
2013年3月に1stフル・アルバム『魔法が使えないなら死にたい』をリリースした女性シンガー・ソングライター、大森靖子。同アルバムのツアー・ファイナルを渋谷クアトロで開催、レーベル無所属のままソールド・アウトさせ、関係者をはじめ、さまざまな場所で話題をさらった。また、ジャンルの垣根を簡単に飛び越え、BiSやアップアップガールズ(仮)などアイドルとの共演もするなど、いま最も注目を集めるアーティストといえる。そんな大森晴子の黒歴史を暴きだす音源をOTOTOY独占で配信スタート。活動初期に録り溜めた楽曲、いまでは入手困難な楽曲など、全11曲を収録。初期音源のため音が悪いという理由からmp3配信のみだが、大森を知る上では聴かずに通れない作品集となっている。また、9月には教会にてDSDでレコーディングした音源の配信も決定!! アナログ・レコードのような滑らかさと、デジタルならではの透明度を合わせ持つDSDでの音質でお届けする。過去と現在、それぞれを聴き比べて、本人へのインタビューを読んで、大森靖子をより深く知っていただきたい。
いまでは入手困難な初期音源をOTOTOY限定で配信スタート!!
大森靖子 / 大森靖子黒歴史 EP
【価格】
mp3 単曲 100円 / まとめ購入 500円
【Track List】
1. 剃刀ガール / 2. 眼球 / 3. カプチーノ / 4. 109回目の結婚式 / 5. 悦子の食卓 / 6. あいのうた / 7. あいのう / 8. 少女3号 / 9. 京都旅行 / 10. 赤い部屋 / 11. 東京地下一階
大森靖子のデビューE.P.も配信開始
大森靖子 / PINK
【価格】
wav / mp3 単曲 200円 / まとめ購入 1,000円
【Track List】
1. キラキラ / 2. パーティドレス / 3. コーヒータイム / 4. お茶碗 / 5. さようなら / 6. PINK
INTERVIEW : 大森靖子
〈好みのタイプがあるのなら 生まれたときにそっと教えてくれれば その通り育っておいたのに〉。こんなにも一途で、せつなくて、心が締めつけられてしまうようなフレーズを、ほかに知らない。これは「剃刀ガール」という曲の一節。大森靖子が活動のごく初期に作った曲だ。大森靖子は、2012年4月にデビューEP『PINK』をリリースする以前に、 いくつかのデモ音源をリリースしていた。この頃の曲は、現在の彼女が持っているような圧倒的な力強さはない。等身大で、ひとりのごく普通の女の子が感じているような、とても個人的な思いを歌っているように聴こえる。でも、それは誰もが歌えるものではない。ほかの誰も表現してくれなかったような感情を、彼女は言葉にしてくれている。その言葉を、いまとなんら見劣りしない普遍的なメロディに乗せて歌っている。
こんな素晴らしいものが、世に出ずに埋もれてしまっていることは非常にもったいない。そう思って本人に打診してみたところ、当時の音源の配信を渋々OKしてくれた。今回配信される曲は、大森靖子の活動最初期のものも含むデモ音源のなかから、本人が「これはナシだろう」と判断したものだけを集めた。しかし、これらの曲には、いまの大森靖子につうじる凝縮された才能の片鱗がつまっている。まったく「ナシ」とは思えない。彼女の才能は、やはりずば抜けているんだと思う。音源配信に伴いインタヴューも敢行。8月29日にDVDも発売される渋谷クラブクアトロでのワンマン・ライヴや、TOKYO IDOL FESTIVAL 2013でのZepp Tokyoのステージのこと、歌詞に対する思いの変化などを語ってもらった。いまも凄まじい勢いで駆け抜けている大森靖子。その裏にある思いを感じてほしい。
取材 & 文 : 前田将博
「最近名前聞くな、どんな子なんだろう」って
——アルバム『魔法が使えないなら死にたい』が発売されて、かなりの反響があったと思うんですよ。いろんな媒体が記事を載せていたり、CD屋がプッシュしたり、単純にライヴを観にくるお客さんも増えたと思うし、それまで大森さんの音楽を聴かなかった人にまで確実に広がっていると思いました。そういう状況を見て、本人としてはどんな感触がありましたか?
自信は、ずっとないんですけど、でも自信がなかったしいままで誰にもみつからずに、評価されなかったぶん、じっくり自分で考えて動くことができました。ジャケも発注書も全部自分で納品して、だからすごく思い入れがあって、お気に入りだったし、自信は今でもないですけど、これだけやったんだからこのくらいはできる、という確信にかわりました。
——行動という部分だと、大森さん自身が各媒体に「載せてください」って売り込んだりしてたっていう話もうかがったんですけど。
それがインディーズなので。ライターの方に手伝ってもらって、CDをいっぱい送りました。
——では、曲を聴いて載せようと思った人が多いんですかね。
どうなんだろう… 炎上商法じゃないけど、自然にこうきつめのこと言ったりしちゃう今までゴミだと思っていたブログとかが発売前にやけにツイッターでRTされたり、いまはそれがフライデーで連載させていただくことに繋がったのですが、あとハロヲタとか、キャラとして広まった感覚があります。それで、「最近名前聞くな、どんな子なんだろう」って。
——確かに、有名なライターさんとか、漫画家の久保ミツロウさんやアーバンギャルドの松永天馬さんみたいな方がTwitterでつぶやたりラジオで流したりしてましたよね。橋本愛さんなんかもかなり前から名前を出していました。
橋本愛ちゃんはアルバム出す前から、「tarpaulin」(大森靖子出演の映画)を観てくれて知っていてくれたとうかがいました。最近ギターも始めたらしいよって、あの、いつもファンの方が教えてくれるんです愛ちゃん情報。ギター教えてあげたい!!!
全員が自分のことを好きだろうっていう状況がいちばん新しかった
――渋谷CLUB QUATTROでのワンマン・ライヴも、 もちろんそれなりの数のお客さんが入るとは思ってたんですけど、正直あそこまで埋まるとは思いませんでした。アルバム発売から2ヶ月もなかったじゃないで すか。なのに、蓋を開けてみたら身動きもとれなくなるくらいの人が入ってて。チケットの売り上げは順調だったんですか?
ちょうど毎日ライヴがあったので、手売りでチケット売って記念にチェキを撮るっていうのをやってたんです。それも一日3〜10枚とか、本当にコツコツじゃないですか。だからすごいたくさん売った! みたいな感覚なかったし、しかもその売り上げはクアトロに返さなきゃいけないのに、ギター壊してそのお金で新しいの買っちゃって。今はそれも壊しちゃったんですけど。とにかくなんかそのことで必死でした。

――手売り特典にチェキをつけたりとか、大森さん自身がいろんなライヴにチラシを配りにいったりとそういう姿勢をみて応援したくなった人もいるんじゃないですかね。
でも、チラシ配るのは別に普通のことだし。自分は配れてないほうだと思う。
――結果として満員になりました。これまでは、あれだけの人の前で、しかもワンマンでライヴをする機会はなかったと思うんですけど、どんな思いでステージに立ちましたか?
全員が自分のことを好きだろうっていう状況がいちばん新しかったです。いつもの対バンだと「全員敵だ!」っておもってて。
――客席のレスポンスも、いつもよりもずっと暖かかったと思うんです。アンコールでピンクのサイリウムをみんな振ってたじゃないですか。あの景色を観て、どんなことを考えてました?
完全に知らなかったから、すごいびっくりしました! そんなにおおくの人が自分に愛情を向けてくれる体験ないじゃないですか。誕生会とかくらいで!!
――あの直後に「PINK」を歌ったじゃないですか。あれは、もともとアンコールで歌おうと決めてたんですか?
クアトロは1曲目しかセットリストを決めていなくて、「新宿」のトラックを流そうっていうことしか。で、次なに歌おうかなーとおもったらステージにキティちゃんがいたから「KITTY'S BLUES」をやろう、みたいな感じで。
――クアトロでも全部その場で決めてたんですか!? 曲を決めておかないのは、不安じゃないですか?
決めちゃうほうが不安で。その曲を歌いたい空気じゃないときにも、やらなきゃいけなくなっちゃうなんて不自由じゃないですか。バンドだったら曲を決めておいても、音が大きいからその音にお客さんがついてくるけど、弾き語りだとお客さんと対等だから、お客さんの表情に返答をしなきゃいけないんですよ。

――昔からセット・リストは決めてないんですか?
決めてないです。PAや照明の人は迷惑だと思います。でも音を聴いて空気で照明とかも変えてほしいんですよ。弾き語りは即興性がたのしいのでそれを一緒にやりたくて。会場が大きくなるとまた違うのかもしれないけど、Zeppとかもそれでちゃんと成立してたから大丈夫だと思う。
どこの枠とかまじどうでもいいです
――クアトロでのライヴが終わったあと、深夜に新宿Motionでもライヴをやりましたよね。あそこでやった最後の曲が「パーティードレス」 だったじゃないですか。あの曲の歌詞に〈パーティーがはじまるよ あの夜をこえて〉とありますけど、もうあの時点でクアトロのライヴは大森さんのなかで過去のものになっていたんでしょうか。
音は出した瞬間になくなるから。とっくに過去でした。
――クアトロでのワンマンが終わってからも、一切ペースを緩めずに活動してるじゃないですか。会場の規模もいままで以上に振れ幅が広くなって、円盤でもやるしZeppでもやるしっていう。
いつも通りです。一生無双モードでいたいです。
――Zepp Tokyoでのライヴは、キャパもクアトロの5倍くらいあって、イベントもアイドルのフェスという特殊な状況だったわけですけど、やってみていかがでした?
前にアイドルばっかのライヴに出たときに一曲目の「新宿」の「きゃりーぱみゅぱみゅ」っていう歌いだしで、何こいつみたいな笑いが起こっちゃったんですよ。だからすごいこわくて、「きゃりーぱみゅぱみゅ」の発音とかもすごいセンシティブになってビクビクして。 歌っている間すごくシーンとなってて、あーどっちだろ? ひかれてるのかな? とかおもってたら曲が終わった瞬間に大歓声が起こって、私の直球もちゃんと受け取ってくれたんです。素直な人たちなんだなって。
――これまでの大森さんのライヴでもずっとそういう圧倒的な空気があったと思うんですよ。それがどんなに大きな会場になっても通用することを、証明したんじゃないかと思うんですが。
最近は、ロック・フェスでアイドルが爪痕を残すみたいなことばかりだったじゃないですか。こっちだって負けてらんないですよ。私もアイドルが好きだけど、ステージに関してだけは負けてる気持ちはなくて、自分がやって音楽だけで同じように立ちたいって思ってるので。
――最近アイドルと絡む機会が多いのは、大森さん自身がアイドル好きであると同時に、そういう思いもあったんですね。Zeppでやって、アイドルのイベントに出て、このままどんどん一般層に訴えかけていくのかなと思っていたんです。だから、今度やる企画が戸川純さんとの2マンなのは少し意外でした。新宿LOFTっていう場所も戸川純さんていう人も、どっちも所謂サブカル的な位置にあるじゃないですか。
どこの枠とかまじどうでもいいです。自分が魅せたいおもしろいこととか、お客さんがみたいんじゃないかってものをやってるだけです。
――大森さんは、そういう自己プロデュース力というか、自分の立ち位置を客観的に把握する力をすごく持ってると思います。
そんなたいそうなものじゃないです。いろんなタイミングに恵まれているだけで
――フォークの人とコラボレー ションしようがアイドルとコラボレーションしようが、まったく違和感がない大森さん自身が、なにものにでもなれてしまうのと同時に、どこにいっても決して染まらないものを持ってるんだと思うんです。既に確固たる大森靖子という個性が大森さんのなかにあるからこそ、なにをやってもブレないのかなって。
何しても、例えばどんな曲調でも「これが大森靖子の音楽です」って言えるくらいにはなったとおもいます、歌手として。ずっと器用貧乏が弱点だと思ってたんです。全部中途半端だから。でも今は、なんでもかんでも大森靖子の表現に利用してやると思えていて。
――いまはもう上も下もいないというか、勝負する相手すらいないのかなって気がします。
相手がいない… 他に同じような立ち方をしてる人はたしかにあまりみないです。まあどうでもいいです。自分のペースで自分から出てくる素直な言葉とか音楽に移行してけばいいなと思っています。
一丁前に世界に喧嘩売ってるみたいな気分になってたんですよ
——今回リリースされる過去音源集は、大森さんが自分の過去音源のなかから特に酷いと思うものをチョイスしてもらったんですよね。選んだ曲を送ってもらったときに、大森さんは「おぞましい」とおっしゃっていました(笑)。
音質がとにかくひどいです! 演奏も雑だし。
――でも、もらった音源を聴いてみたら、どれもめちゃくちゃよかったんですよね。音は確かに悪いし、歌い方もいまとは違います。でも、大森さ んの良さのひとつである、一度聴いたらずっとぐるぐる頭のなかでまわってしまうほどキャッチーな歌詞とメロディが、この時代の曲にもあるんですよね。
メロディは昔からあまり変わってないです、とにかく覚えやすいようにというそれだけで。

――「剃刀ガール」や「カプチーノ」「あいのうた」なんかは、いま歌っても違和感がないと思うんですよ。「少女3号」なんかはピンクトカレフでもやってましたよね。ここに入ってる曲をもう一度歌おうとは思わない?
単純に存在を忘れてました。
――歌詞も、いまと比べると素の大森さんに近い内容のものが多いのかなと思ったんですよ。いまの曲はフィクションだったり、大森さんが作りあげたキャラや世界観を歌った曲もあるじゃないですか。そうではなくて、もっとパーソナルな部分が書かれている。
ライヴもそんな感じでしたからね。お客さんはいっさい見ないで、下だけ向いてしゃがみこんでただでかい声を出すのがライヴだったので…。それで一丁前に世界に喧嘩売ってるみたいな気分になってたんですよ。みてないくせに。

――「あれそれ」とか「エンドレスダンス」みたいな、最近ライヴでやってる新曲は、また少しパーソナルな方向に戻ってきている気がします。アプローチの仕方は昔とは違うと思うんですけど。
あんまりこう、見つけてもらうためにメチャクチャなこと言って振り向かせようみたいなガムシャラさがなくなって、自分の好きなことを歌ってます。だから次のアルバムはもっと、愛しいものができるとおもいます。
LIVE SCHEDULE
2013年8月17日(土)@青山月見ル君想フ
2013年8月18日(日)@渋谷LUSH
2013年8月21日(水)@高円寺CLUB MISSIONS
2013年8月22日(木)@新宿Naked Loft
2013年8月23日(金)@大阪シアターセブン
2013年8月26日(月)@荻窪クラブドクター
2013年8月28日(水)@下北沢GARDEN
LOFT×大森靖子 presents ミッドナイト清純異性交遊
2013年8月29日(木)@新宿LOFT
前売 / 当日 3,000円 / 3,500円 (+1ドリンク)
出演 : 大森靖子、戸川純 O.A. 東京真空地帯
2013年8月31日(土)@長野India Live The SKY
2013年9月5日(木)@下北沢SHELTER
2013年9月8日(日)@新宿LOFT
2013年9月9日(月)@新宿JAM
2013年9月11日(水)@新代田FEVER
2013年9月22日(日)@愛媛県西予市宇和町「池田屋 蔵」
2013年9月29日(日)@「思い出の潟分校」校舎
2013年10月4日(金)@歌舞伎町ニュージャパン 風林会館5F
2013年10月20日(日)@札幌Sound Lab mole
2013年10月25日(金)@京都KBSホール&METRO
PROFILE
大森靖子
ポップでキュートなのにヒリヒリする、カラフルなのにどこかくすんでみえる。
圧倒的な存在感で優しく包み込むような、冷たく引き離すような歌声と楽曲の魅力は、起動力の高い彼女が主演・音楽担当映画の上映を兼ねた映画館ライヴ、アイドル・イベント、香山リカと自殺予防お笑いイベント、田口ランディとの詩の朗読イベント、汚いスタジオ、銭湯、渋谷O-EAST、『夏の魔物』等の大型フェス、本屋、日本中、海外まで凄まじいバイタリティでこなす活動により、口コミで話題に。
弾き語りでのライヴの評判を高めつつ、2011年バンドTHEピンクトカレフ始動。
2013年1stフル・アルバム『魔法が使えないなら死にたい』を発売。リリース・ツアー・ファイナルを渋谷クアトロで開催、レーベル無所属のままソールドアウトさせ、伝説のはじまりと称されるも、本人はストイックに同13日深夜即効次のライヴを敢行、変わらず連日ライヴとハロヲタの活動を充実させている。