REVIEW #2 私たちは自ら望んで踊らされにいく
Text by 坂井彩花
作品の説明に「音楽で世界地図を描き、ジャンルや時代の境界線を軽やかに越えていく。 友成空という表現者の現在地を指し示す、コンセプチュアル・アルバム」なんてあるものだから、「ははーん。アルバムを通して聴くと、国や時空を旅できる1枚なんだな」と心構えをして臨んだところ、完全に度肝を抜かれてしまった。
しかしこれは、先ほどの想定が完全にズレていた…というわけではない。全体的にJ-POPを基軸としながら、R&Bの「メトロ・ブルー」、サンバの「月のカーニバル」、和旋律の「宵祭り」とジャンルを飛び交ってはいるし、「鬼ノ宴」で《あゝ》や《しませうか》と古語を用いる一方で「コーヒー」では等身大な言葉で語りかけたりと時代性だって変化している。じゃあ、なんで度肝を抜かれたのかというと、彼のほうが一枚も二枚も上手だったからだ。

今作は「全体として、両極端なものを並べてバランスを取るということをすごく意識していて」(こちらの記事より引用)とのこと。だから、真夏の「宵祭り」の後には真冬の「white out」が来るし、一番ノンフィクションに近い「ACTOR」を冒頭に置いている分、むしろウソくさい自身の写真をジャケットにしたと知ったときは目から鱗が落ちた。何も知識がない状態で「もしかして、世界旅行でありながら自分を見つけていく物語にもなってる?」とか「ベルガモット」が《だけどシャツを揺らした微風は/君の匂いがした》で終わってて、「メトロ・ブルー」は《同じ服を着て揺れる》で始まってるということは、ストーリーが繋がっている?」なんて想像を膨らませていた自分が、ちょっとだけ恥ずかしい。
――いや、むしろこれが正解なのかもしれない。
友成空は、生きづらい世の中から避難できる身近な世界(音楽)を作るために、楽曲制作を始めた、早熟なシンガーソングライターだ。日本語のリズムや語感、音程を活かすセンスがピカイチだし、《抗え夜(あらがえない)》や《怠惰(れいじ)》、《傷を矛れ(きずをほこれ)》など、ワードセンスも冴えわたっている。そんな彼だからこそ、リスナーはたったひとつの音や僅かな繋がりに「本当は、こんな意味なんじゃないか」と想像を掻き立てられる。無邪気に音楽を作りだすストーリーテラーの手のひらに、私たちは自ら望んで踊らされにいくのだ。近年において、これはとても好ましいことではないだろうか。
作者や表現者の意図を当てる考察が大流行していると共に、Chat GPTの出した答えを丸っと飲みこむ人が少なくない昨今。人々はどんなときも正解がひとつだと信じこむだけでなく、そこへ最短距離で辿り着こうとしすぎている。効率化は素晴らしいが、生きていくうえで削ってはいけないこともきっとある。自分の頭で考えること、心で感じること、目で見て確認すること、しっかりと聴くこと。そして、根拠のない憶測をするのではなく、確かな点と点を結んだうえで結論を導きだすこと。『文明開化 - East West』は色彩豊かなポップソングで、それを自然に促してくれる作品に思えてならないのだ。































































































































































































































































































































































