OTOTOY EDITOR'S CHOICE Vol.362 ジャマイカン・レゲエにおけるバンドの存在
OTOTOY編集者の週替わりプレイリスト&コラム(毎週金曜日更新)
ジャマイカン・レゲエにおけるバンドの存在
去る1月26日、ジャマイカのレゲエ・シーンを長きに渡って牽引してきたドラマー、プロデューサーのスライ・ダンバーが亡くなった。海外も含めれば多くのスペシャリストによる追悼文が今後も公開されると思うので、ここではあえてその補助線となるような話を。ジャマイカにおける「バンド」の概念について。
スライは、ロビー・シェイクスピア(2021年死去)というベーシストとともにレゲエにおける鉄壁のリズム隊=スライ&ロビーとして、1970年代後半から、ロビーが死去するまで第一線で活躍してきた。その活動はレゲエに留まらず、海外での活動、ロックやディスコ、エレクトロ・ファンク、その後のクラブ・ミュージックのなかでもいくつも名演を残してる。1970年代末からスライ&ロビーはレーベル〈TAXI〉も立ち上げプロデューサーとしても活動、1985年の「Sleng Teng」以降、ダンスホール・レゲエのトラックが打ち込みのサウンドへと変化すると、スライはプロデューサーとして自らドラムマシンやサンプラーを駆使し、その強靱なグルーヴ感を電化されたリディム(ダンスホール・レゲエのバック・トラック)にも宿した。海外での成功もありながら、ジャマイカ国内のシーンに向けて、刺激的なリディムの実験を繰り返していた(細かくは前述のように他の追悼文に譲ろう)。ひとまずプレイリストは、わかりやすいスライの関わった代表曲を満遍なく10曲というところで。
彼らの出会いは1970年代中頃、ルーツ・レゲエの時代に、プロダクション / スタジオの〈チャンネル・ワン〉のハウスバンド時代に遡る。スライがバンマスを務めるザ・レヴォルーショナリーズというバンドのレコーディング・セッションでだ。それ以前からお互いを知っていたものの、そこでの演奏によって意気投合、その後の長い活動を共にすることになる。
ジャマイカのシーンにおいて、このハウスバンドという概念が重要ながら複雑怪奇でややこしい。特にプロデューサーやレーベルが乱立しはじめる1970年代、ときはレゲエの誕生とほぼ同じ頃からややこしくなる。スライの活動開始とほぼ同時期だ。
それぞれのバンド名はプロデューサー、もしくはスタジオの屋号のようなものと考えると理解がしやすいかもしれない。アメリカの〈モータウン〉におけるファンク・ブラザーズの存在に近いかもしれないが、それはある程度固定されたスタジオの箱バンが演奏し、シンガーがそこに歌を載せるというシステムのため、それもジャマイカとは実像は異なる。数は少ないもののいろいろなスタジオでレコーディングし、いろいろな名前のバンドが無数に存在し、しかもそのメンバーがかなり被っているのが1970年代のジャマイカだ。ロック・バンドの感覚から見たらそうとうよくわからないシステムではないだろうか。パーマネントなバンド=シンガーがいて固定のメンバーのバックバンドがいるという概念とは大きく違っている。
それ以前はもう少しわかりやすかった。その直前、1960年代中頃、例えば自らスタジオを所有する2大巨頭のプロダクション、コクソン・ドッド率いる〈スタジオ・ワン〉のソウル・ヴェンダーズやサウンド・ディメンション、そのライバルのデューク・リード率いる〈トレジャー・アイル〉のスーパーソニックスといったバンドがいたが、どちらも〈モータウン〉のシステムに近く、スタジオを所有していたため、スタジオのいわゆる箱バンということで理解できる。が、1970年代、バニー・リーのようなスタジオを持たないプロデューサーが現れ、彼らがバンド名を屋号のように持ったことで、実体がわかりにくいものになったのだろう。
当時のジャマイカのプロデューサーは自ら資金を出し、スタジオをおさえ、セッション・ミュージシャンを集め、録音、それをリリースする。プロデューサーの好みや、当世の流行によって参加するミュージシャンたちは流動的で、基本的にその場のセッションでレコーディングされたものはプロデューサーに帰属するというジャマイカの音楽シーンのシステム(もちろん、これは後年、著作権などで絶えず問題になっている)。このプロデューサーは、スタジオを持っていたり、そこの専属の人もいれば、スタジオを持たず、時間貸しで借りたりするプロデューサーもいる。もしくはリー・ペリーのような自らスタジオを作る人までいる。専属のプロデューサーがいるスタジオも、常時稼働しているわけではないので、空いているスタジオ時間はそうしたフリーのプロデューサーに貸したりもする。ややこしい。
ハウス・バンドの有名ところでは、前述のザ・レヴォリューショナリーズ。これは〈チャンネル・ワン〉スタジオを所有するジョセフ・フー・キムというプロデューサーが制作、スライを中心としたセッションで作った音源のときに使われる。他にはバニー・リー(スタジオは持ってない)のバンド名はジ・アグロヴェイターズ、ジョー・ギブス(スタジオ所有)はザ・プロフェッショナルズ、リー・ペリー(途中からスタジオ所有)にはジ・アップセッターズというのがある。プロデューサーの好みや、時にスケジュールによってメンバーは変化する。そして流行の音を演奏できるミュージシャンが好まれるわけだ。各プロデューサーは、こうしたバンドのバッキング楽曲にシンガーやディージェイをアサインし楽曲を送り出していった。
しかし、クレジットを見るとこうした別のバンド名が付いている作品においても、ドラマーのスライをはじめほぼ同じ様なミュージシャンばかりが出てくる。たとえば1970年代後半のレコードを眺めていると、下手をしたら各パート5人ぐらいしかいないんじゃないかというかぶりっぷりだ。その中でもスライとロビーは多くのプロデューサーに起用されたトップ・セッション・アーティストということがわかる(必ずしもふたりセットではないときもある)。その数は本当に尋常ではない。上記にあげたバンド名が冠された作品にも、ほとんど参加していると言って良い。むしろ彼らのうちどちらも参加してないルーツ・レゲエのアルバムを見つけることは結構困難だろう。
ちなみにこのバンド名、さらにややこしいのは、比較的パーマネントなメンバーのバンドもいるところだ。例えばベーシストのジョージ・"フリーリー"・フルウッドを中心としたソウル・シンジケート。またスライ&ロビーが海外進出したのちにジャマイカ国内のトップ・バンドになった、ドラマーのスタイル・スコットを中心としたザ・ルーツ・ラディクスあたりがそういえるだろう。ザ・レヴォルーショナリーズも、一時期から結構そうなる。発注元のプロデューサーやプロダクションが〈チャンネル・ワン〉とは別でも、その名前でクレジットされることがでてくる(それぐらい人気があったということでもある)。比較的プロデューサーが変わってもバンド名が変わらずという動きは、1970年代末のこのスライ率いるザ・レヴォルーショナリーズあたりからの流れという感じもする。それほど彼のドラム・サウンドはジャマイカのシーンを変え、人気を博したのだろう。
さてバンド名がなぜこうして重要になったのかというと、推測だが恐らくダブの誕生にも起因している。言い換えればインストが重要な商材になったからではないかと。1970年代初頭より、ジャマイカではシングルのA面にはシンガーの歌う楽曲を、B面にはインストを収録していた。このB面のカラオケは、サウンドシステムのパーティの現場でMC(ディージェイ)がしゃべったり、ときにはシンガーが歌ったりというのに使われたわけだ。さらにプロデューサーたちは、1回録ったトラックに例えばサックスのソロをかぶせたり、別の人が歌ったり、MCが話芸をかぶせたりといった別のヴァージョンを作ってはリリースし、経費を浮かせて作品を量産した(もちろんセッション・ミュージシャンたちには1曲分のギャラしか払わない)。こうしたなかで「同じトラックを別のサウンドとして再利用する」という文化の果てに生まれたのがダブ・ミックスだ。こうしたインストやダブの需要のなかで、ダブ・ヴァージョン、つまりインストのリリース時に、各プロデューサーが屋号のような形でバンド名をクレジットしていった。それは自ら箱バンを率いているという箔付けというのもあるだろう。それぞれ別のバンド名なのだが、演奏しているのはほぼ同じメンバーというのも珍しくない。ややこしい。
最後に、スライ&ロビーというドラムとベースというリズム・デュオが大成したというのもおそらく他のジャンルにはないことだろう。これは、やはりレゲエのダンス・ミュージックとしての側面と、上記のインストの需要が大きかったからだと思われる。ルーツ・レゲエの音楽性、さらにダブ・ヴァージョンが重要になっていく課程で、そのサウンドの要としてドラムとベースがクローズ・アップされていった末のことだろう。ロックの花形はギタリストだが、レゲエではドラムとベースが重要視されるのはそのためだ。スライ&ロビーのようなリズム・デュオが自らの名前でアーティスト / プロデューサーとして活動するというのもこうした背景によるものと言えるのではないだろうか。












































































































































































































































































































































































































































































































































































































































