ちゃんと楽器で聴かせられるバンドでありたい
──ここまで各プレイヤーの楽器演奏を事細かに聴かせるバンドって、今なかなかいないんじゃないでしょうか。
内田:それは嬉しいですね。「歌を作りたい」というよりは、どっちかというと、ヴォーカルの自分自身も、楽器の方が好きなんですよ(笑)。ちゃんと楽器で聴かせられるバンドでありたい、というのはすごく強い思いがあるので。だから“marmalade”のジャムは、普通に楽しいからやったっていう感じです。リリースの場面とかを考えないわけじゃないですけど、方針として、狙いすぎたことをするのはちょっと俺ららしくないというか。自分たちらしさをどの場面でも出せることが、今後の活動に於いても自分たちも楽しくやっていけるし、リスナーの人たちにもより幅広く受け入れてもらえるのかなって。
──では、せっかくなのでメンバーそれぞれが推したい1曲を語ってもらえますか。
長谷部:“Finch”はかなり不思議な曲になっていると思います。6曲あるうちでひと際異色の、かなり尖った曲になってると思っていて。サウンド面でもギターで言うと、他の曲では使用しなかったアコースティックギターだったりとか、レコーディング中にみんなで楽器屋さんに行ったときがあって、そのときにメンバーそれぞれが買ったカリンバとかサンバホイッスルとかを遊び心ある感じで入れたりもしていて。どんな楽器が入ってるのかとか、アレンジ面を含めてかなり聴きごたえがある飽きない曲だと思います。かなり実験的なレコーディングもしましたし、お気に入りの1曲です。
千葉:自分は“HORN”です。これはメンバーにも言ってないですけど、サビとかに聴こうとしても聴こえないぐらい薄くシンセが入ってるんです。怜央が作ってきたデモの時点では、いわゆるクラシックなソウルのような地味でいなたい感じの曲だったんですけど、リード曲になるというのと全国流通盤ということもあるし、やっているのは2021年なので、それに適応した響きというか、そういう曲を聴いたことがない人とか、今流行ってるヒップホップやクラブ・ミュージックを聴いている人にも違和感なく聴いてもらいたくて。そのためには曲の中に細かい仕掛けを入れておかないといけないというか、現代の曲ですよっていう響き方にさせないといけないので。そういうところで、今っぽさにある曲にするのがアレンジの段階で難しかったんですけど、いなたい感じもありつつ、そんなに古臭い感じもしないというか、結構それが塩梅よくできたと思っています。
益田:自分も“HORN”についてなんですけど、いちばん感情移入しやすい曲だったんです。解釈は人それぞれなので、あまり限定的には捉えないでほしいとは思うんですけど、捉え方の一例としては、「どうにもならなかったら現実逃避しちゃってもいいんじゃない?」ぐらいのニュアンスの捉え方もあるよねっていう話を怜央としていて。そういうネガティブな捉え方もできるけど、むしろポジティブに捉えると、自分の心の中に王国があったとしてそこには誰も干渉できないじゃないですか?だから自分が思ったことや考えたことは誰にも動かされないし、そこに芯があればどんな逆境があってもブレないっていう考え方ができると思っていて。自分はそういう考え方が好きで、“HORN”は曲の思想と自分の中の考え方がマッチした感じがあって好きなんです。その内省的な部分と、曲で言うと、アップテンポなんですけど、全然速く感じない曲なんですよね。そこがドラムを叩くときにちょっと苦戦しながらも面白いなと思ったところで、この曲がいちばん思い入れがありますね。
──曲の世界観というのは、歌詞ができたときに内田さんに訊くんですか?
益田:訊くんですけど、怜央はだいたい答えてくれないんですよ(笑)。
内田:リリックを書くときの美学として、いろんな人に聴いてもらって、人それぞれの解釈がある曲を作りたいというのがずっとあって。自分が答えを言って、メンバーがその後「こういうイメージだ」って音を入れちゃうと、音としてもうそのイメージだけの曲になっちゃうと思うんです。なので、それだけじゃなくて歌詞を聴いて思ったこととかを、自分の解釈のフレーズで入れようってなった方が、いろんな方向からの見え方があって面白いと思うんです。だから、そこはあんまり言わないようにしています。
──敢えて混沌とした言葉遣いというか、煙に巻くようなところがあるなって感じたんですけど、ストレートに言葉で伝えたいという思いが生まれることもあるんじゃないですか?
内田:自分は結構日常的に考えごとをするんですけど、そういうず~っと考えてることって、そのままストレートに書くと重すぎて誰もついてこない感じの曲になっちゃいがちなんですよ。なので、音楽として普通に楽しめるように、あんまり言葉が「重いな」っていう雰囲気を醸し出さないような、それこそさっき言っていただいたように煙に巻くみたいな、ちょっとぼやかしたイメージに持っていくというのは、モヤがかかっているからこそ、いろんな方向から見えるというのもあると思いますし、重すぎないという利点もあると思ってやってます。
──では改めて内田さんの1曲を紹介してください。
内田:僕が1曲選びたいのは“risk”です。この曲に関してはちょっとぼやかした歌詞というよりは、かなり挑戦した曲で。リリック全体がちょっとアートみたいな感じで思っていて。このKroiっていう”ちょい尖りバンド“が(笑)、恋愛っていうオーソドックスなテーマ感でどういう表現ができるのかを自分の中で試したかったというのがあったんです。恋愛の歌詞に自分たちの好きなR&Bの曲調で、アレンジは自分たち節を出して行くというのが、“risk”の中のテーマで。一応、恋愛の歌詞なんですけど、それもいろいろと読み解いてもらいたいというのもあって。もともと、2番の歌詞を1番の歌詞にしていたんですよ。でもそうすると、完全に恋愛の歌詞になってしまうというのが自分の中にあって。それを2番にして新しく1番の歌詞を書き直した経緯があって。それは、自分のもやをかけるリリックのエッセンスをちゃんと入れたまま、新しい失恋の歌みたいなものが書けたかなと思います。
──恋愛の曲なんですね。単純にSNSのことを歌ってるのかと思ってました。
内田:あ、でもそういうの嬉しいです。それはそれで正解なので。そういうのを聞きたいんですよ。「これってSNSの曲だよね?」って言われたときに、俺はもともとそういう風に作ってないのにそう聴こえているんだ?ってなって、それでSNSの曲だっていう聴き方をするんですよ。そうすると、自分の曲がより深く聴けるというか。
関:自分も“risk”を挙げたいんですけど、今回のEPはこれまでリリースしてきた曲たちに比べると、わりとベースのフレージングを要所要所、これまで以上に綿密にこだわっていて。“risk”は怜央からデモをもらった段階でこのタイトルだったんですけど、聴いてみたらリリックとタイトルが相まって危うい感じがしたというか、儚げな感じが自分の中にあって。それをどうにかベースで表現したいなというところを意識していました。終始、とくにサビ以外のところなんかは、一定のフレーズを絶対に置きたくないなと思ったんです。ず~っと動き回っているんですけど、1つ1つまったく違うフレージングだったりとか、強弱の付け方が微妙に変わっていたりとか、音符と音符の距離とかも工夫してみたりして、曲全体の印象が“risk”というタイトルやサビとマッチしたいなと思って、このEPの中ではいちばん意識して作った曲なので、思い入れがありますね。
──“dart”についても訊きたいんですけど、この曲はそれこそジャムセッション感が強いですよね。
内田:このEPを作るとき、全曲揃ってから録ったわけじゃなくて、いちばん最初に“HORN”を録ってから他の曲がポロポロ出来上がって録って行ったんです。“HORN”があるから、じゃあ次は何が必要かっていうピースをどんどん当てはめていったEPではあるんですよ。“dart”自体はいちばん最後にできた曲で、Kroiの野性的な感じとか、燃え滾るような熱の部分が、もうちょっとこのEPで出せないとまずいなと思って。わりとKroiの素の部分を何も考えずにアレンジして作ろうっていうのを掲げて、もうピャーッと作りました。
──確かに、“dart”を抜いたらもっとおしゃれなEPになっている気がします。
内田:そうなんですよね。
関:それがあるとないとでは、だいぶEP全体の印象が変わってくると思います。
──この曲を聴いたときに、すごく楽器を演奏したい人たちなんだなって思いました。
関:本当にそうで、最初に怜央からデモが来た段階ではサビで終わっていたんですけど、「これで終わっちゃうのもね」ということで、僕がベースソロを弾いて、鍵盤の千葉もソロを弾いて、「でもこれで終わっちゃうのもまだね」って言って2時間ぐらいスタジオに入ってユニゾンを考えて入れて、最後はパッションで押し切ろうみたいな感じでアウトロに入って。後半は、それこそ歌は入ってこないですし、楽器を聴かせる曲になってます。
誰に届けたいかということをあんまり意識していないバンドで
──OTOTOYではハイレゾ配信もされるのですが、高音質ならではの聴いてほしい部分ってありますか。
内田:あんまりみんな意識してないと思うんですけど、千葉さんがミックスでやる手法として、普通はそんなに前に出さない音を前に出したりするんですよ。例えばシェイカーとかって、わりと後ろの方で曲にビート感を出したりするんですけど、そのシェイカーを前に出したり、パーカスを前に出すっていうのを千葉さんはやってくれてるんです。わりと70’s、80'sとかのレコードを聴くとそうなってたりするので、そういうちょっとアンバランスなミックスを体感して、「あ、こうなってたんだ」っていう気付きは得られるんじゃないかと思います。
千葉:楽器ごとの距離感と、PANの位置とかも面白い感じになってると思います。
──サブスクリプションの浸透で、ジャンルも、年代も、国も関係なく音楽を楽しめるようになっていると思います。そんな中で、Kroiの音楽はどんなところに届けていきたいでしょうか。
内田:Kroiは、誰に届けたいかということをあんまり意識していないバンドで。昔、偉い人とかに「バンドは絶対に届ける人を明確にして届けないといけないんだよ」っていうこととか、「歌詞の重要性」とかを言われたりしたことがあったんです。でも、「そういうのって表現としてそんなに重要視することなのかな?」っていう、パンク精神みたいなものがあって(笑)。歌詞は意味がなくちゃいけないのかとか、そういうことをすごく考えたんですよ。そう思ったときに、そこまで届いてほしい人を明確にしなくても、自分たちが本当にカッコいいものだけを追求していけば、ついてくる人はいるんじゃないかなって気付いてやっているので、わりと「誰かに届いてほしいな」っていうことは、今のところないです。曲によってはあるかもしれないですけど、Kroiの活動全体としてはないですね。
関:リスナーに歩み寄るというよりは、いかに自分たちがやりたいことをやりたいように楽しめるかっていうことを自分たちは大事にしていて。それって自ずとリスナーにも伝わると思うので、そっちの方が全員がハッピーだと思います。
──東名阪リリースツアーも予定されていますが、どんなライヴを見せたいですか?
関:人前でやるライヴを、1年近くやってないので、今自分たちもリハーサルをやりながら感覚を取り戻しているんです。せっかくこんなご時世に来てくれるからには、絶対楽しんで帰ってもらいたいので、バチバチにハードルを上げといてもらって、期待してほしいです!
内田:でも、緊張してます(笑)。ライヴの仕方とか忘れちゃって。どういう風になるのかなが未知の感じがするので、久しぶりにライヴに緊張を覚えてますね。
関:観に来てくれたら絶対に楽しんでもらいますので。よろしくお願いします。
編集 : 梶野有希
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LIVE SCHEDULE
3rd EP「STRUCTURE DECK」Release Tour『DUEL』
2021年2月7日(日)@渋谷〈WWW〉
2021年2月11日(木・祝)@池下〈CLUB UPSET〉
2021年2月23日(火・祝)@梅田〈Shangri-La〉
2021年3月27日(土)@渋谷〈WWW X〉
OPEN 17:15
START 18:00
ADV¥3,800 [1ドリンク代別途]
配信チケット¥1500
チケット
■会場チケット:https://eplus.jp/kroi-d/
PROFILE
Kroi
2018年2月に結成。R&B/ファンク/ソウル/ロック/ヒップホップなど、あらゆる音楽ジャンルか らの影響を昇華したミクスチャーな音楽性を提示する5人組バンド。 バンド名の由来はあらゆる音楽ジャンルの色を取り入れて新しい音楽性を創造したいという考えで、全ての色を混ぜると黒になることからくる「黒い」と、メンバーが全員ブラックミュージックを好み、そこから受けた影響や衝撃を日本人である自分たちなりに昇華するという意味を込め、Blackを日本語にした「黒い」からKroiと命名。 2018年2月にInstagramを通じてメンバー同士が出会い、結成。10月に1st Single「Suck a Lemmon」にてデビュー。翌年夏『SUMMER SONIC 2019』へ出演。同年12月にリリースした『Fire Brain』はiTunes Store R&B/ソウルランキングでのトップ10入りや、J-WAVE「SONAR TRAX」の選出などで、注目を集める。2020年5月に最新EP「hub」をリリース。音楽活動だけでなく、ファッションモデルやデザイン、楽曲プロデュースなど、メンバーそれぞれが多様な活動を展開し、カルチャーシーンへの発信を行なっている。
■公式ホームページ:https://kroi.net/
■公式Twitter:https://twitter.com/KroiOfficial