劇伴の場合は、全然違うチャンネルで臨まないといけない
──この作品をきっかけにお二人の名前を初めて知る方もいらっしゃると思うので、改めてお互いの作風や得意分野を分析していただけますか?
照井:マクロな視点で見ると、我々は作風が似ている作家だと思います。その中での違いで言えば、まず蓮尾くんは鍵盤奏者で僕はギター奏者である。蓮尾くんはコード感が洗練されていて、フュージョンっぽさや、ジャズっぽいコード感がありつつ、ハードコアも好きである。そういうバランス感覚が独特の作風だと思います。
蓮尾:照井くんはきっちりと構築されたサウンドのイメージがあると思うんですが、僕から見ると、sora tob sakanaやハイスイノナサなど、青臭い部分もあるような気がするんです。勢いや激情的な部分も持ちつつ、リズムの構築をしていく。そういう相反する要素を持っている印象ですね。
──照井さんはハイスイノナサ、蓮尾さんはSchool Food Punishmentと、お二人ともバンドマンとしてキャリアが始まっていますよね。そして現在はsiraphのメンバーでありつつ、劇伴作家でもある。この立ち位置については、どんな自己認識がありますか?
照井:まず世の中の状況として、多様な作品が世に出ている中で、特化した作家が使いやすくなっている現状があるのだと思います。僕は全然オールマイティな作家だとは思ってないですけれど、得意な分野にハマるときがある。劇伴作家はなるべく広い音楽性をカバーする能力が求められてきたと思うのですが、今は一芸に秀でている人も活躍しやすい状況だと思います。そのうえで、自分としては、ゼロからイチを生み出すクリエイティブの部分は楽しいし、魂を乗っけられる感じがあるんですけれど、1から100にすることについては得意だと思っていないんです。でも劇伴ではそういう部分が求められる。なんとかそこに食らいついて、自分の良さは出しつつ、しっかりとしたものを早く作ろう、という感じです。そこは自分の成長にもつながることですし、アーティスト活動のフィードバックにもなるというのもあって、ありがたくやらせていただいています。
蓮尾:バンドをやっているときには、やっぱり尖っている部分を強く押し出していきたいと思いながら活動しているんですね。もちろん多くの人に受け入れられる音楽を作ろうとは思っているんですが、どうしてもそういうところが勝手に出てくる。でも劇伴の場合は、そうも言っていられないというか、全然違うチャンネルで臨まないといけない。まずしっかりシーンや作品に合った音楽を作ろうという意識でやっています。勝手にトゲの部分は出てしまうものだろうと思うので。
──今回の作品のコンセプトはどのように受け取って、どう解釈しましたか?
照井:青春感を望まれているというのはありました。ただ、12話の中で場面がすごく転換していくんですよね。最初は主人公3人の身近な青春の物語だったのが、どんどん国家規模の戦争の話になっていく。なので、後半はやはりある程度のガンダムらしさというか、戦争ものですし、ある程度の壮大なオーケストレーションがあったほうがいいだろうと。あと、これは監督からのオファーではないのですが、今までのガンダムになかったような音像ができたら良いなと思っていました。現代的でエクスペリメンタルな電子音楽を通過した音響感覚や、エレクトロニカ経由の叙情性を土台にして、その上でオーケストレーションを用いる。単にクラシカルなことを自分がやっても大きな成果は得られないと思ったので、そこは僕がやる価値を見出せたらという意識は持っていました。
──「コロニーの彼女」のエレクトロニカ的な跳ねたビート、清潔感と情感があるサウンドは『GQuuuuuuX』のトーンを決定づけた役割があると思います。この曲と、歌詞がついた「水槽の街から」はどのような意図やイメージで作られましたか?
照井:マチュというキャラクターをイメージしました。彼女が住んでいるのはコロニーで、ある程度恵まれた環境にいながら鬱屈した思春期の感情を抱えている。だけど、基本的には前向きで、猪突猛進な突進力がある。そういうイメージですね。複雑な曲というよりも、相反するものを持ちつつも、シンプルな突進力、わかりやすく突破力のあるものを作りたいと思っていました。「水槽の街から」は歌詞がついていますが、これに関しては監督からのオファーがありました。作品の内容と離れすぎているのも困るけれど、物語を説明するような、直接的な歌詞ではない方が良いというお話でした。そのほうが物語の厚みが出るからという。だから僕としては、マチュが普段ヘッドホンで聴いて共感しているような曲はこんな曲ではないかと考えながら歌詞を書きました。
──「Far Beyond the Stars」はクライマックスシーンの盛り上がりを担う曲ですが、これについてはどのような意識がありましたか?
照井:森口博子さんが歌ってらっしゃる曲(『機動戦士ガンダムF91』のテーマ曲「ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜」)のように、ガンダムにはそういうシーンでかかる良い曲の系譜がありますよね。そういう曲は自分もすごく大好きだったので、その歴史の系譜として恥ずかしくないものになればと思っていました。プレッシャーは大きかったです。