花譜 『狂想』
単独武道館を成功させた唯一のヴァーチャルシンガーとして、アーティストとしてより磨きがかかった花譜の3rdアルバム。ファースト・アルバム「観測」に収録された楽曲「過去を喰らう」から連なる3部作である『海に化ける』と『人を気取る』に加え、「不可解」の3部作『不観測』『狂感覚』など、メモリアルである種1つの終着点となった1枚だ。花譜のほとんどの楽曲を手がけているのがカンザキイオリであることを思わせないほど、楽曲のバリエーションは果てしなく広い。ティーン向けのメッセージから多種多様なジャンルの楽曲を卒なく歌いこなしていく花譜の姿は、大袈裟に言ってしまえば一種の進化論を目撃しているような気もするし、それがこのアルバムが終着点なのかもしれない。今後花譜がどのような楽曲を、そしてどのようなシンガーとなっていくのかを期待してしまう感情と、少し寂しさも漂わせるような傑作となっている。
長瀬有花 『アーティフィシャル・アイデンティティ』
現在6ヶ月連続デジタルリリースを行っている長瀬有花の第3弾となる楽曲。これまでの楽曲の中でも特に自由度の高い楽曲で、長瀬有花らしさが存分に発揮されている。開幕から小刻みなギターの音が軽快に挨拶してくれているようで、遊び心の強い歌詞とサビのメロディアスさは、急にスイッチが入ったかのようにしっとり歌い上げるギャップが心地良い。AIを主軸に哲学的な言葉で形成された癖の強い歌詞ではあるが、共感性は高くリアリティに溢れている。そんな題材を長瀬有花が歌い上げること自体粋ではあるが、あらゆるテーマ性も自分の世界観に落とし込める表現力はさすがだ。もともと変則的で癖の強いバンド・サウンドとの相性がスバ抜けて良いという特性を持ってはいるが、まさに連続リリースでは多種多様な楽曲がリリースされており、全曲通して彼女のポテンシャルの高さを感じさせる。
明透 『ASU』
『スロウリー』の衝撃から1年以上が経過、変幻自在な声質でキャッチーなメロディを歌いこなす唯一無二のヴァーチャル・シンガー、明透の1stアルバム。『スロウリー』を筆頭に『インパーフェクト』『ライトイヤーズ』と、明透の魅力が最大限発揮されたグルーヴィーでポップな楽曲が並ぶ。明透自身のヴォーカルは、癖が強いのか弱いのか、聞けば聞くほどわからなくなるのがある意味特徴的で、中性的にも感じ取れるが、大人っぽさもナチュラルに難なくできてしまう表現力の幅広さは圧倒的。00年代の日本のR&Bを彷彿とさせるような楽曲がアルバム通して並んでいるが、明透が歌ってしまえば、一気に自身の世界観へ変貌を遂げてしまう。格好良くもあり、どこか可憐さも携えたアーティストで、今後どのような楽曲を彩っていくのか楽しみでならない。