僕がこれだけ感動するのに、きっと同じように感動する人がいるに違いない(森)
ーーでもそんな劔さんも、毎日同じ服装をしてキャラクターを作っているという部分で唯一、主張があると思うんですけど(笑)。
劔 : (笑)。そうですね。僕ね、“やせ我慢”とか“無駄な努力”が好きなんですよ。その結果がこれですね。毎日同じ格好するのって、しんどいんですよ。
森 : ははははは! そうなんですか(笑)。
劔 : やってみたら意外としんどかったですね(笑)。
一同 : ははははは!
森 : この業界で劔さんの名前を聞く機会って多いんですよね。たぶん、ご自分では周りに引き込まれていると思っていらっしゃるかもしれないですけど、実は周りを引き込んでいるんじゃないかなと思うんです。
劔 : いやぁ、そんなに褒めていただいて(笑)。僕は本当にそんなんじゃなくて、営業も下手だと思うんですよ。すごく影響力のある、ビッグな人がいたとしても、自分があんまりおもしろくないと思えなかったら、そこに媚びられないんですよね。これ、かっこいいこと言っているように思われるかもしれないですけど、本当にそうなんですよ。それだったら、わけがわかんないけど身の回りの変な奴と遊んでるほうがいいんですよね。だからかまってちゃんなんか、まさにそうじゃないですかね。最初はわけわからんという人たちが、僕はおもしろいと思ったんで、ああいう風になったっていう。
ーー森さんも、kilk recordsとして街中にあるコマーシャルな音楽じゃなくて、もっと人生を変えるくらいの体験をして欲しいという信念を持って音楽を紹介していると思うんですけど、その辺りのチョイスが劔さんと似ているところじゃないでしょうか?
森 : もともと僕が好きな音楽は日本ではあんまり売れていない音楽で。でもそれは、伝え方がうまくないだけで、僕がこれだけ感動するのに、きっと同じように感動する人がいるに違いないっていう気持ちがレーベルを始めたきっかけなんですね。けど実際始めてみてしばらく経ってからある迷いが出てきまして。それは今後ますますCDが売れなくなった時、果たして自分はkilkを存続させるためにいまよりもっと売れる音楽を選んでいくか、音楽事務所的なことに切り替えるか、著作権でお金を得るか、それともレーベルとしてライヴハウスをやるか。結果、ライヴハウスをやったんですけど。劔さんは、売れる音楽を選んでいるように思われそうですが、実は全然そんなことなくて、いままでなかった種類の音楽を新しい切り口で売ろうとして、実際売ってみせたと思ったんです。ご自身での意識の有無はともかく。その辺でシンパシーを抱いてはいたんですよ。
劔 : ただかまってちゃんにしろ、撃鉄にしろ、最初に思った巨大なところまで売れたかというとそうではないんですよ。でも結局自分は好きなものしかできないんで。だからいますごく人気あるバンドを、自分がスタッフをやってもうまくいくかわからないですし、だったらかまってちゃんと一緒に怒られてる方が自分らしかったっていう(笑)。
森 : じゃあ、ご自分が好きな音楽はほかにあれど、自分が活かせる部分というのをまずは考えているんですか?
劔 : そうですね、好きなのはいまもアイドルですからね(笑)。
森 : あら恋と、かまってちゃん、撃鉄、アイドルの共通点ってなにか感じることありますか?
劔 : (小声で)わかんないなぁ…。
一同 : ははははは!
誰かのためにっていうのが劔さんのスタンスなんでしょうね(森)
ーー劔さんは、どちらかというと、既存のものに対して力を貸したいという方で、「これだったら自分で立ち上げよう」という発想にはならないですか?
劔 : う~ん、そうですね。あんまり行動力のある人間ではないし(深く目を閉じて)、う~ん…。
ーーいや、そんなに考え込まないでください(笑)。先程森さんがおっしゃったように、劔さんは周囲からの信望も厚いように見えますし、ポンって飛び出してなにかを立ち上げても成功するように思えるんですよ。
劔 : いやぁ~。
森 : そうなんですよね。周りは行動力の塊だって思ってますよ(笑)。
劔 : (笑)。そう映っているんでしょうね? でも実際はそんなことなくて、僕はそれを一生懸命、「僕は流されて生きてきたんです」って言って回ってるんですけど。
一同 : ははははは!
劔 : でもね、なんというか自分が味をしめた感じになっちゃうと。じゃあここで僕が自分でなにかを出来るとか、なにかをやってみようという欲は出したくないですね。このスタンスを変えたくないというか。
森 : マネージャーにしてもバンドにしても、誰かのためにっていうのが劔さんのスタンスなんでしょうね。
劔 : 結局、人が好きなんですよね。
ーー劔さんにとって、音楽業界でのストレスってなんですか?
劔 : 好きな仕事をやらせてもらってるし、限りなく楽だと思いますよ。多少つらいことでも。まあ、つらいことがちょっと好きっていうところもありますけど(笑)。
一同 : はははははは!!
劔 : 「ああ~、これ来たな、どうしようかな~」みたいなことはありますよ(笑)。まあ、そこは慣れというか、トラブルがあると嬉しくなるというか。
森 : ははははは。
ーー例えば、ライヴの集客やCDの売り上げが思わしくなくて、どうにかしなきゃというときもあると思うのですが。そこはどうやって解決しようとしているんでしょうか?
劔 : 僕はね、そこに関していえば大きな失敗はしていないんです。まあまあなんとかなってるんですよね。だいたい、そういう話になると、最終的に「気合いでなんとかしよう」っていうことになっちゃうんですね。
一同 : はははははは!
森 : 気合いで(笑)。
ーーあのう、一応大きなテーマでいうと、「音楽業界の未来」という対談なので、その気合いに行きつくまでの過程を教えて頂けたら、と(笑)。
劔 : そうですか(笑)。でも例えば、「このバンドどうしたらよくなるかな?」とかあるじゃないですか? そういうときにいろいろ考えて僕は「あとは気持ちの問題だ!」ってなるんですよね。
ーー実際そういうアドバイスをすることもあるんですか?
劔 : しますね。でも、成功する人はもともと気合いの入ってる人が多いですけどね。とはいえ、バンドの人気が頭打ちになったりしたときに、じゃあどうしよう、ってなったら、「我慢しよう」とか(笑)。結局気持ちの問題にすり替えてしまう癖がありますね、僕は(笑)。
森 : マネージャー業はこれからもやり続けたいですか? 最終的に行く着くところはどこなんでしょうか?
劔 : そうですね。まあ、必要とされなかったらやめますけど、必要とされてる限りは。
森 : 単純にマネージャーの仕事はご自分に向いているからやっている?
劔 : そうですね。だって接客も出来ないですし。こういう前に出がちなスタンスも含めて、いまがベストなのかな、と。行き詰まった状態でもなんとかやれるというか、たぶんもうちょっとレベルが高い話になると、「お前、そんな甘いこと言ってんじゃないよ! 気合いなんてどうでもいいんだ!」っていうところに行くと思うんですけど、その前の気持ちでなんとかなるポジションにいるんじゃないですかね(笑)?
ーーその、気持ちでなんとかしてきた部分が、周りから見るとすごいことなんじゃないですか?
劔 : ただ、僕1人でやってるわけじゃないですから。たまたま僕が矢面に立っているだけというか。
森 : 必要がなければ、前には出なくてもいいというくらいな。
劔 : もともとバンドを始めたくらいですから、出たがりなところはもちろんありますけど。ただ、不本意なところで出たがってもしょうがないですしね(笑)。わざわざ叩かれにいくのもちょっと…。つらいんですよ、本当は(笑)!
森 : 劔さんが音楽だけで食べて行けるようになったのは、パーフェクトミュージックに入社してからですか?
劔 : 音楽だけの領域でしたら、そうですね。ライヴハウスのバイトっていうのはありましたけど。でも会社員になってからもそんなにお金があるわけじゃないので。人によっては、すごくかまってちゃんが売れたように見えて、僕がすごくお金を持っていると思っている人も多かったんですよ。
森 : はい。
劔 : これがビックリするくらい持ってなかったっていう(笑)。
森 : ははははは!
劔 : いま、厳しいですからね、パーフェクトミュージックは。オーナーが他の会社もやっていて、音楽一本でやっているわけじゃないから。結構レーベルをやっている方はそういう方が多いんじゃないですか? 結局芸術なので、お金持ちの道楽みたいなことに戻ってきてしまっている気はしますね。ビジネスというよりは。本当は一番頑張らなきゃいけないのは、スポンサーをみつけることなんじゃないかとも思いますけどね。
森 : ああ、なるほど。
もう人間力しかないと思ってる(劔)
劔 : でもアイドルの現場なんて、お客さんが何枚もCDを買うのなんて当たり前のことになってるから、あれはお客さんがスポンサーの領域ですよね。みんなで支えていっているっていう。
ーーそういう求心力を、アイドル以外の音楽に呼び戻すにはどうしたらいいと考えますか?
劔 : もう人間力しかないと思ってるんで。本当にこの人おもしろいな、と思った人じゃないと、僕はやれないですね。その人自身に力がなくても、周りがうまく作っていくというものでは、もう無理かなと。その人自身に求心力があり、周りの人が力を貸すことでしか呼び戻せないと思いますけどね。
森 : マネージャーがいるからこそできることってどんなことだと思いますか?
劔 : まあそうですね。ミュージシャンの負担は減りますからね。
森 : 5年後や10年後に、マネージャーの劔です、というのと、ミュージシャンの劔です、というのは、どちらが理想ですか?
劔 : いや~どっちもあまりピンと来ないですね(笑)。この記事を見てる人からすると、どうなんですかね?
森 : 実際にマネージャーをやってみたいっていう人もいると思うんですが。
劔 : はいはい、それはもういっぱいいますよ。
森 : そういう人に、マネージャー業を勧めますか? 「楽しいから絶対やった方が良いよ!」と言うか、それとも「しんどいからやめたほうがいい」?
劔 : 正直、しんどいとは絶対に思いますよ。でも楽しいですよね。一緒に車で遠くに行ったりとか。
森 : 劔さんはマネージャー業として、自分のエゴを出さないようにしているように見えるんですけど、それはやはりこの仕事には必要なことですか?
劔 : そうですね~。エゴ…。自分のなにかをアーティストに叶えてもらおうとしては駄目ですよね。親がプロ野球選手になれなかった夢を子供に託すみたいな。
森 : ああ。なるほど。
劔 : アーティストも、自分のしたことで、失敗だったり成功だったりっていう、責任は負わなきゃいけないと思うんですよ。
森 : はい、そうですね。
劔 : 割とアーティストって、失敗したら人のせい、成功したら自分のおかげってなりがちじゃないですか?
森 : そうですね。
劔 : アーティストも自分がやりたいと思ったことをして、それがどういう結果になるかという経験はしないといけないと思うんです。だからこれは失敗するかもしれないよ、と思ったとしても、アーティスト主体のほうが大事かな、とは思います。
ーー非常に謙虚ですよね。
劔 : 謙虚に取り組むというのは、いま「あまちゃん」を見てても思いますもん、本当に。
一同 : ははははは!
劔 : 僕は『あまちゃん』を見て一層ピュアな気持ちを取り戻しましたね(笑)!
ーーやっぱりマネージャー目線で見てしまうんですか?
劔 : そう、僕はもうミズタク(松田龍平)への感情移入は凄い(笑)。ミズタクはもともとバンドでベーシストっていう設定ですからね。それを知ったときに、「ああ、これは俺だ!」って思いました。
一同 : ははははは!
森 : ヒソミネでマネージメント論を話して頂ければ嬉しいですね。
劔 : それは、いつでも行きます! 正しいことが言えるかはわからないですが。ただね、先にお伝えしておかなければいけないのが、僕は自分の持っている世界観が、真面目じゃないんで(笑)。
森 : 全然問題ないです(笑)。劔さんにいろいろ話して欲しいです。是非お願いします。
劔 : ああ、もちろんです、是非是非!
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