バンドでもあるし、会社でもあるその不思議な関係性──サカノウエヨースケ × DAKEN特別対談

2020年はサカノウエのデビュー20周年であるとともに、サカノウエヨースケ&SPIRAL SPIDERS再結成から10周年の年でもあった。今回のリリースのタイミングで、SPIRAL SPIDERSのメンバーでもあり、サカノウエが運営する会社〈YKファクトリー〉の一員でもあるDAKENとの対談を実施。彼らが音楽活動を行ううえで考えていること、そしてサカノウエとSPIRAL SPIDERSの関係性について、改めてこの機会に語ってもらった。
6ヶ月連続リリースの第5弾!!
「音楽活動はやらないの? 絶対にやった方がいいよ」という話をしていたんです

──先日はXR花火大会のイベントで、3人のVTuber(もこ田めめめ、星街すいせい、花鋏キョウ)のバックバンドをサカノウエヨースケ&SPIRAL SPIDERSが務めましたけど、手応えはいかがでしたか?
※9月6日、文化放送とLATEGRAによるバーチャル花火大会「東京タワー花火大会XR〜COSMIC FLOWER〜」をオンラインで開催。冒頭の30分は無料パートとしてniconicoとYouTubeで、後半の1時間半は有料パートとしてniconicoで提供。さらに中国向けにbilibiliでも全パートで有料配信した。
サカノウエ : はじめて一緒にやった6月のスタジオ・ライヴが10万人くらいの人が無料視聴をしてくれて、XR花火大会ライヴのチケットを買ってくれたのが約2,000 人と聞きました。
DAKEN : やっぱり緊張しましたね。あの日は関係者が50人くらいいたんですよ。
──VTubeの世界にあまり関心や知識がない人からすれば疑問だと思うんですよ。2次元のキャラクターが歌っているだけで、どうしてそれほど反響が大きいのかって。
サカノウエ : アーティストってひとりひとりが違う個性を持ってるじゃないですか。それはバーチャルの世界も一緒だと思いますね。
DAKEN : あとはバーチャルV-Tuberの方とバンドがコラボをして、全世界に生演奏配信するのははじめての試みだったんですよね。そこの驚きも大きいと思います。

──バーチャルの世界とタッグを組むことになった経緯は何だったんですか?
サカノウエ : 声優の櫻井孝宏さん、鈴村健一さん、松来未祐さんが出演した文化放送の『有限会社チェリーベル』という2003年から10年以上続いた人気番組があって。2013年に開催された渋谷公会堂のイベントで、僕が劇伴を作らせてもらったんですよ。その仕事をきっかけに文化放送が手がけているいろんな番組のテーマ・ソングを作るようになって。で、文化放送は去年からV&Rというバーチャルのアーティストを集めて番組を作っていく試みをはじめまして。本格的にV-Tuberさんたちのレギュラー番組や音楽番組がどんどんはじまっていくタイミングでもあったから「いろんな楽曲を手がけているサカノウエさんにお願いしたいです!」という感じで、この1年間V-Tuberの方々とお仕事をするようになったんですよ。
──きっかけは前からあったんですね。
サカノウエ : そうなんです。主な関わりとしては、V-Tuberさんの冠番組「星街すいせいのMUSIC SPACE」や「花鋏キョウのJUKE BOX」など一緒に曲を書いたり、ゲストを迎えての生演奏や、ファーストテイクのような一発録音セッションをしたりしている感じですね。
──先日のイベントを見たほとんどは「バックで演奏をしているサカノウエヨースケ&SPIRAL SPIDERSってだれ!?」と疑問を持っていると思うんですよ。
サカノウエ : アハハハ、そうですよね。
──そんなサカスパ(サカノウエヨースケ&SPIRAL SPIDERS)は、新体制になって今年で10周年なんですよね。
サカノウエ : 2008年に活動休止をして、2010年に復活ライヴをすることにしました。DAKENはもともと別のバンドにいて、下北沢CLUB Queや渋谷のclubasiaなど、いろんな場所でよく対バンをしていた仲やったんです。ウチのキーボードのイズミカワソラが「DAKENを誘ってみない?」と言ってくれて声をかけることにしました。
DAKEN : バンドに加入する前からサカノウエさんの事務所によく遊びに行ってたんですよね。それで「音楽活動はやらないの? 絶対にやった方がいいよ」という話をしていたんです。ある日、電話がかかってきて「DAKENちゃん、ギターを弾いてくれないかな?」と言われて「その連絡を待ってたよ。ライヴはいつなの?」「来週です」「ら、来週!?」っていう(笑)。そこから現在に至りますね。
サカノウエ : 奈良にMORGというレコーディングスタジオがあって。そこの門垣さんというスタジオエンジニアの方は、関西インディーズ音楽界のフィクサー的存在の方なんですけど「サカスパだったら使っていいですよ」と言ってくださって。新体制になってすぐ奈良でレコーディングをすることになったんですよね。MORGは僕もそうだし、LiSAさんの『紅蓮華』を作曲した(草野)華余子もお世話になった人間で。あの場所からいろんなアーティストや作曲家が生まれているんですよ。
いまや外注しなくても、自社で曲を仕上げる全工程を行えますね

DAKEN : 話題を変えちゃうんですけど…… サカノウエさんはいつもスパスパのことをずっと考えてくれているんですよね。なにかあれば、自分の作家仕事にスパスパを参加させようと動いてくれた。ある日から、サカノウエさんが弾き語りした音源が送られてくるようになったんです。「これに楽器の音を入れてくれない?」と言われて、それを僕たちが耳で聴いて「この音じゃないか?」と譜面を作りつつ、自分たちのパートを入れる。そんな作り方を2、3年繰り返してきたおかげで、オーディオインターフェースが何かもわからないところからはじまったんですけど、いまとなってはどんな機材も使いこなせるようになった。
サカノウエ : 知らず知らずのうちに英才教育をしてたっていう(笑)。譜面を書く作業に関して、スパスパはどのバンドマンよりも早いと思いますよ。ちなみに、ウチのドラム(Takoyaki-boy)はマニピュレートも出来るようにになってて。シンセでもEDMでもエレクトロニカでも、全てのソフトと機材を網羅してる。いまや外注しなくても、曲を仕上げる全工程を自社で行えますね。
──もはや工房みたいなシステムができてる。
サカノウエ : 本当にすごいっすよ。
DAKEN : コロナで仕事が出来なくなってしまったバンドが多いですけど、僕らはV-Tuberのお仕事に携わることができて、逆に忙しくなっているんですよね。サカノウエさんの下で経験してきたことが活きてて、これまでやってきたことは間違ってなかったと実感してます。
サカノウエ : 音楽を続けていくためには、進化することも必要なんですよね。各々が自立して、できることを増やしていくことが大事だと思う。ウチはメンバーに対して1人1役割NG制を掲げてまして。ウチのピアノは会社の経理もやってますし、ドラムはおにぎり屋さんもやってます。
──おにぎり屋さんまで!
サカノウエ : 極端な話、おにぎり屋さんをやることでご飯は食べていけるんじゃないですか。しかもお店の利益が出たら新しい機材を買うことができる。
──自給自足ということですね。
DAKEN : サカノウエさんがYKファクトリーを立ち上げて、最初は外部の人にお願いしていた業務もあったんですけど、3年前から「会社のこともバンドでやろう」という話になって。それこそ僕はマネジメントや制作などもするようになった。やったことがない仕事をするのって不安じゃないですか。だけど、サカノウエさんはバッターボックスをいつも用意してくれているんですよね。バットを振るかどうかは僕らに委ねるんですけど、新しい道をいつも指し示してくれてます。…… そんな関係性ですね。
サカノウエ : 昔からバンド内で役割ってありましたよね。「打ち上げ担当」とか「メディアで話す担当」とか。あれってよくよく考えたら不思議じゃないですか? バンドってなんとも言えない集合体というか。いつの間にか「運転はこの人」「喋るのはこの人」とか、自然に決まってる。バンドって本来は演奏する人たちの集まりなんだけど、役割が自然とできていたりして「これで会社を回すこともできるんちゃう?」って。それこそ誰よりも先にフラカン(フラワーカンパニーズ)先輩はやってますけど、僕らはフラカン先輩のように武道館まで辿り着けてないから、1人1役割NGで、もっとスキルを身につけよう! という姿勢でやってます。

──ここで関係性をハッキリさせたいんですけど、スパスパにおけるヨースケさんのポジションって、プロデューサーなのか社長なのか、どういう名前がしっくりきますか?
サカノウエ : バンドマスターじゃないですかね。どれだけ1流のプレイヤーが集まっても、その人たちに指示を出してまとめあげるバンマスの存在は必要不可欠だと思うんですよね。スパスパを整えることも僕も仕事やし、「ウチのバンドに任せてくれたら、いつまでに仕上げます!」とか、そういう交渉もやっているから、バンマスなのかもしれないです。
──バンドでもあるし、会社でもあるしっていう。
サカノウエ : 不思議な関係ではありますよね。
DAKEN : 楽曲にしても会社業務にしても、サカノウエさんの頭の中の設計図をどうやって形にするのかがスパスパの役割なんですよね。風呂敷を広げるのはサカノウエさんで、それを畳むのは僕たち。その関係性はずっとハッキリしてますね。
──メジャー・レーベルに所属しているアーティストに話を聞くと「結局、営業も宣伝もお任せするしかないから、自分たちは曲作りに力を入れるしかない」と言ってて。作品を大衆に広めるまでの過程や企業と絡めていく作業は、会社に一任するしかないのは、ジレンマだったりするみたいです。
サカノウエ : ある意味、うらやましいと思います。良い曲を書くことだけに24時間のすべてを注いで純度の高い楽曲を作りたい気持ちもあるから、結局ないものねだりでもあるんですよね。
DAKEN : 僕らの場合、楽曲の落とし所についてもサカノウエさんが道筋を立てるから、そこに気を使わずに作品だけに没頭するのは憧れるところはあるかもしれないですね。
サカノウエ : 僕は作り方だけじゃなくて、ファンの皆さんへの音楽の届け方や、魅せ方も自分たちの責任の中で届けていくDIYの道を選んだ。一方で作品だけに頭を働かせたい人も絶対にいる。なので、それぞれが自分に適した環境で音楽と向き合うのが大事かなと思いますね。
編集 : 鈴木雄希
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PROFILE
サカノウエヨースケ

高校時代つんく♂ファミリーとして音楽活動ののち、浅倉大介プロデュースで2000年メジャー・デビュー。現在はシンガー・ソングライターとして、作家として多方面で活動。 舞台俳優・米原幸佑とのアコースティック・デュオ「ヨースケコースケ」での音楽活動も行っている。
最近の主な楽曲提供先としてY!mobile 沖縄 TVCM ソング(2010年~現在)、ときめき♡宣伝部、映画『デジモンアドベンチャー』、久保ユリカ(ラブライブ! 声優)がある。
■公式HP
http://ykfactory.co.jp/sakanoueyosuke/
■公式ツイッター
https://twitter.com/Sakanoueyosuke