巨大年表は『ポストサブカル焼け跡派』の背景に
──ちなみにTVODの『ポストサブカル焼け跡派』の年表とどのくらい違うんですか?
本に載ってるのは完全版の10分の1くらいですかね。泣く泣く削ったんです。入れた理由としては、まずはカマしていこうというか、迫力を出していこうというところで。
──まずは知識でマウントを(笑)。
ナメられてはいけませんからね(笑)。まあそれだけじゃなくて、本のなかで行われている批評の背景としてこういうデータの蓄積があるよというのは提示したかったんです。
──そしてこの巨大年表は、もともと文学フリマ京都と「Books & something」で出そうとしてたんですよね。
そうなんです、百万年書房の北尾さんからの提案だったんですよね。「あの年表の完全版出しましょうよ」って言われて。「え!?」って。それで作っていくうちにポスターにしましょうよっていうアイディアが出て、それでこうなりました。僕としてはこれが出るなんて全然想像もしてなかったです。もし現物を見たいという方は世田谷のバレアリック飲食店にあるので、そこでちゃんと全体像を見ることができます!
──作ってて面白かったところはあります?
思い入れあるかどうかだと、やっぱり自分が中学・高校生だった97から2002年くらいまでですかね。このころは今と比べても雑誌をめちゃめちゃ読んでたし、情報を入れようとする気合が今よりもあったから大体覚えてるんですよ。中学校の運動会の思い出とその時リリースされたものがオーバーラップするんで。自転車で買いに行ったなあとか。
──すごいわかります。コレを見てて、高校1年の夏休み、臨海学校の帰り、解散したあとに武蔵野館にあったタワーレコードでフィッシュマンズの『宇宙 日本 世田谷』買いにいったとか、当時のお店の匂いとか、かなり具体的な身体感覚含めて思い出しました。
そうそう、そうやってメロウな気分になれるのもいいところだなと思っていて。
──今でいう「エモい」(笑)。
エモいですね。今ってノスタルジー否定派みたいな人が多いですけど、全然気にせずそう言う風に使って欲しい。そのために身近な要素を入れるようにも努めたので。
──後半になるとSNSが出てきますよね。他のデジタル技術はあまりないけど、たぶん、スカイプとかから始まって。
SNSとかって、かつての雑誌があったような感じで消費されてるんだと思っています。その捉え方だと、ここに入れないわけにはいかないなって。ツイッター上での事件とか大きな動きってある意味雑誌の特集のようなものとして捉えることができると思うんですよね。そういう事件簿も細かく入れたかったんですけどキリがないので最低限に留めました。70年代あたりと見比べると、いまはすごく小さいことで騒いでるなって気もしちゃって。
──あとは文芸的な論争とかも、「これが社会的な事件だったんだな」というか。
そうですね、ああいうのは未だに残ってるじゃないですか。でも今ツイッター上で行われている論争は果たして20年後どれだけ残るだろうってことを考えてしまう。
──もう政治家の問題発言的なものも、過去はイデオロギー的な政いわゆる治論争みたいだったり、いまの炎上発言と、問題のクオリティに雲泥の差という感じがしてしまうんですが。
そうですね、政治も今ってしょぼい。単にわがままな人がやりたいことをやってるだけで、そこに思想的な深みが全くない状態でつまんないですよ。後半にいくにつれて政治の話を書くのにうんざりしてくるというのはありました。
──あんまりこういうこと言いたくないし、もちろんすごくアップデートされてよくなった部分の方が大きいですけど、こと自民党の政治家の発言とか見ると、同じ政党でもなんか過去の人の方がみんな大人な感じがしてしまいます。
昔の政治家のほうが言葉の引き出しが多いと感じます。自民党と社会党の政治家がお互いに丁々発止でやり合えたり。旧制高校の文化が影響してたりするのかなと考えたりもしています。これに関しては長くなるので、そのうち記事にします(笑)。
──あと思ったのは2010年は意外と記憶ないんですよね。やっぱり震災の前の年で。
そこでリセットされちゃったというのはあるかもしれないですね。例えば、中国漁船が尖閣諸島に……とか。
──あとは去年の3月とかもまったく覚えてなくて面白いのかなと。「100日後に死ぬワニ」とか完全に忘れてたし。
「トイレットペーパーがなくなるデマが拡散」、「東京五輪延期発表」からそろそろ1年経つのかっていう。
──『100日後に死ぬワニ』と志村けんさんが亡くなったのってそんなに日にちが開いてないんですね、これなんか本当に「同時期のことだったけ?」という感じ。1年前のことですらこんなに覚えてないということですよね。まぁ、去年はその後が特別過ぎましたが。
自分もそうで。これを作ることで思い出したりしてますからね。でも、この年表できてから新しいことをメモってなくて、燃え尽き症候群かもしれない。(※最近になって無事再開しました)
──でも意外と自分の評価軸を作るのに年表はいいかなと思って使ってるんですけど、ある種の歴史修正に陥らないツールとしていいのかなと思います。
気持ちがフラットになるのがいいのかなと思います。学ぶって感じでもないし。ハードルは低いけど、奥に入るといっぱいある、入り口が広いものとして使って欲しいなと思ってますね。興味あるところを本読んで知ってもらうとか、ここに掲載されている本を読むでもいいですし。僕もそういう感じで本を読み始めたりとかしてたんで。
──たしかにそうですね。なるほど。
そういえば年表から離れちゃうんですけど、いつもどのアーティストが好きなのとか聞かれると答えに窮してしまうんです。で、それは何でだろうなとか思ってたんですけど。10年くらい前に2MUCH CREWのナンシーさんとかと飲んでいたときに、「パンスは情報が好きなんだよね」って言われて「それだ!」と思ったんですよ。情報が好きだからこういうことをやっている。
──でも、なんというか当時の言説とか状況をデータとして、膨大に集めてくることによって語るでもなく、なにかを浮かび上がらすという。
収集して研究して…… そういうのが好きなんだなってことにようやく落ち着きましたね。結構、わかんなかったんですよね。音楽は好きだけど「フェイバリットなアーティストとかいないといけないのかな?」とか思ってたけど、もういいんだなって。こういう感覚はエモくないので伝えづらいんですけど。
ということで、年表・サブカルチャーと社会の50年 1968-2020〈完全版〉』は限定300部で下記の百万年書房の公式サイトで販売中。ただし、お値段は1万円……ちょっとさすがに……という方は、ぜひともパンスとコメカによるTVOD著『ポスト・サブカル焼け跡派』の巻末の年表をまずは!
百万年書房の公式ストア
https://millionyearsbk.stores.jp/