心を照らす「あかり」のような存在へ──津田朱里が紡いだ『COLOR OF LIGHT』の物語
Suara、上原れなを擁するレーベルF.I.X.RECORDS所属の歌手、津田朱里。3rdアルバム『COLOR OF LIGHT』には、TVアニメ『WHITE ALBUM2』挿入歌“Twinkle Snow ’13”やゲームソフト『ドカポンUP! 夢幻のルーレット』のOP&ED曲など数々のタイアップ曲や今作のために書き下ろされた新曲も収録されている。前作から約7年ぶりのリリースとなる今作、彼女はどのような想いを込めたのか。彼女からのメッセージをお届けします。オトトイにて配信中の、DSDも含むハイレゾ音源(限定特典の歌詞カードが付属します)と併せてお読みください。
前作から約7年ぶりの新作(歌詞カード付き)
やっぱり自分は音楽が好きなんだな
インタヴュー&文 : 前田 将博
前作から実に約7年ぶりとなる3rdアルバム『COLOR OF LIGHT』をリリースする津田朱里。今年2020年は、2010年に「WHITE ALBUM2 -introductory chapter-」のEDテーマ“Twinkle Snow”でデビューしてから10周年という節目の年でもあった。
「正直まだ実感が沸いていなくて(笑)。10年って長いですけど、デビューしてここまで来るのは時間があっという間に過ぎた感じですね」。
本人はこう話すが、音楽的な成長とともに、歌に対する姿勢も変わってきているようだ。
「デビューする前は“楽しい!歌うのが好き!”でやってきたのが、レコーディングなどで自分が用意してきた歌い方が生きないことも多々ある事を実感しました。最初の頃はそのギャップに戸惑うこともあったんですが、長年歌っていくうちにプラスに捉えられるようになって、自分ひとりでは思い付かない新しい引き出しを見つける事が出来るんだなと思うようになりました」
また、ゲームやアニメのタイアップを軸に活動していくなかで「沢山の人が関わって作る作品に楽曲として参加している!という責任感が強くなった」という。その分、作品にピタリとハマった曲に仕上がった時の喜びも、より大きくなった。一方で、時が経っても変わらずにあるのが「音楽が好き」という揺るがない気持ちだ。そんな思いが、彼女を突き動かし続けている。
「色々と落ち込む事があっても、新しい音楽に出会った時に花火が上がるような衝撃やドキドキする感動を得たり、好きなアーティストのライブ映像で元気ややる気をもらったりとか。そんな時は改めて、あぁやっぱり自分は音楽が好きなんだなって感じています」
記念すべきデビュー10周年。2月には同じく10周年を迎えた「WHITE ALBUM2」のイベントが予定されていたが、新型コロナの影響で中止となってしまった。在宅時間が増える中でも「家でボイトレだったり、音楽制作活動、色んなアーティストのライブ映像を見たり…音楽へのモチベーションを上げるようにしています」と、自分なりの工夫をしながら過ごす日々が続く。
それぞれの色、光、季節を感じて欲しい
そんな状況を経て完成させた今回のアルバム。タイトルは『COLOR OF LIGHT』だ。同作には、7年間で歌ってきたタイアップ曲や、12月10日に発売されるゲームソフト「ドカポンUP! 夢幻のルーレット」のOP・ED曲、そしてアルバム用の新曲を含む全13曲が収録される。今作にはどんな思いが込められ、どのように完成されていったのか。
ーまずはアルバム発売おめでとうございます。
津田:ありがとうございます!自分で言うのもおかしいですが、“満を持して!”といった感じでしょうか(笑)。節目の年でもあったので、このタイミングでリリース出来た事は嬉しかったですね。
ータイトルにはどのような意味が込められているのでしょうか。
津田:過去のアルバムよりもバラエティに富んだ曲が多く、たくさんの色・カラーがあるなと思いこのアルバムタイトルにしました!“LIGHT”には光、灯りの意味がありますが、津田朱里の“あかり”とのシャレも入っています(笑)。
ー光のなかで手を伸ばし、掲げている姿がデザインされたジャケットも印象的です。
津田:ジャケットデザインもカラフルなデザインに仕上げていただきました!初回限定盤のデザインは四季も感じますしね。このアルバムを聴いた人がそれぞれの色、光、季節を感じていただけたら嬉しいです。
自然と歌い方もドラマチックな歌になった
アルバムの前半には“僕はいつだって”のようなロック曲やテクノポップ調の“り・いんかね~しょん”など、タイアップ曲やシングル曲がリリース順に並べられている。「改めて並べて聴くと振り幅が凄いですよね(笑)」という津田の言葉通り、バラエティ豊かな楽曲に改めて驚かされる。 その1曲目を飾る“Twinkle Snow ′13”は、7年前に放送されたTVアニメ「WHITE ALBUM2」の挿入歌だ。アニメの中で流れたことで、これまでのファンとは違う層にも、彼女の歌声が届くこととなった。同曲のオリジナルバージョンであるデビュー曲は1stアルバム『Key of Dreams』に、アコースティックバージョンが2ndアルバム『WAVE OF EMOTION』にそれぞれ収録されており、今回は形を変えて3度目の収録となった。個性豊かな曲たちに、本人はどんな思いを巡らせているのだろうか。
ー“Twinkle Snow ′13”は発売から7年を経て、待望のアルバム収録となりました。個人的には、TVアニメの放送から7年も経っていたことも驚きでした。
津田:私も驚きです!アニメが放送されていた頃は、イベントや東京国際フォーラムでのコンサートなど「WHITE ALBUM2」一色で、とっても濃い時間を過ごさせてもらっていたのが懐かしいですね。
ーこの曲は津田さんの活動を振り返る上でも、重要な楽曲ですよね。
津田:デビュー曲でもあり、自分自身思い入れはとても深いです。今回のアルバムを含め、発売した3枚全てに別アレンジで収録されているってすごいことですよね。改めて「WHITE ALBUM2」が多くのファンの方から愛されていることを感じます。
ーレコーディングを重ねる中で、どのようなことを心がけていらっしゃいましたか?
津田:ゲームの「WHITE ALBUM2」ファンの方々も多くいらっしゃるので、歌い方をオリジナルから何か変化を付けようと意識したことは無かったですね。ただオリジナルの“Twinkle Snow”と少しアレンジというか空気感が変わっているので、たとえば生バンド編成や生のストリングスが入ったことにより、自然と歌い方もドラマチックな歌になったかなとは思います。ほんの少しですが(笑)
ー2曲目の“僕はいつだって”以降、さまざまな曲調や歌い方に挑戦されていて、改めて振り幅の広さに驚かされました。
津田:津田朱里のイメージってバラードだったり、温かい感じのミディアム曲を思い浮かべる人が多いのかなと思うので、タイアップ曲では新しいことに挑戦出来て楽しかったです。
ーその中で特に印象深い曲はありますか?
津田:“僕はいつだって”はずっとやりたかったロック曲ですし、「ティアーズ・トゥ・ティアラII 覇王の末裔」のOPは上原れなさん、EDはSuaraさんで決まっていて、挿入歌だけオーディションだったので「絶対に私が歌うんだ!」って気合いが入っていました!私の声質は太い方じゃないので、バックの音に負けないか心配はありましたが、どこにアクセントを置くか、Aメロ、Bメロ、サビでそれぞれストーリー性を持たせたりとか考えたりして、切なさと疾走感のあるロックに仕上げていったのを覚えています。
ー配信シングル“メロディ”はノンタイアップ曲ですが、いまの季節にぴったりの楽曲ですよね。
津田:もうすぐクリスマスということもありますが、今年は思うように日々を過ごせなくて、お家で一人で過ごす方も多いかと思います。例年とは違うクリスマスになるかもしれませんが、“メロディ”を聴いて大切な人や場所を思い浮かべてもらえればなと思います。私もこの曲を聴いていつも応援してくださっている皆さんの笑顔を思い浮かべたいと思います!
ーこのパートの最後には、これから発売されるゲーム「ドカポンUP! 夢幻のルーレット」のOP・ED曲も収録されています。OPの“Chance It!”は軽快な曲調に合わせた、無邪気な歌声が印象的でした。
津田:今回のゲームは家族や友達とワイワイ楽しめる内容となっていたので、“Chance It!”のディレクションでは“複数人の子供達が楽しく合唱してるイメージで”と指示を受けました。またチャレンジしたことのないジャンルだな…とも思いましたが、ぶっつけで仮歌を録音してみたら、荒削りながらも意外と形になっていて。後は本番に向けて童謡や子供番組の曲を沢山聴いて、Aくんは元気に、Bくんはわんぱくに、Cちゃんは可愛い女の子など、3パターン歌い分けが出来るくらいにキャラクターを作ったつもりです。自分なりにですが(笑)
ー一方のED曲“これからくる未来”は、同じ作品の曲でありながら、より等身大に近い歌い方をされているように思いました。
津田:こちらもOPに合わせて可愛く明るく歌うイメージでいたんですが、こちらは“津田朱里としてストレートに歌ってくれたらいいよ!”と言っていただいたので、歌詞の内容から前向きさ、力強さを感じたのもあり、シンプルながらも歌詞のメッセージを受け取ってもらえる歌い方を意識しました。
物語を語るように言葉を一つ一つ大事に紡ぐ
最新のタイアップ曲を経て、アルバムの後半は新曲のパートへと突入する。歌手・津田朱里が作家たちとゼロから世界観を作りあげるこれらの曲たちを通して、作品の世界観をベースに構築していくことが基本のタイアップ曲とはまた違う姿を堪能することができる。
津田自身やレーベルメイトの上原れななど、4曲すべて違う人物が作詞していることもあり、どれも前半の曲たちに負けじと、それぞれの個性が光る楽曲に仕上がっている。特にせつない歌詞とメロディが胸を打つミディアムテンポの“ひとひらの愛”から、ラストを飾るバラード“回想列車”への流れは圧巻で、まさに津田の真骨頂とも言えるような歌声にぐっと引き込まれる。
また“ひとひらの愛”をはじめとして、今作でも半分以上の楽曲で作・編曲を担当している衣笠道雄が亡くなったことが、今年7月に公表された。これまでフィックスレコードやアクアプラス作品の数々の名曲たちを世に送り出しており、津田もデビュー当時から深く関わってきた。そんな衣笠への思いも、このアルバムには込められている気がしてならない。
ー新曲についてお聞きしますが、“My Wish~いつの日もいつまでも~”は津田さんご本人が作詞も担当されています。もどかしさを抱えつつも、力強くあろうとする「僕」の姿が描かれていますが、どのようなイメージで作詞しましたか?
津田:この曲の歌詞は自分の憧れの思いが詰まっています。過ぎていく時間の中で、人も街も変化していきますが、その中でも友情だったり愛情だったり強い想いは変わることなく不変であって欲しいなと思って。それが顕著に表れる思春期の、身体や心が大きく成長していく男の子を主人公に書かせてもらいました。また“僕”目線の曲が一つ増えましたね(笑)。
ー津田さんの歌詞には、これまでもたびたび「僕」が登場していますよね(笑)。
津田:アルバム曲の中で歌詞を書かせもらう時は、“僕”目線の歌詞が多い事に気付きました(笑)。男性目線の方が冷静に、客観的書きやすいのかなぁ。なので次に機会がある時には、女性目線の情熱的で艶やかな歌詞にも挑戦してみたいですね。
ー“星になった少年”は一転して別れの曲で、津田さんの優しい歌声とファルセットが染み入りました。この曲はどのように生まれたのでしょうか。
津田:この曲、初めて聴いたのが津田朱里としてデビューするずっと前、もう14〜5年前になるんです!私がまだ音楽の専門学校で学生として通っていた頃ですね。実はフィックスレコードに入るキッカケとなったデモテープにも収録されていた曲なんですよ!
ーそんなに前からある曲だったんですね!
津田:作詞、作曲してくださった高阪昌至さんは、学校の先輩で、音楽パートナーと言っても良いくらい影響を受けた方なんです。当時はデモテープのお手伝いとかで高阪さんの楽曲をたくさん歌わせて頂きました。今回念願叶って一緒にお仕事が出来て感激でした!
ーなるほど!それは感慨深いですね。
津田:アルバムのために高阪さんと新曲を作る案もあったんですが、過去にレコーディングして世に出ていない大好きな曲が沢山あったので、その中から当時ワンコーラスのみの音源だった「星になった少年」を新たにフルサイズで作っていただきました。
ーノンタイアップでありながらも、すごく物語を想起させる曲であるように思いました。
津田:別れの歌でありながらも、悲しさはあまり感じなかったんですよね。歌詞にもあるように、僕は旅立ってしまったけれど、彼が残してくれた喜びの種は彼女の中でしっかりと根をはって育ち、空へと、彼が残した夢を乗せて伸びていく。そんな希望を持たせてくれる内容になっていると思いました。ぜひ、高阪さんが作る曲の世界観に浸ってもらいたいと思います!
ーこの曲の次に収録されている“ひとひらの愛”が、個人的には今作の中で一番好きな楽曲です。
津田:嬉しいですね~!ありがとうございます。
ー特にサビのメロディが素朴でありながらもすごく美しく、まっすぐな歌詞もすごく切なくなりました。作詞は上原れなさんが担当していますよね。
津田:初めて曲を聴いた時、素朴さのなかにも切なさや温かさを感じたので、作詞は登場人物の繊細な心理描写がすごく上手いなと思っていた、上原れなさんにお願いしました。電話で打ち合わせをしたんですが、大まかなイメージをお伝えして、後はれなさんにお任せしました。私の意図を汲んでそれ以上に良い歌詞にしてくださるって確信があったので。打ち合わせは数分で終わって、後はお互いの近況などを長々と…(笑)。どこかカフェで会って話したら良かったね~ってくらい喋ってましたね。
ーその繊細な歌詞と曲が重なって、本当に素敵な楽曲だと思います。
津田:今回のアルバムの中で最後にレコーディングした曲で、衣笠さんが残してくださった楽曲という事もあって大切に大切に歌いました。
ー衣笠さんへのお気持ちや印象深いエピソードなど、もし差し支えなければ聞かせてください。
津田:アクアプラス作品の音楽に欠かせない素晴らしい音楽家でありながら、お人柄は朗らかで温かく、いつも優しい気持ちと笑顔で見守ってくださっていました。私がレコーディング終わりに不安げな顔をしていた時も気づいて「良かったよ!どーんと構えといてよ~」と優しい言葉をかけてくださったりしたのを覚えています。衣笠さんが残した楽曲は、聴いてくれる皆さんの心に残り続けますし、私自身これからも大切に歌い続けていきたいと思っています。
ーアルバムの最後を飾る“回想列車”は旅立ちを感じさせる曲で、肩の力が抜けていながら、その裏にある強い芯や、秘めた決意のようなものも強く感じました。
津田:はじめてデモを聴いた時、色んな表情の付け方がありそうな楽曲だな~とワクワクしていました。なので歌詞が仕上がってから方向性を決めようと考えていました。半田麻里子さんが作る、糸を紡ぐような繊細な言葉と、それでいて前向きな歌詞を生かせるようにするにはどうしたらいいか…それに加えて3拍子、ワルツ調、和な雰囲気と、なかなかチャレンジし甲斐のある楽曲でしたね(笑)。
ーこの曲が最後に置かれていることで、アルバムを通して聴いたときのストーリー性や、余韻が強まっているように思いました。どのようなことを意識して歌いましたか?
津田:登場人物の気持ちと情景を自分のなかに落とし込んで、物語を語るように言葉を一つ一つ大事に紡ぐ事を意識しました。聴いてくれた人の旅立ちを後押し出来るような、変わらず側に寄り添うような曲になればいいなと思っています。
「はじめから決められていた未来は/変えられるものだと/気づいたときから心は動き出す」。「回想列車」の歌詞には、こうつづられている。本来ならばファンとともに祝いたかったであろう、記念すべきデビュー10周年。しばらく先の見通せない状況が続きそうではあるが、きっとこのアルバムは多くのファンにとって、まさしく心を照らしてくれる「あかり」のような存在となるのではないだろうか。
津田自身も「まずはいまの状況が良くなって、世の中の方々が少しでも幸せに暮らせる生活になるように願っています。そして自分自身としては、今回制作したアルバムを沢山の人に聴いて頂いて、少しでも元気を届けられたらいいなと思っています」とメッセージを送る。
「今後また皆さんの前で歌える機会が出来たならば、精一杯自分の歌を届けたいと思っています」。そんな力強い誓いと、このアルバムを携えて、11年目へと歩を進めていく。
編集 : 西田 健
『COLOR OF LIGHT』のご購入はこちらから
過去作はこちらにて配信中
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PROFILE:津田朱里
2010年3月に人気ゲーム・ソフト「WHITE ALBUM2 -introductory chapter-」EDテーマ『Twinkle Snow』でデビュー。その後、「WHITE ALBUM2」、「星の王子くん」、OVA「ToHeart2ダンジョントラベラーズ」、「AQUAPAZZA」、「ダンジョントラベラーズ2 王立図書館とマモノの封印」などの主題歌を担当する、F.I.X.RECORDS所属のアーティストです。
【公式HP】
https://fixrecords.com/akari/