういうことがこういう形で出ていると思うんです。昔は、バンドを組みたいと思っても全然仲間がいなかったり、高校時代に軽音楽部に行ったけど全然趣味と合わへんなということで、結局ひとりでやることが多かったです。20、21歳ぐらいのときは「弾き語りで頑張る!」って力が入っている状態なのでまわりも見えないし、「クソー!」と思いながら毎日生きてたし。それが、先輩に会ったり友だちができたりとかして、「世の中おもしろいかもな」って思考が変わってきたというか。自分が変わろうとしたというよりは、環境が変わったことで(自分も)変わったんだと思います。だから、なにか原因があってシャットアウトされたら、「またあの頃に戻っちゃうかもしれない」ということはちょっと考えますけどね。
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