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ここ数年、ノイズ系のアーティストの名前を聞く機会が格段に増えたように思う。例えば、FREEDOMMUNEで多くの観客を前に披露された灰野敬二やMERZBOWのステージ、非常階段のアイドルやヴォーカロイドとのコラボレーションなど、何かと話題は尽きない。しかし、彼らはいずれも活動歴30年に及ぶベテラン。実際のところ、今のノイズ・シーンはどうなっているのだろうか。きっと有望な若手もいるだろうし、ベテラン勢を凌駕する勢いを持ったアーティストもいるのではないか。
そんな疑問を解決すべく、多くのノイズ・アーティストを世に送り出しているレーベル[…]dotsmarkを運営する平野Yと、ノイズ・プロジェクトGOVERNMENT ALPHAで活動する傍らレーベルXERXESの運営も行っている吉田恭淑に、話を聞いた。話が進むにつれて、彼らのノイズに対する熱は徐々に加速していき、聞いているこちらまで深みに嵌まってしまいそうになる。2人は、ノイズを聴き始めるには、今がいいタイミングだと語る。今までなかなか触れる機会がなかった人たちも、これを機にノイズの世界に足を踏み入れてみてはどうだろうか。その世界の奥深さを知ったら、抜け出せなくなってしまうかも… 。
進行&文 : 前田将博
国内ノイズ・レーベル[…]dotsmarkから、ノイズ音源リリース開始!
GOVERNMENT ALPHA / SEVENTH CONTINENT
前世紀94年に本格的に活動を開始し、積極的なリリースとライヴ、海外ツアーを繰り返しながらエレクトロニクスの様々な可能性を模索し続け、現在は一貫して徹底的なHARSH NOISE STYLEをとりつつEXTREME MUSICの究極型を今なお追求している吉田恭淑a.k.a. GOVERNMENT ALPHAが放った00年代最後のオリジナル・フル・アルバム! GOVT.Aが誇る大音圧・大音量を以て暴走するハーシュ・ノイズが描き出す、人類が虚無の最果てに夢想する「第七大陸」の風景とは?
【販売価格】
mp3 : 単曲 200円 / アルバム 1,000円
WAV : 単曲 200円 / アルバム 1,000円
ENDON / ACME APATHY AMOK
2011年に発表された1stアルバム。エクストリーム・ミュージックにおける様々なスタイルのハイブリッド化に奇跡的な均衡感覚でもって成功させている一枚。これはDeathspell OmegaのMikko Aspaに言わせれば「トラディショナルなジャパニーズ・ノイズを21世紀に向けて決定的にアップデートした事件の証拠品」である。
【販売価格】
mp3 : 単曲 250円 / アルバム 1,000円
WAV : 単曲 250円 / アルバム 1,000円
コンクリートで固められたカセットテープ作品(吉田恭淑)
——お2人は、普段どのような感覚でノイズを聴きますか?
平野Y([…]dotsmark / 以下、平野) : 普通に気軽に聴いてます。
吉田恭淑(GOVERNMENT ALPHA / 以下、吉田) : 僕も普通にロックを聞くような感じで聞いてますよ。自分のノイズ音源制作している時は、気分転換にGerman New Waveとか、最近だとJukeやGorge(インド~ネパールの山岳地帯のクラブ・シーンで生まれたジャンル。低音の強調とタムの連打が生み出す呪術的なグルーブが特徴)を聞いたりだとかしますけど。でも基本的にはノイズが多いです。
平野 : メタルやパンクとか他のジャンルと一緒にiTunesに入れて、全く同列に聴いてます。そして他のジャンルと同様「熱い!」とか「構成うめえ!」「音立ってる!」とか思ったりする。
吉田 : 「音立ってる!」ってよく分かんないけど(笑)。まあ、構成や音圧はもちろんだけど、基本的には音色の好みで入り込めるかどうかっていうのが重要かも。
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——それこそ、電車の中とかで。
平野 : もちろんそういった聴き方もする。
吉田 : ノイズをそんなに特別なものとして思ってないんですよね。
平野 : クラブでパワエレかかったら普通に盛り上がりますよ。僕は!
——ライヴに関してはどうですか?
平野 : 聴き込んだり凍り付いたり拳突き上げたりモッシュしたりダイヴしたり。
吉田 : 盛り上がってくると自然とグルーブが出来上がってくるし、観客との一体感みたいなものも生まれますね。ただ、ちょっとダウナー系の陰鬱なサウンドのものは、もっと内面に向かって沈んでいく感じですけど。
——そういうものは、みんなどういう風に聴いているんですか?
吉田 : 床に座ってじっと聴く感じですね。去年くらいからヨーロッパとかで、ハーシュ・ノイズ・ウォールっていう、一時間位同じ音がゴーって鳴ってるだけっていうジャンルが、東ヨーロッパとかで流行ってるんですけど、そういうサウンドは垂れ流しにして聴いてるんじゃないですかね、部屋で。
平野 : ハーシュ・ノイズ・ウォールのライヴは客も棒立ちだし演奏者自体が機材ほっぽって寝そべってたりしますね、YouTube見てると。あれは現代のノイズの中で特に極端だから評価されてる部分もあるんでしょうね。ノイズの誕生以降、嫌がらせとか頭おかしいとかいう言葉で片付けられかねないパフォーマンスをしてる人は世界中にいたと思うんですけど、最近は普通に楽曲としてのクオリティを絶対的価値としてやってる人が多数派な様に思いますね。そして実際にそういう意味でのクオリティは高くなって来ている。価値基準の変化に伴って装丁の奇抜度は重要視されなくなっている様に思います。う○こ付きとかアンタイ・レコードとかやってた一時期のもの凄さに比べればですけど。
吉田 : ノイズが出始めの頃って、死体写真をジャケで使ったりとか、聴かせるよりもインパクト重視という要素があったと思うんですよね。でも、1990年代に入ったくらいから、本気で好きになって、突き詰めて聴けるジャンルになってきた。そういえば、カセットテープ作品一つ買うのにもコンクリートで固めてあったりしたから、やたらと重かったし、そのコンクリを割らないと聞けなかったから、全ての行為を含めてノイズだと思ってて。
——それは、ノイズというものがジャンルとして確立して来たってことなんですかね。
吉田 : そうですね。ノイズっていうシーンがあるし、ファンもいるし、レーベルも世界中に無数にあるんで。
平野 : 世界レベルで日々切磋琢磨してますね。むしろ日本は世界からはぐれかけてるかも知れないくらい。
吉田 : それは言えるかも。
——ノイズというと、非常階段や灰野敬二、ボアダムスなどの活動歴が長いアーティストがまず浮かびます。今のシーンの中心にいるのは、やはりそういったバンドになるのでしょうか。
吉田 : 一般の音楽をあまり聴かない人に「ロックといえば誰?」って聞いたら、ストーンズなんかの名前が挙がりますよね。それと同じように「ノイズといえば?」と聞けば、「非常階段」とすぐ言われる時代なってきたんじゃないんですかね。でも実際には、他にもいろんなバンドがいますよ。なかなか表面には出て来ないだけで。ロックがオルタナやグランジとかに派生していったように、ノイズも新しいスタイルのサウンドが時代とともに産まれているのは確かです。僕自身は自分のサウンドをエレクトロニクス・ノイズとして括っていますけど。
平野 : まずボアダムスや灰野さんは「ノイズ」というタームで語られるべきじゃないと思うんですが、第一級のアーティストだとは思ってます。
世界的に相互作用とか化学変化みたいなものが働いた(平野)
——吉田さんはノイズ・シーンに於いて20年近く活動されていますが、どのような変化を感じましたか?
吉田 : その時々の流行というか、音の変遷がありますよ。演奏形態にしても、最初は楽器やエフェクターを使ってノイズを出していたのが、だんだんラップトップ系になっていったり。サウンドにしても、ハーシュ・ノイズからエレクトロ・アコースティックや無音系音響が流行ったり、それからアンビエントやドローンになったり、(Kazuma)Kubota君みたいなカットアップ・ハーシュ・ノイズの人が出てきたり。その都度面白いアーティストが出てきて。最近の日本だったら、Hakobuneとか冷泉辺りのドローン関係の動きが面白いですね。彼らなりの新しい感性でサウンド・メイキングをしているので、決して昔のドローンの焼き直しなんかじゃないですし。ハーシュ系ではScum、Jah Excretion、Meta-Frindそして黒電話666とか。黒電話666はあのどっしりした本当の黒電話を機材として使って、ライヴ中に受話器に向かって絶叫したりしてる(笑)。これは彼の美学なんだろうね。
——平野さんはいかかがでしょうか?
平野 : 僕が自分でノイズをやったり音源を作り始めたのは2000年前後なんですけど、その数年前からちょっとしたノイズ・ムーブメント的なものがあって、一般誌とかでノイズの特集が組まれたりすることがしばしばありました。僕らは明らかにその影響下にあった。また同時期から00年代中盤まで電子雑音というノイズ専門誌があって、僕らの世代にとっては電子雑音の存在は非常に大きかったと思います。電子雑音があったから、日本のノイズと平行して日本以外のノイズを取り巻く様々な状況とジャンルの多様性をほぼリアル・タイムで俯瞰することが出来た。これまでイマイチ要領を得なかった日本のノイズ以外=日本にはほとんど根付いていないパワー・エレクトロニクスやマーシャル系、インダストリアルの系譜とかスイスのアクショニズムみたいな連中とか。世界にどんな奴等がいてどんなレーベルがあるかといった非常に具体的な事です。これらの情報を手に入れる切っ掛けを得て、送り手にも受け手にも広い選択肢が与えられたと思います。近年の日本のノイズの傾向としてはインプロビゼーションとかジャズ的なものを指向する風潮が薄い様に感じます。脱ジャズ的、脱サイケ的、脱プログレ的。ニュー・ウェーブやノー・ウェーブを聴いていた世代を経て、今はハードコアとかグラインドとかメタルとか聴いて育った世代がノイズをやっている様に見えます。それで楽曲を構築することをすごく意識していて、演奏も普通に上手い奴等が多い。この10年間は大きく取り上げられるような新たな存在が現れることは少なかったかもしれませんが水面下で着実にシーン全体の練度が上がっていくという期間だった様に思います。僕が実際に出入りして来た場所にはハーシュ・ノイズのスタイルを取るアーティストが多かったと思いますがハーシュ・ノイズっていうスタイルが、そう名付けられて更にノイズの本流みたいに捉えられたのはいつ頃なんですかね?
吉田 : 90年代初めにアメリカのマクロニンファというバンドが、スタジオ・ライヴの映像を送ってくれたんです。それを見たら、自分の家の地下室でドラム缶に火を焚いて、もやが立ちこめる中で馬鹿みたいに爆音でノイズを出してて(笑)。そういうのが出始めた頃にはもう、ハーシュ・ノイズって言い始めてましたね。ハーシュって、ざらついたとか、不快なって意味があるので。あと、90年代後半からインターネットが普及し始めたじゃないですか。それで急速にノイズの情報や交流が広まっていったっていうのがあります。よりいっそうコアな日本のノイズや、そのマクロニンファとかいった恐ろしいバンドが知られるようになって(笑)。ノイズ・シーンに置いてですけどね。それでまたそういう存在を知ったのをきっかけに、日本や海外の人がノイズを始めたりしてという。
平野 : 00年前後は皆自前のWebsiteやってましたね。それでメールでやり取りしたりとか。インターネットと、あとCD-Rというフォーマットの役割は00年代前半のノイズ・シーンでは大きかったかも。
——ノイズの中では、今もハーシュ・ノイズの閉める割合が高いですか?
吉田 : ノイズといえば、ハーシュ・ノイズのイメージが強いですからね。Bandcamp(アメリカの音楽配信サービス)なんかで見ても多い気がします。特に東ヨーロッパ系が今一番多いかもしれないです。ハーシュ・ノイズに関しては。なんだか日本の90年代を見てるような感じがします。
——日本から広まっていったものが、世界的にも流行っていると。
平野 : 多分世界的に相互作用とか化学変化みたいなものが働いたのではないでしょうか。日本の若い世代もハーシュが多いですね。なんでハーシュばっかりかっていうとやっぱり結局は日本のノイズのDNAを継いでるって事なんだと思ってるんですけど。
吉田 : 海外のコレクターの中には、日本のノイズっていうだけで、音源買い集めているようなマニアックな連中もいるからね。
——日本のシーンとしては、今どのような感じなのでしょうか。
平野 : ノイズ関連のイベントは今ものすごく多いですね。毎週のようにどこかでやってます。若い人も以前からやられてる人も。海外アーティストの来日も多くて日本のアーティストと共演したり。こういった動きは多分東京だけの話ではなくて全国的に。レコード屋は無くなった店もあるけど代わりに新しい店が増えた。あとノイズとバンドの接近というのは近年顕著な出来事の様に思います。エクストリーム・ミュージックとしてのノイズとバンドの融合も進んでますね、東京だとENDONとか。
吉田 : ENDONはバンド形態で、ノイズが2人いて、ドラムがいて、ギターとヴォーカルがいるっていう。それでいて、徹底して音を叩き出して打ち砕いて辺りに雲散させていくカタルシスは、何ともいえない爽快感がありますよ。
平野 : ピュア・ノイズっていうよりは今の時代に現れた新しいスタイルのハードコアと解釈してますけど。あと「地獄のコミュニケーション」とか... 。
吉田 : アンダーグラウンドでノイズをやってる人が一同に介して、スタジオ貸し切ってライヴするっていう。何バンドくらい出るんだっけ?
平野 : 毎年50くらいは出てますね。昼から夜中まで、終電過ぎてもやるって感じで。
——ノイズだけで50?
平野 : 「地獄のコミュニケーション」はノイズのイベントというよりは総合的なエクストリーム・イベントなんでノイズだけじゃないですけど、ノイズの人もわりと出てて。ノイズだけでっていう話だと「NOISE ANALYSIS OF NEW AGE」っていうイベントが以前にありました。それは、日本の特に若手のノイズの人を中心に、20組くらい集めて一日中やるっていう。若手しか出ない割には結構な人数が来ましたね。
——バンドの数もかなり多くいるんですね。
吉田 : 世界中それぞれの国にいるし、今やアフリカにだってノイズのバンドがいるくらいですからね。
平野 : 多分どこにでもいます。日本国内も東京、大阪、名古屋はもちろん北海道から沖縄まで全国にいますね。
——多くの国にノイズが広まってきていると。ENDONやKazuma Kubotaなんかは、ピュアなノイズというよりは、他のジャンルの要素が混ざってますよね。そういう傾向は、比較的最近のものなんでしょうか。
吉田 : 時代の流れというよりかは、最終的には演奏しているアーティストのセンスになると思いますよ。少なくとも僕の周りには、時代に合わせて音作りをしているアーティストはいませんし。僕が音楽を聞きはじめた80年代なんて、独自の発想で面白いことをやってる人がたくさんいましたからね。でも、Kubota君のようなサウンド・スタイルを持って出てきた人ってのは、久しぶりかな。彼にしても、これ(dotsmarkリリース『Two Of A Kind』のCD)が全てじゃないというか。最初は別名義でハーシュ・ノイズやって、そのあと個人名義になってカットアップに変化しつつも、新しいユニットとしてアンビエント・スタイルもやったりして。そういった流れがあったうえでの本作なんだろうなって。今これが彼にとって居心地いいサウンドなんでしょうね。だからこのアルバムだって、彼にとってはあくまでも通過点だと思いますよ。
平野 : これは自分の考えだったり友人の受け売りであったりもするんですけど、ENDONやKazuma Kubotaもそうですが他ジャンルの要素を入れてみたりバンド形態だったりっていうことはノイズを音楽の中の一素材として取り扱っているということだと思います。最近の世代が何故そういったことに取り組んでいるかと言うと「ノイズ」という表現手法が既に存在する時代に育ったからではないでしょうか。先の世代の方達のノイズを体験して育って、その結果「ポスト」的な行動としてただひたすらノイズを追求するだけでなく構築を目指す事になった。ロックとかの「ポスト」的なものといったら大体脱構築に向かってるけど、ノイズでは真逆の現象が起きている。構築の為にはノイズを素材として使うことも自然にするし、ノイズの中に非ノイズ的なものも取り入れて来る。むしろ非ノイズの部分に参照されるものにこそ作家の個性が顕われたりもしてくる。例えばKubotaくんの音なんかはノイズ以外にもシューゲイザーとかに言及しなければ説明できない。アビシェイカーに至っては屈託なさ過ぎてもうノイズなんだかノイズじゃないんだかすら分からない、とにかくなによりも異物さ加減がパないみたいな感じになってる。逆に世代的には若いけど頑ななまでに純粋ノイズだったりオールド・スクール・スタイルを貫く連中もいて、先述のハーシュ・ノイズ・ウォールなどは現代の構築されていくノイズに対するカウンターとしての役目を担っているからこそ注目されているんじゃないかなと見ています。
吉田 : 僕が始めた頃の90年代初頭は、ノイズを作ってる人って何かしらノイズに至るまでの長い音楽歴の変遷があったんですよ。その経験がいい案配となって、その人の作ったサウンドに、その人のテイストとしていい具合ににじみ出ていたんですよね。だけど最近の若い人たちは、いきなりノイズを聞いていきなりノイズを始めるといった人たちも出てきて。でも、バックボーンが無いから結局はそんなに長く続かずに、巡り巡って普通の音楽を聞き始めるという。それはまあ個人の勝手で、人が何を聞いていようが関係のない話なんですけど。
平野 : 僕とかまさにいきなりノイズから入った感じですね。今となっては恥ずかしくもあるんですけど。
——単純にシーン自体が成熟してきて、そういう人たちが表に出てきやすくなったってことなんですかね。レーベルやイベントも増えて、音源を出しやすくなった。
吉田 : 今はリリースといっても、SoundcloudやBandcampなんかを使えばいくらでも表現出来る時代になったんで、だいぶフットワークが軽くなったんじゃないですかね。だからCDリリースの現物で勝負する[...]dotsmarkさんには頑張って欲しいです。
平野 : まあウチも今回とうとう配信に進出したわけですが…。個人的には創作物を発表することについてネット上でインフラが整いまくっていることでリリースのハードルが下がり過ぎちゃって、遊びで終わるつもりでやってる人と、ちゃんとやってる人の区別がつきにくくなってきたとも思っていますね。
吉田 : でも、ノイズって不思議なもんで、昨日産まれて初めて録音したようなヘロヘロなサウンドがたまらなく好きな人とかもいますからね。だから、何が良いか悪いかっていうと難しいですけど。
平野 : ヒドい録音とか無茶な演奏だったとしてもそれはそれで成り立っちゃったりするのはノイズの特徴ですよね。この包容力はどのジャンルよりもノイズが強そう。それにしてもBandcampやSoundcloudに音を上げてるだけの人とかも含めると、もう本当にめちゃくちゃいっぱいいて追っかけきれない。
吉田 : だから、今のシーンということで言えば、かなり飽和状態になってます。増え過ぎちゃってて、だれが新人でどこの国の人か分からないみたいな感じにもなってますね。
平野 : その中でも目立つべきものが目立って来るって感じですか?
吉田 : 5~6年前にアメリカのウルフアイズってバンドが出て来た時に、彼らが一般層にも随分と受けて、それからアメリカでノイズがポピュラーなものとして受け入れられてきたって印象を受けましたね。特にアメリカなんか行くと、本当に普通に何でもないおじさんが趣味で轟音ノイズ作ってたり、自宅の地下室をスタジオに改造してる人や、ライヴを頻繁にやっているけど音源リリースを全くしてない人なんてたくさんいますからね。意外とノイズが生活に根付いているような気がしました。あくまでもノイズ・シーンでの話ですけど。ここ最近のアメリカのノイズ・シーンはシンセウェーブとかともリンクしているみたいです。今度来日するコールドケイヴはメンバーにプルリエントというノイズの人がいますし、エメラルズだってもともとノイズのレーベルからカセット音源出してますからね。そういえばエメラルズは日本のPainjerkとUKツアーしてるんですよ。
ノイズ=怖いってイメージはなくなった(吉田恭淑)
——海外でも、ノイズが一般的なものとして認知されてきたと。
平野 : 一般的なものとしてどの程度認知されているかは僕は相変わらずよく分からないんですけどね。でも一時期に比べればいい感じなんじゃないでしょうか。近年は世界中にノイズ系の専門誌を出す人がいるし。ノイズの歴史の初めの方にいる人たちが、2010年前後から活動30周年とか25周年とかに突入して再評価されているのも良い影響を与えてくれている部分があるかと思います。でかいノイズのフェスが世界各地であったり。新旧含めた節目っていうか、盛り上がり感は少なからず感じてますね。懐かしい名前を聞いて改めてノイズに目を向けてみたら面白い事になってた、みたいに。
吉田 : イギリスでザ・ニュー・ブロッケーダーズがライヴをやったりとか、ラフムスのイベントをやったりだとか、昔の伝説のバンドのライヴが見られるって意味でも、今はいい時代だと思いますよ。丁度巡り巡って、今までのノイズの積み重ねられた歴史が一堂に会してきたという。なんだか周期がうまく重なってる時なのかなって。そういうのを見て影響を受けて、自分でも音作りを始めてみたりとか、リスナーとして興味を持ったりする人も出てくるだろうし。
——ノイズというジャンルの一般認知度も上がったと同時に、他のジャンルのアーティストと共演する機会も増えたと思うんですけど、そのあたりはいかがですか?
吉田 : 他のジャンルといえば、最近になって画家の市場大介さんという人とフォーク・ノイズのバンドを始めたんですけど。曲作りを重ねれば重ねる程、音楽の要素が次から次へと死んでいくという不思議な現象が… まあノイズであればそういった他分野との方との共演も不可能ではないはずだなと改めて気付きましたけど。で、音楽に関して言えば、そういうミクスチャーのイベントは結構あるよね。
平野 : ノイズのアーティストが、他のジャンルがメインのイベントに出てるっていうのはありますよね。そういうのって、昔はあまりなかったですか?
吉田 : 逆に昔の方があまりジャンル分けされてないから、アバンギャルドって括りで、ノイズが出たりパンク・バンドが出たりっていうのはあったけど。で、みんなお互いの音に全く興味がないから、楽屋では何とも気まずい雰囲気になるという。
平野 : それに比べたら最近の他ジャンルとの交流の仕方はもっと能動的な雰囲気ですね。受け皿の無いもの同士が仕方なく寄り集まったというようなノリはない。もっと音とか活動姿勢の中に共通項を見出してるんじゃないでしょうか。バンドの演奏としてのコラボレーションはどうですか? 対バンではなくて、所謂コラボレーション。
吉田 : コラボはソロと同じくらいの数でやることが多いですよ。ただコラボレーションって、お互いの良さを引っ張りださないと巧くいかないんですよね。ただの共演で終わってしまうという。Astroの長谷川さんや美川さん(T.美川 / 非常階段、INCAPACITANTS)は、結構幅広くいろいろな方とやられてて常に新しい世界観を見せてくれるので、本当に勉強になりますし純粋に感動します。
平野 : 個人的にはノイズの人同士でコラボしてるライヴを見る機会の方が多いですね、やっぱり。
——バンドの数が増えているという話がありましたが、ライヴの集客は昔より増えてると感じますか?
吉田 : これだけイベントがあるってことは、全体として見に来る人も増えてるっていうことじゃないのかなぁ。でもどうだろ、豪華なメンツなのに集客が少なかったりもするから、やっぱりその時その時のタイミングじゃないのかな。幾ら音楽好きといえども毎週毎週ライヴを見に行くわけにはいかないだろうし。
——客層に関しても、広がっていると感じますか? 例えば、普通のロックが好きな人も増えてきてるとか。
吉田 : 広がってるとは思いますね。話題として見に来る人も多い気がします。敷居が低くなったから来やすくなったんじゃないですかね。20年前に比べると、ノイズ=怖いってイメージはとっくになくなってると思うんですよね。それだけでもすごい進化だと思いますよ。先程、平野君の話に出ましたけど、十数年前に電子雑音という雑誌がありまして、そこが主催した「ノイズのはらわた」というイベントは毎回初めてノイズを見に来るような人もたくさん来てたんですよね。
平野 : 女性客とかも一時期に比べれば増えてるかもしれないですね。
吉田 : もともとノイズって、自分で探さないと発見出来ない音楽だったと思うんですよ。それが今なら、ちょっとキーワードを入れて検索すればたくさんの回答が出てくるし、いくらだって音源を聞くことが出来る。それに先入観を取り払えば、誰だって聞けるし、その人その人にあった音(ノイズ)って絶対に存在するはずですから。だからこそ、少しでも興味を持ったら聴いてみて欲しいですね。
——今はいろんな世代のバンドがいて層も厚いし、イベントも多いと。
平野 : 興味があるならタイミング的には良い時だと思います。触れやすいし内容も精度が上がってる。
吉田 : イベントはもう毎週のようにどこかしらでやってますし、ノイズは一度ライヴで見てもらう方が分かりやすいと思いますよ。このインタヴューを読んで、OTOTOYさん経由で初めてノイズという存在を知る人だっているはずだと思うので、そういった方に是非聞いてもらいたいですね。ノイズを、というよりはあえて言い方変えて、実験音楽をと(笑)。
平野 : ならば僕はあえてノイズという言い方にこだわる(笑)! ただ僕が今回話したのは自分や身の回りのことに過ぎないし、今回の文章だけでは分からない事の方が多いと思うので、知識ではなく音源とかライヴとかの事実に触れてもらった方が早いですね。リアルな場所でお会いしましょうということで。
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OTOTOY独占ノイズ音源!!
非常階段 / Live at Akihabara Goodman,Tokyo,February 2nd,2013(DSD 2.8MHz+mp3 ver.)
キング・オブ・ノイズと称される、世界初のノイズ・バンド、非常階段が登場! ゲストに坂田明、白波多カミン、初音ミク(!?)を迎え、秋葉原で行われた狂乱の一夜をDSD録音致しました。ノイズというジャンルのDSD5.6MHzの音源は、恐らく世界でも初ではないでしょうか。その場でしか起こり得ない「ライヴ」の生々しさ。至高のノイズを極上の音質で。「聴く」というよりも「浴びる」、「音楽」というよりも「体験」。77分間、めくるめく音の洪水を、肌で感じていただきたい。
Merzbow / OAT(DSD+mp3 ver.)
日本が世界に誇るノイズの帝王、Merzbowのライヴ音源をDSDで録音し、OTOTOY限定配信が決定!! ループするフレーズの中に、ランダムにうねる轟音。まるで人間の叫び声のような、轟音を突き抜けるファズ。ベース・アンプを使った重低音は、聴く者の身体の芯まで響き、狂気のように思える高音は、脳に新たな価値観を吹き込むような、圧倒的な音楽体験。肌で感じる極上のノイズを、DSDならではの音質でご堪能下さい。
PROFILE
平野 Y
国内ノイズ・レーベル[…]dotsmark代表。2001年にプライベート・レーベルとして発足、その後徐々に国内のユニット / バンドを主軸とした様々な音源をリリースして来た。自身のノイズ・アーティストとしての活動も幾つか。
吉田恭淑
1994年からGovernment Alpha名義でHarsh Noiseサウンドを制作しはじめる。今までに世界各国のレーベルから作品を50タイトル以上リリースしている。2011年にはグラフィック・アーティストとして招聘されベルリンで作品展示を行う。