常に世の中と勝負していきたい
──“なんでもないようなことが なんでもないような⽇々が なんでもないような君が僕は好きなんだ”では、冒頭ではSNSを連想することを歌っていますけど、そこから先は大柴さんが歌を作る理由みたいなものが伺えます。
大柴 : これも、7曲目と8曲目が繋がっているんです。7曲目で〈愛はどこへいくのでしょう 愛はどこにあるのでしょう?〉って歌って、8曲目の“あい”に繋がっていくっていう。そして“歳をとること”に対して、人生は続いていく、 “LIFE GOES ON”からその先の光に行くぞって、1曲目に戻るんです。
──そこに戻るということは、コロナ禍が明けない状態にまた戻っちゃいますよね?
大柴 : からなんとなく繰り返して繰り返して、いまいるこの世界を拡張していくしかないのかなって。人間の根本にもう完全に刻み込まれた、例えば「すし詰めの空間が怖い」っていう気持ちも、ずっと残るような気がしていて。
──ライヴでもこの先お客さんがマスクを外して一緒に歌うというのも、いまは想像できないですもんね。
大柴 : むしろそれがやりたいがために、有観客ライヴは一切やってないですね。もともとライヴの醍醐味ってそこなので。「キャー!」「うるせーボケッ!」とか言いたいがためにやっているので、お客さんからそういう声が返ってこないと一方通行になっちゃうから、それは俺が望む形じゃないなと思うんですよね。だったら配信ライヴで「自宅で叫べや、ボケが~!」って歌った方がおもしろいし。自分が無症状で感染してたら会場のお客さんにうつしてしまうかもしれないとか、自分が責任を取れないことになってしまうのが嫌で。旅をしない理由もそこなんです。だからやっぱりこの先、共生していくしかないのかなって。
──これだけいままでにないことが起こっている状況だと、いままで作ってきた作品とは心の持ち方も違ったんじゃないかと思います。こうしてフル・アルバムを完成させるために、どんなことを考えていたのでしょうか。
大柴 : いままではレコーディング現場にマネージャー、エンジニア、レーベル〈ZOOLOGICAL〉のチーフ、プロモーターって色々な人がいて。だからレコーディング現場って全員を楽しませるという面も含めて、曲を書いたり歌ったりするんです。でも今回は、ドラマーの沖田(優輔)が自宅の6畳間を防音してドラムを叩けるスペースにしているんですけど、その普段練習している場所でそのままレコーディングしたんです。そこそこ歳も近いミュージシャン3人しかいなかったので、思いっきり悪ふざけできましたね(笑)。そういう意味ではすごく純粋というか、ブレないで作れたというか。1曲目なんて、落語みたいに喋ったりとかラップしたりとか、4オクターブの声を出したりとか、いつもみたいに色んな人がまわりにいたらやらないですよ(笑)。メンバー3人で制作する上で、思っていることをそのままフィルターを通すことなく出したら、いろんなことが出てきたんです。
──そういう意味では、純粋にやりたい音楽を楽しめたのが今作ですか。
大柴 : そうです、俺がもともとやりたかった音楽を20年越しにやってみたらこうなりました。その間いろいろやってみた上でこうなったんですけど、めぐりめぐっていちばん今っぽい作品かもしれないですね。

──大柴さんってシンガー・ソング・ライターですけど、今作はバンド感がすごくありますよね。やっぱりバンドが好きなんですか?
大柴 : 全然そんなこだわりはないんです。昔は弾き語りとか、バンドだとかいろいろあったんですけど、自分がギター弾いて歌ってれば、いまはもうなんでもいいかなって。いろんな仕事をやっていてわかったんですけど、「大柴広己はシンガー・ソング・ライターだ」っていう誇りを持ってできるようになったから、ギターを弾いても弾かなくてもいいし、丘みどりさんの「明日へのメロディ」を作詞させてもらったように、演歌歌手に歌詞を書いてもいいし。でも「シンガー・ソング・ライター」っていうのがなくなると、なにかよくわからない人になるじゃないですか? それが昔はすごく怖かったんです。でもいま、俺はシンガー・ソング・ライターとしてやってるので、その注釈のもとでおもしろいことができれば、極論「料理番組やってます」とかでもいいんです(笑)。
──これからの活動ってなかなか先を読めないとは思うんですけど、どう思い描いていますか?
大柴 : 俺が表現したいことって、自分のエゴでしかないと思っているので。自分が旅に出たいからどうこうっていうところじゃなくなってくるというか、世の中の動向とかあたりまえのことと、戦っていくしかないと思うんですよね。ミュージシャンは自分の表現だけ追及していればいいっていう人もいますけど、俺は全然そうは思わなくて。そこだけで完結せずに、常に世の中と勝負していきたいし、世の中がどう動くかをすごく注視して、そこから俺がどう動いていくのかなっていうことを考えた方がおもしろいんですよね。何億人に届くことじゃなくていいから、世の中と自分がちゃんとコミットできる場所を常に探していますね。

編集:梶野有希
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PROFILE : 大柴広己

大阪府枚方市出身。印象的な天然パーマ、 ハット、あごひげが特徴。ニックネームは「もじゃ」。2006年アルバム「ミニスカート」でデビュー。ギターと旅行鞄を携え、一年のうちの1/3を旅の中で過ごす「旅するシンガーソングライター」をキャッチーフレーズに活動しており、卓越したギター、誰にも似ていない歌声、思わずドキッとさせられるセンセーショナルな歌詞が評価されている。
ニコニコ動画においても「もじゃ」という名前で活動しており、代表曲「さよならミッドナイト」「ドナーソング」「彼の彼女」「聖槍爆裂ボーイ」などの関連楽曲再生回数は5000万回をゆうに超え、中でも「聖槍爆裂ボーイ」はオリコンウィークリーチャートで最高位2位を記録。
近年では、ディレクター、プロデューサーとしての手腕を発揮し、ミュージシャンによるレーベル〈ZOOLOGICAL〉を主宰し多数の作品をリリース。大阪城野外音楽堂や、Zepp Diver Cityでのシンガーソングライターによるマイク一本の弾き語りフェス『SSW』や、上海や台湾などのアジア圏で弾き語りフェス『GUITARS』を主催するほか、CM作家としての顔。作詞家として5人組ダンスボーカルユニットDa-iCEのシングル曲「FAKESHOW」に参加し、オリコンウィークリーチャートで3位を記録するなど自身の活動に平行して、マルチな活動を行っている。
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