日高央(THE STARBEMS / ex.BEAT CRUSADERS)も唸る憂いを帯びたその深い歌声、18歳SSWタグチハナの最新作配信&インタヴュー
2015年注目の女性シンガー・ソングライターとして、昨年末に紹介した18歳の弾き語りシンガー・ソングライター、タグチハナからセカンド・ミニ・アルバム『Orb』が届きました。当初、自主制作盤として制作が開始されていた今作は、タグチがスマホ向け放送局NOTTV3で放送中の音楽情報番組「MUSICにゅっと。」Season1内オーディション「ココでミラクル!」でグランプリを獲得するとともに全国流通盤として発売が決定。発売にあたって同番組のMCを務める日高央(THE STARBEMS / ex.BEAT CRUSADERS)から期待を寄せるコメントが届くなど、2015年、まさに注目を浴びる存在になっている。
そんななか発売された『Orb』には、前作『夜へ』にも収録されていた代表曲「ビア」「そのとき」の新録をはじめ、深みのある歌声とアコースティック・ギターの音色を活かしたサウンドで紡ぐ7曲を収録。この新たな芽吹きをインタヴューとともに聞き届けてほしい。
タグチハナ / Orb
【配信形態 / 価格】
WAV / ALAC / FLAC(16bit/44.1kHz) : 単曲 200円(税込) / アルバム 1200円(税込)
mp3 / aac : 単曲 150円(税込) / アルバム 900円(税込)
【Track List】
01. ビア / 02. 花のワルツ/1969 / 03. 魚に成る前に / 04. 夜光虫 / 05. そのとき / 06. 平和がきこえる / 07. さいわい
☆アルバムで購入された方には、配信限定の歌詞カード、およびセルフ・ライナーノーツのPDFファイルが付属します。
INTERVIEW : タグチハナ
タグチハナの音楽にはじめて触れたとき、なんて孤独で、なんて強くて、なんて暖かいんだろうと思った。彼女の音楽は、その場にいる大勢と楽しさを共有したり、合唱を促したりする類いのものではない。しかし、聴くものひとりひとりの心に深く突き刺さり、寄り添い照らしてくれる音楽だ。18歳ならではの繊細な感性と、すでに卓越した音楽センスでつむがれる7つの音と言葉たち。『Orb』には、現時点での彼女のすべてがつまっている。
もともと大学進学を考えていたという彼女は、あるできごとから、音楽一本で活動していく決意をした。いまや、ほかで働いたり、学生生活を送りながら音楽をやるのも当たり前になっているこの時代に、その決断をするのは並々ならぬ思いがあったことだろう。彼女が音楽に込めた思いとは、いったいどのようなものなのか。まっすぐに前を見据えながら、たっぷりと語ってくれた。
インタヴュー&文 : 前田将博
写真 : 山崎聖史
今回は、知らない人とか、私が行ったことのない場所の人にも手に取ってもらえる
――今回のアルバムは、オーディションがきっかけで作ることになったんですよね。タグチさんがオーディションを受けるのは、少し意外でした。
正直、全然好きじゃないし、受けるつもりはなかったんですよ(笑)。でも案内のメールを読んだら、優勝したらタワレコでCDを出せてライヴもできますって感じだったので、悪いことはないのかなって。それで、たまたま返事をして。予選の日に歌いにいったら、やっぱり楽しくはなかったですけど(笑)。決勝も50センチ先に審査員がいて、その人たちに向けて歌うって感じだったので、普段のライヴとは全然違う。たぶん、もうほかのオーディションを受けることはないと思いますね。
――でも、あっさり優勝しているじゃないですか。最初から勝てる感触はあったんじゃないですか?
もちろん自信がなければ受けないし、一番かっこいいでしょって気持ちはありましたけど、相手がなにを基準に選ぶのかはわからないですからね。
――オーディションに受かってから、環境は変わりました?
わたしのことをまったく知らない人が、新たに関わってくるっていうのはあまりなかったですね。いろんなことを体験できたし、できるようになったことはたくさんあったんですけど。レコーディングもそうだし、PVやジャケットも、以前よりもちゃんと作れるようになった。そういうことは大きかったですね。
――では、タグチさんのなかでは、そこまで大きな変化はなかった?
結局、全部自分の曲だし、アルバムの内容も好きにやらせてもらいましたからね。映像も私と山崎聖史さん(カメラマン)に任せてもらったので、協力していただいたって感じです。すごくやりやすかったですね。
――アルバムの収録曲も、オーディションを受ける前に考えていたものと変えたそうですね。
もともとセカンドは出そうと考えていたんですけど、その段階では、店頭に並べたりちゃんとプレスしたりってものではなかった。(ファーストの)『夜へ』の延長だけど、新しい要素も取り入れたものというか。『夜へ』は、私が人に手渡すっていう広がり方で、地道にちょっとずつ売っていった感じだったんです。でも今回は、知らない人とか、私が行ったことのない場所の人にも手に取ってもらえる機会がある。だからもっと広がってほしいと思ったので、いまの私のベストというか、「これが私だ」って自信を持って全部伝えられる内容にしようと思いました。
――僕は最初、今作はもっとポップな内容になると思っていたんですよ。でも「そのとき」にノイズが入ってきた瞬間に、これぞタグチハナだなって思って。「平和がきこえる」のアレンジも攻めているし。
攻めましたね(笑)。
――「さいわい」なんかは声をすごくボカしていますよね。
あれ、幻みたいな感じですよね。でも、エフェクトをかけたり強いリヴァーブをかけているわけではなく、あれも自分の声を4つくらい重ねて作っているので、全部私の声なんです。それで、その人に私のやりたいことや音楽の好みとかを話したら、わかってくれて、無事にこのまま出すことができました。
諦めみたいなものって、実はその人の原動力になっているんじゃないか
――今回は、ドラムやベースもタグチさんが演奏しているそうですが。
前の作品ではドラムは打ち込みだったし、今回はちゃんとした楽器、ちゃんとした音で録れるっていうことだったので、ドラムもせっかくだから叩いちゃおうと。私が大好きなジェームズ・イハも、全部自分でやっていますしね(笑)。
――ほかの人に頼もうとは思わなかった?
それも考えたし、やってもらいたい人はいっぱいいるんですけど、普段から一緒にやっているわけではないので、一体感やいいグルーヴが生まれないんじゃないかって。それなら下手でも、自分がやりたいようにやってみようと思いました。
――ライヴの定番曲から最新曲まで収録されていますが、このなかで1番古い曲はどれなんですか?
「そのとき」が一昨年の9月におばあちゃんが亡くなったときに書いたので、一番古いですね。その次が「ビア」で、去年の1月くらいに作りました。
――前作にラストに収録されていた「ビア」は、今回1曲目に入っていますよね。この曲はずっとライヴでやり続けているし、思い入れも強いと思います。
この曲で出逢えた人もたくさんいるし、オーディションもずっとこの曲を歌って優勝しました。だから、どうしても代表曲ってなるし、私もそう思っているので『夜へ』では最後に入れたんです。でも、そうも言っていられないぞと。「ビア」だけじゃないって自分に言い聞かせる意味合いもあったし、前作とのつながりも含めて考えて、今回は一番最初に入れました。
――この曲は、届かないことを歌っていると思うんです。「声は10年後も届くことはないでしょう」や「全部わかりあえるように 世界はできてないから」の部分なんかも、諦めているというか。でもタグチさんが音楽に向かうときって、絶対にこうは思っていないと感じるんですよ。特にこの曲に関しては、絶対に届けられるって思っていつも歌っている気がします。
はじめてそんなことを言われたので、ドキドキしました(笑)。たしかにライヴをやっているときは無敵なので、届かなかったら私の負けだと思っています。だからまっすぐ前を向いて歌えるし、作っているときは届くと思っている。ただ、絶対に届かないたぐいの気持ちも、誰にでもあると思うんです。夢でも恋でも。そういう諦めみたいなものって、実はその人の原動力になっているんじゃないかと思うんですよね。
――そのときに感じた後悔や悲しみが。
諦めなきゃいけないときって、悲しい気持ちが先行するけど、すごく悔しいから絶対に怒っていると思うんですよ。叶わなかった恋や勝てなかった勝負だったり、喧嘩して相手に気持ちが届かないときは、落ち込むというよりは腹が立っちゃう。だから絶対に解決しようと思えるし、どうしてそうなったかを考える原動力にもなると思うんです。
東京に生まれ育ったっていう状況がおそろしいことのように思えたんです
――だからなおさら、この曲をライヴで聴いたときに強い思いを感じるのかもしれないですね。タグチさんはもともと大学進学を考えていたそうですが、いまはもう進学を辞めて、音楽だけでやっていくと決めているんですよね。もしかしたら、その決断のきっかけになったのは、この曲なんじゃないですか?
そうなんです。去年の1月にこの曲を作って、夜中に一発録りで録ったものをSoundCloudにあげたんですよ。そしたら、いままでにないくらいのコメントやリアクションがあって。それで、いい曲ができたのかもしれないなって。私のなかではただの失恋ソングで、誰かにその気持ちを訊いてほしいくらいの思いで作ったので、そんなに反応があるとは思っていなくて。当時はまだソロでの活動もそんなにしていなかったので、明確な自分の弾き語りのスタンスも作れていなかったんですけど、それからライヴで必ずこの曲をやるようになりました。
――そのときからなんですね。
で、2月5日に新宿LOFTで大勢の人の前でこの曲をやったときに、好きになってくれる人がたくさんいて、こんなにいっぱいの人の前でやるのは超楽しいなと思ったんです。その日に「もっとやらなきゃいけないことがあったぞ」って気づいて。ここで受験期に突入して音楽活動を休んで、大学に行ってから学業と並行してやるっていうのが、私にはもったいないと感じたんです。こんなに明確にやることがわかっているのに、これを捨てて明確じゃないもののために努力をするのは耐えられなかった。余計なことをしている時間がないって思ったんですよね。
――そこで、音楽活動に専念しようと。
次の週はちょうど期末テストとかだったんですよ。でもLOFTの日にいろんな人に「CDはないんですか?」て言ってもらえて「作らなきゃ」って思ったから、レコーディングに入りたくてエンジニアに連絡して。それから1ヶ月で作ったのが『夜へ』ですね。テスト期間中はずっとレコーディングだったので、成績は30位くらい落ちて諦めがつきました。
――タグチさんの場合、ご両親もミュージシャンだったそうですけど、小さい頃からミュージシャンに対する憧れはありましたか?
私、小1か小2のときにお母さんに「私はママみたいに売れないバンドマンになる」って言ったみたいなんです(笑)。でも、お花屋さんとかパン屋さんとかいろんな夢はありつつ、小学校高学年には音楽をやりたいと思っていましたね。
――アルバムの最後に入っている「さいわい」も、「ビア」に通じる思いの強さを感じます。
「ビア」はわかりやすいし、友達に話すみたいな感じで作ったんですけど、「さいわい」は逆に悩んだり葛藤している姿を誰にも見せたくないと思って作ったんですよね。だから、人の言葉を借りないと作れなかった。大好きな宮沢賢治の言葉を借りて表現しないと、やりきれなかったというか。なので、これはある意味で1番抽象的な、自分の気持ちに関しては見せていない曲だと思いますね。
――この曲はライヴではアカペラで歌うことも多いじゃないですか。だから余計に、自分の思いを込めたものだと思っていました。
私がこれを歌うことで、意味のわからない重さを感じると思ったんですよ。普通に聴いたらただのラヴ・ソングなんですけど。私にしかわからない言葉で、私にしかわからない曲を作ってしまったら、それは世の中に発信することではないと思っていて。だから聴く人や歌う人、文字を消化する人によって、意味の違う重たいなにかを感じてもらえたらいいなと思っています。
――アルバム収録のなかで1番新しい曲は「魚に成る前に」ですよね。去年の年末にサウンドクラウドにアップしていました。この曲は東京について歌っていますよね。
地方から東京にきて、それを歌っている人はいっぱいいるじゃないですか。それはそういう人たちにしか書けないし、私がどれだけ東京への憧れや想像とのギャップを歌っても意味がない。でも、生まれて育った街を、勝手にいろんな人が歌っているのって、すごいことじゃないですか。結局、どこ出身の人でも、誰にとっても特別な街だと思うんですよね。それを、東京生まれの私がほかの人たちと違う言葉で表現するのも、おもしろいんじゃないかって思ったんです。
――東京を「怖くて仕方ないな」と表現しているのがおもしろいなと思いました。タグチさんはたぶん、東京が好きですよね。
好きですね。だからこそ、東京に生まれ育ったっていう状況がおそろしいことのように思えたんです。地方から出てきた人と違って、この街に思い切って飛び込むみたいなことをしたわけでもないし、夢に破れて帰っていくこともない。ずっと環境が変わらないわけじゃないですか。それは、ある意味大変なことなんじゃないかと思って。
自分が起点になって、常に根源になっていないと嫌だなと思っています
――タグチさんの詩は抽象的な表現も多いと思うんですけど、「平和がきこえる」は結構はっきりした言葉というか、具体的な単語が多く使われているように思いました。そういう意味で、少しほかの曲とは違うのかなって。
これは、去年の5月くらいに作りました。私はまだ18年しか生きていないですけど、年を重ねるたびに、見たことのない災害や世界で起こっている大きな事件を、見たり体験したりしていくわけじゃないですか。まわりの大人たちはそれをずっと見てきているけど、私が見るのはほとんどがはじめてで。その最初のときに感じる疑問とかって、次はもう持たなくなるんだろうかって思ったんですよね。日本人は普段は穏やかに暮らしているから、なにかを目の当たりにする機会ってあまりなくて、世界中で起こっている事件に「かわいそうだね」「大変だね」って言っている状況がほとんどで。日本は平和だから、安全だからってみんな思って生きているだろうし、それを当たり前のように考えてしまっている。もちろん、自分も含めてですけど。
――そういうことに対する疑問が歌われている。
でも、この曲を聴いてなにをしてほしいとかは全然ないんです。いまの私の立場では影響力もないですから。メッセージ・ソングというよりは、ただ単に「いまは平和なの?」っていう私なりのちょっとした皮肉を込めたというか。だから、説教臭くならないように考えて作りましたね。
――なにかきっかけになるできごとがあって作ったわけではない?
普段からいろんなものを見たり、感じたりしたことをメモしているので、それが溜まりに溜まってって感じですね。
――「平和がきこえる」に対して「花のワルツ/1969」は、もっと本能的なイメージの曲です。
私はヒッピーが好きで、その時代背景に興味があって、そういうものを調べていたときに「平和がきこえる」とは、またちょっと違った平和みたいなものがあるなって思ったんですよね。あっちはすごくシリアスな考えの曲なんですけど、こちらの場合は理屈なしでハッピーを求めているというか。人に幸福を与えることを第一に考える人たち。1969年っていうのはヒッピー音楽がすごく盛んになった年でもあり、いろいろな運動が起こった年でもあるんですけど、そのときの運動や音楽に憧れがあって、そのイメージで作った感じですね。
――タグチさんは今後、どんなミュージシャンになっていきたいと思いますか?
これから音楽をクリエイトしていくにあたって、自分が起点になって、常に根源になっていないと嫌だなと思っていますね。カラオケが大好きだから誰かが作った曲を歌うのも好きなんですけど、自分の曲をこれからも作っていきたいし、歌っていきたいので、それをずっと続けていける環境を作りたい。それを、ブレることなく続けていきたいです。音楽を中心として、音楽以外のこともふくめて、いろいろなものを自分で作りあげていけるようになりたいと思っていますね。
――音楽以外というと?
人に自分の音楽を伝えるときって、曲や歌詞だけじゃ伝わらないこともある。自分が作りあげた世界観を発信するには、いろんな場所を使わないといけないと思っているから、自分の気持ちを汲み取ってくれる人たちと一緒に、そのイメージを再現したい。歌うのが1番ですけど、それしかできなくなってしまうのは嫌ですね。自分の手で発信できるものは、全部自分の手でやってみたいと思っています。
――誰か目標としているアーティストなどはいますか?
音楽に対するスタンスって、すごく真剣にまっすぐ取り組むことも大事だと思うんですけど、どこか肩の力が抜けていることも大事だと思うんです。私は性格的に、考えすぎちゃうんですよね。心配性だし、余計なことや最悪なことばかり考えちゃう。そうではなくて、もっと楽しみながらやっていきたいなと思ったんです。それこそジェームズ・イハとかも楽しんでやっているのがわかるし、だからこそああいう気の抜けていながらかっこいい音楽ができる。
――なるほど。
音楽性というか、これからまた新しい作品を作っていく上でだと、私はヴァネッサ・パラディというアーティストが好きで、特に昔の曲が大好きなんです。私が好きなノイズとか、そういう感じではまったくないんですけど、ポップ・ミュージックですごく親しみやすい。私の声や曲だったりをトータルで分析していく上でだと、日本のヴァネッサになれたらいいなと考えていますね。
LIVE INFORMATION
タグチハナ 2ndミニ・アルバム『Orb』発売記念インストアイベント
2015年3月14日(土)@タワーレコード難波店5F
2015年3月15日(日)@タワーレコード広島店
2015年3月20日(金)@タワーレコード渋谷店
2015年3月21日(土)@タワーレコード仙台パルコ店
2015年4月19日(土)@タワーレコードアミュプラザ博多店
2015年4月26日(日)@タワーレコード名古屋パッセ店
タグチハナ 2ndミニ・アルバム『Orb』レコ発ワンマン
2015年4月5日(日)@新宿JAM
出演 : タグチハナ / スッピンボサノバ / タグチハナスペシャルバンド
ワンマン後夜祭~卒業できてよかったねパーティー(仮)~
2015年4月7日(火)@渋谷GABIGABI
※ワンマン前売りチケット20番までのお客様ご招待
PROFILE
タグチハナ
1996年生まれのシンガー・ソングライター。2012年に音楽活動を開始。現在は高校生ながらもほぼ毎週のようにライヴを行うなど、精力的に活動している。2014年3月にファースト・ミニ・アルバム『夜へ』を発売。salsaの鈴木健介や高野京介、THEラブ人間の金田康平らがコメント(オフィシャル・サイトに掲載)を寄せるなど、注目を集めた。2014年、NOTTV3で放送中の音楽情報番組「MUSICにゅっと。」Season1で行なわれていたオーディション「ココでミラクル!」にて、3ヶ月に及ぶ予選・決勝でグランプリを獲得。2015年3月、セカンド・ミニ・アルバム『Orb』が初の全国流通でリリース。