2018年を象徴する作品はどんなものが印象的だった?──ベストディスク10選〜邦楽編〜
OTOTOYが主催するオトトイの学校にて、音楽評論家として活躍する岡村詩野のもと、音楽への造詣を深め、「表現」の方法を学ぶ場として開講している「岡村詩野音楽ライター講座」。『Year in Music』をテーマに、2018年にリリース作品を振り返ってきた今回の講座。cero『POLY LIFE MULTI SOUL』や宇多田ヒカル『初恋』をはじめ、R&Bやソウルの影響を多分に受けながらも最新の音楽として提示された作品が印象的な年でもありましたが、それ以外にも2018年を象徴する作品は多数リリースされました。受講生によって選出された国内作品のベスト・ディスク10枚のレヴューとともに2018年の国内シーンを振り返ります。
Year in Music 2018〜邦楽編〜
>>> 01. 折坂悠太『平成』(Text by 三好香奈)
>>> 02. cero『Poly life multi soul』(Text by 浅井彰仁)
>>> 03. カネコアヤノ『祝祭』(Text by 三浦智文)
>>> 04. くるり『ソングライン』(Text by 加藤孔紀)
>>> 05. STUTS『Eutopia』(Text by 高久大輝)
>>> 06. Homecomings『WHALE LIVING』(Text by 三浦智文)
>>> 07. KID FRESINO『ai qing』(Text by 高久大輝)
>>> 08. THE BEATNIKS『EXITENTIALIST A XIE XIE』(Text by 三好香奈)
>>> 09. ROTH BART BARON『HEX』(Text by 杢谷栄里)
>>> 10. ザ・クロマニヨンズ『レインボーサンダー』(Text by 渡邉誠)
01. 折坂悠太『平成』(Text by 三好香奈)
折坂悠太『平成』
【収録曲】
1. 坂道
2. 逢引
3. 平成
4. 揺れる
5. 旋毛からつま先
6. みーちゃん
7. 丑の刻ごうごう
8. 夜学
9. take 13
10. さびしさ
11. 光
【今作に関する特集ページはこちら】
https://ototoy.jp/feature/20181024
ジャズ、フォークなどのルーツ・ミュージックを、独自のフィルターを通しポップに昇華させている折坂悠太。今作『平成』は、時代の節目において日本に住まう誰もが共通して感じる過去へのノスタルジーと、この瞬間にも流れ行く時を刻々と描いたバンド・サウンドの趣きだ。独特なリリックが踊る楽曲は普遍性と、遠い国の出来事を語っているかのようなエキゾチシズムを漂わせる。そして不確かな現在に、確かな意思を感じさせる歌声。時代を見据えた折坂の平成へのたむけは、優しさを伴いながら私たちに微笑みかけ、先の見えない明日へと力強く響き渡るのだ。(Text by 三好香奈)
02. cero『Poly Life Multi Soul』(Text by 浅井彰仁)
【今作に関する特集ページはこちら】
https://ototoy.jp/feature/20180516
ceroはあえて複雑なリズムの海原へ舵を切った。アフロビートや変拍子を取り入れた本作が与えるノリは明らかに横ではなく縦だ。それは、他アーティストのプロデュースなどで活躍した荒内佑の功績が大きい。もちろん、「Modern Steps」のFrank Oceanを意識したギターや、「Waters」のトラップを意識したビートなど、近年の音楽への配慮もある。『Obscure Ride』のヒット後の作品にも関わらず、浮き足立つことなくceroは自分たちの志向を反映した音楽を提供してみせた。今作が過去のものになっても、彼らは変わらず思うままに音楽と戯れてくれるだろう。境界線に遊ぶ子どものように。(Text by 浅井彰仁)
03. カネコアヤノ『祝祭』(Text by 三浦智文)
【今作に関する特集ページはこちら】
https://ototoy.jp/feature/2018042501
『祝祭』に登場する歌詞は、感傷的、あるいは愉悦的な出来事、それを取り巻く風景が、煌めくような言葉遣いでデフォルメされている。そしてそれは、実際の情景よりも鮮やかだ。ただ、彼女はそれを、とがったバンド・サウンドに乗せて、いたってありのままに表現をする。カネコアヤノは、限りなく日常に寄り添い、そこに潜む美しさに喜びを見出し、“叫び”として昇華させる。それはまさに、何の変哲もない日常に対する“祝祭”のようである。そして、そのまなざしは決して気張ってはいない。“随筆”や“日記”のような、軽やかさで包みこまれている。 (Text by 三浦智文)
04. くるり『ソングライン』(Text by 加藤孔紀)
くるり『ソングライン』
【収録曲】
1. その線は水平線
2. landslide
3. How Can I Do?(Album mix)
4. ソングライン
5. Tokyo OP
6. 風は野を越え
7. 春を待つ
8. だいじなこと(Album mix)
9. 忘れないように(Album mix)
10. 特別な日(Album mix)
11. どれくらいの
12. News
くるりの実験は僕らを驚かせてきたが、今作は彼らのルーツであるフォークと歌、そして彼らの今、そのままの音が心地いい。「その線は水平線」など過去につくられた曲が一瞬、僕らの知る“あの”くるりを彷彿とさせるが今は“あの”ときと違って積み重なった時間がある。過去の再現ではない、彼らが創作してきた音楽の積層と今が共存。楽器やアンプそのままの鳴りを録音することを追及したサウンドが真っ直ぐ伝えてくれるからだろうか、水平線が一続きの線であるように、くるりのソングラインが今日まで繋がっていると気付かせてくれる。(Text by 加藤孔紀)
05. STUTS『Eutopia』(Text by 高久大輝)
星野源「アイデア」への参加でも注目を集めているMPCプレイヤー / プロデューサー、STUTSのセカンド・アルバムである本作は、馴染みのラッパーたちの他に長岡亮介(ペトロールズ)や仰木亮彦(在日ファンク)といったバンドマンや高橋佑成などジャズミュージシャンも招かれ、サンプリング主体の制作スタイルへ生演奏のアイデアを注入。またタイのSSW、Phum Viphuritもその豊かな歌声を響かせる。開けたサウンド・スケープと相まって、まるでウエストブロンクスで生まれたヒップホップが世界各地に伝播し発展する過程を見ているかのようだ。(Text by 高久大輝)
06. Homecomings『WHALE LIVING』(Text by 三浦智文)
【今作に関する特集ページはこちら】
https://ototoy.jp/feature/2018102402
Homecomingsは3作目となる『WHALE LIVING』で、大きく舵を切った。というのも、今作はラスト1曲以外が、英語ではなく日本語で紡がれているのだ。けれどもそこに違和感はなかった。アナログで、ヴァン・ダイク・パークスやランディ・ニューマンなどの影響も感じられるサウンドに乗せられる歌詞は、これまで抜け落ちていたパズルのピースがはまったかのような印象さえ受けた。日本人のアイデンティティを形成する日本語を使うことは、幻想小説のように抽象的な楽曲を、より身近で共感しやすいものへと昇華させている。いままでになかった彼らの試み。だが、ある意味でそれは、バンドが新たなる大海に出るための必然でもあったのかもしれない。(Text by 三浦智文)
07. KID FRESINO『ài qíng』(Text by 高久大輝)
【今作に関する特集ページはこちら】
https://ototoy.jp/feature/2018112102
ソロでは約3年振り、待望の3作目となる本作ではハウス / エレクトロ・ミュージックとバンド・サウンドが見事に共存。さらに鎮座DOPENESS、ケンモチヒデフミ(水曜日のカンパネラ)、BACHLOGICらと新たに手を組み、様々なアプローチを取り入れた傑作となっている。しかしそこには出口のない閉塞感が一貫して纏わりつき、まるで多様性を謳いながらもしがらみに塗れた現代のアンビバレンスを切り取ったかのようでもある。ヒップホップ・シーン屈指の異才が混沌とした世界を1人の人間として受けとめ、その苦悩を芸術へと昇華した1枚だ。(Text by 高久大輝)
08. THE BEATNIKS『EXITENTIALIST A XIE XIE』(Text by 三好香奈)
「出口なし」と歌い、長い迷路を彷徨っていたふたりがようやく出口に繋がる道を見つけたのだろうか。かの高橋幸宏と鈴木慶一が1980年代から断続的に活動しているThe Beatniksが7年ぶりとなるアルバムをリリースした。これまでも世の中の「怒り」がバンドの衝動となっていたが、ニール・ヤングのカヴァーを筆頭にストレートなロック・サウンドをこれまで以上に響かせた今作。おそ松さんインスパイアの楽曲もあったりとバラエティに富んだ内容には、還暦を過ぎても尚バンドの新境地を感じさせる。それはシーンに対しての反骨性がなせる技でもあり、長年ふたりが待ち望んだ出口なのかもしれない。(Text by 三好香奈)
09. Roth Bart Baron『HEX』(Text by 杢谷栄里)
ハイトーンボイスの多用を廃し、構成は、温かみのある声と音を軸にし、歌はシンガロングを促しやすいメロディ、さらにはエレクトロニクスの導入、歌詞には日常的に起こることを落とし込む。これらにより、楽しさや共感を得やすい作品へと昇華され、いままでは冷たさも感じてしまっていた美しさからの脱却に成功している。まるで孤高の存在から近所のお兄ちゃんへの変化だ。作品からも、ファンとの繋がりの中で作品を作り上げていこうという気概を感じる。(Text by 杢谷栄里)
10. ザ・クロマニヨンズ『レインボー・サンダー』(Text by 渡邉誠)
ザ・クロマニヨンズ『レインボーサンダー』
【収録曲】
1. おやつ
2. 生きる
3. 人間ランド
4. ミシシッピ
5. ファズトーン
6. サンダーボルト
7. 恋のハイパーメタモルフォーゼ
8. 荒海の男
9. 東京フリーザー
10. モノレール
11. 三年寝た
12. GIGS(宇宙で一番スゲエ夜)
盟友ヒロトとマーシーで曲を持ち寄り、毎回半分ずつ採用するのがこのバンドの作法。通算12枚目の今作は、申し合わせたかのように全曲8ビートで構成されたロックンロールアルバムとなった。ブルースハーブとギターのコール&レスポンスが印象的な「ミシシッピ」には、ロックンロールのルーツに関する節や単語が満載だ。土地や地域の名前はブルースとヒルビリーとの出会いを、旧約聖書「ソドムとゴモラ」の引用はゴスペルを想起させる。ラスト曲「GIGS」にあるような、キャリアを積んでも変わらぬステージへの緊張感が彼らを前へと掻き立てる。(Text by 渡邉誠)