小さな劇団に所属してずっと10年くらいミュージカルをやっていた
──初のライブが8月26日に東京・WWW Xで開催されますが、これはどういうことをやろうと計画していますか?
真部:ライブは未知数です。僕も想定していなかったスケールで話が今進んでいるので。
──ライゾマティクスの真鍋大度さんなど沢山の映像作家やメディアアーティストが参加しますね。
真部:最初はご披露の場くらいに考えていたんですが、今それを超えて独自の表現の領域に入ろうとしているので。こればかりは見て確かめてくださいとしか言えないです。
──Hinanoさんが演出に携わっているとのことですが、意気込みはどうですか?
Hinano:演出というと大袈裟になっちゃうんですけれど、自分が真部さんの曲から受けたインスピレーションや興味を持ったことを、今までにないスケールで表現できる機会だと思っています。真鍋さんや、ダムタイプの藤本(隆行)さん、そしてメディアアートの世界で活躍する中田(拓馬)さん、奥山(裕大)さん、半田(壮玄)さん、吉田(慧悟)さんといった方々が力を貸してくれることになったので。彼らの実力も発揮できるような演出を考えています。
真部:演出の方向はHinanoさんに任せているので、やる気を持って突き進んでくれています。すごいですよ。僕もたまげました。
Hinano:ハーフスクリーンを使ったり、演出の部分でも力を貸してくれる方がたくさんいるから。そういう力をフルに活用してWidescreen Baroqueの世界を表現していきたいと思います。真部さんの曲が好きだからみんなが手を貸してくれるし、真部さんも真鍋さんもどちらも尊敬するアーティストだし、それをうまく融合させられたら、お客さんたちに面白いもの届けられるかなと思ってやっています。
──ライブはまだ拝見していないので何とも言えないですが、お話しを聞いていてなんとなくWidescreen Baroqueのユニット感を感じました。真部さんとしても、自分が作った曲をボーカリストとして歌ってもらうだけじゃないクリエイティビティをHinanoさんに感じているし、そこが面白みになっているのではないかと思います。
真部:そうですね。フロントマンと楽曲制作者でも、プロデューサーとシンガーというわけでもなく、2人のクリエイターがいて、両方がジェネラリストとして動いている。面白いと思ってモチベーションを持って取り組めることはたくさんやってもらっている。リラックスして自分の能力を役割に囚われず才能を発揮してもらっている感じはします。
Hinano:色々なチャンスをいただけて楽しいし、ありがたいです。
──それを踏まえて、今回のインタビューでは最初に「妄想力」というキーワードがありました。Widescreen Baroqueの根っこには真部さんの妄想力があり、それに呼応するHinanoさんのアイデアが出てきている。それを踏まえて、真部さんの妄想力や空想世界のルーツになっている原点について改めて訊かせてもらえますでしょうか?
真部:僕は根暗な子供だったので、小中学生の頃からずっとレンタルビデオ屋さんに行って、パッケージをずっと見て中身を想像することが好きでした。映画の予告編もそうで、そこから好きになっていく。最初にミニマルな表現みたいな話をしましたが、元々ジャズが好きで、ジャズのアドリブの部分というよりはシートミュージック的な部分、ティン・パン・アレーでメロディとコードだけの譜面が売られていて、それが色々な形に化けていくというような、削ぎ落とした純粋なポップスのような形のものに対する憧れがあって。そういう削ぎ落としたものに対してその背景に何を浮かべるかというのが、自分はすごく好きな作業なんです。形としては削ぎ落としたものだけれども、その背景にあるもの──ファンタジックなものでも良いですし、音楽的なものでも良いですし──膨らみや行間を持たせるのがポップスを作る上では重要だと思っています。削ぎ落としたものをそのままただ出すのでは、こじんまりしてしまう。ただ詰め込みすぎると雑多になってしまう。そのこじんまりしたものの中に、同じような妄想、夢を見たりとか、世界観を共有してくれる人が共同制作者になってくれたら良いなと思っていた。Hinanoさんはそういう意味で多分僕の中学生の頃と同じ根暗さを持っているのではないかなと思います。コミュニケーション能力が高くて、明るい人なんですが、中身が根暗なんですよね。そういうところも含めて、今連携が取れているんだと思います。
──Hinanoさん、いかがでしょうか。
Hinano:ずっとこのままですよ。人と話すのは好きだし、でも根暗ですね。友達と表面ではうまく話せてるけど、全然本当は共感できないから。孤独だったというと恥ずかしいですけど。
──Hinanoさんの空想のルーツはどういうものがありますか?
Hinano:昔小さい頃から音楽とか漫画も好きで、絵を描くのも好きで。ただ一番の原点になっているのは演劇です。ずっと舞台でお芝居をやってたんです。お芝居の世界に入り込んで、台本と向き合って自分の表現を作っていく。小さな劇団に所属してずっと10年くらいミュージカルをやっていた。それが創作表現の世界の私の原点です。
──なるほど。ミュージカルの経験は、真部さんが先ほど言っていたことと、発想としては共通しているものかもしれないですね。台本と譜面があって、それを膨らませていくという。
真部:まさにと思いました。
Hinano:言語化してくださってありがとうございます。
──演出もその時からやられてたんですか。
Hinano:大きい劇団ではなかったので、みんなでできることを各々やろうという感じで。演出をやらなきゃいけない場面もたくさんありました。演劇はコロナ禍がきっかけでやめて音楽の世界に入ったんですけど、ひとつのステージを作り上げるのは本当に好きでずっとやってたことだから、自分が好きなことを形を変えてでもまたやれる機会があるのは嬉しいなと思います。
──最後に聞かせてください。Widescreen Baroqueでどんなところを目指していきたいと思いますか? まずはHinanoさんはどうでしょうか。
Hinano:その時その時でやりたいことは変わるから明言できないけど、せっかく真部さんと2人のユニットだから、フットワーク軽く色々な表現をしたいなと思います。
──真部さんはどうでしょうか。どんなところを目指していきたいですか。
真部:ニュースタンダードですね。自分の美意識を新しいスタンダードとして提案したい。それが気づいたらみんなのスタンダードになっていると良いなという気持ちでやっています。
LIVE SCHEDULE
〈Widescreen Baroque pre.「WIDE SHOW」vol.0〉
【日程】2025年8月26日(火) 18:00開場/19:00開演
【会場】渋谷WWWX
PROFILE:Widescreen Baroque
元・相対性理論の真部脩一(Composer)とHinano(Vocal)によるユニット。『Widescreen Baroque』はユーモアと狂気を孕んだ虚飾の王国のイメージを内包しており、時代性に囚われず、広大なスケールで誇大妄想の世界を表現している。それはどこかで聴いたことのある、まだどこにもない音楽。真部が作り出す、打ち込みを軸としたテクノロジーとノスタルジーが融合したサウンドスケープ、また奇天烈な歌詞世界を自由に泳ぐようなHinanoの透明感あふれる歌声が魅力。
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