変わっていくものに対して落ち込むんじゃなくて、変わらないものもちゃんとある
──もう1曲の“ランラン”はどうやって録ったんですか?
谷口:“ランラン”も、“僕はミスを認めます”と同じバンドで録りました。この曲もそれほど時間に余裕がなかったので、「こういう感じで」というイメージをみんなで答え合わせをしながら作った感じです。2曲に共通して言えるのは、俺がエゴイスティックにこう、というのではなく、結構みんなの意見を聞きながら作ったということですね。いままでは、俺の方からフレーズを投げたりすることが多かったんですけど、今回は音作りからなにからみんなと相談しながらやってましたね。例えば、エレキギターの音ひとつにしても、声との重なり合いを考えると、ロー、ミドル、ハイの出方をコントロールしなくちゃいけないので、そうなったときに自分の好みのギターの音と、声の聴こえ方のバランスをギタリストの遊君にお願いして、アンプの音を作ってエフェクターの設定をして、俺は弾くことに徹するという。それこそ、そのときはヤクルトスワローズのエフェクターを踏んで弾いてました。
──そんなエフェクターがあるんですか?
谷口:あるんですよ。ディストーションとオーバードライブがあるんですけど、両方とも買って、“ランラン”のRから聴こえる方は普通のクリーンな音ですけど、Lの方はスワローズのオーバードライブで録ってると思います。ちょっとクセがある音がするんですよ。
──そこは東京ヤクルトスワローズへの愛も込めて谷口さんが弾いているわけですね(※スワローズの話は別枠で掲載)。“ランラン”はすごくキャッチーな曲ですね。
谷口:ありがとうございます。リリースが3月に決まっていたので、普段はあんまりやらないんですけど、季節感を持たせた曲を書こうと思ったんです。でも、もろに春の曲っぽいのは書けないなって。じゃあどんなテーマで書こうかなと思ったときに、春は出会いや別れのシーズンだし、ずっと枯れてた花がいきなり咲いたりとか、変化がある時期なので。「変わっていくものと変わらないもの」をテーマにしました。まずひとつ、みんな共通して変わるのは子どもから大人になるということで。それこそ自分がサッカーをやっていた頃のことを考えると、「みんながなにも考えていないから、俺もなにも考えてない」みたいなモードだと思うんです。アホみたいな感じで、友だちに導かれてガーって体を預けてたらめっちゃ先生に怒られたりとか(笑)。それはそれですごく楽しい記憶なんですけど、そういうことをいまやっているかというと全然やってないし、センチメンタルな気持ちになるなって。

──だから、「あの頃のおもちゃはもう埃をかぶってしまっているけど」という歌詞があるわけですね。
谷口:当時の遊んでいた記憶は埃をかぶっているけど、唯一変わっていないのは、あのとき見た空といま見てる空は一緒だってこと。身近な悩みがあるとどんどん視野が狭くなって、悩みが蓄積されていくじゃないですか? でも、唯一変わっていない空っていうのは、その先に宇宙があって、まだなにもわかってないわけですよ。理解できないものが、ずっと変わらずに俺たちを見守ってくれているっていう。だから、身近なもので目に見えてるものって、理解したようになってるけど、結局考えすぎているだけで。いちばん変わってないもの(空)は理解もなにもできないものなわけだから、いまこんなに考えこんでいてもしゃあないわっていう気持ちにしてくれるんです。
──なるほど、そんなこと考えたこともなかった。
谷口:子どもの頃にやっていたスーファミはもう電源がつかなくなってるとか、色々変わって悲しくはなるし、いまは大人になって社会的にこうしなきゃいけないとか、身近なことで悩みはあるけど、「変わってはいるけど変わらないし、わからないものがそこにある」っていう。目の前ばかり見ずに、空を見上げて行こうぜっていう気持ちを曲として書けた感じです。
──人生感が表れてるというか、テーマとしてはなかなか大きいですよね。
谷口:でもすごく身近なことだと思うんです。考えてもわからないことばっかりだし、「考えずに行こうぜ」を、じゃあどういう言葉で言おうかって思ったときに、“ランラン”っていう言葉になりました。
── “僕はミスを認めます”と“ランラン”の関係は、テーマとしてちゃんと結びついたところがあるわけですね。
谷口:そうですね。目の前の小さなミスを認めて、空だったり広がっている世界をもっと見ようぜっていう。それに、変わっていくものに対して落ち込むんじゃなくて、変わらないものもちゃんとあるよっていう。俺としてはそこで繋げたかったので、両A面シングルにしました。

──この2曲の先には、どんなことを考えてますか。
谷口:去年、フル・アルバム『Endless Beauty』を出したときに、次はそんなに曲数が入ってないEPを作りたいなと思ったんです。この2曲はバンド・サウンドなので、アコースティックな曲を作りたいなとは音像としては考えていて。そこのバランスで6、7曲のEPが良いかなと考えています。ただ曲を作るだけじゃおもしろみがないので、自分でいろいろ構築しながらやっていくなかで、この2曲はEPにも入って良いアクセントになってくれるんじゃないかなと思います。ポップな曲ではあるので、逆の振り幅としてマニアックな曲や自分で爪弾くような曲、完全に打ち込みで作ったりとか、この2曲が中心にいてくれたらいろんな音楽にチャレンジできるなって思ってます。
──リリース後に、ライヴの予定はありますか?
谷口:4月14日(金)に東京調布市のせんがわ劇場で、〈谷口貴洋ONE MAN LIVE〉を開催します。弾き語りや、エレキギターを交えたり、アコースティックセットでバンドっぽくやったり幅広くやろうと思っているので、ぜひ遊びに来てください!