「自分に近すぎると言葉にできない病」なのかも
──“つまんねぇぞ俺”がアルバムリード曲になっていますが、これは以前にもリリースしていた曲ですよね。
谷口:そうです。そのときはバンド一発録りで出したんですけど、アルバムに入れる上で自分の歌とギターを録り直して、コーラスも入れ直しました。
──インパクトのあるタイトルで、感情の起伏と音がしっかり繋がってると思いました。この曲をリード曲にしたのはどうしてですか?
谷口:昔からずっと大事に歌ってきた歌なんです。これは、さっきお話した「降りてきた案件」なんですよ(笑)。本当に5分~10分できた曲で、構成もメロディもすっきりと自分で納得した曲なので、そういう曲を「谷口貴洋です!」って聴いてもらえたらいいなと思いました。
──“つまんねぇぞ俺”って繰り返すところが耳に残ってすぐに口ずさめますよね。そこに「降りてきた」感じがあるんでしょうね。
谷口:そうですね、歌いやすいですし。本当にパッとできた曲です。
──なんでこういう言葉が出てきたんですか?
谷口:当時、俺からしてみたらすごく魅力的なところもたくさんあるのに、ちょっとしたことに引っ張られてうじうじしている人がいたんです。それを見て、そんな時間はもったいないしつまらないから、逆ギレでもなんでもいいからやってみればいいのにって思ったんです。それで“つまんねぇぞ俺”という言葉がでてきたんです。
──そういう周囲への観察眼があるというか、ご自分と曲との間に距離があるというか、客観的に見るところから曲が出てきてるような気がしますけど、どうなんでしょう。
谷口:感情は自分から出るものですけど、感情を理解するのは誰かを見たときだと思うんです。そういう意味で言うと、自分のことを言語化することが下手なのかもしれないです。すごくうじうじしている時間が自分にもあるけど、それを言語化しようとすると、くっつきすぎてて言葉にならないんですよね。ただ、客観的にそういう人を見ると言語化できる。「自分に近すぎると言葉にできない病」なのかもしれないです(笑)。
──ひとつ気になったんですけど、“今⽇は⼀歩を踏み出した”の “今日は”っていう感覚について教えてもらえますか。
谷口:人間、ずっと調子が良いことってないじゃないですか? 自分の経験で言うと、ミュージシャンの集まりがあるからって誘われて行ってみたんです。その日は気楽にワーッと喋れたんですけど、次にまた行ってみたら全然喋れなくて。「今日は上手くいったな」「今日は上手くいかんかったな」っていう、毎回を踏み出すというのはなかなかハードルが高いもんやなっていうのがあったので、そんななかで“今日は一歩を踏み出せた自分がいた”という意味です。“今日も”って言うと毎日一歩踏み出さなアカンってなるし、それをずっと続けようと思うとしんどいから、“今日は”です。
──このアルバムのなかで、谷口さん自身が思いっきり出ていると思う曲を挙げるとどれですかね? 僕は“夢を⾒るんだ”がそうなんじゃないかなと思って聴いていたんですけども。
谷口:もちろん全体的に自分が入ってはいるんですけど、“夢を⾒るんだ”とか、“ムショク”がそうですね。変化しているというか、「いままでの感覚じゃない自分に変わってきているな」ということを理解しながら書いた曲で言うと、この2曲です。
──いままでの感覚というのは?
谷口:「ちゃんとしよう」と思っていたことをちゃんとしなくなったりとか、「どうでもいいや」と思っていたことが気になるようになったりとか。服装とか言葉遣いひとつにしても、煩わしく感じたりするときに書いた曲はたぶんこの2曲ぐらいなのかなと思います。“夢を⾒るんだ”を書いたのは結構前なんですけど、20代半ばで周りに会社で出世する人、プラプラしてたけど就職した人、家族を持った人とか、同世代を意識していたし、このときは「なんで上手くいかへんのやろ」みたいなこともすごく強い時期やったと思います。
──もともと弾き語りでリリースされていた曲ですが、今回は宅録っぽい印象でした。
谷口:これも“キレカケ”と同じ方にアレンジしていただいたんですけど、自分で宅録でフレーズを決めたものを投げて清書してもらうような感じでした。弾き語りだとフォークソングっぽくなっちゃうので、もう少しノリを出したくて打ち込みだけでエレキとアコギだけ生で録ってます。アレンジャーさんのスタジオで、YouTubeで色々見ながらどんな音色が良いか考えながら作ってました。
──色んなリファレンスを元に作ったわけですね。ヒップホップとかブラックミュージック寄りな音楽を参考にしたんですか?
谷口:ビートはあんまり不規則にならないように、ヒップホップっぽいもので作りました。ただ、言葉の詰まり方、ビートのはめ方が結構そっち系なので、あんまり露骨にそっちに行きすぎないようにしました。どちらかというと、ポップス系のベルが鳴ってる感じを意識してましたね。それと、いつも一緒にやっているギタリストの宮崎遊君がサイケデリックなフレーズが得意なので、それが後ろで鳴ってたらおもしろいと思いながら作りました。
──“あの⼦の歌声を聞いたとき”も、デモっぽいニュアンスを残している気がします。
谷口:この曲も、自分でデモをガッツリ作ったんですけど、次の日に違う曲のレコーディングが決まっていたんです。そのためにリハスタに入ったときに新曲として“あの⼦の歌声を聞いたとき”のデモを聴いてもらって、そこからみんなで合わせて、「せっかく明日レコーディングだからこの新曲も録ろう」ということになったんです。考察時間が1日しかなかった分、デモアレンジからそのまま引き継いでレコーディングしました。