満足してる感じになっちゃったら終わり
──アートワークや曲からも伺えますけど、スピリチュアルが今回のテーマなんですか?
マハラージャン : スピリチュアルというところまでいくのかわからないですけど、『THE FIRST TAKE』に出て、音楽をもっとイメージの世界のものとして捉えていいなと思うようになったんですよ。メジャー・デビュー前までは宅録するのが基本のスタイルだったんですけど、今回みたいに肉体的な部分、歌手としてイメージを持ちながら歌うことで、自分のなかですごく変わりましたね。それは絵を描くことにちょっと近いというか、イメージの世界でものを作る感覚がすごくあったので。今後の制作とか音楽への向き合い方の変化へのきっかけになりましたし、音楽ってそういう神聖なものなんじゃないかなっていう風にも思いました。
──アルバム『僕のスピな☆ムン太郎』は、サードEP『セーラ☆ムン太郎』と4枚目EP『僕のスピな人』を合わせて、ボーナス・トラック1曲を加えた全11曲収録ということですが、『セーラ☆ムン太郎』で得た反響が曲づくりに影響したこともありました?
マハラージャン : 反響を踏まえたというよりは、これまでと違う作り方、チャレンジングな作りにはなってます。『セーラ☆ムン太郎』まででやったことは、わりと自分のなかではお家芸的な得意な部分だったんですけど、今回の『僕のスピな人』は、音楽的に新しいところに挑戦している感じはだいぶあります。
──先行配信された“僕のスピな人”は、8ビートで疾走するロックチューンですが、こういう曲はこれまで出てこなかった?
マハラージャン : そうですね。しかも“僕のスピな人”は歌詞から書いたんです。それまでの曲は全部、音楽メインで考えていたので、音楽ができてからどういう歌詞を乗せるのがいいかっていう考え方だったんですけど、“僕のスピな人”に関しては、歌詞ができてから「こういう音楽が呼んでそう」っていう感じがしたんです。今まではファンク、ダンス・ミュージック的なものが中心だったんですけど、そこと違って少しエモーショナルなロック・テイストなものを自分なりに作りました。
──この曲がEPの表題曲でありアルバムのビジュアル・イメージとも繋がっていますよね。歌詞はどんな発想で生まれたのでしょうか。
マハラージャン : 「スピ」って色々とおもしろい言葉で。スピリチュアルもありますし、スピリットとか、インスピレーションとか、そういうイメージがあるんですけど、それを使って歌詞を考えてみたときに、この歌詞が出てきたんです。もともとの着想としては、「夏」の連想ゲームから出てきたんです。夏って怖い話とかしたりするじゃないですか? それとか不思議な現象のイメージとかがあって。ただ、そういうところは曲には露骨には出てないですけど。「夏だぜ!」みたいなことをやるのは自分らしくないなと思ったので。これがちょうど良いところだと思います。
──たしかにマハラージャンさんから夏とかビーチだとかあんまり想像できないですけど、会社員時代にキャンプとかバーベキューとかってやったのでは?
マハラージャン : 1回行ってすごく楽しかったんですけど、それっきり誰も誘ってくれなかったので(笑)。行きたいは行きたいですけど、やっぱり会社員時代から休みさえあればずーっと音楽を作っていたので。そういう誘いを全部断ってきたというのもあるんですよね。何かを作ることに時間を割きたいというか。学生の頃からバイトもなるべくしないで、「時間があるんだったら何かを作らなければならない」というところもあって、自然とそういうものと距離ができた感じですね。ダフト・パンクとかジャミロクワイがめちゃくちゃ好きで、「どうしたらそういう先人たちのような音楽を自分でも作れるんだろう? 自分でもそういう音楽を作りたい」という思いが強いので、それができない限りはダメだっていう思いでずっと今まで来ています。
──音楽に専念できる分、いまはそういう思いが新しい音楽への挑戦にもつながっているわけですね。 “次行くよ”は、すごくグルーヴ感があって、これはかなり手応え、バンドの一体感を感じている曲なんじゃないですか?
マハラージャン : ありがとうございます。“次行くよ”、“行列”、“地獄 Part2”の3曲は、同じ日にハマ・オカモトさんと石若(駿)さんと僕の3人でやったんですけど、レコーディングもこのメンバーで2回目だったので、音楽的アイディアも豊富にやりとりできてすごく楽しかったんです。とくに“次行くよ”に関しては、演奏しながらアイディアが出てきてる感じのテイクなんですよ。ハマさんと石若さんが一緒に演奏して共鳴しあっているときのテイクを収録していて。たぶん、音楽的に相当おもしろい曲だと思います。
──ハマさんも弾きまくってますね。
マハラージャン : すごくノって弾いてくれてましたね。「こういう感じの曲を弾くのは、はじめてかも」って言ってくれて、そういう意味ではチャレンジしている感じも良い方向に出ているかもしれないです。
──印象的なトランペットのソロをはじめホーンが入っていますけど、これは?
マハラージャン : ソロは真砂(陽地)さんに録ってもらいました。ホーンは遠隔で録ってもらっていて(Alto sax & Tenor sax & Trumpet:竹上良成)、鍵盤の皆川(真人)さんも今回は遠隔でレコーディングに参加しています。
──曲の内容としては、アップデートしていこうということ?
マハラージャン : というよりは、落ち込むとわりと長いタイプなので(笑)、そういうことはいいから次に行こうという、常にブーメランのように自分に返ってくる曲ですね。
──落ち込むことや、自問自答するようなことがこれまで多かったわけですか。
マハラージャン : これまでもそうですし、全然いまもあります。
──今回フル・アルバムができたことで、会社員時代のご自分に落とし前をつけた感じはあるんじゃないですか? デトックスした状態というか。
マハラージャン : いやでも、また溜まってきてます。常に出ては溜まるので。
──これだけ注目を集めていたら、自尊心も満たされるんじゃないですか。そうでもない?
マハラージャン : いや、全然そういう感じもないですね。あと、そうなったらダサいと思っているところもあって。満足してる感じになっちゃったら終わりだなって。僕のなかでの「カッコイイ、ダサい」という基準のなかではそういうので満足しているのはダサいんですけど、でもどこかで満足している気持ちもあって、「俺ダセえな」って思いながらそれと戦ってます。
──そう思ってしまうのはどうしてなんでしょう。
マハラージャン : いろいろ挫折の多い人生だったので、カッコつけてる人への嫉妬とか、上手くいってる人へのやっかみとか、仕事できる人のマウントに対しての嫌悪感とか、そういう気持ちですね。