「マネジメントの言うことを聞いているだけじゃ、自分たちの人生はダメなんじゃないか」
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──神宿と柳瀬さんの出会いを聞いたところで、楽曲の話題に移りますけど。僕は「お控えなすって神宿でござる」以降から徐々に楽曲やメンバーの雰囲気が変わった気がするんですけど、柳瀬さんはどうですか?
柳瀬:僕がチームに入ったばかりの頃は、メンバーって「こうしたい」「ああしたい」と積極的に発言する人たちじゃなかった印象なんですよ。「与えられたものに対して、自分たちは一生懸命やる」という従来のスタイルを全うしていた。そんな中、関口なほさんが勇退することになって、それぞれ自分の人生と向き合わざる得なくなったと思うんです。そこから「マネジメントの言うことを聞いているだけじゃ、自分たちの人生はダメなんじゃないか」と気づき始めた。衣装や曲など、自分の考えを積極的に主張するようになり、意思決定が明確になっていったんですよね。「今まではこうだったから」という考えを2019年に捨てて、ゼロベースで何を作っていくのか、建設的にみんなで話し合うようになりました。確かに「お控えなすって神宿でござる」辺りから変わっていきましたね。
──それこそ塩見きらさん加入以降、5人だけでライブの段取りを仕切ったり、見せ方を考えたり、メンバー主導で進めていくことも多くなりましたよね。
柳瀬:マネジメントチームとしてもリソースが限られているので、メンバーやスタッフを含めて誰が何に得意なのかお互いに理解するようになりました。なので役割分担して動いているところはありますね。YouTubeに関しては、最初(一ノ瀬)みかさんがリーダーシップをとって進めていたんですけど、目隠しダンスの企画が当たったのを機に、(羽島)みきさんが面白い発想を持っていることに気づいた。なのでYouTubeはみきさん発信で進めていこうと。YouTubeにおける方向性もだんだん定まっていったところがあって、最初は再生回数が多い企画を狙って考えていたんですけど、それよりは神宿のメンバー1人ひとりのキャラを理解していただくためのプラットフォームだと気づけたんですよね。そのスタンスで発信していく上で、みきさんは適任だったと思います。
──どういうことでしょう?
柳瀬:みきさんは、なほさんが勇退する前まではすごく控えめな性格だったんですよ。専門学校を卒業して塩見さんが加入した辺りから、みきさんが積極的に発言するようになってきた。彼女の良いところって「自分が先へ行かないで、他のメンバーを先に行かせる」ところなんです。「自分は1番じゃなくて良い」くらいのスタンスで、メンバーのことを観察して他のメンバーのことをアピールする。そこがYouTubeの企画とハマったところはあると思います。
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──楽曲については、どのような思いで制作されているんですか。
柳瀬:チームの方向性や狙っていくところなど、色んな戦略的要素に繋がるのが楽曲で。神宿というカルチャーを伝える上で、大事な要素の1つなんですよね。僕は昔から音楽をやっていましたが、神宿に対してその力を使ったことがなかったというか、あまり関与してこなかったんです。だけど徐々に「貢献できるんじゃないか」と考えるようになってきて。「ボクハプラチナ」をリリースするタイミングで、僕の高校時代の先輩でもある芳賀仁志さん(現在は神宿のA&Rを担当)という方にMVのプロデュースをお願いしたんです。芳賀さんは海外のキャリアもあり、多方面に繋がりがある方なので、本当になくてはならない存在です。メンバーで言うと塩見さんも音楽面ではかなり覚醒しました。
──「在ルモノシラズ」から次々と作詞を手がけるようになりましたよね。
柳瀬:塩見さんはコラムを書いたのがきっかけで「文章がすごく良いね」とファンの皆さんや関係者の方々に褒めてもらえるようになり、作詞にチャレンジした。本人もすごくやり甲斐を感じるようになったと思うんですね。「こんな曲を作れば、お客さんはこう受け取ってくれるんじゃないか」と彼女も積極的に発言するようになってきて。メンバーで言えば彼女を中心に、僕や芳賀さんと話し合いながら楽曲制作を進めているところはあります。いくつかターニングポイントはあると思うんですけど、特に去年出したアルバム『THE LIFE OF IDOL』はすごく気合の入った作品になってて。
──それこそ塩見さん曰く、いろんなライターや編集者から「いままでの“明るくて・元気で・ハツラツ”のイメージから変わったよね? それはどういう心境の変化なの?と聞かれました」と言ってましたよ。
柳瀬:イメチェンというか、表面をすくって曲を作るのは違うと思っていたので、内面にフォーカスしています。そこが徐々に変わっていって。特に「グリズリーに襲われたら♡」からの「ボクハプラチナ」の流れはファンの方もビックリされたと思うんですけど。これは奇をてらったわけじゃなくて、「グリズリーに襲われたら♡」も「ボクハプラチナ」も神宿の内面性としては矛盾がないと思っていて。
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──ここ最近の曲でいえば、「Erasor」もかなり評判が良かったですよね。
柳瀬:3人(一ノ瀬みか、小山ひな、塩見きら)のユニット曲「Erasor」は、「ボクハプラチナ」を作ってくださったKITA.さんの作品で。結構前からデモは上がっていたんですけど当初は「神宿では出来ないだろうな」と思っていたんですよ。ただ、その頃に欅坂46さんの楽曲を研究してまして。秋元康さんの歌詞とか曲の世界観って「Erasor」と通じるんじゃないかと思ったんです。日常で抱く疎外感や置き場のない感情を表現することによって、学校内ですごく孤独な気持ちを抱いてる子たちに響くんじゃないかなと。それこそ神宿のメンバーもそういう思いをしてきてますし。
──みんな学生時代は、いじめにあったり友達ができなかったり、色々とあった人たちですからね。
柳瀬:しかも作詞で塩見さんが参加することで、より面白いアプローチができると考えました。その辺りからKITA.さんのお力添えもあり、サウンドがかなり強化されましたね。それは僕が本当に拘りたいところではあったし、とにかく妥協しないでいこうと考えました。世界のアイドルで言えば、ワン・ダイレクションもそうですし、元を返せばビートルズとか、マイケル・ジャクソンもアイドル要素があるアーティストだと思うんですが、みんなやっぱり音楽が素晴らしいですよね。サウンドも歌詞もアレンジも妥協せずにやっている。お金の話はどうかなと思いますけど、神宿は楽曲周りのクリエイティブにすごく投資してまして。それこそ『THE LIFE OF IDOL』のマスタリングをクリス・ゲーリンジャーにお願いしたのは、今一番良い音を作れる人だと思ったからなんですよね。
──BTS、MAMAMOO、リアーナ、レディー・ガガなど、錚々たるアーティストのマスタリングを手掛けてますよね。
柳瀬:世界のヒット曲に関わっているサウンドの作り方を経験したいと思ったので、ダメ元でオファーしたらやっていただけることになり、その結果とてつもなく耳障りの良い音に仕上げていただけた。この耳障りの良いサウンドや、音楽的なアプローチによって海外のファンを作る施策を「在ルモノシラズ」辺りから取り組むようになったんです。実を言うと「在ルモノシラズ」「Erasor」「SISTERS」は、緊急事態宣言前に完パケしていたんです。別で想定してた発表の仕方があったんですけど、急遽変更し順番にリリースすることにして。そのタイミングで広告を打って、Spotifyに送客することを始めました。そのおかげで海外のリスナーが増え始めた。コロナになっていなければ、アジアツアーをやるつもりだったんですけど、今はSpotifyを中心としたストリーミングが当たり前のものになっているので、海外の方とのコミュニティも少しずつ出来ているのはありがたいと思ってます。
──その結果『THE LIFE OF IDOL』によって音楽的な評価がグッと上がった。神宿にとって分岐点の作品と言えますね。
柳瀬:そうですね。そこは芳賀さんが音楽に対する見識が深い方で、特に新しいものに対するアンテナが敏感だったり、韓国のインディシーンなどすごく掘っていらっしゃるので。そういう意味でいうと芳賀さんの力無くして生まれなかったアルバムではありますし、塩見さんが楽曲を届けたい人の気持ちも想像した上で作詞をして、そこの化学反応が起きてアルバムが完成しました。歌録りも含めてみんなですごく苦労して作った作品なので、メンバーも作っている感覚が強いと思います。今日もこの後にメンバーとスタッフで、レコーディングスタジオに集まる予定です。
──あ、3月末にリリースする新曲ですか。
柳瀬:そうです。レコーディングの予定だったんですけど、今日はプリプロだけにして、3月頭に本番レコーディングする段取りに変更しました。今回初めて海外作家さんと一緒に作品を作るんですよ。だから意思疎通で不安な面があって。
──それで慎重に進めていると。
柳瀬:歌割りもそうですし、上がってきた曲に対してめいさんのラップをどうやって盛り込むかなど、アレンジに関わる部分は僕らも入ってディスカッションする必要があるので、今回は時間がかかるかもしれないですね。とはいえ楽曲のクオリティは相当高いので、本当に自信があります。