サウンドデザイナーであり、ドラマーのKUJUN(ex.poodles)と、ギタリスト小笠原峰生が結成したユニット、Khaki。1stアルバム『透明な街』をこのたびリリースする。藤岩聡子、浦田真由子(Roswells等で活動、Strobo、DACHAMBO等に参加)をゲスト・ミュージシャンに迎えての作品となった。「聴いていて気持ちいいという単純なよろこびを感じてほしい」という彼らが、今回OTOTOYで24bit/96kHzの高音質音源を用意してくれた。そのなかから軽やかなメロディが身体に染み込んでいく「牛乳とハチミツ」を、フリー・ダウンロードでお届けする。インタヴューとともに美しいアンビエントな世界に足を踏みこんでもらえればと思う。
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Khaki / 透明な街
【価格】
HQD 単曲 250円 / まとめ購入 1,200円
mp3 単曲 200円 / まとめ購入 900円
【Track List】
1. Reborn / 2. 透明な街 / 3. 井の頭池 / 4. Magic Hour / 5. 牛乳とハチミツ
INTERVIEW : Khaki
元poodlesのKUJUNと小笠原峰生が結成したユニット、Khaki。彼らの初の音源となる『透明な街』をリリースする。彼らが期間を決めず、いっさいの妥協をせずに練りあげたという今作には、透き通るような世界観を持った5曲が収録されている。今回は、時間をかけて大切に楽曲と向き合った彼らのこだわりと、アルバムに込められた思いなどをうかがった。都会には非現実感があると語るKUJUNが見る『透明な街』とは、どんな風景なのだろうか。このインタヴューを読んで思い浮かべた風景を心に描きながら、もう一度『透明な街』に流れる音楽に耳を傾けてもらえたら幸いである。
インタビュー & 文 : 前田将博
ライヴをやらなくてもいいから、とにかく良い音楽を作ろう
——ユニット名のKhakiは、とても音楽に合っている名前ですよね。
KUJUN : すごい悩んでいっぱい候補が出たんですけど、思いつきです。(小笠原が)カーキ色の服をよく着ているからですかね(笑)。もうアラフォーだし、年齢的にもそういった渋い色合いが似合うというか、土色でアースカラーな感じが曲にあっているかなって。
——おふたりはpoodlesのことから一緒にやられていますよね。音楽性もpoodlesのアンビエントよりな部分や、繊細なところを広げていったような印象を受けました。
小笠原峰生(以下、小笠原) : poodlesはバンドなので、ジャムってグルーヴを出すところを主眼に置いていたんですけど、今回は2人だけのユニットなのでちょっと変えていこうと思っていました。つくり方を変えると自然に中身も変わっていくので、poodlesとは少し広がり方が違うのかなと。
KUJUN : ソロ活動ではアンビエントをよく作るんですが、poodles時代のドラマー視点より、もっとフロント側で曲を作りたかったんですよね。バンドをやろうっていうよりは、ライヴをやらなくてもいいから、とにかく良い音楽をつくろうっていうコンセプトがありました。
——曲はどうやって作っているんですか?
KUJUN : ふたりで毎週会って、ギターやプリセットのドラム、ループを組んだりしてネタだしするのを、2年くらいやってたよね。そのなかでいいと思ったやつをミックスして完成させたって感じですね。
小笠原 : 今回はそれぞれの楽器担当がいてつくる感じではなかったので、ある意味制限がないんですよ。どうアレンジするかも、いろいろ試したし。そのぶん、なかなか決められなかったっていうのはあるかも(笑)。
KUJUN : でも、その過程があったから良い曲になったよね。
小笠原 : そうそう。すごく時間かけただけあって、曲も成長したと思いますね。
KUJUN : 前もって発売日から逆算して曲をつくらなきゃいけない場合もあるじゃないですか。それをはずして、長い時間をかけて曲を作りたかった。
——納得できるまで試行錯誤したと。
KUJUN : いままでも妥協していたわけではないけどね。
——では、もともと完成形が見えていたというよりは、煮詰めていった結果、こういう音楽になった。
小笠原 : 最終目標があって、そこを目指したって感じはないですね。自然とこういうふうになっていったのかな。
KUJUN : 僕はもともとこういう音楽の作り方が個人的には好きなんです。あとは、生きている環境が関連しているかも。
聴いてて気持ちいいっていう単純なよろこび
——生きている環境というと?
KUJUN : 例えば、小笠原が住んでいる武蔵野に通ったりとか、逆に僕のスタジオのほうに来てもらったりするときに、環境や雰囲気が毎日違うわけじゃないですか。そういうものも還元しているんですよ。
——なるほど。僕が今回のアルバムを聴いていて、おふたりが住んでいる東京の雑踏や忙しない感じとは、少し離れたところにある音楽だと思ったんです。だからそういった環境が反映されているとしたら、むしろアンチテーゼになっているのかなって思ったんですよね。
KUJUN : なるほどね! 僕はいまもDJをやっているんですけど、最近はDJバーだけじゃなくて、カフェとバーとギャラリーが一体化していろんなコンセプトが入ってるお店が増えてきたので、だんだんそっちのほうに行くようになったんですよ。ライヴ・ハウスも、ちょっとワーク・ショップをやっていたりとか、いろんなタイプのお店が増えてきて。だから、カフェっぽいところでうけそうなものとか、ギャラリーでも演奏できるようなアイデアもありましたね。
——たしかに、カフェなどには合っていますね。一般的な日常というよりは、おふたりの日常がそのまま反映されているんですね。
小笠原 : 僕個人としてはこの1年くらいハイレゾにはまってて、良い音で音楽を聴くことにすごい興味があって。なので、聴いてて気持ちいいっていう単純なよろこびみたいなものも、すごく感じてほしいんですよ。
——それを感じられるような曲を作った。
小笠原 : もちろん生で聴くのが一番良いんだけど、やっぱりスタジオで聴く音はすごいんですよ。CDの音もがんばってはいるんだけど、やっぱりそこには敵わないわけです。でも、最近はハイレゾが出てきて、(リスナーに)渡せる音自体が遜色ないものになってきている。これは時代のメリットだと思うので、今回はぜひ高音質のほうを買っていただきたいですね。
KUJUN : 伝えたい部分がそっち側なんですよ。あとは、ダウンロードする際のインターネット回線のスピードが上がってくれればいいよね(笑)。
小笠原 : 例えば5曲目の「牛乳とハチミツ」とかは、キャッチーなメロディがあってポップな感じだと思うんですけど、鳴ってるバスドラの音とかはものすごく低い音なんですね。その低音の上にメロディがふわっと乗っている感じが、高音質だと聴けるんじゃないですかね。ヘッドフォンもiPhoneの付属のものだと低音が鳴らないんですけど、ちょっとお金を出して2000~3000円くらいのを買ってもらうと下のほうまで再生できると思います。そういうところまで感じてほしいですね。
——「井の頭池」ではフィールド・レコーディングされた音が使われていますが、あれもすごく生々しいですよね。あれは実際に井の頭公園で録ったものなんですか?
小笠原 : KUJUNのフィールドものをやろうって発想で、井の頭池の周りで録っています。これが良い音で録れるんですよ。井の頭公園に神田川のもとが湧いてるところがあるんですけど、そこでちょろちょろ湧き出る水の音を録ったりとか。
KUJUN : 貴重な音源だね!
小笠原 : ここから湧き出た水(お茶の水)が東京を横断するわけですからね(笑)。あとは、白鳥のスワン・ボードの「ぱしゃぱしゃ」って音を日曜の昼とかに行って録ったり。井の頭池の真ん中の橋で足音なんかも録っています。
——この曲がアルバムの真ん中の3曲目に収録されていますが、ここからアルバムの流れが少し変わっている印象を受けました。前半は朝がはじまるような雰囲気なんですけど、4曲目はエレキの音なども入っていて、少し重い午後な感じなのかなって。
小笠原 : 流れ的にそうかもしれないですね。「井の頭池」は、ちょっと箸休めみたいなところはあります。
KUJUN : そして5曲目は次のアルバムに繋がる感じですね。
——今回のアルバムには、ゲスト・ミュージシャンとしてピアノの藤岩聡子さんとパーカッションの浦田真由子さんが参加されています。
小笠原 : 2曲目は全員でコーラスも入れていますし、1、2、5曲目は、藤岩聡子さんにピアノを弾いてもらったので、深みが全然違って、曲のグレードがあがりました。
——曲のミックスは小笠原さんは行っているとのことですが、ソフトをこれまで使っていたPro ToolsからAbleton Liveに変えたとうかがいました。
小笠原 : KUJUNがディレクションして僕がミックスをしています。Ableton Liveはライヴのパフォーマンスでも使えるようにできているんですけど、フレーズをカット・アップしてつくっていけるっていうPro Toolsにはない機能があるんです。バンドサウンド以外の打ち込みフレーズなど、ふたりで作り上げたという感じです。4曲目とかは特にフレーズや楽器を抜き差しして作っているので、Ableton Liveならではの曲だと思います。
都会に住んで生きていると、非現実感ってないですか?
——なるほど。ちなみに、アルバム・タイトルの『透明な街』には、どのような思いが込められていますか?
小笠原 : 透明感ていうのは、今回のアルバムのキーワードですかね。
——『透明な街』と聴いたときに、はじめはガラス張りの高層ビルが立ち並んでるような都会的なイメージを持ちました。でも、アルバムを聴いた上で考えると、井の頭公園みたいな大きい公園があって、人がまばらで閑散としているような街のイメージが浮かびました。おふたりは『透明な街』と聴いてどのような風景をイメージしますか?
KUJUN : たしかに、グラス感とかそういうほうに行きがちなんだけど、僕がこの言葉を思いついたとき、逆に人の実態がない感じがしました。人を見透かすとか、内面を見ている感じなんですよ。ビルのなかの生活や営みとか、そういうものが透けて見えるような。
——心のなかの風景みたいなものでしょうか?
KUJUN : もしくは、ありえない街みたいな。それを上から透かして見ているようなイメージかな。
小笠原 : 夏より冬のほうが空気が透明な感じがするじゃないですか。僕としては、そういうイメージなんですよね。ミックスしてしあげたのが2月~3月くらいだったっていうのもあるかもしれないですけど。井の頭池を録音したのも寒いときだったし。そのくらいの季節って光が強くないじゃないですか。斜めから差していて、ちょっと現実感がない気がするんです。4曲目の「Magic Hour」っていうのは日没後の数分間どこにも陰ができない時間帯のことなんですけど、曲に対して通底するイメージがあるんですね。具体的なイメージというよりは、曖昧な光の感じがイメージとしてあります。あと、アルバム・タイトルを英語にした場合はどうしようか? という話になったときに、「City of Glass」っていうポール・オースターの小説が浮かんだんですよね。ニューヨークのお話ですが、透明感の他にも、いろんなイメージを投影できる印象です。
——非現実的で曖昧なイメージが共通してあると。
KUJUN : 都会に住んで生きていると、非現実感ってないですか? 見知らぬ人とすれ違うときに、この人は本当に存在しているのかなって思ったりとか。その人とは二度と会わないかもしれないし、前にも会ったかもしれない。そういう見方をしてしまっている自分や、見透かしちゃっている自分がいたりとか。透明といっても、ガラスとかは反射していますよね。その人と僕自身の心に反射しあって映っているイメージがありのままの姿で、自分自身が意識している様には、相手には写っているわけではない。
——最後に個人的にお聴きしたいんですけど、おふたりとも長く音楽を続けていますが、その原動力はなんだと思いますか?
KUJUN : 音楽の専門学校に通っていたときに、ゴスペルの先生が「音楽の神様は女神様だよ」って教えてくれたんですよ。ずっとやってるってことは、女神が俺を見捨てないでいてくれてるんだって思います(笑)。あとは、僕は音楽に何度も救われているから、たぶん音楽がなかったら死んでいました。失恋したり、いろいろな問題を抱えたときも、最後には音楽が音圧で悩みを吹き飛ばしてくれて、救われたことが本当にいっぱいあるからすごく感謝しているんです。たぶん、それだけですね。
——音楽に恩返しをしていると。
KUJUN : 返しているというか、やらせてもらっているというか。ビジネスとしてやっていると、お客さんに気に入ってもらいたいっていうのもあるけど、その前提にはそういう思いがあります。音楽だけは裏切らないんです。
——小笠原さんはいかがですか?
小笠原 : 自己実現をするためとか、就活なんかでよくあるじゃないですか。陳腐な感じでいうと、僕はたぶんそれなんですよ。
——自分を表現できるのが音楽であると。
小笠原 : 根底には音楽が好きだっていうのがあると思うんです。去年高音質にはまったときも、「これはすごい!」とか思えるわけですよ。名盤を聴き直して、「こんな音が入っていたのか!」とか(笑)。年齢によっても違って聴こえたりするし。
——自分の状況によっても音楽の聴こえ方は変わりますよね。
小笠原 : そうです。こういう協力関係があって、自分でそういうものをリリースできる環境にあるのは、すごい素晴らしいことだと思うんですよ。タイミングもあるだろうし、なかなかできないことだと思う。僕にとってはすごいことなんですよ。
——それができる状況にあるから続けて行くと。
小笠原 : そういうことですね。
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PROFILE
Khaki
サウンドデザイナー、ドラマーのKUJUNと、ギタリスト小笠原峰生のユニット。アコースティック・ギター、エレキギターを基調に、ベース、ドラム、プログラム、作曲、ミックス等を2人でこなす。ゲスト・ミュージシャンに藤岩聡子(上原ひろみを輩出した疋田範子氏にピアノを師事)、浦田真由子(Roswells等で活動、Strobo、DACHAMBO等に参加)を迎える。