練り上げられた美しい造形──暮らしに息づく“揺らぎ”の最新作『Still Dreaming, Still Deafening』

滋賀県発の「揺らぎ」というバンドをご存知だろうか? 初めて聴く人も多いかもしれない。楽曲名と勘違いする人もいるだろう。しかしいま、一般的には無名な彼らが世界を股にかけ、名を馳せようとしている。2016年に発売された自主制作1st single『b e d s i d e』が、ディストロの〈HOLIDAY! RECORDS〉で販売されるや否や火が付き、即完売。HMV record shop 新宿ALTA店などでもインディーズとは思えない大ヒットを記録。1st E.P.『n i g h t l i f e』ですっかり現行シューゲイザーの代表格とまで一部では呼ばれるようになった。

その後もジャパニーズ・ブレックファストやザ・ビリンダ・ブッチャーズなどの来日公演でサポートに抜擢されるなど、日本だけでなく海外にもその存在を示しつつある彼ら。事実、彼らのYoutubeを見ると、コメント欄は外国人のコメントが多く見受けられる。OTOTOYではそんなニュー・カマーの新作『Still Dreaming, Still Deafening』のレヴューを公開。いま、必要なことは楽曲をただ再生することではない。生活の中に、音楽を息づかせることだ。

シューゲイザーをスクラップ・アンド・ビルド!

揺らぎ / Still Dreaming, Still Deafening

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(16bit/44.1kHz) / AAC

【配信価格】
単曲 200円(税込) / アルバム 1,200円(税込)

【収録曲】
1.B/C
2.Horizon
3.Utopia
4.Bedside(album ver.)
5.Unreachable
6.Path of the Moonlit Night

REVIEW : 環境音としてのシューゲイザー

いまもしも、靴(shoe)を凝視(gaze)するという揶揄を込めてシューゲイザーという造語を使い始めたイギリスの記者に出会えたとしたら、彼らはこの揺らぎの音楽を聴いても、そう鼻で笑うのだろうか。おそらく、しないだろう。決してこの音楽は揶揄の対象ではないからだ。断言できる。揺らぎによるこのE.P.『Still Dreaming, Still Deafening』は2018年を代表する1枚だ、と。

本作以前の揺らぎは、いわゆる煌びやかなシューゲ・ポップ・バンドだった。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの系譜と、USニューゲイザー的なポップさがあった。ただ、それはあくまでも“模倣”であり“参照”。オリジネーターにはなり得ていなかった。だが見事に本作では、以前までの揺らぎにあったシューゲ・ポップ的な要素は削ぎ落とされている。それどころか、ある種ブライアン・イーノように、丁寧に構築されたアンビエントの要素さえ感じる。この音楽をはじめて聴いたとき、それくらい“再生”している感覚がなかったのだ。大げさに言えば、環境音に近い。──たとえば、この夏は暑い。遠い景色と、蜃気楼。止まる車に、鳴り出す信号機。その中を歩く群衆の足音や声と、たったひとりの私の鼓動…… といったような、いまいる環境、および空間のすべてが揺らぎの音楽に投影できると思う。


揺らぎ / Unreachable

揺らぎの音楽から感じられることは、それだけではない。轟音とその隙間を縫う、海面に反射した瞬間の太陽光を音にしたようなクリアな声は、繊細さと大胆さ、混乱と統一、理性と本能、暴力と祈りを表現しているように思える。もしかするとこの音楽は、いまいる空間のみならず、暮らしの中で芽生えたあらゆる感情もカヴァーできるのかもしれない。

だが、逆もあり得るのだ。揺らぎを聴いていると、このE.P.の中で暮らしているような気もする。もしくはこのE.P.で作られたベッドの中で眠っているような感覚。それは夢へ出かけ、長い1日を繰り広げているうちにできあがる精密な理想郷。特におよそ11分にも及ぶ、E.P.の最後を飾る大作「Path of the Moonlit Night」はまさにそう。ひとつひとつの音や楽曲が五線譜の設計図通りに重なるその様は、まるで音楽による脳内都市開発だ。

空間と感情が創り出す音楽なのか、空間と感情を支配する音楽なのか。いや、表裏一体、それが揺らぎの音楽なのだ。

配信により、アルバムのプレイリスト化が進んだ近年。リスナーはYoutube広告の5秒すら耐えられなくなり、楽曲はインパクト重視。アルバムの価値を見失いつつある現代において、これほどE.P.として意義深く、価値のあるのある音楽を生み出せるバンドはなかなかいないだろう。新たな音楽体験をもたらす可能性を秘めた揺らぎに、期待をせずにはいられない。(Text by 髙橋秀実)

『Still Dreaming, Still Deafening』のご購入はこちらから

レーベル FLAKE SOUNDS  発売日 2018/08/08

※ 曲名をクリックすると試聴できます。

【配信形態】
ALAC、FLAC、WAV(16bit/44.1kHz) / AAC
【配信価格】
単曲 200円(税込) / アルバム 1,200円(税込)
【配信ページ】
https://ototoy.jp/_/default/p/115661

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LIVE SCHEDULE

揺らぎリリース・イベント〈Still Dreaming, Still Deafening〉
2018年8月25日(土)@京都GROWLY
出演者 : 揺らぎ / 17歳とベルリンの壁 / sow / QB and planets / browned butter (O.A) / 池永朱里(ライヴペイント)

【このほかのライヴ情報はこちら】
https://yuragiyurajapan.jimdo.com/live2018/

PROFILE

揺らぎ

シューゲイザー、ドリームポップ、ノイズミュージックに影響を受けたサウンド、透き通るような声のヴォーカル、轟音と繊細さを武器に、様々な音楽背景をもったメンバーが集まり関西を中心に活動中。

【公式HP】
https://yuragiyurajapan.jimdo.com
【公式ツイッター】
@_yuragi_yura

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鈴木 雄希

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