リリカルでアイロニカル、自ら「闇ポップ」を掲げるSSWしずくだうみの1stアルバム先行ハイレゾ配信

そのリリカルでセンシティブな独自の世界観でじわじわと注目を集め、自ら「闇ポップ」を掲げるシンガーソングライター、しずくだうみの1stフル・アルバム『都市の周縁』。11月16日の発売に先駆け先行ハイレゾ配信がスタートした。
アルバムは過去発表した3枚のEPから新アレンジ&新録音した楽曲と新曲で構成された全11曲入り。ピアノ弾き語りと打ち込みを中心に、アレンジにはこれまでの彼女の楽曲を制作してきた吉田仁郎(野獣のリリアン、ハルメンズX等)と、新たに藤木和人(旧東京パフォーマンスドール等)迎えて制作された。
正統派のように見えて異端、マイノリティのようでオーソドックスな相反した要素を常に抱え、あらゆる境界を越えて広がっていく可能性を秘めたニュー・シンガーのフル・アルバムを、インタヴューと共にお届けする。
しずくだうみ / 都市の周縁
【Track List】
01. いじわるなきみのこと
02. ぐるぐる
03. さみしさのABC
04. 部屋
05. ゲーム
06. パラレルワールド
07. 水色
08. 選ばれない
09. さようなら
10. 夜の海の夢
11. おしまい
【配信形態 / 価格】
24bit/88.2kHz WAV / ALAC / FLAC / AAC
単曲 200円(税込) / アルバム 2,000円(税込)
アルバム購入特典として歌詞ブックレット(PDF)がつきます
しずくだうみ - 夜の海の夢しずくだうみ - 夜の海の夢
INTERVIEW : しずくだうみ
闇ポップを標榜するシンガー・ソングライター、しずくだうみ。自身の音楽活動にくわえ、ニュートリノ温泉などアイドルの運営や、ほかのアーティストにピアノを教えたりボイス・トレーニングをしたりすることもあるなど、幅広く活動している。
「闇」と訊くとネガティヴなイメージを思い浮かべる人もいるかも知れないが、彼女が描く世界は一般的な人のごくありふれた日常を切り取ったものばかりのように思う。ただそれは彼女なりの一歩引いた視点で描かれたもので、ときに柔らかい言葉で核心をつくようなものでもある。それがある種の闇なのかもしれないが、同時にどこかほっとさせられるような暖かさも感じる。楽曲ももちろんキャッチーではあるものの、もしかしたらこの不思議な心地良さも含めて、彼女は「ポップ」を表現しているのかも知れない。
しずくだうみが描く世界はどのように生まれたのか。彼女が語る闇とは。これまで決して順風満帆ではない音楽生活を送ってきた彼女が満を持して放つ1stアルバム『都市の周縁』。派手さはなくとも長く聴き続けられる、すっと心に入り込んでくるような名盤だ。そしてこのアルバムは、きっと彼女そのものでもある。
インタヴュー&文 : 前田将博
写真 : 飯本貴子
なにも知らないから幸せなんだよって思います。それが、いいなって思うこともあるけど

──だうみ(しずくだの愛称)さんは闇ポップを標榜していますが、曲のなかで描いているのは一般的な人の日常的なものが多いと思うんですよ。ただ、普通の人は特に疑問を持たずにスルーしているようなできごとに対して「それは本当に幸せなの?」とあえて疑問符を投げかけているというか。その視点が「闇」なのかなって思うんですけど。
それが素の私自身っていうところもありますね。普通に就職とかしても、私はなにを目標に生きていくのだろうと思っていました。なにが楽しくてみんな働いているんだろうって。私のまわりに会社員がいなかったんですよ。親戚とかも、みんなフリーや自営業で。
──では普通の会社員のような人は、遠い存在だった。
ドラマで観たり人に話を訊いたりして、不思議だったんですよね。学校の先生とかも、こんなに大変そうなのになんで働いているんだろうって。そんなに給料良くないよな、割にあわないよなって思っていました。そのあたりから、捻くれがはじまっている気がしますね(笑)。
──でもそれを耐えながらも働き続けることが、幸せに繋がると信じている人もいると思うんですよ。
なにも知らないから幸せなんだよって思います。東京オリンピックが決まって喜んでいる人とかと同じですよ。そういう人たちは、深く考えていないと思うし。それが、いいなって思うこともあるけど。
──そういう考え方はいつごろからあったものなんですか。
元をたどれば中学校や小学校ですかね。小学校から友達はなんとなくいるんだけど、この人は本当に友達なんだろうかとか考えていたし。中学は自分もふくめてみんな不安定だからいじめられるし、高校もなんとなく「ここじゃないな」って思っていたので、外部の友だちと遊んでいました。
──それはなぜなんですかね。
他人に、絶対的に好かれている自信がないんですよ。でも、小学校のときに引っ越す前はすごく信頼している子がいましたね。いまでも連絡をとっているんですけど。当時絵を描いて街を作って、その世界にのめり込むのが好きで、ふたりで同じようなものを自由帳に描いていました。商店街があって、人がいてっていう。その子とは、趣味がまったく一緒だったんです。
──当時からクリエイティブだったんですね。
でもその子は順調に育って、いまはコブクロが好きだし、普通に働いているんですよ。だから私は軌道修正できなかったのかなと(笑)。

──でも、だうみさんもJ-POPに詳しいイメージがあります。
そうですね。逆にJ-POPしか聴かなかったです。YUIとか絢香が好きだったんですけど、それ以上明るいのはダメでした。中学生の頃はYouTubeがいまほど浸透していなかったし、TSUTAYAくらいしか情報源がなかったので、それ以外知らないんですよ。高校に入ってからまわりにバンド好きな子たちがいたので、Syrup16gとかを聴くようになって、こんなに暗くていいんだなって知りました。それまではバンプすら知らなかったので、衝撃でしたね。
──当時はほかにどんな音楽を聴いていましたか?
「Last.fm」っていう聴いた曲を記録できるサイトがあるんですけど、そのランキングの1位が阿部芙蓉美で、2位がBase Ball Bear。ほかにカーペンターズも上位にいましたね。
──音楽以外だと、どんなことに興味があったんでしょう。
家から学校までのすべての駅で降りて探検するっていう遊びをしていました。街が好きなんですよね。再開発されている街は物語が浮かばないんですけど、そうではなくて物語を想起させるような街に出会いたくて、いろんな駅で降りて散歩してっていうのを繰り返していました。
──意外とアウトドアだったんですね。
でも図書館にいるのも好きでした。なんとなく南京大虐殺の写真集を手に取ってしまったら、楽しそうに人の頭を持っている兵士とかがいて、「頭おかしいな」って思ったりとか。本屋さんに、すごく大きくて幼児が隠れてしまうようなサイズのアウシュヴィッツの写真集があったんですけど、そういうものも読んでいましたね。
──どちらかというと、タブー視されるようなものに興味があったと。
あと一時期、死刑囚や犯罪加害者がなにを考えているか興味を持つようになって。酒鬼薔薇聖斗とか、なにを考えているかまったくわからないじゃないですか。でも本を読むと、そういう考え方もあるんだなっていうか。共感はできないけど、人を理解するのは大事だと思うので、そういうスタンスで読むと興味深いんです。木嶋佳苗(死刑判決を受け、最高裁に上告中)のブログもおもしろいですよ。あの人はめっちゃモテて、外国からわざわざ会いにきて恋をされたりとか。
──獄中結婚する死刑囚の人もいますもんね。
死刑囚を祭りあげる人が一定数いるんですよ。だから、逆にいうと死刑囚じゃないと結婚できないんだと思います。酒鬼薔薇とかも神格化されているじゃないですか。
──肩書きに惹かれていると。
そういうところにしか価値を見出せない人たちがいるんですよね。
なのに「おまえ東京じゃないだろう」って言われてしまう違和感というか

──高校時代からソロで音楽活動をしていたそうですが、しずくだうみの名前で活動をはじめたのはいつごろなんですか?
大学生の頃なので、4年前くらいですね。2012年7月22日恵比寿LIVEGATE EBIAGEが初ライヴです。それまで半年くらいお休みしていたんですけど、やっぱりやりたいと思ったときに、そんなにファンがいるわけでもなかったから、名前を変えてやったほうがいいかなって。それで、当時拾われていた事務所の人と相談して、ひらがなの方が間違えないからいいよねってなって、知り合いの旧姓の「しずくだ」と、友だちの友だちの友だちに「うみ」ちゃんて子がいたので、それを組み合わせて「しずくだうみ」になりました。
──その事務所とは、どんなつながりだったんですか?
活動するときに、どこかに所属してCDを出さないとっていう焦りがあったので、オーディション雑誌を買って片っ端から応募したんです。そのときに2社受かったうちのひとつですね。でも担当の人が途中で音信不通になっちゃったんです。音源も作っていたのに。
──それはお蔵入りになってしまった。
ジャケットもちゃんと作って、さあ出すぞってときにいなくなっちゃったんですよ。それが2曲入りなんですけど、そのうち1曲はいまでもたまにライヴでやる「ペトラ」って曲です。
──それからはずっとフリーなんですか?
いや、いろいろありすぎましたね。
──じゃあなおさら、『都市の周縁』は満を持しての1stアルバムですね。
でも今回も、いろいろあってリリースがどんどん延びたので、出せるか心配だったんですよ。アー写とかを撮ったのが2月だったので、出す出す詐欺になるところでした(笑)。
──なぜ〈なりすレコード〉から出すことになったんですか? なりすから音源を出している柴田聡子さんや北村早樹子さん、3776などは共通点もありそうですけど。
柴田聡子さんが好きだっていう話しをCDの流通会社の人にしていたら、なりすを紹介できるよって言われて。それでなりすレコード主宰の平澤さんを紹介してもらったら、「アルバムを出さないかい」って言われました。
──アルバムのタイトルは「終焉」と「周縁」をかけているそうですね。
一見すると闇っぽく見えないように周縁にしたんですけど、ふたつ意味を持たせたいと思って。
──街が好きだという話がありましたけど、そういう思いがこもっている?
明らかに影響はしていますね。
──先ほど話していたような街はまさに「都市の周縁」のような位置にある街ではないかと思うんですけど、都市に対する憧れみたいなものもあるんですかね。
どうなんですかね。自分が神奈川県出身なので、東京じゃないところにずっと住んでいるんですけど、親が恵比寿で働いていて、そこで遊んだりもしていたので、自分自身はそこまでコンプレックスは感じていないと思います。なのに「おまえ東京じゃないだろう」って言われてしまう違和感というか…。なんでそれを東京の西の方に住んでいる人に言われなきゃなんないんだろうって(笑)。
──それは明らかに、言ってくる人たちの方がコンプレックスを持っている(笑)。
そうなんですよ。青梅とか八王子とかに住んでる人だったし、おまえらより早く渋谷に行けるって思っていました(笑)。でもたしかに、自分のいる場所は周縁なんですよね。
──都心ではないと。
そういえばファンの人に、完全なる東京23区民じゃない20キロ圏内くらいの人がつくる音楽がおもしろいって言われたことがあります。渋谷とか新宿に届きそうで届かない感じ。なるほどなって思いました。
自分はここじゃないのかもっていう人が出会ってくれたらラッキーなのかなって思っています

──アルバムを聴くとどんどん深みにはまっていくというか、終わりに向かっていくような感覚があって、まさに「終焉」だなと。曲名をみても後半に「選ばれない」「さようなら」と並んでいて、最後の曲が「おしまい」。
心理的な時系列順に並べたっていうだけですよ。「いじわるなきみのこと」は精神的に若いですからね。
──小学生くらいの男女の、まだ恋愛感情になる手前のようなやりとりを描いた曲ですよね。「みんなのうた」みたいなどこか懐かしい雰囲気で。PVにもなっていますが、ここで描かれている世界も、だうみさんが好きという街のイメージと合致している気がします。
あれは鶴見線で撮りました。通っていた高校の近くではあるんですけど、絶妙に行かない場所だったんです。だから休みの日に父と一緒に行って、途中で降りて猫と一緒に写真を撮ったりして帰ってきました。当時からいい場所だと思っていたので、ここで撮影したんです。
──もともとこの曲でPVを撮ろうと思っていたんですか?
全然思っていなかったですね。街の記憶のストックに合う人に出会って、曲にも合っていると思ったから撮ろうと。だから、PVに出ている"nemumi"という子と出会ってなかったら撮ってないですね。
──アーティストが出演せずに、監督と編集をやっているというのは珍しいですよね。
そんなつもりはなかったんです(笑)。誰かに頼むとなかなか思い通りのものができないというか、単純に指示を出すのがへたくそなんですよ。「こう撮ってほしい」とか言えなくなっちゃうんです。鶴見線の撮影のときも、nemumiに「もう1回ここ歩いて」って言うのにすごく勇気がいりました。
──アルバムは、これまでデモで出していた曲も再アレンジされたものが多いですよね。どんどん終わりに向かってはいくんですけど曲自体は決して暗くならずに、やっぱりちゃんとポップであるというか、街でふと流れていても違和感がないようなものばかりだと思います。
アレンジはいままでで1番しっくりきていますね。もっと凝っても良かったかなとも思いますけど、いまできるなかでベストは尽くせたかなと。
──特に思い入れの強い曲はありますか。
「水色」のデモを録ったときに、コーラスで参加してくれた谷井啓太(The World Will Tear Us Apart)さんが、はじめて私をミュージシャンとして認識してくれたのがうれしかったですね。自分が知っているなかで1番しっくりくる音楽を作っている人だったので。最初に私が適当に打ち込んだだけのアレンジがエレクトロのイメージでだったんですけど、谷井さんにも「しずくだの声はそういうのが合うよね」って言われて。
──「水色」もばりばりのエレクトロではないですけど、ほかの曲にはない華やかさみたいなものがあります。
そういう感覚をわかってもらえるというか、1番合うのがThe World Will Tear Us Apartなんですよ。これ以上ポップにすると違うかなって思うし、イメージにぴったり合っていて私もすごく気に入っています。エゴサとかしていても、「水色」は全然知らない人に「トラックがすごくいいよね」って書かれていたりして。
──この曲から「選ばれない」の流れは、アルバムのなかでも特に異彩を放っている気がします。
そういう意味では、今回新しく入れたなかでは「選ばれない」が1番イメージに合っていると思います。「いじわるなきみのこと」とかもほぼ自分でアレンジしたんですけど、全体的にもまとまったと思いますね。
──アルバムをとおしてThe World Will Tear Us Apartにプロデュースしてもらおうとは思わなかったんですか?
実は今回も頼んだんですけど、忙しいみたいで実現しませんでしたね。だから、いつかやりたいですね。ほかにも似たような音を作っている人はいるけど、自分の言いたいことがちゃんと伝わる関係性の人ではほかにいないので。
──だうみさんの曲はポップすぎないながらも、ちゃんとJ-POP的な枠組みに入れるくらいのものだと思うんですけど、歌詞に関しても決して闇や絶望ばかりを歌っているわけではないですよね。
もっと絶望的な歌詞も書いていたんですけど、大学のときのプロデューサーに「ちょっとは救われるようにしろ」って言われたんですよ。たまにライヴでやる曲に、子どもを失ったお母さんの歌があるんですけど、それも思い込みだったことにして、夢オチみたいに変えました。
──なぜ救いを入れた方がいいと思ったんですかね。
その人は、絶望じゃない方が多くの人に受け入れられるっていう判断で言ってきただけだと思います。でも結局絶望しかない歌って、絶望しているときにしか聴けないですからね。私はそれ以外のときにも聴いてほしいって思うし。
──だうみさんの音楽は、どんな人に届けたいですか? 最初に話していたような「なにも知らない」人というか、音楽ファンでもない所謂一般の人たちにまで届けたいと思う?
その人たちに絶対に届かない。そこまでは無理だと思う。
──その人たちにわかってほしいとか、気づいてほしいとは思わない。
そのなかに属してはいるけど、なんか違うかもしれないとか、自分はここじゃないのかもっていう人が出会ってくれたらラッキーなのかなって思っています。加藤ミリヤとか西野カナみたいな普通のJ-POPを聴いているけど、ちょっと違うって思っている人もいるはずなので。私もずっと思っていたし。そういう人が、ふとラジオとかでかかったときに「あっ」て思ってくれたらいいのかなって思います。自分が見ている選択肢以外もあるんだって。そうすれば私の売り上げもあがるし、みんなハッピーじゃないですか(笑)。
──不特定多数というよりは、ピンポイントで必要としているであろう人に届けたいと。
狭くありたくはないけど、拡大しすぎても良くないかなって思うんです。そういう感じって、誰もやっていない気がするんですよ。拡大したいけどできない人か、こじんまりとしたところで歌えればいいですって人かどっちかで、中規模な拡大な仕方を狙ってやっている人っていないなって。どういう規模であっても、顧客満足度をあげるっていうのが一番ですけどね。
過去配信中の作品
PROFILE
しずくだうみ
1992年1月30日生まれのシンガー・ソングライター。
鍵盤弾き語りを主に活動。バンドやユニットでも稀に活動。
東京近郊で主に活動。